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代表落選・柳田将洋が語る、それでも前進する理由「応援してくれる方にとってもターニングポイントだと…」
5月18日、国際バレーボール連盟から発表されたネーションズリーグ2021の日本代表の登録メンバー17名の中に、昨年まで主将を務めた柳田将洋の名前はなかった。日本代表の中垣内祐一監督は、東京五輪に出場する12名をネーションズリーグのメンバーから選ぶと公言していたため、この大会からの落選は東京五輪への道を断たれたことを意味していた。
柳田がドイツ、ポーランドで3シーズン腕を磨いたのも、昨季サントリーサンバーズに復帰したのも、東京五輪を見据えての決断だった。その夢が断たれたが、柳田はネーションズリーグのメンバーが発表されたその日、前向きな言葉や日本代表へのエールをSNSで発信した。なぜそんなことができるのか……。既に次の目標に向けて歩き始めた柳田に、その胸の内を聞いた。
(文・写真=米虫紀子)※撮影時のみマスクを外して撮影しています
世界を見据え、よりエキサイティングなシーズンになる可能性
――昨シーズンは海外から4季ぶりに復帰したサントリーサンバーズで、念願のVリーグ優勝を果たしました。そして先日、2021-22シーズンもサントリーとの契約を更新したと発表されましたが、今季もサントリーでのプレーを選んだ理由を聞かせてください。
柳田:昨シーズン、1回チャンピオンになっているので、今季はディフェンディングチャンピオンとして、リーグで連覇したいという思いがもちろんありますし、3冠(Vリーグ、天皇杯、黒鷲旗)を取るという目標もあります。3冠に関しては、昨季はいろんな状況があってできませんでしたから(天皇杯はチーム内に新型コロナウイルスの陽性者が確認されたため出場を辞退、黒鷲旗はコロナの感染拡大の影響で開催中止)、そこに再チャレンジしたい。
それに加えて、(Vリーグ王者として)サントリーがアジアクラブ選手権に出場できる権利を得たので、クラブとして、アジアを通して世界に挑戦できるチャンスが生まれました。(2019-20シーズンに所属した)フランクフルト(ユナイテッド・バレーズ)でも、ヨーロッパのカップ戦(CEVカップ)を戦ったことがあって、その時はすごくワクワクしました。今度も、クラブ選手権で自分たちがどこまで戦えるんだろうという、新しいチャレンジができることが、僕にとってすごく魅力的でした。
――アジアクラブ選手権を勝ち抜けば、その先の世界クラブ選手権にも出場できるんですよね。
柳田:そうですね。1位になれば。僕自身は、日本代表や海外のクラブでしか、海外のチームと戦った経験はないので、サントリーとしてそういう舞台で戦うというのは、僕にとっても、チームとしても大きなチャレンジだと思うので、そういうことを通してまた成長していけたらいいなと思っています。昨シーズン以上に大きな挑戦になると思っていますし、よりエキサイティングなシーズンになる可能性があると思います。
応援してくれる方にとってもターニングポイントだと
――日本代表の話になりますが、5月にネーションズリーグのメンバー発表があった際、柳田選手はその直後にサポーターズクラブのブログや個人のSNSで前向きな思いをつづり、日本代表への応援を呼びかけました。東京五輪という大きな目標が断たれて、何も考えられなくなってもおかしくない中、どうしてそんなことができるのかと驚かされました。
柳田:発信して受け取ってくださる方がいるということは、自分の軸というか……。ファンの方を含めてそういう方がたくさんいらっしゃるということを、僕は心の支えにさせてもらっていましたから。
最初に(落選を)伝えられた時は、もちろんショックな気持ちはありましたし、どうやって気持ちの整理をしていこうかなというところもありましたけど、ああやって発信する頃には、もうだいぶ時間が経っていましたから。それまでに、いろんな人に「こうなりました」と直接報告をしていく中で、ポジティブな言葉を皆さんからかけてもらって、徐々に前向きにさせてもらったというところもあります。そんな中で、僕のブログなどにいつもメッセージをくださる方もたくさんいらっしゃるので、そういう人たちにもちゃんと、今の自分の気持ちを、発信していかなければいけないと思いました。
そうやってオープンにすることが是とは限らないですけど、僕にとってだけでなく、僕のことを応援してくださる方にとっても、ターニングポイントだと、個人的には思っていたので、そういう方たちに、これから、まあ一緒に前に進むという言い方はどうなのかわからないですけど、前向きになれるようにという気持ちも込めて、SNSやブログで、ああやって正直な気持ちを書かせてもらいました。
――なるほど。伝えられてから少し時間が経っていたんですね。やはり気持ちを整理するまでには時間を要したんですね。
柳田:高崎で行われた紅白戦(5月8、9日)が終わった夜に伝えられました。それはチームの方向性なので、自分ではコントロールできないことですから、仕方がない……。僕は切り替えは早いほうだと思っていたんですけど、今回は今までで1番、時間はかかったかなとは思います。1カ月まではかからないですけど、もう1回バレーボールがやりたくなるまで、とりあえずゆっくり休養をしようと。コンディションにも確かに問題があったので、そこも様子を見ながら、リフレッシュすることだけを考えました。コロナ禍なのでどこにも行けないですけど、自分の腰が上がるまで、ちょっとゆっくりしていたという感じですね。
「もっと、枠を取りにいくことに執着していくべきだったのかな」
――バレーをやりたくなくなっていた?
