「まだまだですね」に込められた三笘薫の現在地。右、トップ、シャドー…左だけではないプレーの進化
三笘薫は、もはや「左ウイングの選手」ではない。イングランドのプレミアリーグ第35節ニューカッスル戦で見せたのは、右、中央、そして再び左へと流動するプレー。ブライトン敗戦の中で浮かび上がったのは、ポジションではなく役割で動く新しい三笘の姿だった。
(文=田嶋コウスケ、写真=アフロ)
三笘薫は“どこにでも現れた”。左・右・中央を横断した90分
5月2日、三笘薫の所属するブライトンが、ニューカッスルに1−3で敗れた。
相手はリーグ4連敗中のニューカッスル。だからこそ、痛い敗戦だった。目標としてきた来季のUEFAチャンピオンズリーグ出場権獲得の可能性が、この黒星で消えた。悔しさは相当なものだったのだろう。試合終了のホイッスルが鳴ると、三笘薫は約13秒にわたりピッチに座り込んだ。
ただ、この試合を三笘の現在地という視点で見れば、敗戦の中にも変化があった。FIFAワールドカップ・カタール大会前の三笘には、まだなかったもの。それが見えた試合だった。
もっともわかりやすかったのは、プレー位置の変化だ。
三笘は前半、いつものように左サイドでプレーした。ところが0−2で迎えた後半から、ヤンクバ・ミンテとポジションを入れ替え、右サイドへ移った。左で仕掛ける三笘に慣れた目には、それだけでも新鮮だったが、実際には右サイドに張り続けたわけでもない。右サイドから中央へ入り、さらには左サイドの内側のレーンまで流れた。
試合後、本人はポジション変更について、まずこう振り返った。
「全体としてはうまくいっていた。ポジション変更によってうまく前進できてましたし、1点取るまではうまくいきました。だけど、そこから何をするのかというのはありますね。難しいですね」
ポジション変更の理由について、ファビアン・ヒュルツェラー監督は「相手サイドバックを混乱させるため」と話した。相手サイドバックに、前半と後半で異なるアタッカーをぶつける。そこに狙いがあったという。
注目したいのは、三笘の動きが変則的だったこと。
ミンテがタッチライン際に留まったのに対し、三笘は右の大外、中央、左のインサイドと頻繁に位置を移した。そこで質問した。「あの動きは監督の指示だったのでしょうか、それとも自分の判断で動いたのでしょうか」と聞いてみると、三笘はこう答えた。
「どちらもですね。主に自分の判断でした。相手が嫌がっていたので、それをやり続けることだけ考えてました。(自分が)右サイドに入ったぶん、ポジショニングも自由に許されていた。そこでちょっと変化を加えたいのと、ミンテのクロスが素晴らしいので、そこに狙いがあったのだと思います」
後半立ち上がりは、ブライトンの攻撃にリズムが生まれた。三笘が中盤でボールを前に運び、PA手前の位置からシュートする場面もあった。チームは65分に1点を返したが、三笘が「難しかった」というように、反撃はここまで。試合終盤に追加点を奪われ、1−3で終戦した。
「何でもできる」選手へ。三笘が選んだ進化の方向
ベルギーでの期限付き移籍からブライトンに復帰した2022年、三笘は左サイドから縦に仕掛ける「生粋のウインガー」だった。もちろん当時から突破力は圧倒的であり、1対1で相手をはがす力は日本代表でも別格だった。だが、役割は比較的はっきりしていた。左の外で受け、縦に仕掛ける。あるいはカットインから中へ切れ込む。最終局面の切り札として強烈な個の力はあったものの、ピッチ全体を見ながら、複数の位置を行き来して相手を動かす選手ではなかった。
しかし、ブライトンでの時間が三笘を変えた。
前任のロベルト・デゼルビ監督のもとで、左サイドから内側へ入るプレーを身につけた。大外を左サイドバックのペルビス・エストゥピニャンが駆け上がり、三笘は内側のレーンで受けて中央でのパスワークに関わる。サイドに張って勝負するだけでなく、味方と適切な距離を取りながら攻撃を前進させる術を覚えた。
そしてヒュルツェラー監督のもとで、こうしたプレーの幅はさらに広がった。ヒュルツェラーは、試合ごとにアプローチを細かく変える監督だ。フォーメーションだけではない。ボールを持った時の立ち位置、守備時のプレスのかけ方、誰をどこで捕まえるかまで、こと細かく変える。言うなれば、カメレオン型の戦術。毎試合、異なる役割を求められる中で、三笘のプレー幅は広がっていった。
