NWSL最年少ハットトリックの裏側で芽生えた責任感。松窪真心が語る「勝たせる存在」への変化
アメリカ女子サッカーリーグ(NWSL)での3シーズンを通じて、松窪真心はノースカロライナ・カレッジの攻撃を担う存在へと成長した。2025年シーズンはリーグ戦11得点・4アシストを記録し、得点ランキング3位。21歳81日で達成したNWSL史上最年少ハットトリックは、現地でも高い評価を受け、年間ベストイレブンと年間最優秀ミッドフィルダーを受賞した。その飛躍を支えたのは、数字以上に内面の変化だった。監督交代や主力の流出など、チームが揺れる中で芽生えたのは「自分がこのチームを勝たせたい」という感情。周囲についていく立場から、勝敗を引き受ける存在へ。強度の高いリーグで磨かれた積極性と責任感は、松窪のプレーをどのように変えたのか。激動のシーズン直後のインタビューから、松窪の現在地と変化の輪郭をたどった。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=Imagn/ロイター/アフロ)
「チームを勝たせる」責任感。変化したチームへのアプローチ
――2025年シーズンは、開幕から攻撃の中心としてプレーし、リーグ戦で11得点・4アシスト。個人では年間ベストイレブンと年間最優秀MFも受賞しました。今季をどう振り返りますか?
松窪:自分でもびっくりしています。シーズン中に監督が交代したり、アメリカ代表のスター選手が抜けたりと、チーム内でいろいろな変化がありました。結果的には9位でプレーオフにも届かず、チームとしては難しいシーズンでした。ただ、今だから言えるのかもしれませんが、「自分がこのチームを勝たせたい」という気持ちは、去年や一昨年よりも確実に大きくなりました。それまでは周りの選手についていくだけという感覚が強かったのですが、今季はチームがなかなか勝てない中で、シンプルに「勝ちたい」という気持ちが強くなりました。その感情が、結果につながった部分もあったのかなと思います。
――個人の結果というより、チームを勝たせたいという責任感が大きくなったんですね。
松窪:そうですね。U-20代表でいろいろ経験した中で、2024年のワールドカップで最後に勝てなかった(準優勝)経験も、自分にとっては大きかったと思います。
――言葉の壁がある中で、チームを引っ張る難しさもあったと思います。
松窪:英語が得意なわけではありませんが、今年に入ってからは、ピッチ内外でいろいろな人と話すことを意識して過ごしてきました。1年半同じチームにいたのに、あまり話したことがない選手もいて(笑)、今年は、そういう意味でもコミュニケーションが取れたシーズンだったと思います。
――月間ベストイレブンや週間ベストイレブンも2回ずつ受賞し、ガーディアン誌が発表した「世界最高の女子選手ベスト100」でも56位に選出されました。個人としての評価についてはどう感じていますか?
松窪:うれしい気持ちはありますが、少しプレッシャーにも感じる部分もあります。フォワードはゴールの形がどうであれ、結果で評価されるポジションだなと改めて感じています。
最年少ハットトリックの舞台裏。進化した“ライン間”のプレー
――10月のベイFC戦では、NWSL(アメリカ女子サッカーリーグ)史上最年少ハットトリックを達成しました。どのような準備やメンタルが支えになったのですか?
松窪:ハットトリックはしましたが、3点のうち2点は、チームメートがシュートを打てる場面でパスを選んでくれて決まったゴールでした。去年、一昨年と比べて信頼してもらえているなと感じられた試合でした。ただ、自分がPKを外した後に流れが悪くなって、危ない時間帯もありました。チームメートがセーブや体を張った守備で持ちこたえてくれたからこそ勝てた試合で、チームメートに感謝しています。
――2-1でリードしていた中でPKを外した場面ですね。気持ちの切り替えはどうしていたのですか?
松窪:PKを外した後、プレーが途切れたタイミングで、チームメートと話をするために集まった時に「本当にごめん」と言ったら、「もう1点取ってくれればいいよ」と声をかけてくれて。自分の中で気持ちの整理がついていたわけではありませんが、3点目を決めることができて、周囲に支えられていることを実感しました。
――一瞬の背後への抜け出しや、相手のDFの死角に入るプレーなどはWEリーグでプレーしていた時から光っていましたが、この3シーズンで特に磨かれたと感じるプレーは?
