クボタスピアーズ船橋・東京ベイの「得失点差リーグ1位」を操る藤原忍。自ら語る、日本代表で変わった“判断の基準”
NTTジャパンラグビーリーグワンで現在首位、得失点差もリーグ1位(+292)を誇るクボタスピアーズ船橋・東京ベイ。その安定した強さの根底にあるのが、スクラムハーフ(SH)・藤原忍の「判断力」だ。一瞬の選択が勝敗を分けるポジションで、日本代表での経験を経て磨かれた思考はどのように機能しているのか。“攻守のバランス”を体現する男の現在地に迫る。
(文・撮影=白石怜平)
今季掲げたテーマは「攻守のバランス」
藤原忍は天理大学時代に全国大学選手権初優勝に導くなどの活躍を見せ、2021年にクボタスピアーズ船橋・東京ベイへ加入。リーグワンの強豪チームでも実力を発揮し、2022-23シーズン優勝や、昨シーズン準優勝の原動力になっている。
そのパフォーマンスが評価されて日本代表にも選ばれると、2024年6月のイングランド戦で初キャップを獲得し、通算19キャップを誇る。
国際試合を通じてプレーの精度と判断力に磨きをかけた27歳は、スピアーズの上位躍進に不可欠な存在である。
今季はここまで13試合中12試合に出場、すべてスターティングメンバーに名を連ねている。第3節の東京サントリーサンゴリアス(東京SG)戦後に自身のテーマを聞いた際、このように答えた。
「チームのテーマでもあるのですが、バランスです。アタックでもディフェンスでも、『バランスを持ってやっていこう』という中で、まず自分が責任持ってやらないといけないと。
そのバランスというのは、局面局面で“今どういう状態なのか”を感じ取って、それを実際にフォワードやバックスに落とし込んで動かしていく。これらを意識しながらやっています」

得失点差リーグ1位を支える“判断の共有”
今季のスピアーズは、攻守のバランスが強さの要因の一つ。チーム得点数の多さと失点数の少なさはいずれもリーグ2位。得失点差はプラス292でリーグ1位をマークしている。
まさに藤原の掲げる“バランス”がチームにも浸透していることを示した数字である。
試合数を重ねても継続できている要因について、第12節の浦安D-Rocks戦後に現在地を問うと、その試合のシチュエーションに当てはめて答えてくれた。
「今日だったら前半20分、すごくいい形で攻められていたのですが、前半の終盤にフォワード陣に疲れが見えてきたと感じていました。
その中でキッキングゲームにするのか、バックスから攻めて行くかを(SOの)押川(敦治)とコミュニケーションをとりながら組み立てていきました」
この試合では前半20分まで28-0と大きくリードしていたが、25分以降で浦安の反撃に遭い28-14で折り返していた。しかし、後半開始早々に7得点を奪うと再び攻撃のリズムを取り戻し、59-35で勝利を収めている。

得点力の要因は“一瞬の”判断力
藤原の強みはSHとしてのゲームメイクだけにとどまらない。大きな武器の一つは、研ぎ澄まされた判断力で自ら得点も挙げている点にある。
今季のリーグワンにおいて、SHとしての得点数は静岡ブルーレヴズの北村瞬太郎に次ぐ25得点を挙げている。
第12節の浦安戦や11節の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦でもトライを決めるなど、直近6試合で4トライを決める活躍を見せた。
第3節の東京SG戦では、後半21分に相手側ペナルティの笛が鳴った直後、自らタップすると一瞬のタイミングでディフェンスを潜り抜けグラウンディング。
「あの場面はクイックにいったらトライ決められるかなと思って行きました」と、シーズン初トライ時にこう振り返った。
また浦安戦では、「前のスペースを見た時に空いている状況だったので、自分が行ったほうが速いと考えました」と、相手の間を瞬時に突いて自ら決めるなど、スピードと突破力で自ら攻撃陣へと加わる。

