ユナイテッド、チェルシー、アーセナルを“刺した”一撃。林穂之香が宿す「劣勢で決め切る」メンタリティ
イングランド・女子スーパーリーグ(WSL)のエヴァートンで挑戦を続ける林穂之香は、今季、上位クラブ相手に印象的なゴールを重ねている。昨年10月12日のマンチェスター・ユナイテッド戦では、男子の新スタジアムであるヒル・ディッキンソンで、約1万8000人の観衆を前に女子チームとしての初ゴールを記録。12月7日のチェルシー戦では、籾木結花を起点としたカウンターから決勝点を挙げ、リーグ6連覇中の王者が持つ無敗記録を34で止めた。さらに翌週には、UEFA女子チャンピオンズリーグ王者のアーセナルに対してもミドルシュートでゴールを奪取。中盤での安定した配球や守備貢献に加え、限られたチャンスを逃さない勝負強さの原点とは? U-20女子ワールドカップ、女子ワールドカップ、そしてWSLと、大舞台で結果を残してきた背景にある思考とメンタリティに迫る。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=ロイター/アフロ)
苦しいチーム状況の中で示す個の安定感
――リーグは13試合を終えて10位。チームとしては苦しい状況が続いていますが、林選手自身はここまで3ゴールを挙げています。コンディションはいかがですか?
林:自分自身のパフォーマンスとしては、安定していいプレーが出せている感覚はあるので、悪くない状態だと思っています。あとは、それがチームの結果につながればいいんですが。
――今季は補強も含めて選手の入れ替わりが多く、主戦場のボランチやサイドなど、複数のポジションを担ってきました。変化の過渡期とも言えるなかで、チームにどんな可能性を感じていますか。
林:チェルシー戦(1-0)のように、トップクラスの相手でも、守備からカウンターで勝ち点を奪えるポテンシャルがあることは、結果として示せていると思うので、そこを確実に勝ち点として積み重ねていきたいです。ただ、順位が近い相手に対して取りこぼしてしまうところは、去年からの課題です。ボールをどう保持していくかという部分は、チームの中で少しずつ浸透してきていますが、まだ結果につながっていません。やり方を変えるべきなのか、このまま続けるのかを模索している段階です。結果が伴えば、もう少し自信を持って取り組めると思います。
――個人としては、少ないチャンスを生かすゴールが目立っています。手応えはいかがでしょうか。
林:これまで格上と対戦することが多いチームでプレーしてきた経験が長いので、守備から攻撃へのトランジションは体に染み付いていて、自然と切り替えられます。そのなかで、少ないチャンスを見極めて決め切る部分は自分の強みだと思ってきました。それをゴールという結果につなげられていることには手応えを感じています。
王者チェルシーの無敗記録を止めた一撃
――10月12日のマンチェスター・ユナイテッド戦(1-4)では、セットプレーのこぼれ球を詰めて先制ゴールを決めました。1万8000人の観客を集めた男子の新本拠地ヒル・ディッキンソンで、女子チームとしての初得点というメモリアルなゴールでもありました。
林:女子としての初ゴールだということは、後から聞いて知りました。一方的に攻められている展開のなかで得た数少ないチャンスでしたし、セットプレーではセカンドボールの位置に入ることが多いので、常にアラートにしてプレーしていました。いい反応で詰めることができたと思います。ゴールネットが揺れた瞬間は本当にうれしかったですし、流れを一気に引き寄せられる感覚もありました。結果的に負けてはしまいましたが、個人的にはすごく手応えのあるゴールでした。
――12月7日のチェルシー戦では、決勝点を挙げています。籾木結花選手を起点とした鋭いカウンターを完結させ、アウェーで相手の無敗記録を止めました。
林:自分のゴールが勝ち点3につながったという意味でも、一番うれしかったゴールです。ゴール前のスプリントは、取り組んできたことを試合で出せた部分でもありました。走るコースやポジション取りも含めて、いい形だったと思います。
――リーグ6連覇中のチェルシーに、585日ぶりの黒星をつけたという点で、日本でも話題になりました。大きな反響があったのではないですか?
