バレー福澤達哉、海外で新たな気付き 寄せ集め集団を「強い組織」に変えるプロセスとは
今シーズン、フランスのパリ・バレーでプレーした福澤達哉。残念ながら新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けタイトルを獲得するチャンスは逃したが、日本とはまた違った緊張感のある日々を過ごした。フランスリーグには外国人枠がなく、数カ国の選手が集まり、文化的背景や考え方が異なる集団をまとめる難しさにも直面したという。4年前にブラジルで価値観が変わり、今回のフランスでもまた大きな気づきがあった。彼が感じた日本と海外の違いとは?
(インタビュー・構成=米虫紀子、写真=Getty Images)
<本インタビューは、4月15日に実施>
1つの勝敗が順位に大きく影響するプレッシャー
――2019-20シーズンは、パナソニックパンサーズからレンタル移籍のような形でフランスリーグに参戦。新型コロナウイルス感染拡大の影響でリーグはシーズン終盤に中止となってしまいましたが、今季フランスリーグのパリ・バレーでプレーして感じたことはどのようなことでしょうか?
福澤:フランスリーグは、自分が想像していた以上にレベルが高くて、1位のチームから14位のチームまで全チームの力が拮抗していました。普通に13位のチームが1位のチームに勝ったりするんですよ。だから本当に毎試合、プレッシャーがかかる。1戦落としたら、順位が1つ2つ落ちたりする状況がリーグ終盤まで続いていたので。それは日本のVリーグにいると味わえなかったものなのかなと思います。そういう中で、チームに合流してからのほぼ全試合にスタメンで出られたのは、大きな収穫でした。
プレーヤーの安定感という面では、イタリアやポーランドのリーグでやっている選手に比べると少し落ちるのかなという印象はありましたが、持っているポテンシャルは何ら遜色ない選手がたくさん集まっているので、すごく楽しかったですね。
――海外でのプレーを選んだ理由について、出発前に、「一アスリートとして、自分の限界がどこにあるのか、海外でどこまで勝負できるのか見てみたい」とおっしゃっていました。そのあたり、手応えや見えたものはありましたか?
福澤:うーん、レギュラーラウンドの最後の2戦を残してリーグが中止になってしまったので……。僕らはその2戦の結果次第でプレーオフに進めるか進めないか、というラインにいたんです。それに、フレンチカップというカップ戦も、セミファイナル、ファイナルが残っていて、タイトルを取るチャンスがありました。そういう、勝たなきゃいけない本当に重要な場面で勝ち切ることが、僕にとっては大事なポイントだったのかなと思うので……。

6、7カ国から集まり、文化的背景や考え方の違う集団
――ここから、というところだったんですね。
福澤:ただ、シーズンを通していろんなことを感じ取れて、収穫は多かったです。うちのチームは浮き沈みが大きくて、2019年の年内終了時点までは、きちんと勝ち星を取ることができて、チームとしてしっかりと戦えていたんですけど、クリスマスブレイクを挟んだ年明けから、急に勝てなくなって4連敗。本当に同じチームかな?と思うぐらい調子が落ちたんです。
フランスリーグは外国人枠がないので、たくさんのナショナリティが集まります。パリ・バレーにも6、7カ国から選手が集まり、それぞれの文化的背景や考え方には違いがある。その中でチームが一つになることの難しさを改めて感じましたし、連敗から抜け出して、もう一度プレーオフ争いに入り込めるようになるまでのプロセスを経験することができました。
1シーズンを通して、自分個人のプレーというよりも、チームとしてどう戦っていくか、チームの状態が悪い時にどういうアクションを起こすのか、何がきっかけで変わるのか。そういうところは、今回、フランスに挑戦してみて、一つの答えみたいなものを、まあ完全にではないですけど、少し感じ取ることはできたと思っています。
――その“答え”というのは?
福澤:さかのぼると、まず2015-16シーズンにブラジルリーグに行ったのが、僕にとって一番最初の海外挑戦だったんですが、その時に強く感じたのは、「やっぱり一人ひとりの個の強さは絶対に大事だ」ということでした。それから日本に帰って、もう一度ナショナルチームに入って戦う中でも、チーム力だけじゃなく、まず個が大事で、しっかりした技術とメンタリティを持った強い個の集合体が強いチームなんだ、というのを一つ、僕の考えとして持ちながらやっていました。
今回のフランスリーグにも最初そういう考えで入って、2019年の年内の試合が終了した時点までは、もう本当にそれだろうと思ってやっていました。でも年明けから急に勝てなくなって、「何が違うんだ?」と。年内は、自分たちの個の力を存分に発揮して勝てていたし、それぞれが自分の責任、役割をしっかりまっとうして戦えていたのに、なぜ急にできなくなったのか。その時に感じたのは、強い個の集合体というのは、すごくいい部分がある反面、一つ崩れだした時に、その個が暴走するというか……。この言い方が正しいのかわかりませんけど。
――一人ひとりが勝手なことをやり始めてしまう?
