
なぜバレー柳田将洋は古巣復帰を選んだのか? 日本で「自分が成長するため」の3つの理由
2017年にプロ転向し、ヨーロッパの舞台で結果を出してきた男子バレーボール日本代表の主将・柳田将洋が、6月1日、サントリーサンバーズに4季ぶりに復帰すると発表した。海外で順調にステップアップする中、古巣復帰を選択した真意とは? 自らを「体を戻すのにものすごく時間がかかるタイプ」だと話す柳田将洋は新型コロナウイルス禍の中でいかに過ごし、いまだ先が見えない現状の中で果たしてどのようなプランを描いているのだろうか。
(インタビュー・構成=米虫紀子、写真=Getty Images)
古巣サントリーでプレーすることを選んだ理由
──サントリーを退社して2017年にプロ選手となり、昨シーズン(2019-20シーズン)まで3年間、ドイツ、ポーランドでプレーをされましたが、この海外での3シーズンに感じたことはどのようなことでしょうか?
柳田:あくまでも僕の感覚ですけど、それまで日本でやっていた時と海外を比較すると、日本はやっぱり「チームで戦っていく」というイメージが強かったんです。もちろん最終的にはどこでもそうなるんですけど、海外では、僕が単身で、本当に1人で、その場所でチャレンジして、成功していくんだ、という気持ちがより強かった感じがします。言葉も文化も違う中で、ちょっと孤独感も感じながら、チームスポーツであるバレーボールという競技に、1人でトライして、自分の価値に挑戦していくみたいな。根源というのか……。
日本だったら言葉も通じるし、悩みだとかいろいろなことを話しながらやっていけると思うんですけど、海外に行くと、僕はそれがあまりできなかったですね。チームスポーツ、チームプレーと言っても、当たり前だけど個の集団なわけなので。チームに寄り添う前に、自分がしっかりと立たなければ、ということを考えさせてくれた、そういう場所でした。
──海外でプレーする醍醐味も感じ、順調にステップアップした上で、今シーズンは国内Vリーグのサントリーサンバーズに4季ぶりに復帰すると発表されました。今季、サントリーを選んだ理由を聞かせていただけますか。
柳田:僕にとっては別に、海外か日本か、という選択肢ではなくて、自分がプレーできる場所はこの世界の中のどこなのか、ということを常に考えています。「なんで海外じゃないの?」という質問もされたりしますが、日本も世界の中の一つのリーグであって。僕にとっては、自分がしっかりとバレーできる環境であったりとか、2021年(東京五輪)というのがこれからまた改めて迫ってくる中で、体調の面などを考えると、ここで自分の最高のコンディションを作れるんじゃないかと。あとは、(2012年ロンドン五輪金メダリストのロシア代表)ムセルスキー(・ドミトリー)選手とチームメートとして一緒に試合ができるキャリアを積めることもですし、いろいろなことを加味した結果、サントリーに決まりました。
ヨーロッパが常に価値があるとか、日本に価値がないとか、そういうわけではまったくないですし、もちろん日本もレベルが高いと思うので、僕がやりたくて選択したという、シンプルにそれだけですね。自分が成長するための選択というところは変わっていません。クビアク(・ミハウ)選手(パナソニックパンサーズ)やムセルスキー選手といった外国人プレーヤーもいる日本のリーグの中で、またレベルアップできるという気持ちで契約しました。ここでもう一度新しいチャレンジができて、いい結果を得られれば、それが戻ってきた意味にもなるのかなと思います。
「僕は取り戻すのに長い期間がかかる」
──新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、いろいろな面で先が見えないこのシーズンだから、という部分もあったのでしょうか?
柳田:個人的にはそれも少なからずあります。
──例年なら、リーグが終われば代表シーズンが始まり、夏場は代表合宿や国際大会に参加して、それが終わるとまた所属チームに合流してすぐにリーグに出場、というサイクルでしたが、今年は新型コロナウイルスの影響で、3月に海外リーグが中止、4月6日に代表合宿も解散に。その後Vリーグに所属する選手は各チームに戻りましたが、それ以外の選手は自宅などでトレーニングを行う状況になりました。自粛期間を経てVリーグのチームは活動を再開し始めましたが、海外のチームの場合はいつ合流できるのかなど先行きが見えにくい。海外でプレーするプロ選手にとっては今、練習場所の確保が難しい状況ですね。
柳田:そうですね。僕もついこの前までは、家でできる範囲のことしかできなかった。僕らプロは本当に体が資本という中で、仕事ができないのとほぼ同じ状況だったので、やっぱり自分のバレーボーラーとしてのキャリアのことも考えました。自分は体を戻すのにものすごく時間がかかるタイプだと思っていますし。この(練習できない)期間が、ケガの引き金になったりしないのかとか、考えましたね。
早く(チームでの練習を)スタートして、リーグに向かって少しずつ、ゆっくりでもやっていければと。自分は(取り戻すのに)長い期間が必要ってことを考えると、今までの海外リーグでのシーズンのように、ポンッと行って、ポンッとプレーできるのかと言われたら……。ちょっと今の状況では読めないので。自分と向き合う時間の中で、いろいろと考えた結果です。今(サントリーに合流して)動けているのは、僕にとって重要なことだと思います。
──全員での練習はまだ行っていないとのことですが、体育館を使えるだけでも大きく違いますか?
