「人間教育なくして成長はない」青森山田・黒田剛監督が語る“年間王者”急成長の理由

Education
2020.05.25

高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグが幕を開け、今年で10年目を迎える。日本サッカー界をより発展させる上で育成年代のさらなる充実は欠かせない。では、2種(高校生)年代最高峰の戦いの場であるプレミアリーグをいかにしてより良い環境にしていくべきなのか。日本代表の柴崎岳や室屋成らを育て、プレミアリーグでは高体連(全国高等学校体育連盟)最多となる2度の優勝を誇る青森山田高校の黒田剛監督に現状と未来について話を伺った。

(インタビュー・構成=松尾祐希、写真=Getty Images)

リーグ戦を順守していく世界基準

プレミアリーグ創設から大会に参加し、一度も降格を経験していない高体連(全国高等学校体育連盟)のチームは2つある。WESTの東福岡高校とEASTの青森山田高校だ。特に後者は直近5年で目覚ましい成績を残している。2016年と2019年に優勝し、いずれも東西の王者で競うファイナルを制覇。選手権(全国高校サッカー選手権大会)では2016年と2018年に日本一に輝いた。名実ともに“高体連の横綱”と呼ぶにふさわしい結果を収めている青森山田。

そのチームを率いるのが、黒田剛監督だ。育成年代屈指の名将は雪国のハンデをプラスに変え、ピッチ内外で選手たちと膝を突き合わせてきた。わずかな妥協も許さない――。子どもたちの人間性を重んじながら、勝負にこだわる姿勢を貫き、“青森の雄”を常勝軍団へと押し上げた。高校年代随一の指揮官は現在の育成年代をどのように見ているのか。そして、今後を発展するためにどうすべきなのか。キーワードは人間教育にあった。

――プレミアリーグ創設から今年で10年目を迎えます。ここまでの歩みはどのように見られていますか?

黒田:高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグの前身である全日本ユース(日本クラブユースサッカー選手権[U-18]大会)から10年前にリーグ戦形式に大会が発展し、より世界を意識して戦うようになりました。リーグ戦を順守していく世界基準に倣ってスタートした点は良かったですし、ホーム&アウェーでスキルアップ、レベルアップを図れるようになったのは大きな意味があります。日本全体で見れば、すごく今のシステムは発展性もあり、本当に良いシステムだといえるのではないでしょうか。

上位20チームの参加で創設から一度も各地域の(高円宮杯 JFA U-18サッカー)プリンスリーグに降格していないのは6チームしかなく、10年参加しているチームと5年しか参加していないチームだと、感じ方が違うので一概にはいえませんが、青森山田は今までJクラブの育成組織と戦う機会が全日本ユースぐらいしかありませんでした。相手を研究し、テクニカルなチームにどう対応していくのか。いまいち自分たちで戦い方を読み取れないままシーズンが進み、慣れてきた頃に1年が終わっていました。

しかし、プレミアリーグがスタートし、Jクラブのアカデミーや高体連の強豪チームなど、さまざまな特徴を持つチームと数多く戦えるようになり、自分たちのチーム体力、対応力、戦術のバリエーションが増えました。そうしたリーグ戦に加え、高体連のチームはインターハイ(全国高等学校総合体育大会)を戦い、最後に大きな舞台として選手権が待っています。高体連のわれわれにとっては、すごく有意義な1年で最後まで目標を持ち続けた上で冬の檜舞台を戦えます。日本サッカー協会を中心に、素晴らしい1年間の育成システムをつくっていただけたと感じています。

1年を通じてテーマを幅広く持って取り組むことの重要性

――プレミアリーグの創設は青森山田の成長にどのような影響を与えたのでしょうか。

黒田:プレミアリーグの最初の5年はJクラブに試合を支配され、ボールを持たれていたんです。なので、堅守速攻のスタイルに比重を置いて、そのクオリティやスピードを上げるために励んでいました。ただ、守備面、ショートカウンター、リスタート等を軸に取り組んでいたので、逆に選手権ではプレミアリーグで自分たちの思考するサッカーに苦しめられました。結局、ゴール前の局面で落とし込みが甘くなり、自分の中でいろんな葛藤がかなりあったのを覚えています。

でも、直近5年はプレミアリーグで最終節まで優勝争いに加わるなど、かなりチームの地力がついてきました。なぜかというと、自分たちの中で思考がすごく変わったからです。カウンター、リスタート、ポゼッション、フィジカル、メンタル。すべてにおいて高いレベルでできないとダメだと気づかされましたね。相手が雁字搦(がんじがら)めに守ってきたとしても、崩せないといけません。もしくは前からプレスを仕掛けられても回避できるクオリティ、ボールを動かす技術も重要で、確実に身につけてきました。その結果、1年を通じてテーマを幅広く持ってやれるようになり、選手たち一人ひとりのスキルが著しく上がってきたんです。だからこそ、青森山田は急成長できたと思っています。

