安部裕葵は「日本にとどまる選手じゃない」 弱冠20歳で鹿島の10番を背負う若武者

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2019.06.21

2018年12月19日、クラブワールドカップ準決勝でレアル・マドリードに敗れ、悔し涙を流す安部裕葵の姿は多くのサッカーファンの記憶に残るシーンとなった。

今季から高卒3年目にして“常勝軍団”鹿島アントラーズ伝統の10番を背負い、日本代表にも名を連ねた若きドリブラーは、どのようにして形成されたのか? 中学生のときから「自分を客観的に見るようになった」と語り、海外の選手との対戦でより本領を発揮するという彼の根元にあるものとは。

(文=田中滋)

鹿島アントラーズにちょっとおもしろい選手がいる

コパ・アメリカのキックオフは日本時間の朝になる。日本戦のように8時ならいつもと同じように起きればいい。しかし、すべての試合を観ようとしたら4時や6時半の試合に合わせた時間に起きなければならない。それは少しでも睡眠時間を増やしたい日々のなかで、己のサッカー愛がどれほど強いものなのか問われることとほぼ同義だ。「起きたところで大した試合じゃないかもしれないし……」という悪魔のささやきに屈せず、「いやいやUEFAチャンピオンズリーグで痛い目を見たじゃないか」という意志が激しくせめぎ合う。

早く起きるなら早く寝ればいいのだが、人間はそう単純にできていない。翌日までに終わらせなければいけない仕事があるかもしれないし、仕事が早く終わればうれしくなって飲みすぎてしまうこともある。ついつい見始めたドラマがおもしろくて止まらなくなってしまうことだってある。余計なことをやらなければ苦しむこともないのがわかりながら、ついつい小さな誘惑に負けてしまうのが人間の性だ。

しかし、鹿島アントラーズにちょっとおもしろい選手がいる。コパ・アメリカに日本代表の一員として参加している安部裕葵だ。今回が初めてのフル代表選出のため、もしかしたら名前と顔が一致しないかもしれない。場合によっては、昨季、鹿島が出場したクラブワールドカップで、レアル・マドリードに敗れたあと泣きじゃくる安部の姿を見た人もいるはずだ。弱冠20歳で鹿島の10番を背負う新進気鋭のアタッカーである。

「日本にとどまっている選手じゃない」

安部のおもしろさは中学生のときから「自分を客観的に見るようになった」というところにある。つねに自分の上から神の視点で自分自身を見つめ、「自分の頭のなかでかっこいいと思えることをやるようになりました」という。サッカー同様に勉強もできた方が「かっこいい」と思えば、サッカー漬けの日々で疲れていても授業中に居眠りしない。美味しいことはわかっていても、健康や体づくりのためにならないなら炭酸飲料は飲まない。それは「自分の身体をコントローラーで動かしているみたいな感覚」だという。安部裕葵のように自分を動かすことができるなら横にある誘惑に負けることなく、本来の目的に達するのだろう。

この若武者の武器は俊敏性を生かしたドリブルだ。鹿島に加入したばかりの2017年、明治安田生命JリーグワールドチャレンジでスペインのセビージャFCと対戦したとき、62分からピッチに入った安部は、得意のドリブルで相手の中盤を切り裂き、鮮烈なイメージを残した。2018年のクラブワールドカップではメキシコのグアダラハラからゴールを挙げ、大会終了後にはドイツで7年半プレーした内田篤人から「日本にとどまっている選手じゃないと思う」と高く評価された。

お気づきのとおり安部は海外のクラブと対戦したときに大きな活躍を見せる。そして、そのことは本人も自覚している。ドリブルをしてくる相手に対してJリーグの選手は抜かれないことを優先するが、海外の選手たちはボールを奪おうとしてくる。安部のドリブルはそういう相手にこそ最大の効果を発揮する。

「Jリーグだと突っかけても2枚目が出てくる。僕は2枚目の選手を見ながらドリブルするので、だから国内だとあまり仕掛けられない。僕がドリブルできるというのはみんなわかっているのでカバーに入ってきますし。でも、クラブワールドカップのようなゲームになるとスペースもありますし、1対1で勝負できるとなると僕は得意」

仕掛けるときに考えることはスピードの緩急をうまく使うことだという。

「ドリブルするときは味方をうまく使いながら運んでいくイメージです。味方がいないところに行ってしまうと孤立するので、近くにいる味方の選手を利用して抜いていきます。大事にしているのは、相手の逆を取るというよりは緩急です。緩急で抜くタイプだと思います。だから、相手が寄せてきてくれるとギュッとスピードを上げることで抜ける。相手が寄せてこないと自分のスピードだけで抜かなければいけないので難しくなりますね」

相手の力をうまく利用しながら緩急をつけてボールを運ぶことで、相手ディフェンスの間を縫うように進んでいく。

サッカーがない人生にも思いを馳せるどこにでもいる20歳

ただ、安部の武器はドリブルだけではない。

「前を向いての1対1が1回だけだったら相手も仕掛けてくるとわかるはずです。でも、それが何回もあると敵がパスコースを切ってきたりいろんな選択肢ができる。『パスを出されるのかな? それともドリブルで来るのかな?』と迷わせることができる。そうやって選択肢をたくさん持たせたところでガッとスピードを上げるとドリブルで行けたりするんです」

自分が多くの選択肢を持っているということは、相手にもケアしなければならない道筋をいくつも渡すことを意味する。だからこそ、味方をうまく使うことが重要になるのだ。

その整った風貌も相まって彼はエリートコースを歩んできたように見えるが、決してそんなことはない。自分を客観的に見てコントロールしながら一歩、一歩、着実に前進することでプロまで登り詰めてきた選手だ。ちょっとピッチを離れれば屈託なく笑い、「友達とわいわいやって、恋愛して、恋人と一緒に学校から帰るという人生もたのしいだろうな、と思います」と、サッカーがない人生にも思いを馳せるどこにでもいる20歳だ。ただ、そうしたものを犠牲にしてでもサッカーをするのがたのしいという。

幼い頃から自分の人生と共にあったサッカーのたのしさは、意外なことにボールを蹴るところにあるのではないと言う。

「競い合うことがたのしい。どんな人でもそういうところは絶対にあると思う。例えば、それがTVゲームの人もいるだろうけど、僕の場合はサッカーだった」

勝てばうれしいし、負ければ悔しい。それが次への原動力となる。

日本代表にとって、ブラジルで戦うコパ・アメリカはどの戦いも厳しいものになると予想される。対戦相手はいずれも格上であり、南米は“彼ら”にとっては慣れ親しんだ地だが、日本にとってはまったく違う。環境面での苦労もあるだろう。

だが、安部はつねづね鹿島のなかで次のように繰り返してきた。

「その環境のなかで最善を尽くすのがサッカー選手だと僕は思っています」

どんな環境に置かれても勝利を目指す。得意の海外勢を相手に安部裕葵はどんなプレーを見せてくれるだろうか。

<了>

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