「リアル・アオアシ」J下部発展の鍵とは? 森岡隆三が語る“Jユースvs高体連”の意義と課題

Opinion
2020.05.17

高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグが創設されて今年で10年目を迎える。東西に分かれて行う2種(高校生)年代最高峰のリーグ戦文化の成熟が、高校、Jリーグの育成組織、タウンクラブが切磋琢磨する環境を作り出したといえる。プレミアリーグはどのような歩みに進め、今後はどのように発展をしていくべきなのか。現場に立つ人たちはどう感じているのか。現在、清水エスパルスでアカデミー・ヘッドオブコーチングを務め、自身も京都サンガF.C.U-18の指揮官としてプレミアリーグを経験した元日本代表の森岡隆三に話を伺った。

(インタビュー・構成=松尾祐希、写真=Getty Images)

違った環境で育っている選手同士の真っ向勝負

今から29年前、神奈川県の桐蔭学園高校に入学し、高校サッカーを経験した森岡隆三。卒業後は鹿島アントラーズを経て、清水エスパルスで才能が花開き、2002年のFIFAワールドカップ・日韓大会にも出場。日本を代表する名DFは引退後に指導者となり、さまざまな場で経験を積んできた。2015年と2016年に京都サンガF.C.のU-18で監督を務め、翌年からはJ3・ガイナーレ鳥取を指揮。そして、2019年1月から古巣の清水でアカデミーヘッドオブコーチングとして、育成年代の強化に携わっている。現役時代の豊富な経験と、さまざまなカテゴリーで指揮を執った指導者としての視点。多くの観点を持つ森岡はどのような考えを持ち、高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグが進むべき道はどう思案しているのだろうか。

――プレミアリーグが創設されて10年が立ちます。育成年代の変化はどのように感じられていますか?

森岡:Jリーグの開幕当初、自分は桐蔭学園高校でプレーしていました。当時は当然のことながらJリーグのアカデミーが立ち上がったばかりの時代だったんです。しっかりとしたアカデミーはヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)と横浜マリノス(現・横浜F・マリノス)ぐらいしかなく、特にヴェルディは強かったのを覚えています。クラブの中で唯一といっていいぐらい高体連(全国高等学校体育連盟)の強豪チームと対抗できるチームでした。そういう時代からJリーグの発展とともにアカデミーも組織としてかなり成熟し、それに伴ってJ ユース出身の選手が日本代表や海外に行くケースが増えたと感じています。

ただ、プレミアリーグが発足してから数年は、プロになる選手がいても日本代表にJのアカデミーから入れない状況が続いていました。「ワールドカップのメンバーにJのアカデミー育ちが少ない」。そう言われていた時代がありました。ただ、ここ数大会で様相が変わってきました。各アカデミーが成熟し、ワールドカップのメンバーに入る選手が増えましたよね。その理由の一つに、プレミアリーグの発展が大きな要因にあると思います。

――プレミアリーグが創設され、最も変化した部分はどこでしょうか?

森岡:切磋琢磨する相手が増えた点です。JユースはJのアカデミー内で戦うだけではなく、高体連のチームとも戦う機会が増えました。特にJユースと高体連は組織として特徴が異なり、高校のチームはいわゆる大人数で(各地域内で)一強を誇っているところも少なくありません。青森山田高校や東福岡高校はまさにそうですよね。1学年100人前後が在籍する競争からどう出てくるか。少人数でやっているアカデミーとは違う環境ですよね。逆にアカデミーは少人数の中で競い合い、少人数ならではの厳しさもあります。違った環境で育っている選手同士が真っ向から戦えたのはよかったですし、お互いが真剣勝負を肌で感じ取れるのは大きな意味がありました。

高体連とJクラブユースそれぞれの武器と課題

――以前の2種(高校生)年代はどのような感じだったのでしょうか?