林:そうですね。日本人4人(石川璃音、北川ひかる、籾木結花と林穂之香)でやっている「ジャパートン」のYouTubeのコメント欄や、インスタグラムのコメントなどでも反響があって、あらためて大きなゴールだったんだなと感じました。
――その翌週には、アーセナル戦(1-3)で狙いすましたミドルシュートを決め、連続ゴールを記録しました。上位相手に続けてゴールを決めたことで、メンタル面に変化はありましたか。
林:これまでチームでも代表でも、強い相手と試合をすることのほうが多かったので、守備の時間が長い中でどうプレーすればいいかという感覚は、もともと自分の中にあると思っています。上位チームとの対戦が続いたことで、そういう状況に自然と入りやすかった部分はあったと思います。
守備の時間をチャンスに変える思考と原点
――劣勢の中でも虎視眈々とチャンスをうかがって、ワンチャンスを仕留めているのですね。
林:はい。たとえば逆の立場になると、ボールを持って押し込んでいても、なかなか点を取れずにショートカウンターで失点してしまうことがあります。そのリスクマネジメントはすごく難しいです。だからこそ、「守備の時間が多い時こそ、相手の隙を突くチャンスがある」と常に思いながらプレーしていますし、それがうまく結果に結びついたのだと思います。
――切り替えの速さやボール奪取、ミドルシュートなど、オン・オフ両面で多彩な武器を持っていますが、最も自分らしさを感じるのはどんなプレーですか。
林:チェルシー戦の得点は、自分らしさが出たプレーでした。一つのチャンスを逃さず、相手が少し余裕を感じている時間帯に、その隙を突いて“ひと刺し”する。そういうプレーは好きです。ボールを保持しながら動かす部分もこれからもっと出していきたいですし、エヴァートンでは中央で攻撃に関わる楽しさも感じていますが、まだ成長していかなければいけない部分だと思っています。
――代表でも、2018年のU-20女子ワールドカップのアメリカ戦や、2023年の女子ワールドカップ準々決勝・スウェーデン戦など、大舞台で強豪相手にゴールを決めてきました。その勝負強さの原点はどこにあるのでしょうか。
林:セレッソ大阪堺レディース(現・セレッソ大阪ヤンマーレディース)にいた頃は、年齢的にも上でキャプテンを任され、中心選手としてプレーしていました。「自分が得点に結びつくプレーをしなければいけない」「プレーで引っ張っていきたい」という意識は、その時期に培われたと思います。U-20代表や、2023年のワールドカップでは、余計なことを考えずに試合に入り、安定したパフォーマンスを出せるフラットな状態を作れていたことが大きかったですね。
――大舞台を前に、メンタルをフラットな状態に持っていくために、意識していることはありますか。
林:10代や20代前半の頃は、緊張して思うようにプレーできず、試合後に後悔することもありました。でも、そのような経験を重ねて、緊張した時にどう対処するかを自分なりに整理できるようになったことが、今につながっているのかなと思います。
――緊張をほぐすルーティンがあるのですか?
林:決まった曲を聴くとか、必ず何かをするというルーティンはないんですが、試合前のアップや筋肉をほぐすためのストレッチなど、体を作る過程には自分なりのやり方があります。それは当たり前すぎて、ルーティンと言えるかは分からないですが、準備の流れはある程度決まっています。
【連載後編】女子サッカー日本人選手20人がプレーするWSL。林穂之香が語る進化と求められる役割
<了>
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[PROFILE]
林 穂之香(はやし・ほのか)
1998年5月19日生まれ、京都府出身。女子サッカーのイングランド1部・ウィメンズ・スーパーリーグ(WSL)でエヴァートンに所属するMF。中盤の底(ボランチ)を主戦場に、冷静な判断力と守備力、豊富な運動量を生かして攻守のバランスを整える。中学入学時にセレッソ大阪のアカデミーに入り、セレッソ大阪堺レディースで育成からトップまで一貫して経験。2017年に主将に就任し、クラブを牽引した。2021年にスウェーデン1部ダームアルスヴェンスカンのAIKへ移籍し海外挑戦をスタート。2022年からはウェストハムでWSLに参戦し、2024年にエヴァートンへ加入した。年代別代表では2018年のFIFA U-20女子ワールドカップで優勝を経験。なでしこジャパンには2019年に初招集され、2023年FIFA女子ワールドカップでは準々決勝スウェーデン戦で代表初ゴールを記録。2024年のパリ五輪にも出場し、国際舞台で存在感を示している。
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