――以前、ポゼッションスタイルをベースにやっている時期もありました。そういう意味ではプレミアリーグを戦ったからこそ、現在のスタイルに辿り着いたのでしょうか。

黒田:現在の考え方に行き着いたのは、プレミアリーグを戦った上での結論です。「うちはドリブル重視」「パス重視」というように、偏った選手の育成、指導をしていると、所属チームで通用しても代表などの選抜チーム、大学、プロで行き詰ってしまいます。1つのスキルや戦い方に特化すると、できないプレーを増やしてしまうことにもなるんです。フィジカルの強さを生かしたサッカーに取り組むにしても、体の強さがあった上でドリブルやパスもできたほうがいいですよね。試合で得点が奪えずに手を施せない時に、リスタートからゴールを取れるとすごく楽になりますよね。1つのスキルを重視するから他はしなくていいわけではないんです。1つのスタイルだけのチームが全国の常連としていつも勝ち続けているかというと、そうではないですよね。私たちは(2019年の)選手権の決勝で敗れましたが、1月の東北新人戦(東北高等学校新人サッカー選手権大会)はレギュラーを7人欠きながら優勝できました。なので、勝ち続けるためにはさまざまな武器を持つべきなんです。

Jリーグや日本代表でも、ありとあらゆるスキルアベレージを個人だけではなく、チーム全体を含めた上で高いレベルでの維持がチーム力向上の秘訣ではないでしょうか。青森山田はポゼッション重視の相手に対して、つながせないようにする術を持っています。その際に他に何ができるのか。有効な手はあるのか。世界を見ても、ブラジルがいくらつなぐのがうまいからといって、カウンターを仕掛けないわけではありません。

高速カウンターやリスタートのスキルを持っていて、どこからでも得点が取れる。そういうチームが強い。選手の感覚、思考。選手を育成して日本から世界を目指すとなった時、「チームとして、育成としてどうあるべきか」という点から逆算して今のスタイルに辿り着いたんですよね。

5つのチームが毎週のように同時に動く相乗効果

――最初の5年は試行錯誤しましたが、初めてプレミアリーグを制した2016年にきっかけや手応えを得たのでしょうか。

黒田:そうですね。初優勝を果たした年代の選手たちの主力は2年生からトップチームで試合に出ていたので、翌年に経験が反映されたところもあるかもしれません。個人としては、プレミアリーグと選手権で初めて優勝を達成した年でもありました。選手たちのコンディション管理からモチベーションまで気を使いながら、2つのタイトルを約1カ月で勝ち取れましたので、自分の中で成功例として明確に整理できた年だったと思います。2016年を基準として、ここ何年の結果がある。自分の中では本当に良い経験でしたね。

――成長をしていく中で、環境も重要です。特に青森山田はBチーム(青森山田高校2nd)がプリンスリーグに参加しているので、早い段階で高いレベルのサッカーに触れられます。育成のサイクルがうまくいっているのも大きいのでしょうか?

黒田:青森山田は、Aチームがプレミアリーグ、Bチームがプリンスリーグ東北、Cチーム(青森山田3rd)は青森県リーグ1部、Dチーム(青森山田4th)は青森県リーグ2部を戦っています。U-16の都道府県選抜で挑む国体(国民体育大会)の少年男子の部でも、青森山田の選手が多く参加して全国の舞台を経験しています。5つのカテゴリーが毎週のように同時に動く相乗効果がチームの強化につながっています。

また、サッカーは1日に2時間の練習に取り組んでも、残りの22時間をどう過ごすかで大きく変わる点も忘れてはいけません。サッカーで勝つために我慢や辛抱をしながら、どうリアルに取り組んでいくか。青森山田の選手にその考え方が日々の生活として染み込んでいるので、勝つための習慣づくりが浸透しています。これも勝ち続けている要因の一つではないでしょうか。

――勝つ集団にするために心掛けているアプローチは何でしょうか。

黒田:生活習慣をつくる上で大切なのは、どんな時でも勝つために思考し、行動することです。礼節やモラル、マナーにも気を配る。弱い気持ちや誘惑には負けない。食事(栄養面)にも気を遣う。勝つための行動はいくらでもあります。自由がいい加減になったり、履き違えないようにしないといけません。常にそこに気をつけて過ごさないといけない中で、子どもたちは先輩たちの教えを学びしっかりと受け継いでくれています。

宝の持ち腐れでもったいない部分がある

――プレミアリーグの競争を高めるためにすべき取り組みはなんでしょうか?

