久保建英は“起業しても成功”する? 幼少期から知る男が語る「バルサも認めた武器」とは

Career
2019.06.11

2018シーズンのJ1リーグ首位を走るFC東京の久保建英から目が離せない。今季公式戦では5ゴール(6月1日時点)の活躍で、いよいよ“世代別がつかない”トップの日本代表に選ばれた。
久保は小学2年生のときに日本で実施されたFCバルセロナサマーキャンプで見出され、のちにバルサのカンテラ(下部組織)に移籍した。
そのバルサキャンプを日本に引っ張ってきた男が、日本でバルサの様々なビジネスを仕掛ける浜田満氏である。そのサマーキャンプ以来、久保がプロになるまでの期間、彼を見続けてきた浜田氏が久保の最大の武器について語る。

(文=池田タツ、写真=Getty Images)

バルサキャンプに参加した誰よりも質問を繰り返していた

――浜田さんは久保選手が小学校2年生のときに出会い、それからここまでの成長をどのように見ていますか。

浜田:まず、僕が久保建英選手を身近で見ていた年代は2009年~2017年までですので、あくまでもその間の話になりますが、久保選手は、誰か一人が育てたという選手ではないと感じています。

 バルサキャンプに来た当時に所属していたFCパーシモンでも、お父さんと一緒にやっていたトレーニングでも、その場で得られる最大限のものを自ら得ていたんじゃないかと思います。普通の選手だったら5しか得られないところを久保選手は10以上得てしまうというか。

 それだけ課題を認識できる力の高さや、見つけた課題に取り組む力の強さを感じます。私個人の意見ですが、久保選手はバルサでなくとも、どこのクラブにいても、自分に足りないと思うところを吸収して次のステップにいく選手ですね。どのクラブとか、どの国でとか、成長する場所は問わないと思います。

 私が初めて久保選手に会った小学校2年生の時点ですでにそういう人間性を持っていました。自分自身で課題を見つけたり、分からないことは質問したりというのは、ご家族の教育の中で培われていたものでしょう。彼のキャリアは色々と環境が変わっていったなかで、新しいことを経験するたびにそれが顕在化していったのではないでしょうか。

 もしかしたら一箇所でプレーするよりも、色んな場所でプレーしたほうが彼の才能はより磨かれるのではないかという気すらします。

――日本人って「じゃあ質問ある人?」って聞くと手が挙がらないというのはよく言うじゃないですか。久保選手は小さい頃からそういうところがなかったんでしょうか?

浜田:初めてキャンプに来た小学2年生のときから他の選手が誰も質問しなくても、久保選手は全てのタイミングで全部質問してしまうような感じでした。

 毎回手を挙げるのでコーチたちも「もうあなたは手を挙げなくていいですよ」って言うぐらいで(笑)。

 バルサのカンテラに移籍したあとも、夏に日本に帰ってきたときは日本のバルサキャンプとか、エコノメソッドキャンプに来ていたんですね。そしたらもう本人はスペイン語がわかるので、他の選手たちに通訳する前に手を挙げて質問しちゃうんですよ(笑)。

 トレーニングが終わったあとも、自分の改善点を自ら聞きに行って、参加した選手の誰よりも本当に細かく質問していました。

人を選んで聞きに行かない。常に誰からも学ぶ姿勢

――本当に積極的に人に聞きに行くんですね。

浜田:久保選手のすごいところは、人を選んで聞きに行かないところです。どんな人からの意見にも全て耳を傾けますし、どんな人にも質問します。アドバイスをくれる人に対して彼が「お前から聞くことはない」という態度をとっているのを見たことがありません。そういう発想を持っていないんですね。誰が何を言おうと、ちゃんと聞く耳を持っているんです。あれは自分には真似できないですね(笑)。

――それってサッカー選手としてだけでなく何をやっても成功しそうですね。

浜田:久保選手がもし起業したら、普通に上場させるぐらいまではいっちゃうんじゃないですかね。まあ、彼はサッカーがうまくなりたい以外のことは考えてはないでしょうけど。それぐらいの高い能力を持った人間だと思います。本人には伝えていませんが、彼が小学6年生ぐらいのときには、コーチ陣の間ではもう久保選手は欧州の一部リーグのレベルであれば、プロになるのは間違いないだろうという話をしていました。