チームを動かす“声”と“責任”
藤原は開幕時から「自分がリードすることによってチームがまとまる」と語っており、強い自覚と責任感でもチームを牽引する。
スクラムの際はスタンドにも届くような大きな声でフォワード陣を鼓舞し、言葉だけでなく姿勢でもチームの潤滑油となっていた。
「フォワードはスクラムに集中するので、他が見えている自分がしっかりと声でリードすることを心がけています。コールをかけたほうが、フォワードも気持ちとして自分の仕事にフォーカスできると考えています。
責任感についてさらに深掘りをすると、藤原は要因となっていることを明かしてくれた。
「自分からアクションしていくと、チーム全体が良い流れになっていくので、試合では常に意識しながら取り組んでいます。それはジャパンから帰ってきて身についた部分です」

日本代表で変わった「判断の基準」
スピアーズのみならず、日本代表でも活躍を見せる藤原。昨年も開幕前の6月から11月まで世界を舞台に戦い、その経験がさらに自らを成長させていた。
日本代表とスピアーズを両立する大変さや気をつけている点を問うと以下のように答えた。
「代表ですとアタック・ディフェンスともに形が別物なので、そこにしっかり自分がコミットしないといけないです。
そのためには、アタックコーチやディフェンスコーチとのコミュニケーションをしっかりと取るところが一番大切なところだと考えています。
練習していく中で、『やっぱりこれは違いますよね?』『ここは合っていますよね?』など、確認を都度重ねながらアジャストさせていきました」
前述の判断力も代表での活動を通じて培われ、「どんな状況でもリラックスしてできているので、それは代表でやったからこそ自信を持てているのかなと思います」と、それが今戦っているリーグワンでの試合にも活きていると語る。
一つ具体的なシーンとして挙げたのが、第9節の三菱重工相模原ダイナボアーズ戦でのこと。19−3とリードして迎えた後半11分と16分、スピアーズがイエローカードにより続けて2人が一時退場を余儀なくされた。
その間13人で戦わなければならない状況となったが、「今日の試合も全然焦らなかったですし、自分たちのやることに向けて冷静に集中できた」と試合後に述べている。
「2人減ったのであれば、みんなで2人分の仕事をしたらいいと考えていました。フォワード・バックスのみんなをまとめる役でもあるので、自分が慌てだしたらみんな慌ててしまう。
なのでしっかりと落ち着いて間を取ったり、時間をかけてコミュニケーション取りながら、試合を組み立てていきました」

1位通過へ、求められる“細部の徹底”
国際試合で得た経験は、単なる“上積み”ではない。思考の基準そのものが引き上げられ、判断力に一層磨きが掛けられた。
日本代表とスピアーズ、その往復の中で磨かれてきた司令塔は、双方において試合を動かす不動の存在へと進化を遂げている。
「日本代表となると国を代表して戦うので、そこは責任感や気合いの入り方が少し違ってきます。
ただ、やらなければならないことは一緒です。代表でもクボタでも9番として出ている責任は変わらないです。
その責任感を両方で持って、まずはリーグワンの一試合一試合、勝利を積み重ねていきたいです」
13節の東芝ブレイブルーパス東京戦に勝利し、再び首位に浮上したスピアーズ。プレーオフトーナメントへの1位通過に向けて、さらに熾烈さは増していく。
シーズン序盤、前半に大きくリードを奪い逃げ切る形で勝利をつかんできたが、直近は前半の勢いある攻撃をキープしながら、後半にもさらに加点する展開を見せている。
一試合一試合の重みがさらに増す中、チームのまとめ役としてさらに自覚を高めながら、今後の戦いに向けてこのように語る。
「自分たちのリズムを作るために、オフサイドをしないであったり、ディフェンスで不要なペナルティをしないなど、細かいところの修正にこだわって取り組んでいます。そこを継続してやっていきたいです」
日本代表で得た経験は、単なる“上積み”ではない。思考の基準そのものが引き上げられ、判断力に一層磨きが掛けられた。
日本代表とスピアーズ、その往復の中で磨かれてきた司令塔は、いま試合を動かす不動の存在へと進化を遂げている。
シーズンの行方を左右する局面で、その判断がどのような結末を導くのか。その答えは、ピッチの上で示されていく。
<了>

