“最多J内定”昌平高校を支える下部組織の存在 Jクラブより魅力的な「与えすぎない」指導とは
4人のJリーグ内定者を擁する昌平高校は、12月31日に開幕する全国高校サッカー選手権大会で、注目校の一つに挙げられる存在だ。近年は中高一貫の指導体制を持つチームも増えているが、昌平の「下部組織」FC LAVIDAは今年、Jクラブを凌ぐ結果を残した。“チームとしての結果”と“個の輩出”の両立に成功している両チームに共通したコンセプトとは一体どのようなものか? Jクラブを蹴ってラヴィーダに入る選手も出始めているという、魅力と強さに迫る。
(文・本文写真=大島和人、トップ写真=Getty Images)
昌平のJ内定選手のうち2人はラヴィーダ出身
第99回全国高校サッカー選手権大会が、12月31日に開幕する。埼玉県代表の昌平は4人のJリーグ内定者を擁しており、これは出場校中で最多だ。昌平は6年前に初出場を飾った新興勢力だが、今回の4人を含めて既に10人のJリーガーを輩出している。昨年度の同大会ではベスト8入りも果たした。
昌平にはFC LAVIDA(以下ラヴィーダ)という中学生年代の「下部組織」がある。埼玉県の北東部・杉戸町の同じピッチで練習をするラヴィーダも、高校に負けない躍進を見せている。創設8年目の2019年には日本クラブユースサッカー選手権(U-15)大会の初出場を飾ってベスト8入り。2020年には関東ユースU-15サッカーリーグ1部を制した。
U-15年代の関東1部リーグは10チームで構成され、そのうち8チームがJクラブ。そんなカテゴリーを街クラブが制した成果は快挙といっていい。12月12日に開幕した全国大会(高円宮杯 JFA 第32回全日本U-15サッカー選手権大会)でも、ベスト8まで勝ち進んでいた。
昌平のJ内定4選手のうち小川優介と小見洋太はラヴィーダ出身で、中高一貫体制が高校にも好影響を与えている。
攻撃は「ドリブルとパスの中間みたいなイメージ」
昌平の藤島崇之監督とラヴィーダの村松明人監督は40歳で、習志野高サッカー部の同級生。当時の習志野は本田裕一郎監督(現国士舘高テクニカルアドバイザー)のもと、技巧的なスタイルを見せていた。
昌平とラヴィーダはコンセプト、攻守のスタイルを共有している。村松監督の言葉を借りれば攻撃は「ドリブルとパスの中間みたいなイメージ」で、味方と相手の状況を見ながら臨機応変にプレーを選択していくスタイルだ。
攻撃時は広さよりも「狭さ」を生かし、複数が近い距離感でボールに関わっていく。ボールを奪われたらすぐ切り替えて、高い位置から激しくプレスをかける。もちろん選手同士がただ近ければいいというわけではないが、一般的なチームに比べると明らかに近い。いわゆる「ポジショナルプレー」「5レーン」の戦術とは色合いが違う……。それが昌平とラヴィーダのサッカーだ。
ボールの近くに人をかけるから、守備の枚数がそろっていてもタイミングやスペースの「小さなズレ」を突ける。ファーストディフェンスが機能しやすくなり、高い位置で奪うからショートカウンターも効く。そのように攻守一体で、コンセプトが練られている。
鹿島アントラーズへの内定が決まっている小川優介は昌平、ラヴィーダのスタイルを象徴する人材かもしれない。166センチ・55キロの小兵だが切り替えが良く、狭いスペースでボールを受けて動かせて、バイタルエリアの崩しにも絡める。中央からスルスルと持ち上がっていく異能の持ち主だ。
ラヴィーダの村松監督はこう説明する。
「小見、小川は『ラヴィーダのサッカーをこうしていこう』と変えた代です。それまではいわゆるポゼッションぽい感じが強かった。ドリブルで差し込んでいく、ドリブルとパスの使い分けで点を取りにいく感じはなかった。(現高3世代は)ドリブルを仕掛けるのが得意な選手が多くて、それを加えていけば面白いのでは?と考えました」
そんなコンセプトに、高校から加わった須藤直輝(鹿島内定)のようなタレントもハマった。ラヴィーダの変化はボトムアップで昨年度、今年度の昌平に影響を与えている。小見、小川、須藤、柴圭汰(福島ユナイテッドFC内定)はいずれも160センチ台の小兵だが、昌平はそういう人材を鮮やかに生かしている。