――小学6年生のときにすでにそう思わせるというのは、それはやはり久保選手の物の考え方が大きかったということでしょうか。

浜田:それだけではありません。サッカーの才能があって、人間としても学ぶ姿勢を持っていて、サッカーが好きで取り組んでいるというのが大事ですね。学ぶ姿勢だけあっても、やはり才能がないとプロまではいけないですよね。

 逆も然りで才能だけあっても学ぶ姿勢がなければどこかで周りに抜かれてしまう時期がきてしまいます。全て揃っている久保選手のような選手はなかなかいないですよ。大げさではなく久保選手はバロンドールを取るぐらいの選手になると思いますし、取ってもらいたいです。

同年代のバルサでプレーしていればもっと輝いていた

――とはいえ、昨年は年間通してのリーグ戦の結果を見ると際立った結果ではなく、ちょっと停滞してしまったのではないかという心配もありました。

浜田:初めてバルサに行ったときも最初は適応に苦労している部分もあったのですが、徐々になれていくとあのレベルの高いバルサのカンテラのなかでも一際目立つ存在になっていました。まるでサイヤ人みたいですよね(笑)。

 最初は負けるんだけど、そのうち凌駕して何段階も進化していくような。昨シーズンに関しては、私は通用していたとか通用していなかったとか、そういう見方はしていません。そのチームのフットボールのコンセプトをちゃんとできているかどうかを見ています。
ギャップでボールを受ける動きをした瞬間にボールが入って来なかったり、ボールが来るのが一瞬遅かったりで、相手に捕まってしまうという光景が昨年はよく見られました。

 またフィジカルでもスピードでも年上の選手には劣っているところはあったので、より顕著に通用していないような見え方になってしまったのだと思います。同年代のバルサでプレーしていればもっと輝いていたのではないでしょうか。

――「フットボールのコンセプト」という言葉がありましたが、浜田さんはよくバルサのフットボールは言語が違うという言い方をされます。その違いって分かりやすくいうとどんなところにあるのですか?

浜田:基本的には“主導権を握る”というところになりますが、一番わかりやすいのは「走るのは人ではなくボールである」ということ。「わざわざボールの方向に動かなくていい。

 ボールが動いていても、周りの状況を見て相手から少し離れてフラフラしていれば、やがてボールは君のもとにやってくるから」というようなことをよく言います。普通はボールを追いかけようとか、ボールに寄っていこう、と考えることが多いかと思います。この発想が普通と逆。それを理解するのはなかなか難しいですよね。

 日本代表クラスの選手でもそれができない選手がいるぐらいです。日本では右サイドにボールが出たときにほとんどの選手が右サイドに歩を進めますよね。それはバルサの選手はほとんどやりません。

 相手の動きと自分の動きを常に把握して、相手が動いたということは自分がその場に止まっていれば相手から離れてフリーという考えです。

――そして今年はJリーグでも凄まじい結果を出しています。浜田さんは久保選手のどこが一番成長したと思いますか。

浜田:それは本人のみぞ知るという部分でしょう。本人自身がメディアでも話している通りだと思います。自分を認めてもらおうというサッカーからチームありき、つまり監督ありきのサッカーに心を移すのは正直難しいと思うんですよね。それに気づけることもすごいし、実行できることも、やはり久保選手の能力の高さだと言えますよね。

<了>

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(撮影=Koichi KOBAYASHI)

PROFILE
浜田満(はまだ・みつる)

1975年奈良県生まれ。株式会社Amazing Sports Lab Japan代表取締役社長。関西外国語大学スペイン語学科卒業後、数回の転職を経て、欧州サッカークラブのマーチャンダイジングライセンスビジネスに携わる。04年6月、FCバルセロナソシオの日本公式代理店として独立。
欧州ビッグクラブのライセンスビジネスやマーケティングに携わる。現在は、FCバルセロナキャンプ、バルサアカデミー、国際大会のプロデュース、プロ選手や育成年代のトップ選手向けプレーコンサルティングを手掛けながら、日本社会の課題を解決すべく、スポーツを通じた地方創生をテーマにトップアスリート育成アカデミーを全国に作る活動をしている。
新著にお金も人脈もないゼロからスタートしたFCバルセロナとのビジネスを赤裸々につづった『ゼロに飛びこんでイチをつくる―― FCバルセロナとのビジネスから学んだ未来の開き方』がある。

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