柳田:やりたくなくなっていたというより、次の目標をもう1回定め直さないと……。もちろん今までは東京五輪を目指していたので、それが終わったら、もう1回その先のプランを立て直さなきゃいけないなとは思っていたんですけど、少し先倒しでそれをしなければいけなくなった。単純に、自分の一つの通過点というか、それを失ったということで、まずどこに次の通過点を置くか。それに対するモチベーションをどう回復させるか、ということを考えていました。
――選考に関してはもちろん選手がコントロールできない部分ですが、これまでオリンピックに懸けていた分、割り切れない「なんでなんだ」というような思いはなかったですか?
柳田:僕のマインドとしては、その「なんでなんだ」がムダな労力だと思っていたので。今までずっと。なので、それに関してはあまりないです。スタッフを納得させられるものがなかったということでしかないし、そういう世界ですから。シンプルにそれだけだと思います。今まで僕が残ってきた時は、他の人がそうやって選考されてきたのも見てきているので。
その「なんでだ」っていうのがあったほうが、プロとしてはいいマインドなのかもしれないけど、それに対しては答えがないから。答えのないことに対して、いつまでも向き合っていても、先に進めない。切り替えが早いほうだというのは、そういうところだと思います。実際、今残っている選手は(ネーションズリーグで)全員が活躍していると思うし。だからそこに対してどうこうという気持ちはないです。
――ただネーションズリーグまでが五輪の選考に向けたアピールの機会だと捉えていたので、そのネーションズリーグのメンバーに入らないということには少し驚きました。
柳田:うーん……まあ、僕の体って、そんなにすぐに(コンディションが)戻ってくるタイプじゃないので、確かにネーションズリーグでパフォーマンスを発揮することを一つのポイントに置いて、体を動かしていこうかなと考えているところはありました。そこは自分とスタッフのギャップはあったのかもしれませんが、それはやっぱり自分がコミュニケーションをとっていくべきだったと思う。合宿に入る前などに、どうやっていくのかという話をするとか。それぐらい、もっと、オリンピックの枠を取りにいくことに執着していくべきだったのかなと、思いましたね。
清水邦広、福澤達哉と語り合った内容とは
――代表を離れる前の夜に、清水邦広選手、福澤達哉選手と話をされたそうですね。
柳田:はい。僕と福澤さんが同部屋だったんですけど、そこに清水さんも来てくれて。2人とは長く一緒にやらせてもらっていて、清水さんはケガをして途中で離れましたけど、また戻ってこられた。2人にはすごくお世話してもらったので、思い入れは、個人的には他の選手よりも強いかなと。そういう2人が、僕が落ちるって聞いた時に、そうやって時間を設けてくれて、話をしてくれたので、僕はそれだけで十分かなって(笑)。うれしかったです。
これまでの過程がいかに重要かということに気づいて、価値を見出して、これからも前に進まなきゃいけない。それは嘘じゃない確かなことで、きっと僕自身の次のステップの力になるから、ということを話してもらいました。2人もそういう経験は幾度となくされていると思います。その2人の言葉だからこそ、そんな状況でも僕は腑に落ちて、しばらく休んだら、そういう気持ちでもう1回作り直していこうと、前向きにさせてもらえました。
壮大な話ですけど、お2人に会えて、一緒にバレーボールができて、本当によかったなって、その時に改めて感じました。ああいう人たちと同じコートで、同じ境遇の中で一緒にできたということが、「あーよかったな」と心から思いますね。
「悔しくないのか?」と聞かれたりするんですけど…
――現在開催されているネーションズリーグは見ていますか?
柳田:見ています。ネットで全試合見られるパッケージを買って(笑)。強豪同士の試合とか、特に見たいですし。この間もロシア対フランス戦で、ディマ(サントリーのチームメート、ドミトリー・ムセルスキー)がオポジットで出ていて、「ケガしないでくれよー」とか思いながら見ていました(笑)。
――日本戦も?