「大学×プロの二刀流」ラグビー界の常識を覆す20歳。本山佳龍が選んだ“異例のキャリア”
“勉強するラガーマン”文武両道のリアル。日本で戦う外国人選手に学ぶ「競技と学業の両立」
「自分がいると次が育たない」ラグビー日本代表戦士たちの引退の哲学。次世代のために退くという決断
日本人のフィジカルは本当に弱いのか? 異端のトレーナー・西本が語る世界との違いと“勝機”
「正直であること」を選んだ名門の一年。明治大ラグビー部、7年ぶりの日本一と29年ぶりの完遂
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
なぜマンチェスター・シティ「2季の2部生活」が浮上したのか? 英国で広がる厳罰論の背景
2026.10.23Opinion -
批判と低迷から始まったエディー体制の現在地。ラグビーW杯まで1年、日本代表に起きている変化
2026.10.23Opinion -
「小学生の全国大会が一つしかない」Fリーグ引退・森岡薫、GM転身で目指すフットサル界の改革
2026.10.22Career -
世界3位ドイツ戦で見えた、なでしこジャパンの変化。新体制で増えた選択肢と残された課題
2026.10.14Opinion -
世界1位・松島輝空も安全圏ではない。卓球で相次ぐ大番狂わせ、101位が中国女王を破った背景
2026.10.13Opinion -
「自信を失った経験がない」瀬古歩夢、4戦連続先発で示した成長。森保ジャパンで高まる存在感
2026.10.09Career -
五輪から外れた空手、世界1億人に広がる現在地。アジア大会金・尾野真歩が伝えたい「日本の形」
2026.10.09Career -
フットサルで磨いた判断は欧州サッカーでどう生きるのか。浅野蓮の可能性を広げた育成と「環境を選ぶ力」
2026.10.09Training -
「空手が楽しくない」からアジア大会金メダルへ。尾野真歩、4年間届かなかった日本代表と“自分の空手”
2026.10.09Career -
欧州に挑む16歳・浅野蓮の感性はいかに育ったのか。上田綺世も輩出したmalvaに学ぶ「正解」を教えない育成
2026.10.07Training -
「きれいごとを貫いて、利益にする」東京ドーム社長・斎藤裕が描く“4万坪の街”への夢
2026.10.06Business -
東京ドームはどう変わる? 4月就任の斎藤裕社長が語る「4万坪のエンタメの街」の新たな可能性
2026.10.06Business
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
「小学生の全国大会が一つしかない」Fリーグ引退・森岡薫、GM転身で目指すフットサル界の改革
2026.10.22Career -
「自信を失った経験がない」瀬古歩夢、4戦連続先発で示した成長。森保ジャパンで高まる存在感
2026.10.09Career -
五輪から外れた空手、世界1億人に広がる現在地。アジア大会金・尾野真歩が伝えたい「日本の形」
2026.10.09Career -
「空手が楽しくない」からアジア大会金メダルへ。尾野真歩、4年間届かなかった日本代表と“自分の空手”
2026.10.09Career -
14歳でFリーグ最年少記録、英2部QPRのトライアルでも3得点。日大藤沢・浅野蓮が語る欧州での手応え
2026.10.05Career -
「もしそれがW杯の試合だったら」鈴木唯人が語る“走り続ける”理由。開幕4試合4ゴールも最優先するものとは
2026.10.02Career -
「僕らだけで決断していいことじゃない」現役大学生で日本代表、伊藤龍之介が向き合う“二つのチーム”
2026.10.02Career -
W杯ブラジル戦で泣き崩れた田中碧…リーズ監督の「きつい冗談」と、先発を取り戻すまでの3カ月
2026.10.01Career -
「ベンチでOKではない。先発になるために」日本代表FW後藤啓介が語る、ブンデスで向き合う“自分との差”
2026.10.01Career -
「風を読んで、あのスペースに」鈴木彩艶が明かす配球術。英名物番組が驚異的と評するプレミアでの進化
2026.09.24Career -
40歳・長友佑都はなぜ現役を続けるのか。W杯後に一度は傾いた「引退」と「FC東京で優勝」の情熱
2026.09.18Career -
塩貝健人が語る「4年後に向けて」。W杯での課題をドイツ2部で磨き、再び迎えるブラジル戦
2026.09.11Career