森岡:一昔前だと、高体連は夏のインターハイ(全国高等学校総合体育大会)と冬の選手権(全国高校サッカー選手権大会)が主な大会でした。特に選手権は冬の檜舞台で、勝つと注目される。選手権で優勝する価値と高校3年間で自分を成長させる価値、その2つが伴って比例していれば素晴らしいことなのですが、意外とそうじゃない場合もあります。悪い意味で勝利至上主義になってしまいがちです。僕は今までの高校サッカーにおいて、そのような傾向があると思っていました。そうすると、選手の判断を奪う指導につながってしまうんです。判断のないプレーをして勝ち進むけど、次のステージに行った時に通用しなくなってしまう。そういうマイナス面が一昔前は高校のチームで見られました。

アカデミーも素晴らしい環境が整っていますし、プロを経験したスタッフも多くいます。ただし、一歩間違えると、子どもたちに情報を与えすぎてしまう。至れり尽くせりの環境になりがちなんですよね。指導力もあって環境も整っている。故に自分で道を切り開くのではなく、用意され過ぎて過保護になって個々の判断力が奪われてしまう。一昔前はそういうケースが多くありました。

Jクラブのように手厚く指導するのもいいし、高体連のように勝負にこだわるスタイルもいい。ただ、どちらも行き過ぎると判断が奪われてしまう。そこが問題で、自分で考える子どもが少なくなっていました。そこがプレミアリーグの創設で変わったのではないでしょうか。

――具体的に京都の監督時代に感じた育成年代の変化はありますか?

森岡:自分は京都U-18監督時代に東福岡高校とのアウェーゲームに挑みました。Jリーグよりもはるかにアウェーの雰囲気があり、僕が監督をやっている時で部員は280人ぐらいでしたが、そのうち250人ぐらいがコーナーの角を陣取っているんですよ。選手たちは1〜2mしか離れていないところでコーナーキックを蹴らないといけません。あれはなかなか味わえないですし、選手にも「こんな雰囲気はめったにないぞ」と言いました。そうしたアウェーの空気から生まれる勝利への執着心は、プレミアリーグでしか経験できません。

また、Jクラブの下部組織と対戦すれば、相手は警戒して勝利のために策を練ってきます。そうした戦術面も含め、ユースのいいところも間違いなく高体連に浸透していきますよね。選手権の質も変わってきましたし、特に準決勝以上はハイレベルです。選手たちがサッカーを理解していますし、プラスアルファで個人のインパクトもあるので非常に見応えがあります。

逆にJのアカデミーが挑む日本クラブユースサッカー選手権は夏場に開催されるので疲弊はしますが、クオリティーの高いプレーも多いですし、球際の強さも出てきていますよね。それは選手だけではなく、指導者もプレミアリーグの緊張感を味わって変わってきたからではないでしょうか。年間を通じての昇降格も東西それぞれ10チームしかないのに、2チームも落ちるわけですよ。こんなにシビアなレギュレーションはなかなかありません。この方法がいいか悪いかは別にして、真剣勝負の場は育成年代に必要なものが詰まっています。トップにつながるのであれば、この環境はありがたいですよね。

FC東京U-18と対戦した時の衝撃

――クラブユースの戦いだけでは得られない経験ができますよね。

森岡:トップチームとすべて連動しているわけではないですが、アカデミーの色が出ています。ガンバ大阪や清水には、中盤でボールを動かすのがうまい選手が多くいます。サンフレッチェ広島は3−4−2−1を踏襲していますし、鹿島はスタイルを一部リニューアルしましたが、勝つために手堅く負けないサッカーを志向していますよね。逆に高体連はまた違い、僕のイメージですが、昔の清水商業高校(現・清水桜が丘高校)みたいに、うまさよりも勝負強さを前面に押し出してきます。技術もある中でサッカーの駆け引きが本当に巧み。勝負の綾を理解しているんですよね。まさに青森山田高校がそうで、学校の伝統ですよね。

――今、EASTとWESTで色が分かれています。前者は失点の少ないサッカー、後者は得点の奪い合い。地域の色はどのように見られていますか?