柳田:そうですね。僕らがなぜトレーニングをしているのか、なぜ走っているのかというそのゴールは、より高度なバレーボールの技術を得るためであって、正直、僕からしたら体を鍛えたいわけじゃないから(苦笑)。家でも、もちろん重りも使って頑張ってやるんですけど、やっぱりバレーボールをイメージしてウエイトトレーニングをできていたかと言われるとちょっと怪しい。これからはもっとバレーをイメージしながら、少しずつステップアップできるのかなと思っています。
──自宅でトレーニングしていた自粛期間はかなり危機感がありましたか?
柳田:もちろんありました。僕なんかは特に、あまりオフを長期でとる人間じゃないので。さっきも言いましたが、休んだら体を戻すのに時間がかかるタイプなので。それが図らずもこんなにオフができてしまった。できるだけのことはしていましたけど、それでも落ちていると思うので、そういったところが、いつどのタイミングで戻せるのか、計算できなかったですからね。
判断力と経験。“バレーIQ”が土台にあるプレーヤー
──サントリーはチームとしての活動が6月1日に再開されましたが、柳田選手はいつから(サントリーの本拠地)大阪に?
柳田:5月中旬に大阪に来て、まずは暮らすための整理をしていました。練習はまだ、大人数にならないように分割してやっているので、チーム練習ではなくトレーニングがメインですが、ボールを触っていなかったところから触りだして、ステップを踏めているだけでも大きいですね。
──サントリーでは、今はやっていませんが、以前はウォーミングアップでサッカーをやっていましたよね。
柳田:あー、やってましたね。結構海外のチームでもやるんですよ。正直あんまりやりたくないんですよね。苦手です、すごく。
──サッカーをしている姿を見て、大変失礼ながら、どのスポーツをやっても抜群、というタイプではないのかなと……。
柳田:そうですね。バレーしかしてこなかったので。それに運動神経が抜群にいいってわけじゃないですから。
──でもバレーボールでは、日本代表や海外で活躍される選手に。特に得点を奪うセンスというか、嗅覚に長けています。
柳田:それはでも運動神経とかじゃないですからね。そこは、判断力とか、経験とかなんじゃないですかね。運動神経抜群な人が、イコール、得点力があるかといったら、たぶんそうでもないと思うし、そういうところはある意味、運動神経いい選手に負けたくないし。
バレーボールのネットの高さ、2m43cmより上に出れば得点できる可能性はあるわけで。高く跳べば勝ち、という競技じゃないので。だから判断力だったり経験だったり、そういうところで戦っていかないと。もちろん、世界と戦って得点能力があるかと言われたら、そこは全然満足していないですけど。
──柳田選手から見て、運動神経がいい選手は?
柳田:まあ石川(祐希)選手でしょうね。運動神経っていう神経はないんでしょうけど、あるんだったら抜群だと思います。イメージしていることを、スムーズに体現できる体質の人間だと思います。で、西田(有志)選手とかは意外と器用じゃない部分もあるんですよ。
──そうなんですか。
柳田:バネとかパワーとかはすごいですけど、運動センス的な部分はそんなにないというか、意外とできないことが多かったりするんで、そこらへんが面白いなと思ったりします。でも身体能力はめちゃめちゃ高いですね。僕は西田選手みたいな、高さとパワーで押していけるようなタイプじゃないので、バレーIQ的な部分をしっかりと自分で持てるようにしたいと思っています。そこがまずちゃんと土台にあるプレーヤーじゃないと、自分のサイズでやっていくのは難しい。そういうところで自信を持ってやれるプレーヤーで、もっといられればいいなと思いますね。
<了>
バレー福澤達哉、海外で新たな気付き 寄せ集め集団を「強い組織」に変えるプロセスとは
「今こそプロ意識が問われる」 バレー清水邦広、33歳。大ケガ乗り越え手にした“準備期間”
「ゴールが決まれば人生設計は練り直せる」33歳・福澤達哉、人生を懸けて挑む東京五輪
「出産後で一番良い状態」女子バレー荒木絵里香、代表最年長35歳が限界を感じない理由とは
[アスリート収入ランキング]トップは驚愕の137億円! 日本人唯一のランクインは?
