涙で若手に伝えた「日本代表のプライド」。中国撃破の立役者・宮澤夕貴が語るアジアカップ準優勝と新体制の手応え
バスケットボール女子日本代表が準優勝で幕を閉じたFIBA女子アジアカップ2025。その攻守の中心でチームを牽引したのが宮澤夕貴だった。準決勝では優勝候補の中国を相手に226cmのチャン・ツーユウとのリバウンド争いに執念を燃やし、3ポイントを鮮やかに決めた。コーリー・ゲインズ新体制で新戦力が台頭する一方、守備の連携やターンオーバーの多さなど、課題も浮き彫りになった今大会。それでも、宮澤は「ポジションレス・バスケットボール」の可能性に確かな手応えを感じたという。試合後の選手ミーティングで語った「日本代表のプライド」という言葉に込めた思いや、ベテランとして大切にしている「伝え方」の工夫について語ってもらった。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、撮影=松岡健三郎)
中国戦で体現したリバウンドへの執念。準優勝の舞台裏
――改めて、準優勝で終わったアジアカップについて振り返ってください。宮澤選手にとって一番のハイライトはどの場面でしたか?
宮澤:個人的には、中国戦のチャン・ツーユウ選手とのリバウンド争いがベストシーンでした。もちろん3ポイントでも良い場面はありましたが、今大会で一番大切にしていたのがリバウンドやディフェンスです。その姿勢が形として表れたのがあの場面だったと思います。
――世界最長身の226cmの高さを誇るチャン・ツーユウ選手を擁する中国は、優勝候補の筆頭でした。特別な対策はしていたのですか?
宮澤:中国戦に向けて、特別な準備をしていたわけではありません。どの試合も、目の前の相手に勝つことを最優先に考えていて、中国戦当日に長身選手に対してどう守るかをミーティングで話した程度です。もちろんキープレーヤーだとは思っていましたが、特別に意識していたわけではなく、自分たちの良さを発揮できた結果だと思います。
――コーリー・ゲインズヘッドコーチの下で初選出の選手も多く、新戦力の台頭もありました。収穫はどのように感じていますか?
宮澤:大きな伸びしろを感じた大会でした。ディフェンスでもオフェンスでもうまくいかない時間帯の方が長く、ミスが起きたり、ディフェンスに穴ができた場面もありましたが、それでも全員が前を向いて頑張った結果、中国戦に勝ち、決勝のオーストラリア戦につながりました。ただ、その分ディフェンスの不十分さやターンオーバーの多さは課題として残りました。それは若さゆえの課題でもあるので、今後さらに成長していけると思いますし、そのポテンシャルを感じています。

コーリーHC体制で見えたポジションレスの可能性と国際大会の壁
――コーリー・ゲインズHC体制では「ポジションレス」がキーワードに挙がります。新体制のチームにどのような可能性を感じましたか?
宮澤:ポジションや役割に縛られず、誰が出ても強みを発揮できるところに可能性を感じます。組み合わせによってオフェンスのムーブが変わり、その都度、自分が生きる時もあれば他の選手が生きる時もある。そのバリエーションの多さに大きな伸びしろを感じました。
――組み合わせが変わった時など、柔軟性や対応力も求められると思いますが、やりがいもありますか?
宮澤:そうですね。私はパスをもらって生きるタイプなので、パスがこない時は正直きつかったです。町田瑠唯選手と普段、同じチームでプレーしているのもあって、比べるつもりはなくても、「ちょっとパスがこないな」と感じることがありました。ただ、パスがこなくても自分にできることを頑張ろうとは常に考えながらコートに立っていました。
――大会を通じて見えた課題は?
宮澤:ディープスリー(スリーポイントラインよりも遠い位置から放たれるシュート)が打てるようになればドライブもしやすくなるのですが、アジアカップは国内でプレーする時と違って体格差のある相手が多く、3ポイントを止められてドライブに切り替えた時にボールを失うことがありました。今後は3ポイントを止められた時のドライブやフィニッシュ、パスが課題です。
――宮澤選手は183cmの高さがあります。Wリーグでは体格が強みでも、海外では差を感じることが多いですか?
宮澤:はい。以前は3番ポジション(SF)だったんですけど、今のチームでは4番(PF)なので、パワーが求められます。国際大会では、体重を2キロぐらい増やして臨みますが、来年のワールドカップに向けてさらに増やして調整する必要があると感じています。

若手に語りかけた「日本代表のプライド」
――新体制では経験の浅い選手も多い中、リーダーシップを取る立場でどんな難しさや手応えがありましたか?
