高校サッカー選手権4強校に共通する“選手層”の背景。Jクラブ内定選手がベンチに控える理由
「誰を使っても戦える」――。10日に準決勝を控えた全国高校サッカー選手権の4強進出校を率いる指導者たちが、口を揃えてそう語るのには理由がある。実際、ベンチにはJクラブ内定選手や世代別代表経験者が名を連ね、決してピッチに立つ11人だけが優れているわけではない。4強校に共通するのは、誰が出場しても戦力が落ちない選手層と組織力だ。その分厚い総合力は、偶然ではなく、明確な育成設計の産物である。高校サッカーの最前線で起きている「勝つための育成構造」を、今大会4強校の実例から読み解く。
(文=松尾祐希、写真=アフロスポーツ)
4強校に共通する「誰が出ても戦える」選手層の正体
年末年始の風物詩、全国高校サッカー選手権。近年はJクラブの育成組織に有望株を獲得されるケースが多く、選手の獲得に苦しむ高体連のチームは少なくない。しかし、各チームは創意工夫を凝らし、一芸に秀でた選手や遅咲きの大器晩成タイプの発掘に力を入れながら、独自の路線で選手の育成を進めてきた。
今年度も個性豊かな選手たちが“最後の冬”に可能性を感じさせ、チームとしてもJユースに負けずとも劣らない魅力を示しているのは間違いない。
今大会を振り返ると、4強チームの共通点として挙げられるのが“選手層の厚さ”だろう。とりわけ、前回大会準優勝の流通経済大柏と夏のインターハイ王者・神村学園は20人近い選手がレギュラーと同等の力を持っている。
「誰を入れても今は17人、18人は遜色なくやれるので、その競争が熱くなっているので、われわれとしてはいろんな戦い方ができる」と神村学園・有村圭一郎監督が言えば、流経大柏を率いる榎本雅大監督も「ずっと競争を促してきた。誰か一人、こいつ頼みというようなサッカーはしたことがない。メンバー30人だけではなく、メンバーに入れなかった選手たちも含めてずっと競争をしてきているので、誰を起用しても大丈夫だと思っている」と選手層の厚さに絶対の自信を持つ。
では、なぜそれほどまでに分厚い戦力を有しているのだろうか。最大の理由は複数カテゴリーを有し、さらに高いレベルのリーグカテゴリーに身を置いているからに他ならない。
Jクラブ内定選手がベンチスタートになる選手層
流経大柏はAチームが高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグEAST、Bチームがプリンスリーグ関東2部(来季から1部昇格)、Cチームが県リーグ1部に在籍。常にチーム内で激しい競争があり、どの選手に聞いても「気が抜けない」とポジション争いの厳しさについて口にする。
昨季のキャプテンで前半戦をBチームで戦ってAチームでポジションをつかんだCB佐藤夢真(流通経済大学1年)はまさに下から這い上がってきた選手の代表格。今年もFWオゲデベ有規(3年)らがトップチームに帯同しながらセカンドチームで経験を積んで力をつけてきた。
また、下級生の頃にセカンドチームが籍を置くプリンスリーグ関東2部でプレーして可能性を広げた上で、最終学年に入ってから満を持してトップチームで活躍して評価を高めた選手もいる。その最たる例が、FW大藤颯太(3年)だろう。189センチのサイズを生かしたプレーでゴールを重ねたストライカーで、その活躍ぶりが評価されて東京ヴェルディ入団内定を勝ち取った。
今大会の準々決勝・大津戦で途中出場を果たした2年生FWの福田明史もセカンドチームを主戦場としており、来季を見据えた上でも今季は貴重な経験を積んでいるのは確かだ。
選手層の厚さは今大会随一。ジュビロ磐田入団内定の左SB増田大空(3年)と水戸ホーリーホック入団内定のMF島谷義進(3年)はダブルキャプテンとして主軸を務めているが、大藤や水戸入団内定のドリブラーで10番を背負うMF安藤晃希(3年)はベンチスタートも少なくない。彼らをサブに置けるのもさまざまなカテゴリーで鍛錬を積んで選手層を拡充してきた成果であり、大所帯のチームにありがちな、有望株が埋もれていくような事象を起こさないチームマネジメントが強さを支えている。
世代別代表選手がベンチに控える神村学園
神村学園はトップカテゴリーがプレミアリーグWEST、Bチームが県リーグ1部、Cチームが県リーグ2部に所属している。アビスパ福岡入団内定の技巧派MF福島和毅(3年)、いわきFC入団内定のCB中野陽斗(3年)、町田ゼルビア入団内定のチャンスメーカー・FW徳村楓太(3年)が軸で注目度も高いが、脇を固める人材にもことを欠かさない。
昨秋のFIFA U-17ワールドカップに出場した182センチの大型SB竹野楓太(2年)やU-15代表候補歴を持つ天才肌のMF佐々木悠太(3年)がベンチに控えるほど。FW花城瑛汰(2年)やFW小園晟之朗(1年)も世代別代表歴を持っており、誰がピッチに立っても遜色ない。県リーグ1部に所属するBチームや1年生チームで出場機会を得られることで選手の成長を加速させており、流経大柏同様に育成のサイクルがうまく回っていることを感じさせる。
同様のパターンで今大会4強の鹿島学園もトップチームがプリンスリーグ関東1部、セカンドチームが県リーグ1部で戦っており、同じくベスト4の尚志もトップチームがプリンスリーグ東北、セカンドチームが県リーグ1部、サードチームが県リーグ2部で研鑽を積んでいる。活躍すればトップチームに引き上げられる環境があるのは、選手のモチベーションを高める上でもプラスに働く。
強豪校に広がる「6カ年+複数チーム」の育成モデル
8強敗退組でも今季の大津がトップチームをプレミアリーグWESTに送り込み、セカンドチームがプリンスリーグ九州2部を戦った。さらに来季はセカンドチームが1部昇格を決めたことで、県リーグ1部を戦っていたサードチームがプリンスリーグ九州2部参入戦を制して昇格を決めている。トップからサードチームまでハイレベルな環境に身を置けるのは、選手にとってプラスの材料だろう。
帝京長岡も同様にトップチームがプレミアリーグWEST、セカンドチームがプリンスリーグ北信越1部、サードチームが同2部、フォースチームが県リーグ1部に身を置く。その他の高校でもセカンドチーム以下が上のステージを戦っているケースは珍しくなく、ハイレベルな環境下で出場機会の確保ができていることが継続して結果を残している要因だろう。
都道府県リーグによって1チームにおける最大参加チーム数が変動するものの、高体連の強豪校は複数カテゴリーを持っている強みを生かして強化を進めてきた。プラスアルファで1年生チームも活動しており、同時にいくつものカテゴリーがリーグ戦の中で力をつけ、選手の強化に成功している。JユースはBチームを持っているところもあるが、最小人数で活動するケースが多い。そうした意味では部員数を抱えられる高体連だからこそできる強化の方法でもある。各地域のプリンスリーグにセカンドチームが参加することで、他校のトップチームが煽りを受けるケースもあるが、ルールの範囲内で各チームは参戦させている以上は何も言うことはできない。
中学年代に創設した下部組織のクラブチームや附属の中学校の強化を進め、6カ年で選手の育成を図るトレンドが近年の流れだった。そこに加えて複数カテゴリーのチームを用いて選手の育成スピードを高めていく手法は、今後も続くことが予想される。そうした育成方針で選手を育んできた強豪校が勝ち残った今年の選手権。国立競技場で10日に行われる準決勝から目が離せない。
<了>
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