森岡:チームの色ではなく、土地の色だと感じています。昔にさかのぼると、ストライカーは関西方面から輩出されているイメージを持っています。僕が京都U-18の監督をやっている時、1年目は18試合で41得点・41失点で得失点差がプラスマイナス0。いつも2、3点は取って、同じ数だけ失点してしまうゲームがほとんどでした。個人的には前からいくサッカーを推奨していたのですが、なぜそのスタイルで挑んだかというと、自分たちのチームにアタッカー気質の選手が多かったからなんですよ。沼大希(現・VONDS市原)はまさにそうでしたね。

なので、FC東京U-18と練習試合をした時は驚きました。これだけ守備が固いのかと。相手に岡崎慎(現・清水エスパルス)もいたと思うのですが、チーム全体がクールで手堅いサッカーをしていたんです。一括りにはできないですけど、関西人特有のノリのよさはありますよね。なので、清水のアカデミーヘッドオブコーチングに就任した際、子どもたちがすごく静かだなと感じました。それはよくも悪くですが、自分から発信しない選手が多いのは清水の地域性で、知っている者同士で固まる傾向があるのかもしれません。

最大の課題はアカデミー独自でマネタイズ

――プレミアリーグの改革についてはどうお考えでしょうか?

森岡:プレミアリーグの改革云々よりも、最大の課題はアカデミー独自でマネタイズできているクラブが存在していない点です。やはり育成年代はコストのかかる部署なんです。海外とは異なり、選手の年俸から移籍の仕組みも違います。日本の新人選手は一律で年俸上限480万ですが、海外では17〜18歳でU-17、U-20のワールドカップで活躍すれば、市場価値がグンと上がります。日本はなかなか選手の価値が上がらないので、その構図をどうにかしないといけません。

アカデミーでいい選手を育てたのに、金銭的にプラスになったクラブがどれだけあるのか。プラスがなければ、企業はスポンサードしないですよね。アカデミーが地域の夢・希望になっているのは確かで地元の子どもたちがそこに憧れてくれるので、純粋に測れないパワーはあります。そういう視点も踏まえ、どういうふうにアカデミーを捉えていくのか。(アカデミーのマネタイズも含め)経営サイドの人間がジャッジする作業も大切だと思っています。

――改革よりも、フィソロフィーやクラブのスタンスを作るのが大事なのでしょうか?

森岡:そうですね。ただ、僕らがフィロソフィーを作っても、世界のサッカーは1カ月単位でどんどん進化しています。例えば、2カ月前にリモートワークやWeb会議をやっている企業はほとんどありませんでした。だけど、今では当たり前になり、自クラブでもWeb会議をやっています。今回、非常事態になって初めてこういう便利なテクノロジーが身近なものになりましたよね。オンラインで行う術がわかったので、サッカーも進化のスピードが早まるのではないでしょうか。

ということは、いろいろな規則とか定めたものの見直しが図られ、情報更新のスパンが短くなっていきます。なので、僕たちは常にアップデートをしないといけません。チーム内に技術委員会を作っているのですが、最初のたたき台としてフィロソフィーを作った上で、「いいんじゃない」というアイデアが出れば、どんどん意見を出し合ってアップデートするようにしています。100%完璧なものは一生でき上がらないので、いろいろと積み上げていく。プレミアリーグもそうあるべきですよね。

若い年代で公式戦を戦えることの意義

――プレミアリーグをアップデートする上で、森岡さんの私案を教えてください。

森岡:現実としてはお金の問題があるし、日本は学校とリンクしています。ヨーロッパの場合はクラブで学校などの教育面まで賄っています。日本ではそうはいかないので、親からしても「トップに上がってもらいたいけど、学校があるからどうしよう」となりますよね。若い選手はサッカー選手で食べていけない可能性もありますし、そこは日本の育成のマイナス面でもあります。トップに上がって10年プレーできる選手は一つまみなので、勉強面も一つのセットで考えられるのであれば、いい取り組みですよね。ただ、プレミアリーグの方式はもう少し手を入れてもいいかもしれません。EASTとWESTを一つにまとめるのも面白いと思います。