ボールを持ったときに何でもできる持ち方
村松監督にスタイルの「肝」を尋ねると、こんな説明が返ってきた。
「『ボールを持ったときに何でもできる持ち方』をすることくらいしか、落とし込み的にはしていません。あとは本人がどれくらい力の抜けた状態でプレーできるか、自分の間(間合い)でサッカーがやれるか。その選手の力です」
アンドレス・イニエスタのプレーを観察していると、まるで「後出しジャンケン」に見えることがある。彼が守備側に仕掛けさせて、その逆を突くプレーを簡単に遂行しているからだ。守備が見るだけで何もしなければ、ボールを運ばれてしまう。相手が寄せたくても寄せられない、ジレンマに追い込まれた状態を生み出すものが“間”だ。もちろんチームの全員ではないが、昌平やラヴィーダにはそのような“間”をもった選手がいる。
身体に無駄な力が入っていると、次のプレーへの転換でロスが生まれる。しかし昌平、ラヴィーダの優等生は「何でもできる持ち方」ができている。だから勢いよく詰められたら逆を取る、複数で寄せられたら空いたスペースにパスを出すといった後出しのプレーが可能だ。
村松監督は続ける。
「言葉より、トレーニングでそういう状況を作り出します。スペース的にきつい状況を作り出して、その中でも“自分の間”でやれるかどうかを僕らは大事にしている。すり抜けるイメージで、何人かが絡んで突破するトレーニングをやります」
ただし形にはめる、決め事を植え付ける方向性ではない。昌平のサッカーは即興的な判断が重要になる。藤島監督も以前こう強調していた。
「システマティックにやるスタンスではありません。個と個が協調し合いながら、相手を見ての判断になります」
自分で試行錯誤してつかむ。「与えすぎない」指導
育成面でも計画性と柔軟性、組織と個の程よいバランスがある。中高の一貫体制でコンセプトを共有する彼らだが、育成年代は先々を決めつけすぎない姿勢も必要だ。どんなチームにも指導者の想定を大幅に上回る変化を示す選手はいて、アルビレックス新潟に内定した小見がその好例。中学時代に技巧派MFだった小見は、高校で裏取りに長けた逞しいストライカーに化けた。
村松監督は述べる。
「高校も同じ感じでやるにせよ、スタッフは若干違うわけです。そこでどう評価されて順応していくかという中で、新たな変化を見せる選手はたくさんいます。小見はサイドハーフかトップ下でしたが、高校に入ってFWで使っていたらああなった。そういう驚きも僕らにはあります」
スポーツに限ったことではないが、自分で試行錯誤してつかんだ感覚は与えられたものより強い。もちろんチームのコンセプト、環境は重要だが「与えすぎない」指導もラヴィーダの特徴だ。
ラヴィーダの指揮官は説く。
「『これをやれ』と選手がやらされるチームは多いじゃないですか。僕らはそれを一切持ちたくない。自分たちから何かを発信して何かを変えていく、自分たちで考えてプレーするのが基本にある。そこはすごく魅力的に伝わると思うんです」
今年度のラヴィーダは関東、全国で結果を残した。スカウトの努力もあり、小川や小見の世代に比べてタレントの質は上がっているという。体格やスピードに恵まれたU-15日本代表FW小田晄平のような、良い意味で「昌平的でない」才能もいる。
それでも現中3世代に「Jクラブを蹴ってラヴィーダに来た人材」はいない。しかし村松監督によると中1世代には2人、Jクラブからのオファーがあったにも関わらずラヴィーダ入りを選択した選手がいる。
もちろん施設や指導者の共有、飛び級といった一般的な一貫体制のメリットもある。だが両チームの躍進は指導者の力量、小川や小見たちの世代に端を発するコンセプトの威力が大きいようにも思える。
この冬の高校サッカー選手権で昌平がどんな戦いを見せるのか、それはもちろん楽しみだ。ただそれ以上に「これからどんな人材が出てくるのか」という、もっと次元の高い期待感が昌平とラヴィーダにはある。
<了>
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