ある試合では左サイドに張る。ある試合では中央寄りに立つ。1月のマンチェスター・シティ戦では、2トップの一角のポジションを取る時間もあった。極端に中へ絞り、シャドーのように振る舞う試合もある。そして今回のニューカッスル戦のように、前半は左、後半は右、そこから中央や左の内側へ流れる試合もある。
そこで聞いてみた。
「ブライトンに入った当初は左のウイングバックでスタートしました。三笘選手は、もともとウインガーです。今日のプレー位置を見ても、プレーできる範囲がどんどん広がってるように見えます」と。
三笘は、こう返した。
「そうですね。求められることは、何でもできるようにしたいと思ってやってます。それが高いクオリティでできれば、試合でも出てくると思います。左サイドでやった前半も、もっとできたと思いますし、まだまだですね。攻撃のクオリティを上げないといけません」
「求められることは何でもできるようにしたい」
この言葉は、今の三笘を象徴している。かつてのように、自分の得意な形で勝負するのではない。チームが求める場所に立ち、求められる役割を引き受け、その上でクオリティを出す。しかも本人は、できることが増えたことに満足していない。「左サイドの前半ももっとできた」「まだまだ」と口にする。たしかに、後半の右サイドでは、チャンスに絡む機会も限られていた。
ただ、こうも言えるだろう。今はまだ進化の途中。成長しているからこそ、要求水準も上がっている、と。
成長を表す試合中の三笘の“ジェスチャー”
こうした変化は、日本代表でのプレーにもつながっている。
これまで代表での三笘の主戦場は左ウイングバックだった。だが、ブライトンでプレーの幅を広げたことで、3−4−2−1のシャドーに抜擢。3月31日のイングランド戦で、三笘は左シャドーで先発し、ゴールを決めた。
あのゴールは、今の三笘をよく表していた。中盤でボールを奪い、推進力を生かしてボールを前へ運ぶ。左サイドの中村敬斗へスルーパスを通し、その中村からの折り返しを受けてネットを揺らした。左シャドーの三笘、左ウイングバックの中村。日本代表にとって、新しい形だった。
試合後、三笘はこう話している。
「シャドーで結果を出すことで、それも本大会につながると思っていた。前にどんどん出ていくプレーを、やらないといけないと思っていました。ボールを取った瞬間と言うのは、間違いなく、チャンスになると思っていた」
ブライトンの三笘と、日本代表の三笘。この2つは密接につながっている。
ブライトンで成長したからこそ、日本代表でもシャドーで活躍し、得点もしたのだろう。少なくとも、カタールワールドカップの三笘であれば、日本代表でシャドーとして先発を任されていたとは考えにくい。イングランド戦は、確かな成長を感じさせる試合だったと言える。
ニューカッスル戦でもう一つ印象的だったのは、試合中の三笘のジェスチャーだった。
GKバルト・フェルブルッヘンの判断ミスから失点した直後、三笘は大きな身ぶりでチーム全体に落ち着くよう促していた。「落ち着こう、落ち着こう」と、両手を上下に何度も動かす三笘。その回数は3回にのぼった。
またチームが1点を返した後には、セントラルMFのパスカル・グロスに、もっとボールを左右に散らすよう求める場面もあった。34歳のグロスは親指を立て、三笘のジェスチャーに了解の合図を送っていた。
こんな場面もあった。縦に急ぐあまりヤン・ポール・ファンヘッケのパスが乱れた際には、三笘は「慌てず、ゆっくり」と再びジェスチャーで促していた。
今、三笘は28歳。ブライトンで在籍4年目となり、若手ではなく中堅と呼ばれる年齢になった。試合の流れを見て、周囲に働きかける。そうした姿勢が、以前よりもはっきり見えるようになった。
カタールワールドカップ前の三笘は、ブライトンに加入したばかりだった。当時は「切り札」の立ち位置が強かった。出れば何かを起こす。左サイドで相手を抜き去る。その鋭さが最大の魅力だった。
だが今の三笘は、それだけではない。
左サイドに留まることはなく、中央にも入る。シャドーもこなす。相手が嫌がる場所を見つけ、自分の判断で動く。チームメートに指示を出し、流れを整えようとする。浮き球の処理やワンタッチの技術といったもともとの強みに、「プレーの幅」と「ピッチ上で状況を読み、周囲に伝える力」が重なってきた。
ブライトンで4年目。そしてその先には、北中米ワールドカップが控えている。28歳の三笘は、左サイドのスペシャリストから、よりスケールの大きいフットボーラーへと変わり始めている。
<了>
佐野海舟が仕掛けるボール奪取の罠。「リーグ最高クラスの6番」がドイツで賞賛される理由