僕が京都U-18を率いた時に一番遠かったのは、熊本の大津高校でした。伊丹空港から熊本に向かいましたが、飛行機に乗れば大概の場所がすぐ着きますよね。コストの問題はありますが、東西で分けない方法も検討してもいいかもしれません。

また、今回のリモートワークでわかったように、世界との距離が縮まりました。行動範囲というか、思考の範囲がぐっと距離が広がったので、リーグを新しい価値観でアップデートするのも面白いですよね。高校の間に海外の文化に触れる機会はあまりありませんが、ほとんどのチームが年に1、2回は海外遠征をします。国内での飛行機移動はリーグの運営で補助してもらっていますが、(さらに予算の拡大ができれば)韓国と合同で新たな上位リーグを作るのも面白いかもしれません。

――ヨーロッパにはUEFAチャンピオンズリーグのユース版がありますよね。

森岡:そうなんですよ。ヨーロッパにはU-21のリーグもありますしね。それがあるのは大きいんです。日本の育成は大学もありますが、ほとんどが18歳で終わってしまいます。18歳、19歳でレギュラークラスではないと、ほとんどの場合はトップクラスに這い上がれません。最初の挫折を味わった時点でアウトなんです。そこから3年で成功体験を積ませるのは簡単ではありません。その経験を積ませるための成功体験がほしいんです。でも、そこに費やすお金がありません。ヴィッセル神戸でも100億ぐらいの売上高の規模で、(イングランド)プレミアリーグと比べると3分の1にも満たないですよね。ただ、ヨーロッパのやり方がすべてではないので、若手育成は工夫をしながらいかに融通を利かしてやっていくかが大事ではないでしょうか。

海外のU-21リーグではオーバーエイジも入れていますが、Jリーグの場合で現実味があるのは純粋にBチームを作ることかもしれません。プロ予備軍として、ユースの子たちも入れて合いの子のチームを作る。昔でいうと、サテライトリーグですよね。そうすると、必然的に7割以上が若手になります。プラスでケガ上がりの選手やベテラン。自然とそういうバランスになると思います。そうすると、トップの練習がGKを入れて24人ぐらいで行えて、Bチームも活動ができるので、いろんな意味でいいのかなと。

セレッソ大阪、G大阪、FC東京のU−23チームは本当に意義があったと思います。ちょっとでも相手をなめれば、やられてしまいますし、負けたら悔しい。鳥取の監督時代にJ3で対戦して、当初はモチベーションがバラバラだなと思って見ていましたが、1年後に再び対戦すると、すごくうまくなっていました。若い年代で公式戦をできるのは大きいですよね。なので、プレミアリーグで普通にやれていた選手を、もう1シーズン同じカテゴリーで戦わせても刺激がありません。もちろんカテゴリーを上げたら、状況に応じてチームを下げるようにし、それは選手に納得してもらった上で僕らが環境を設定してあげることは大切です。

<了>

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PROFILE
森岡隆三(もりおか・りゅうぞう)
1975年、神奈川県生まれ。桐蔭学園高卒業後の1994年に鹿島アントラーズに入団。1995年の途中に清水エスパルスに期限付き移籍し、頭角を現して完全移籍を果たした。Jリーグのベストイレブンに選出された1999年にフィリップ・トルシエ監督が率いるA代表で初キャップを刻み、2002年のFIFAワールドカップ・日韓大会にも出場。2007年に京都サンガF.C.に移籍し、キャプテンとしてJ1昇格に貢献。2008年に現役を退いた。引退後は指導者に転身。2009年から2013年まで京都でコーチを務め、2015年よりU-18の監督に就任。2017年から2年間はガイナーレ鳥取で監督として指揮を執り、2019年から清水のアカデミーヘッドオブコーチングに就任した。

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