森保ジャパンのチームづくりは順調か? チームビルディング目線で見る日本代表の現在地

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2019.08.07

ワールドカップから次のワールドカップまで、4年スパンでチームづくりが行なわれるサッカーの日本代表。アジアサッカー連盟(AFC)に属する日本はこの4年のうちに、アジアカップ、FIFAワールドカップ・アジア2次予選、アジア最終予選という3つの関門をくぐり抜け、ワールドカップ本番へと向かう。
2022年のカタール・ワールドカップを目指し、昨年夏に発足した“森保ジャパン”は今年1月にアジアカップを戦い終え、9月にいよいよアジア2次予選を迎える、つまり、第2コーナーに差し掛かったところだといえるだろう。
果たして、ここまでのチームづくりは順調なのか――。
チームビルディングの専門家として組織の成長理論を体系化し、『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則――『ジャイアントキリング』の流儀』の著者としても知られる楽天大学学長、仲山進也氏と、アジアカップ、コパ・アメリカなど森保ジャパンの全ての試合を現地で取材しているスポーツライター、飯尾篤史氏の2人に、“森保ジャパン”のこれまでのチームづくりと、ここからの成長の可能性について、チームビルディング目線で考察してもらった。

(インタビュー・構成=飯尾篤史、写真=Getty Images、写真提供=仲山進也)

対立や本音をぶつけ合うことを避ける日本人は“フォーミング体質”

飯尾:“森保ジャパン”のチームづくりについて考える前に、まずは仲山さんのチームビルディング理論についてあらためて押さえておきたいのですが、チームが成長していくプロセスには、4つのステージがあるそうですね。

仲山:バラバラな「グループ」が自律的に動ける「チーム」に成長するプロセスとして、「フォーミング(同調期)」、「ストーミング(混沌期)」、「ノーミング(調和期)」、「トランスフォーミング(変態期)」の4ステージがあるという考え方です。前半の2段階はまだグループの状態で、後半の2段階はチームになれている状態です。

グループとチームはまったく違います。グループがリーダーの指示命令のもとで動く状態に対して、チームは自分たちで考え、試行錯誤し、成功体験を共有することで「自分たちのルール」が確立していき、究極的にはあうんの呼吸で動ける一つの生き物のようになります。

飯尾:興味深いのは、順調に右肩上がりの曲線を描いているわけではない、という点ですね。“初めまして”の状態である「フォーミング」を抜けて「ストーミング」に入ると、衝突や対立が起きて、チームのパフォーマンスが低下してしまう。

仲山:イモムシがサナギになり、やがてチョウになって羽ばたいていく――。そんなふうにイメージすると分かりやすいと思います。格上の相手に勝つ「ジャイアントキリング」を起こせるチームになるためには、サナギの時期にあたる「ストーミング」を乗り越えるかどうかが重要で、お互いの言いたいこと、考えていることを全て場に出し、試行錯誤を経た上で、全員が同じ認識や共通言語を持って初めて一体感のあるチームになることができます。

ただ、多くの組織は「フォーミング」のまま、時間を過ごしています。特に日本人はここにとどまりやすい傾向があると思っています。というのも、言いたいことがあっても空気を読んで遠慮したり、せっかく意見の対立が起きて「ストーミング」に入りかけても、「まあまあまあ」と丸く収めようとして「フォーミング」に戻してしまう。僕はそれを“フォーミング体質”と呼んでいます。

飯尾:対立や本音をぶつけ合うことを避ける傾向がある日本人は、まさに“フォーミング体質”ですね。

ベスト16進出のロシア大会ではいかにして「ストーミング」を乗り越えた?

仲山:逆に、海外では文化的に自己主張から始まるのが当たり前の国や地域が多いので、“ストーミング体質”といえます。ただ、過去の日本代表でも、本音を言い合って「ストーミング」を乗り越え、「ノーミング」に到達したケースがあります。2018年ロシア・ワールドカップの“西野ジャパン”はそうですね。

飯尾:ワールドカップの2カ月前に就任した西野朗監督は「自分は世界を知らないから、みんなで考えよう」と呼びかけた。それで、(ヴァヒド・)ハリルホジッチさんの時代に冷遇されていたベテラン勢が意見を言えるようになりました。

仲山:なかでも本田圭佑選手は、自分の意見をはっきり主張できる、日本人には珍しい“ストーミング体質”の選手です。ただ、監督交代直後の時点ではまだ、中堅や若手の選手たちが本音を話せていたわけではないようなので、「ストーミング」に入ってはいなかったと思われます。

飯尾:大会直前のガーナ、スイスとの親善試合に連敗して、チームは危機感に包まれていました。その間も西野監督は選手間でのディスカッションを促していて、このままではいけない、という危機感から、それまで黙っていた中堅や若い選手たちも意見を言うようになりました。

仲山:初戦のコロンビア戦2日前のミーティングでは、ワールドカップに懸ける想いを一人ひとりが順番に話したそうですね。互いに何を思っているかが見えたことで本音を言っても大丈夫だという雰囲気が生まれ、「ストーミング」を越えて「ノーミング」へと到達できたんじゃないか、と見ています。

飯尾:同じように、2010年南アフリカ・ワールドカップの“岡田ジャパン”も、本大会直前までチーム状態が悪く、選手だけでミーティングを開きました。そこで(田中マルクス)闘莉王選手が「俺たちは下手くそなんだから、もっと泥臭く戦わないとダメだ」と発言したことをきっかけに、本音をぶつけ合った。若い選手たちからは戦術批判のような発言まで飛び出したようです。

仲山:選手たちが「このままじゃダメだ」と追い込まれ、本音を出し合って一致団結することで、結果的に「ストーミング越え」ができた。それがベスト16進出につながったと見ることができます。

森保ジャパンはまだ“フォーミング”のステージにいるように見える

飯尾:こうしたことを踏まえて、ここまでの“森保ジャパン”を振り返ると、まだ「フォーミング」の域を出るまでには至っていないと感じます。選手同士が気を使い合っていたり、選手たちが監督のことをまだ探っているような感じを受けるからです。

仲山:今年1月のアジアカップ終了後、「仲良し集団だった」という記事が出ていましたけど、あれはどうなんでしょう?