福澤:はい。日本のVリーグのチームのように、長年ほぼ同じメンバーで関係性を築き上げてきたわけではなく、(海外のリーグは)毎シーズンメンバーが変わるので、その難しさも当然あります。その中で自分をどれだけ表現し、相手にどうわかってもらうのか。そのあたりのちょっとしたズレが、チームとしての大きなヒビになる。
チームが勝てなくなったりうまくいかなくなると、自分のエゴが大きくなって、それぞれが1つ、2つ、いろんなものを求め出し、チームに目がいかなくなる。それが崩れた原因かな、と僕は思っています。その要因には、それぞれの文化的背景や考え方の違いもある。そこをクリアにしないといけないんですが、その作業がすごく難しい。みんな勝ちたい気持ちは一緒なのに、1つ2つのことがズレただけで一気に崩れてしまう。チームスポーツの難しさをものすごく感じました。
じゃあ強いチームはどうなのかな?ということも考えました。それまで僕の中では、強い個の集合体が強いチームで、ナショナルチームでも世界の上位にいる国はみんな、個の力がすごくあって、一人ひとりがきっちり独立して自分の役割をこなしているからチームとしても崩れないんだ、と思っていました。でもたぶん実際にはそれだけじゃなくて、それぞれが責任を持っているエリアに対して、お互いがどれだけ理解しているか、という部分が非常に大事で、それがチームを作るということなのかな、と感じました。

プロフェッショナルなチームがやっていること
――個の力がただ揃うだけでなく、互いの理解や結びつきが重要なんですね。
福澤:僕の勝手なイメージでは、これまでの日本のスタイルは、まず「これがこのチームの枠です」という大枠やチームカラーを作ってしまってから、それに選手をはめていく、というチームの作り方が多かったんじゃないかと思います。
海外は、それぞれの個に強い力があって、しかも決して形はきれいな円じゃなく、デコボコしている。その歯車一つひとつをどうはめ込んでチームを作るかが、海外のバレーなのかな、というのが、今回僕が勝手に行き着いた考えです。そのピース一つひとつがデコボコだからこそ、それをピタッとはめるのが難しい。その選手がどういうタイプの人間で、どういうプレースタイルなのか、それをお互いが理解しないと、そのピースをピタッとはめ込むことはできなくて、そこに対するアクションが、まさにチームを作る、チームとして戦うということなのかなと。
パズルのピースって、はめ込む時にいろいろ向きを変えるじゃないですか。そういう作業が必要なのかな、と思ったんですよね。それぞれのピースの形はもう決まっている。つまりその選手のプレースタイルや性格などは決まっていて、誰も、チームで戦うためだからといってそれを変えることはない。それでもきちんとはめるためには、見方を変える。ひっくり返したり、向きを変えてみたりして、どうやったらはまるだろう?と考えていく。そういうのが、プロフェッショナルなチームがやっていることなのかな、と。
僕は日本で長くやってきましたけど、振り返ると、そのチームに自分を合わせるというアクションをわりとしていたような気がするんです。チームに自分のピースがはまらなければ、自分の形を変えて、そこにはまるようにしていた。それが、「そうじゃないんだ」と気づいたのがブラジルで、さらに今回フランスに行って、そのピースを無理やりはめようとしてもはまらない時もあるんだ、ということに気づきました。
――パリでは、それをどう解決していったのですか?
福澤:対処法というのはやっぱりコミュニケーションしかないんです。短期間でどれだけお互いのことを理解するか。それぞれの考え方や、一つひとつのプレーに対するこだわりだったり、あらゆるものを表現しなきゃいけない。そのためにはミーティングってすごく大事なんです。日本にもミーティングの文化はあると思うんですけど、質というか、それぞれがどれだけ自分を出せているかが重要です。時には相手を不快にさせるかもしれない意見であっても、それを言うことができるかどうか。
パリ・バレーでは、負けが続いた時期にミーティングがあって、「それぞれ考えていることはあるか?」となった時に、ちょっとしたケンカになるようなことも言い合ったりしました。結果的に、連敗を抜け出す勝ちにつながった。そういうきっかけが一つあると、いい連鎖が始まります。それぞれ母国語も違うし、考えていることを100%は伝えられないけど、でもそういう寄せ集めのチームが一つのチームになっていくために必要なプロセス、勝つためにどういうアクションをしないといけないのか、という部分に関して、すごく勉強になりました。

「言葉できちんと相手に伝えることも大事」
――そのミーティングでは、福澤選手からはどんな発言をされたんですか?