松窪:日本にいた時は、背後に抜け出すプレーが多かったんですが、アメリカではスピードで勝てない場面もあるので、ライン間で足元で受けるタイミングや、相手の視野の外から入っていく動きは、成長できた部分だと思います。「倒れる回数が減った」と言われることも増えたので、対人の部分も強くなったのかなと感じています。
――ハイプレスの意識は変化しましたか?
松窪:守備は嫌いじゃないです。アメリカで体が大きい選手やスピードのある選手からボールを奪えた時は、素直に楽しいですね。
即座にフィットできた理由。NCカレッジという環境
――ボール保持とハイプレスを主体としたNCカレッジのチームスタイルにおいて、前線のライン間で大きな役割を果たしています。プレースタイルとの相性についてはどう感じますか?
松窪:すごくフィットしやすいチームだと感じていますし、自分の良さを最大限に生かしてくれる環境だと思います。
――18歳の若さで海外に出たメリットをどう感じていますか?
松窪:フィジカル面で早くフィットできたことです。最初は「無理かな」と思う場面も多かったんですが、自分でも予想より早く慣れることができたと思います。年齢がチームで下のほうなので、面倒を見てもらえますし、子ども扱いされることもよくあります(笑)。自分自身、物を忘れたりミスすることもありましたが、「しょうがないね」と。スタッフも含めて何でも聞ける環境でチャレンジできているのは、若いうちだからこそだと思います。
――「毎日全力を出し切れる環境」と話していましたが、どんな時にそう感じるのですか?
松窪:オフではみんな賑やかで楽しい雰囲気なのですが、「やるときはやる」というスイッチがあって、練習中でもゲームや勝負ごとになると、チーム内で罵り合ったり、煽り合ったりするんです(笑)。それによって本気度が増してぶつかり合うので、その熱は試合にも生きてるのかなと思います。
言葉と判断を支え合う存在。小山史乃観との関係性
――今季は、小山史乃観選手とのホットラインも目立ちました。同学年で年代別からともに戦ってきましたが、どのような存在ですか?
松窪:史乃観には本当に助けられています。オンでもオフでもよく一緒に行動しますが、2人でいることで、いろいろな人と積極的に関われるようになりました。お互いに英語もまだまだなので、「今の言葉はこうだったよね?」と確認し合うのですが、お互いの認識がまったく違っていたりとか(笑)。下手な英語でしゃべるのは恥ずかしいですが、私も史乃観も英語のレベルが同じぐらいなので、間違いを気にせず話せるのも大きいです。
――ピッチ内での関係性は?
松窪:史乃観はサッカーIQが高くて、戦術的なこともわかりやすく説明してくれます。ボールを持った時は一番に見てくれて、お互いに選択肢を増やすことができています。監督やコーチも、2人を一緒に使う良さを理解してくれていると感じています。練習では絶対一緒のチームにはならないんですけどね(笑)。
――NC・カレッジは今季は平均観客数が7684人とクラブ史上最多を記録しました。アメリカのスタジアムの雰囲気をどう感じていますか。また、NWSLでのマーケティングや環境について、印象に残った点はありますか?
松窪:観客が多いので、やっていて本当に楽しいです。いろんな人が見にきて、応援してくれているのを感じますし、女子サッカー選手としての価値をすごく実感できます。一人の女性アスリートの価値が高いという点は、正直うらやましいなと思います。動画などの見せ方やコンテンツの作り方もすごく上手で、そういう部分も含めて、環境が整っているリーグだと感じます。
<了>
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[PROFILE]
松窪真心(まつくぼ・まなか)
2004年7月28日生まれ、鹿児島県出身。女子サッカー選手。アメリカNWSLのノースカロライナ・カレッジ所属。ポジションはFW/MF。JFAアカデミー福島12期生。1.5列目でのゲームメイクや積極的な守備でチャンスを創出し、ゴール前では勝負強さを発揮するアタッカー。2020年チャレンジリーグ、21年なでしこリーグ2部で得点王とMVPを獲得し、最終年には主将も務めた。2022年にマイナビ仙台レディースへ加入し、WEリーグでも持ち味のスピードと積極的な守備で存在感を示す。2023年7月にアメリカへ渡り、ノースカロライナでは加入初年度からカップ戦優勝とMVPを獲得し、翌年、同チームに完全移籍。2025年シーズンは11ゴールで得点ランク3位に入り、NWSL史上最年少ハットトリックも達成。なでしこジャパンでは2025年のシービリーブスカップでA代表デビューを果たし、次世代ストライカーとして期待を集めている。
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