飯尾:「仲良し集団」という言葉がふさわしいとは思いませんが、ワールドカップ直前のように意見をぶつけ合ったり、本音で言い合うくらいのテンションだったかといえば、そうじゃないと思います。森保体制になって最初の国際大会でしたし、そもそもロシア・ワールドカップ終了後、長谷部誠選手や本田選手など、これまで長く代表チームを牽引してきたベテランが代表から引退した。

しかも、“森保ジャパン”の初陣となった昨年9月のコスタリカ戦では、ロシア・ワールドカップの主力は誰も呼ばれず、中島翔哉選手、南野拓実選手、堂安律選手らフレッシュなメンバーが活躍し、新時代を感じさせました。

その後、代表に復帰したベテラン選手たちからは、若手をもり立てよう、彼らをサポートしよう、という心構えを感じます。だから、主張し合うという感じではなかったと思います。

仲山:メンバーが入れ替わってお互いに様子を見ていたり、お互いの本音を知らずして自分なりに“よかれと思って”行動している状態だとしたら、それは完全に「フォーミング」のステージです。アジアカップが終わってからはどうですか?

飯尾:アジアカップのメンバーのまま、3月、6月の親善試合、そしてコパ・アメリカを戦っていたら、議論が生まれて「ストーミング」に入れたかもしれません。ですが、3月には香川真司選手、宇佐美貴史選手といった、ロシア・ワールドカップのメンバーでありながら、これまで招集していなかった選手たちを呼び、さらに、畠中槙之輔選手、安西幸輝選手、鈴木武蔵選手、鎌田大地選手、橋本拳人選手など、新戦力を呼びました。

6月も同じです。久保建英選手や大迫敬介選手といった若手を抜擢したり、岡崎慎司選手、川島永嗣選手といったベテランを復帰させたりした。しかも、3−4−3の新システムを試したので、戦術面におけるチームづくりは次のステップに入りましたが、チームビルディングにおいては、互いに探り合う状態に戻ったのではないかと。

仲山:そこなんです、代表チームが難しいのは。メンバーが頻繁に入れ替わるので、「ストーミング」に突入しにくい。新しい選手が1人入ってきただけで、部分的に“初めまして”の「フォーミング」状態に戻ってしまいます。特に、影響力のあるベテラン選手が入ってくると、固いフォーミングに戻りやすい。つまり、代表チームは「万年フォーミング」というようなところがあるわけです。

飯尾:同じところをグルグルして時間を無駄にしないためには、どうしたらよいのでしょう?

仲山:「チームの成長ステージ」をみんなで共有することです。ここで重要なのは、それをリーダーである監督だけが分かっていても意味がないということです。「リーダー本」と「チーム本」の違いって考えたことありますか? 一見、似ているようで決定的に違うのは、「リーダー本」はリーダーが読んで“なるほど”と思い、自分の組織で実践すると効果があるもの。一方、「チーム本」はリーダーだけが読んでも意味がない。メンバーみんなで共有しなきゃ効果がないんです。

「チームの成長ステージ」は「チーム本」的な内容です。いわば地図みたいなものなので、メンバーみんなで「今、俺たちはまだフォーミングだから本音を言い合えていないよね」「ストーミングに入ってきて、これからお互いの意見がぶつかり合うかもしれないけどうまくすり合わせていこう」「新しい選手たちが入ったから、もう一度フォーミングからだよね」などと共通理解を持つことが大事なんです。

そうしないと、いつまで経っても「フォーミング」のまま時間だけが過ぎる。これでは、世界と戦ってジャイアントキリングを起こすことはできません。

飯尾:それで、ワールドカップ直前になっていよいよ追い込まれて、慌てて選手ミーティングを行ない、うまく転がれば、「ストーミング」を乗り越えて「ノーミング」「トランスフォーミング」へとぎりぎりの段階で入っていく。南アフリカ大会、ロシア大会がそのパターンですね。

仲山:逆にうまく本音のすり合わせができなくてバラバラになったのが、ドイツ大会、ブラジル大会です。「チームの成長ステージ」を自覚的に活用できるようになれば、直前に選手だけで緊急ミーティングをして吉と出るか凶と出るかは紙一重、というようなことはなくせると思います。

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PROFILE
仲山進也(なかやま・しんや)
北海道出身。1999年、社員約20名(当時)の楽天株式会社へ入社。初代ECコンサルタントであり、楽天市場の最古参スタッフ。2000年に楽天大学を設立(学長)、2004年にヴィッセル神戸の経営へ参画。2007年に楽天で唯一のフェロー風正社員となり、2008年には仲山考材株式会社を設立(代表取締役)。Eコマースの実践コミュニティー「次世代ECアイデアジャングル」を主宰している。横浜F・マリノスでジャイアントキリングファシリテーターとしてジュニアユースの選手、コーチングスタッフなどへの指導を実践した経歴を持つ。著書に『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則』、『組織にいながら、自由に働く。』がある。

PROFILE
飯尾篤史(いいお・あつし)

東京都出身。『週刊サッカーダイジェスト』編集部を経て2012年からフリーランスに転身。ワールドカップやオリンピックをはじめ、国内外のサッカーシーンを精力的に取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』『残心 中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』などがある。

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