イングランド撃破で得た確信。鎌田大地が示した「新しい基準」と「サッカーIQ」の価値
守田英正はなぜ呼ばれない? 森保ジャパン「最激戦区」ボランチに起きた新序列の真相
日本での“良いプレー”が通用しない衝撃。秋山裕紀がドイツで学んだ評価のズレ、欧州標準のリアル
なぜ堂安律がキャプテンだったのか。北中米大会へ向け“10番”に託された森保ジャパンの現在地
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
なぜマンチェスター・シティ「2季の2部生活」が浮上したのか? 英国で広がる厳罰論の背景
2026.10.23Opinion -
批判と低迷から始まったエディー体制の現在地。ラグビーW杯まで1年、日本代表に起きている変化
2026.10.23Opinion -
「小学生の全国大会が一つしかない」Fリーグ引退・森岡薫、GM転身で目指すフットサル界の改革
2026.10.22Career -
世界3位ドイツ戦で見えた、なでしこジャパンの変化。新体制で増えた選択肢と残された課題
2026.10.14Opinion -
世界1位・松島輝空も安全圏ではない。卓球で相次ぐ大番狂わせ、101位が中国女王を破った背景
2026.10.13Opinion -
「自信を失った経験がない」瀬古歩夢、4戦連続先発で示した成長。森保ジャパンで高まる存在感
2026.10.09Career -
五輪から外れた空手、世界1億人に広がる現在地。アジア大会金・尾野真歩が伝えたい「日本の形」
2026.10.09Career -
フットサルで磨いた判断は欧州サッカーでどう生きるのか。浅野蓮の可能性を広げた育成と「環境を選ぶ力」
2026.10.09Training -
「空手が楽しくない」からアジア大会金メダルへ。尾野真歩、4年間届かなかった日本代表と“自分の空手”
2026.10.09Career -
欧州に挑む16歳・浅野蓮の感性はいかに育ったのか。上田綺世も輩出したmalvaに学ぶ「正解」を教えない育成
2026.10.07Training -
「きれいごとを貫いて、利益にする」東京ドーム社長・斎藤裕が描く“4万坪の街”への夢
2026.10.06Business -
東京ドームはどう変わる? 4月就任の斎藤裕社長が語る「4万坪のエンタメの街」の新たな可能性
2026.10.06Business
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
「小学生の全国大会が一つしかない」Fリーグ引退・森岡薫、GM転身で目指すフットサル界の改革
2026.10.22Career -
「自信を失った経験がない」瀬古歩夢、4戦連続先発で示した成長。森保ジャパンで高まる存在感
2026.10.09Career -
五輪から外れた空手、世界1億人に広がる現在地。アジア大会金・尾野真歩が伝えたい「日本の形」
2026.10.09Career -
「空手が楽しくない」からアジア大会金メダルへ。尾野真歩、4年間届かなかった日本代表と“自分の空手”
2026.10.09Career -
14歳でFリーグ最年少記録、英2部QPRのトライアルでも3得点。日大藤沢・浅野蓮が語る欧州での手応え
2026.10.05Career -
「もしそれがW杯の試合だったら」鈴木唯人が語る“走り続ける”理由。開幕4試合4ゴールも最優先するものとは
2026.10.02Career -
「僕らだけで決断していいことじゃない」現役大学生で日本代表、伊藤龍之介が向き合う“二つのチーム”
2026.10.02Career -
W杯ブラジル戦で泣き崩れた田中碧…リーズ監督の「きつい冗談」と、先発を取り戻すまでの3カ月
2026.10.01Career -
「ベンチでOKではない。先発になるために」日本代表FW後藤啓介が語る、ブンデスで向き合う“自分との差”
2026.10.01Career -
「風を読んで、あのスペースに」鈴木彩艶が明かす配球術。英名物番組が驚異的と評するプレミアでの進化
2026.09.24Career -
40歳・長友佑都はなぜ現役を続けるのか。W杯後に一度は傾いた「引退」と「FC東京で優勝」の情熱
2026.09.18Career -
塩貝健人が語る「4年後に向けて」。W杯での課題をドイツ2部で磨き、再び迎えるブラジル戦
2026.09.11Career