宮澤: 1、2戦目の試合内容が悪すぎたので、試合後に自分から話をしました。伝え方によって、若い選手たちの受け取り方も変わるので難しかったのですが……。
――どのようなタイミングで話をしたのですか?
宮澤:結果的には勝っていたのですが、どこかフワフワしたような雰囲気を感じていました。私が若い時の代表は、大会の初戦や2戦目でそんな雰囲気になることはなく、もっと全員が集中して、ワンプレーに対する思いの強さを感じたのですが、ルーズボールやディフェンスでも、執念や集中力が見えなかったんです。「どういう気持ちでやってるんだろう?」と感じて、2試合目が終わった時はさすがにイライラしてしまいましたが……それをぶつけるのは違うと思い、どう伝えればいいか考えながら話をした結果、泣きながら話していました(苦笑)。あの大会で唯一泣いてしまった場面です。

感情ではなく、言葉で伝える。リーダーとしての工夫
――2連勝中のチームに対して苦言を呈するというのもなかなか難しい判断だったのではないかと感じます。
宮澤:試合後、ミーティングが終わっても誰も何も言わなかったので、「このまま終わっていいのか」と思い、「みんな集まってほしい」と選手たちに伝えました。その上で、まず「日本代表のプライドを持ってコートに立っているのか」と問いかけました。この場所に立ちたくても立てなかった選手もいっぱいいるなかで、そういう選手のためにも頑張らなければいけない。自分たちだけのためにやっているのではなく、日本のために戦わなければいけないし、代表選手としての責任や自覚をもっと持って戦ってほしいと伝えました。
――初めて一緒に戦う選手もいるなかで、うまく言葉で伝えるのが難しいからこそ、葛藤もあったのではないですか?
宮澤:それはありました。自分の思いや怒りをぶつけるのではなく、きちんと伝わってほしくて、最初に「みんなに伝わるか分からないけど」と前置きしてから話をしました。気をつけているのは、感情的にならず、言葉で届けることです。もちろん、本音を言えば言いたくないですし、泣いている姿なんて若い子たちの前では正直恥ずかしくて、本当は見せたくなかったですけど(苦笑)。
――実際、その言葉は選手たちに届いたと感じますか?
宮澤:番組の特集で取り上げられているのを見た時に、若い選手たちが「そうやって言わせてしまって申し訳ない。頑張らなきゃいけないと思った」と話しているのを見て、伝わったんだと感じました。また、(馬瓜)ステファニーから、「アースさん(コートネーム)が言ってくれてよかった」と声をかけてもらったり、スタッフ陣からも「ありがとう」と言われたりもしました。そういう言葉を聞いて、しっかり届いていたのだと感じたし、同時に周りの選手たちに支えてもらったことの大きさも改めて感じました。
【連載中編】Wリーグ連覇達成した“勝ち癖”の正体とは? 富士通支える主将・宮澤夕貴のリーダー像
【連載後編】“伝える”から“引き出す”へ。女子バスケ界の牽引者・宮澤夕貴が実践する「コーチング型リーダーシップ」
<了>
「そっくり!」と話題になった2人が初対面。アカツキジャパン町田瑠唯と元なでしこジャパン岩渕真奈、納得の共通点とは?