黒田:日本の2種(高校生)年代に高体連、Jクラブの育成組織、タウンクラブがある中で、いずれも学校教育の上で成り立っています。もちろん上のステージを目指している選手もいますが、全員がプロになるわけではありません。大学進学や一般就職を目指す子どもたちも存在しているので、プレミアリーグをアジアのトップリーグとして発展させていくのは、日程的にも経費的にも現状では難しいと考えています。

今、JリーグはU-21リーグをつくることを模索しています。となると、Jユースのトップ選手が上のカテゴリーでプレーする可能性が高くなり、プレミアリーグのレベルを下げても不思議ではないですよね。U-21リーグをつくったからといって良くなるとは限りません。J3に参加しているU-23チームの選手は貴重な経験を積んでいますが、すべてが底上げにつながっているとは言い難いんです。ある程度の年齢になると、J3に移籍する選手も多くいますし、J2を主戦場にする場合も少なくなく、正直トップレベルにまで駆け上がって大きな活躍をした選手はそんなにいないんですよね。しっかりと育成のメカニズムを理解しなければ、U-21リーグも上で試合に出られない選手にトレーニングマッチの場を与えているだけになるかもしれません。

リーグをつくるだけでは試合環境を与えているだけで、本当に良い競争が生まれていることにはなりません。プレミアリーグに関してはまだ高校生でいろんな意味で幼いですが、高体連とクラブチームの最高峰がファイナルの舞台にあって、そこに重きを置いて戦うので競い合えます。だから、大会のカテゴリーを増やしたり、レギュレーションを変更することではなく、育成の本質を熟知した上で、有効な強化策が図れなければさらなる発展は難しいのではないでしょうか。

今の組織図からすると、J ユースにトップトップの選手が集まって、2番手、3番手が高体連に流れる傾向は確かにあります。かといって、ユースのレギュラー11人以外にも優れている選手はたくさん在籍しています。こういう選手が高体連で鍛えられればもっと可能性は広がると思うのですが。日本は育成で成功している反面と宝の持ち腐れでもったいない部分があると認識しています。子どもたちがいろんなステージで必死に競争ができて、初めて育成の強化につながります。不運にも埋れている選手も、指導環境が合わず残念ながら潰れていく選手もたくさん見てきました。本当は育成年代の移籍制度を高体連も含め見直せるといいのかもしれません。ただ、クリアすべき問題も多くあるので、難しいのも事実だと思います。

――特に高体連のチームは普段の学校生活から選手と長時間接しているので、選手のさまざまな変化を感じ取れますよね。

黒田:高体連の指導者は普段から学校で担任をしたり、授業をしたり、生活指導をしたりとさまざまな場面であらゆるジャンルの生徒と触れています。授業を面白く工夫したり、ホームルームでいろんな話もするので有効なボキャブラリーもたくさん持っています。話を聞かせるスキルは日々磨かれていきます。高体連の先生方のスキルは、そこが大きな武器ですよね。選手を育てるためには、教育的な要素が特に大切だといえるかもしれません。

選手権はできると信じて取り組んでいる

――現在は新型コロナウイルスの影響でまともに練習ができていません。今までのように選手とピッチで深く関われないからこそ、子どもたちのメンタリティーや思考の重要性が大きく問われそうです。

黒田:寮生は感染防止に取り組んだ上で筋力トレーニングを行い、多少はグラウンドで自主トレーニングもできます。しかし、他チームの子どもたちの中にはグラウンドに入れない場合もありますし、関東だと自主練習をするスペースもなかなか確保できないと聞きます。個人でランニングをするにしても、駅とかの人混みの中を走るわけではないので大変ですよね。

そして、インターハイが中止となり、プレミアリーグも開幕が延期になっているのでモチベーションを維持するのは簡単ではありません。ただ、青森山田の選手は意外に現実を受け止めて冷静でいます。選手権はできると信じて、取り組んでいるからかもしれません。普段から選手に日々の生活面を言っていますし、何かあって一喜一憂するようなタイプの選手は自チームにいません。何が起こっても自分で気持ちの入れ替えをできるようにして、普段の生活習慣の中から学ぶ姿勢もあります。インターハイが中止になったのはショックで悲しいけど、うちはとにかく気持ちを切り替えている子が多い印象があります。

――以前、性格が「究極のスキル」とおっしゃっていました。プレミアリーグの骨格を変えるのではなく、選手個人の中身を育てることが重要なのでしょうか。

黒田:そこを重視しなくて成長はありません。サッカーだけを教えるのであれば、コマ数を受け持って、淡々と授業をやっているのと同じになってしまいます。ある程度うまい選手が揃っていれば、それなりに強いチームとして結果は出せるでしょう。そこに成長の落とし穴があることを認識しなければなりません。よって素晴らしいゲーム環境である「プレミアリーグ」に参加していることが選手を成長させるのではなく、そこに、いかに人間教育を重ね、落とし込み、適切に指導していくことが重要であることを忘れてはいけません。

<了>

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PROFILE
黒田剛(くろだ・ごう)
 1970年生まれ、北海道出身。登別大谷高校、大阪体育大学を経て、指導者の道へ。1994年から青森山田高校で指導を始め、翌年から指揮官に就任。2006年にはプロで監督を務められる公認S級コーチライセンスを取得し、日本代表の柴崎岳や室屋成らを育て上げた。2016年には高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグと冬の全国高校サッカー選手権大会を初制覇。2018年にも冬の檜舞台を制し、昨シーズンは2度目となるプレミアリーグ年間王者に輝いた。

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