柳田:見てます見てます。
――見たくない、というのはないですか?
柳田:ないですね。「悔しくないのか?」と聞かれたりするんですけど、いや別にそんなのムダなエネルギーでしょ、とか思っちゃうんで。もう出られないわけだから。それで「悔しい!」と思っても、別に僕はそれがエネルギーに変わるタイプじゃないんで。むしろ、どういうバレーをしているのかというのを、外からの目線で見たほうが面白い。楽観的なんじゃないですか(笑)。
今メンバーに入っている若手は本当に実力がある。僕が若手だった頃よりも力があると思っているので、そういう選手が毎試合どう対応していくのかというのは、見ていて気になります。やっぱり今対峙している相手は、彼らにとってたぶん初めて体感する高さだったりすると思うので。今まで通っていた攻撃が通っていない場面もあったりするし、ケガとかしないでほしいなーと思ったりもしますよね。見ていてちょっと元気がなさそうな時もあるし。
オンザコートで一緒にやっていた時とはまた違って、客観的に見ていますね。以前だったら、例えば西田(有志)が初めて入ってきた時は、自分もやらなきゃいけないし、西田のことも鼓舞しようみたいな感じだったけど、今は単純に僕は外から、どういうコンディションなのかなとイメージしながら試合を見ている。それはここ数年なかったことなので、新鮮ですし、「石川(祐希)ほえてるなー」「すごいなー。キャプテンしてるなー」とか、今までと変わっているさまも見えたりします。
――石川祐希選手のコート内での姿は以前と少し違いますね。
柳田:違うと思いますよ。まあでも(2019年の)ワールドカップの頃からああいう感じになってきていましたけど。今年は(所属するセリエA・ミラノのシーズンが終わってから)調整する時間がなかったと思うんですけど、それでも仕事をしっかりしているので、すごいなと思います。
――今年から代表の主将を石川選手が引き継ぎました。何か連絡を取られたりしましたか?
柳田:合宿では会えていませんが、1回電話で話しました。僕からは「頑張って」と言ったぐらいですし、石川は、取材でも答えていましたが、「みんなの力を引き出せるキャプテンになっていきたい」ということを僕にも言っていて、コート内での姿とかを見ていても、そういう部分はすごく感じます。
次の目標。2024年パリ五輪は……
――先ほどお話にありましたが、代表から離れて少し休息されている間に、次の目標は定まりましたか?
柳田:まずは、先ほど話したサントリーでの目標ですね。サントリーとの契約というのは、僕にとっては大きな契約ですし、ものすごく大事な、なんというか、仕事相手というか、クライアントというか。僕をプロとして評価してくれた上での契約更新だと思うので、お互いに厳しいものを求めあっていかないといけない。いいパフォーマンスを出す準備をしっかりしなきゃいけないので、それをモチベーションとして、もう1回、帰ってこられたところもある。次は連覇をすることで、自分という選手を評価してもらう、そういう時間にしていけたらと思います。
――その先の、2024年パリ五輪は、視界に入っていますか?
柳田:どうですかね……。今のところ、そこまでは考えていないです。来年の代表も、まだそこまでは。そこはこれから、自分がどうなっていくかによってまた見えてくると思う。見えてきたら見えてきたで、毎シーズンの代表でまた結果を出すというところから始めるもの。その先に見えてくるのがオリンピック。次は予選があるので、もっと大変だと思うし。またあの(最終予選で敗退した)リオデジャネイロ五輪の展開になっていかないように。パリで必要とされるんだったら、また頑張りたいなとは思うんですけど、それは本当に、さっき言ったように、スタッフが決めることなので。僕にはコントロールできない。
僕は自分のコンディションを上げて、常にうまくなろうとし続ける、ただそこだけ。それと、自分と直接関わっている人たちとどういう関係を築いていけるか。そういうできることを、突き詰めていきたいと思います。
<了>
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PROFILE
柳田将洋(やなぎだ・まさひろ)
1992年7月6日生まれ、東京都出身。ポジションはアウトサイドヒッター。186cm、80kg。東洋高校時に春の高校バレーで主将としてチームを牽引して優勝を経験。慶應義塾大学を経て、2014年10月にサントリーサンバーズに入団し、2015-16シーズンV・プレミアリーグで最優秀新人賞を受賞。2017年にプロ転向し、2017-18シーズンはドイツのTV・インガーソル・ビュール、2018-19シーズンはポーランドのクプルム・ルビン、2019-20シーズンはドイツのユナイテッド・バレーズでプレーした。2020年にサントリーに復帰し、2020-21シーズンのVリーグで優勝に貢献。日本代表には2013年に初選出され、2018年からは主将を務めた。
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