PROFILE
柳田将洋(やなぎだ・まさひろ)
1992年7月6日生まれ、東京都出身。ポジションはアウトサイドヒッター。186㎝、80kg。東洋高校時に春の高校バレーで主将としてチームを牽引して優勝を経験。慶應義塾大学を経て、2015年にサントリーサンバーズに入団し、2015-16シーズンV・プレミアリーグで最優秀新人賞を受賞。2017年にプロ転向し、2017-18シーズンはドイツのTV・インガーソル・ビュール、18-19シーズンはポーランドのクプルム・ルビン、19-20シーズンはドイツのユナイテッド・バレーズでプレーし、2020年よりサントリーに復帰。日本代表には2013年に初選出され、2018年より主将を務めている。
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
走幅跳のエース・橋岡優輝を導いた「見守る力」。逆境に立ち向かう力を育んだ両親の支え
2025.09.14Education -
アスリート一家に生まれて。走幅跳・橋岡優輝を支えた“2人の元日本代表”の「教えすぎない」子育て
2025.09.14Education -
アーセナルは今季リーグ優勝できるのか? 「史上最強スカッド」でアルテタ監督が挑む22年ぶり栄光の鍵とは
2025.09.12Opinion -
運命を変えた一本の電話。今夏490億円投じたアーセナル、新加入イングランド代表MF“14年ぶり”復帰劇の真相
2025.09.12Opinion -
「守りながら増やす」アスリートの資産防衛。独立系ファイナンシャル・アドバイザー後藤奈津子の信念
2025.09.12Business -
木村和司が語る、横浜F・マリノス監督就任の真実。Jのピッチに響いた「ちゃぶる」の哲学
2025.09.12Career -
“わし”はこうして監督になった。木村和司が明かす、S級取得と「口下手な解説者」時代の苦悩
2025.09.12Career -
松永成立が語る、辞任後の胸中。横浜F・マリノスと歩んだ40年、GKコーチを辞しても揺るがぬクラブ愛
2025.09.12Career -
アスリートは“お金の無知”で損をする? 元実業団ランナーIFAが伝える資産形成のリアル
2025.09.10Business -
日向小次郎は大空翼にしかパスを出さない? データで読み解く、名試合の構造[統計学×『キャプテン翼』]
2025.09.09Education -
「卓球はあくまで人生の土台」中学卓球レジェンド招聘で躍進。駒大苫小牧高校がもたらす育成の本質
2025.09.09Education -
大空翼は本当に「司令塔」なのか? データで読み解く、名場面の裏側[統計学×『キャプテン翼』]
2025.09.08Education
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
木村和司が語る、横浜F・マリノス監督就任の真実。Jのピッチに響いた「ちゃぶる」の哲学
2025.09.12Career -
“わし”はこうして監督になった。木村和司が明かす、S級取得と「口下手な解説者」時代の苦悩
2025.09.12Career -
松永成立が語る、辞任後の胸中。横浜F・マリノスと歩んだ40年、GKコーチを辞しても揺るがぬクラブ愛
2025.09.12Career -
「不世出のストライカー」釜本邦茂さんを偲んで。記者が今に語り継ぐ“決定力の原点”
2025.09.05Career -
“永遠のサッカー小僧”が見た1993年5月15日――木村和司が明かす「J開幕戦」熱狂の記憶
2025.09.05Career -
「英雄」か「凡庸」か。田中碧、プレミアリーグ初挑戦で大きく揺れ動く評価の行方
2025.09.04Career -
「カズシは鳥じゃ」木村和司が振り返る、1983年の革新と歓喜。日産自動車初タイトルの舞台裏
2025.08.29Career -
涙で若手に伝えた「日本代表のプライド」。中国撃破の立役者・宮澤夕貴が語るアジアカップ準優勝と新体制の手応え
2025.08.22Career -
読売・ラモス瑠偉のラブコールを断った意外な理由。木村和司が“プロの夢”を捨て“王道”選んだ決意
2025.08.22Career -
堂安律、フランクフルトでCL初挑戦へ。欧州9年目「急がば回れ」を貫いたキャリア哲学
2025.08.22Career -
吉田麻也も菅原由勢も厚い信頼。欧州で唯一の“足技”トレーナー木谷将志の挑戦
2025.08.18Career -
張本智和、「心技体」充実の時。圧巻の優勝劇で見せた精神的余裕、サプライズ戦法…日本卓球の新境地
2025.08.15Career