福澤:まずシンプルに、自分のやるべきことをやる、ということですね。やっぱり負けがこむ時ほど、選手ってディテールに目がいきすぎるんです。例えば、コンビが合わなくて、トスが高いとか低いとか。本当に細かい部分に目がいって、そこを改善しないとチームは前に進めないんだ、というような考えに陥る。それぞれが不安で、自信がなくなって、でも何とかしたいと思ってるから、「オレがやらなきゃ」という部分が過剰になりすぎて、完璧を求め出す。そうじゃなくて、たとえ自分のパフォーマンスが悪くても、他の誰かが点数につなげてくれたら、それはチームの点数であって、自分の点数、というふうに思えるようにしないと、チームとして前には進めない。そういうことを話しました。
僕自身は、自分のプレーうんぬんは関係ない。とにかく“チームが勝つ”という結果がすべてだから、それに対するアクションは全部やるし、自分がサーブレシーブを返して、セッターがトスを上げて、誰かがスパイクを決めて取った1点というものは、自分にとっての1点でもある。やっぱりスパイカーには、自分で点数を取って気持ちを上げていきたいという選手はいるんですよね。でもそうじゃなくて、本当にチームが勝つために、プレーのつながりというものに目を向け出すと、ディテールよりも、最後にどうやって全員で点数を取りにいくか、というところに意識が向き始める。そうなると自然にカバーし合えるようになって、コミュニケーションの中でも、トスが低いとか高いとか、そういう不満じゃなく、どちらかというとポジティブな、「カバーしてくれてありがとう」というようなワードに変わっていく。そういう話をしましたね。
――それは、英語で?
福澤:はい。やっぱり言わないとわからないので、その英語が合っているかいないかを気にするより、まず自分がどう考えているのかを発することによって、こいつはこういうタイプの選手なんだな、とわかってもらえると思うので。で、その発言に対してのアクションをコートで見せることによって、チーム内の信頼を勝ち取っていくことができる。一番大事なのはもちろん結果で見せることですけど、重要なタイミングで、言葉できちんと相手に伝えることも大事だと感じましたね。
――福澤選手はフランスに行く以前から英語が堪能でしたが、どのように習得したんですか?
福澤:一番は、ブラジルに行ったことが大きかったですね。その時は周りがポルトガル語で、僕は英語を話せる選手を介してコミュニケーションを取っていました。やっぱり必要に迫られると、インプットとアウトプットの循環が早くなります。一度リズムができれば、あとは自分でインプットの量を増やしていけば、英語力というのは上がっていくのかなと。ブラジルから日本に帰ってからも、(パナソニックのチームメイトの)クビアク(・ミハウ)や外国人コーチなど、コミュニケーションを取れる相手がいましたし。あとはオンライン英会話をずっとやっていました。代表合宿中も、空き時間に30分ずつやっていましたね。
それと、ブラジルから帰ってきた翌年に会社の昇進試験を受けたんですけど、TOEICの試験もあったので、その時にインプットの量が劇的に増えました。その時期はチームの練習が18時頃に終わった後、家に帰ると子どもたちがいて勉強できないので、体育館の空いている部屋を使って3時間ほど勉強してから家に帰っていました。
――すごいですね……。ずっとバレーボールの第一線で活躍しながら、着々と昇進もしているとは。
福澤:まあ、年齢も年齢なんで(笑)。
【後編はこちら】「ゴールが決まれば人生設計は練り直せる」33歳・福澤達哉、人生を懸けて挑む東京五輪
<了>
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PROFILE
福澤達哉(ふくざわ・たつや)
1986年7月1日生まれ、京都府出身。ポジションはアウトサイドヒッター。中央大学1年時に日本代表に選出され、2008年に北京五輪に出場。同年パナソニックパンサーズに内定し、2008-09シーズンV.プレミアリーグ新人賞を獲得。以降、天皇杯、Vリーグ、黒鷲旗の3冠達成を実現させるなど数々のタイトル獲得に貢献。2015年にブラジルのマリンガへ移籍して1シーズン海外でのプレーを経験。2019-20シーズンはフランスのパリ・バレーでプレーした。
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