“1万人動員”のB3クラブ、TUBCの挑戦。地域とつながる、新時代バスケ経営論
Bリーグは「育成組織」と「ドラフト」を両立できるのか? 年俸1800万の新人誕生。新制度の見通しと矛盾
試合終了後、メンバー全員と交わした抱擁。BTテーブスHCがレッドウェーブに植え付けたファミリーの愛情
Wリーグ決勝残り5分44秒、内尾聡菜が見せた優勝へのスティール。スタメン辞退の過去も町田瑠唯から「必要なんだよ」

[PROFILE]
宮澤夕貴(みやざわ・ゆき)
1993年6月2日生まれ、神奈川県出身。女子バスケットボール選手。富士通レッドウェーブ所属。ポジションはパワーフォワード。金沢総合高校では1年時から主力となり、3年時には主将としてインターハイ優勝に導く。2012年、JX-ENEOSサンフラワーズ(現ENEOS)に入団。在籍中、数々の全国タイトルやWリーグ優秀選手賞などを獲得し、11連覇にも貢献。2021年に富士通レッドウェーブへ移籍、主将を務め、中心選手としてチームを牽引。日本代表ではU-16・U-17代表を経て2013年に代表選出。リオ五輪(2016)ベスト8、東京五輪(2021)銀メダル、パリ五輪(2024)に2大会連続で出場。アジアカップでは4度の優勝を経験し、ワールドカップにも3大会出場。3Pシュートとリバウンドを武器とし、日本を代表するオールラウンダー。コートネームは「アース」。高校、クラブ、代表すべてで主力・主将を任され、プレーだけでなく精神面でも高く評価されている。
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
「小学生の全国大会が一つしかない」Fリーグ引退・森岡薫、GM転身で目指すフットサル界の改革
2026.10.22Career -
世界3位ドイツ戦で見えた、なでしこジャパンの変化。新体制で増えた選択肢と残された課題
2026.10.14Opinion -
世界1位・松島輝空も安全圏ではない。卓球で相次ぐ大番狂わせ、101位が中国女王を破った背景
2026.10.13Opinion -
「自信を失った経験がない」瀬古歩夢、4戦連続先発で示した成長。森保ジャパンで高まる存在感
2026.10.09Career -
五輪から外れた空手、世界1億人に広がる現在地。アジア大会金・尾野真歩が伝えたい「日本の形」
2026.10.09Career -
フットサルで磨いた判断は欧州サッカーでどう生きるのか。浅野蓮の可能性を広げた育成と「環境を選ぶ力」
2026.10.09Training -
「空手が楽しくない」からアジア大会金メダルへ。尾野真歩、4年間届かなかった日本代表と“自分の空手”
2026.10.09Career -
欧州に挑む16歳・浅野蓮の感性はいかに育ったのか。上田綺世も輩出したmalvaに学ぶ「正解」を教えない育成
2026.10.07Training -
「きれいごとを貫いて、利益にする」東京ドーム社長・斎藤裕が描く“4万坪の街”への夢
2026.10.06Business -
東京ドームはどう変わる? 4月就任の斎藤裕社長が語る「4万坪のエンタメの街」の新たな可能性
2026.10.06Business -
「国内組」からなでしこジャパンへ。アジア大会3連覇で見えた現在地と、W杯への生存競争
2026.10.05Opinion -
14歳でFリーグ最年少記録、英2部QPRのトライアルでも3得点。日大藤沢・浅野蓮が語る欧州での手応え
2026.10.05Career
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
「小学生の全国大会が一つしかない」Fリーグ引退・森岡薫、GM転身で目指すフットサル界の改革
2026.10.22Career -
「自信を失った経験がない」瀬古歩夢、4戦連続先発で示した成長。森保ジャパンで高まる存在感
2026.10.09Career -
五輪から外れた空手、世界1億人に広がる現在地。アジア大会金・尾野真歩が伝えたい「日本の形」
2026.10.09Career -
「空手が楽しくない」からアジア大会金メダルへ。尾野真歩、4年間届かなかった日本代表と“自分の空手”
2026.10.09Career -
14歳でFリーグ最年少記録、英2部QPRのトライアルでも3得点。日大藤沢・浅野蓮が語る欧州での手応え
2026.10.05Career -
「もしそれがW杯の試合だったら」鈴木唯人が語る“走り続ける”理由。開幕4試合4ゴールも最優先するものとは
2026.10.02Career -
「僕らだけで決断していいことじゃない」現役大学生で日本代表、伊藤龍之介が向き合う“二つのチーム”
2026.10.02Career -
W杯ブラジル戦で泣き崩れた田中碧…リーズ監督の「きつい冗談」と、先発を取り戻すまでの3カ月
2026.10.01Career -
「ベンチでOKではない。先発になるために」日本代表FW後藤啓介が語る、ブンデスで向き合う“自分との差”
2026.10.01Career -
「風を読んで、あのスペースに」鈴木彩艶が明かす配球術。英名物番組が驚異的と評するプレミアでの進化
2026.09.24Career -
40歳・長友佑都はなぜ現役を続けるのか。W杯後に一度は傾いた「引退」と「FC東京で優勝」の情熱
2026.09.18Career -
塩貝健人が語る「4年後に向けて」。W杯での課題をドイツ2部で磨き、再び迎えるブラジル戦
2026.09.11Career
