![](https://real-sports.jp/wp/wp-content/uploads/2023/08/464d1e503a8311ee8379a72314f3eb54.webp)
カーリング・藤澤五月の肉体美はどのように生まれたのか? 2カ月半の“変身”支えたトレーナーに聞くボディメイクの舞台裏
わずか2カ月半で、人の肉体はここまで変わるのか――。カーリング日本代表として平昌五輪で銅メダル、北京五輪で銀メダルを獲得した藤澤五月選手の鍛え抜かれた筋肉美が、日本に衝撃を与えた。今年7月、国内最大級のアマチュアフィットネス団体「Fitness World Japan」(FWJ)が主催するボディメイクコンテスト「MOLA CUP」に出場。ビキニクラスのノービスで3位、オープンで2位の好成績を残した。彼女のトレーナーとして食事やトレーニング指導にあたったマムシ〇口子(まむしまるくちこ)さんに、ボディメイクの魅力と、肉体改造の舞台裏を聞いた。
(インタビュー・構成=松原渓、写真提供=マムシ〇口子)
パッと見て「すごいな」と思ってもらえる
――マムシ〇さんがボディメイクを始めたきっかけは何だったんですか?
マムシ〇:もともと演劇をやっていたので、体づくりのために20歳前半ぐらいからランニングやジムワークをやっていたんですが、私自身、筋肉がつきやすかったり、ランニングもやればやるほど成果が出るのが楽しいと思っていました。ボディメイクを知ったのはインスタグラムです。いろいろなカテゴリーがありますし、パッと見て「すごいな」と思ってもらえるじゃないですか。私もそういう、すごいな!と思われる一流のことを身につけたいという思いがあって始めました。
それと、私はもともとあまり運動が得意ではなくて、怠けやすい性格だったので、それを正していくことも目的の一つでした。「精神的にも成長したい」という気持ちで始めましたね。
――仕事をしながら、空いている時間に体を鍛えて大会に出る感じだったんですか?
マムシ〇:そうです。エンターテインメント関係の業種で、絵本を作って読み聞かせの活動をしているんですが、新型コロナウイルスが流行る前は読み聞かせの路上パフォーマンスなどをしていたんです。ただ、徐々に外に出られない時期が続いたので、その時に鍛えたら、それが本業になっていきました。2020年からトレーニングを始めて、2021年に「サマースタイルアワード」という大会に出場したのが最初で、それ以降は「Fitness World Japan」(FWJ)が主催する大会に出ています。
――4年間で、こんなに体を自在に鍛えられるようになるんですね! ボディメイクの大会に出て、どんなことが変わりましたか?
マムシ〇:最初の頃の周囲の反応は、「また変なことやり始めたな」という感じでした(笑)。女の子はあまり鍛えても仕方ないよ、とか、鍛えて何になるの? という声も多かったです。ただ、私自身は続ける中で自信がついて、日々明るく人と接することができるようになりましたし、トレーニングをすることで精神的な健康も保てるようになりましたね。1人でも取り組めますし、トレーニングを通じていろんな人と関わる中で絆が深まったのも嬉しい変化でした。
きっかけはインスタのDMでもらったメッセージ
――藤澤五月選手が出場したのはFWJが主催する「mola cup」ビキニクラスでした。トレーナーとして指導に当たるようになったのはどのような経緯だったんでしょうか。
マムシ〇:インスタグラムでDMをいただいて、最初は本人だと思わなかったんです。ファンの方のアカウントだろうな、まさか本人じゃないよな、と思っていて(笑)。オンラインで最初のミーティングをした時に、本人だったので驚きましたね。
藤澤さんはビキニクラスに興味があったようですが、最初は「大会に出たい」というわけではなく、大会にも興味があるけれど、まずは「ウェイトコントロールとか減量をしたい」ということが目標で、やっていく中でいけそうだったら出ようかな、という感じで2月にご連絡をいただきました。本格的に体作りを始めたのは4月末からです。
――約2カ月半であそこまでの体を作り上げたということですよね。かなりハードなトレーニングを積んだのでしょうか?
マムシ〇:そうですね。彼女はもともとカーリングをやっているのでトレーニング歴が長くて、最初に会ったときは大会に出た時より10キロぐらい体重が重かったんです。ただ、体の中に筋肉があることはわかっていたので、絞っていく中でどれだけ筋肉が出てくるかな、という感じでした。だから、トレーニングは脂肪を落としていく作業がほとんどでしたね。もちろんビキニ用の肩の筋肉をつけるとか、つけたいところに筋肉をつけるトレーニングはまだ本格的にやってない部分があったので、そういった体作りをしました。
減量自体は私と出会って初めて取り組んだそうですが、彼女の場合はそれまでの幼少の頃からの長いトレーニング歴が下地としてあったからこそ、2カ月半という凝縮された期間であそこまでの体を作ることができました。
――トレーニング歴の有無も大きいのですね。大会に出る時は、体脂肪はどのぐらいまで絞ったんですか?
マムシ〇:もともと20パーセント台でしたが、10パーセント以下に落としました。私は大会に出る時は8パーセントくらいを目指しているのですが、藤澤選手もそれくらいまでは落としていましたね。
2カ月半の成果は向き合い方が「本物」だったから
――大会に出場するための食事管理はかなりハードなのでしょうか?
マムシ〇:そうですね。増量期=バルクアップ期と言われる時期は、トレーニングをしながら必要な食事量を決めて、体重を上げながら筋肉量を上げていくんですけど、食べすぎても脂肪ばかり増えるので、そこの塩梅が大事です。大会前の1カ月までは好きなものを食べたり、飲みに行ったりもしますが、1カ月前からは制限をかける必要があるので、苦しい部分もありますよ。
――そこを乗り越えてあれだけ絞ったんですね。藤澤選手が出場したFWJのビキニクラスは「女性らしい美しさを競う部門」で、水着とハイヒール着用で「髪型からメイクまでトータルの美を競う競技」とされていますが、トレーニングでは特にどんなことがポイントになるのでしょうか?
マムシ〇:ボディビルの他のカテゴリーだと、体幹部とか腹筋とか僧帽筋といわれる首の筋肉を太くガッツリ鍛えて全部大きくするんですけど、ビキニに関しては「ウエストがくびれていてお尻は大きい」というポイントがあって、「砂時計型」と言われる体型や筋肉を目指して作っていく感じです。
――コンテストでは規定のポージングがあって、その見せ方も重要になると思いますが、その点はどのように指導されたんですか?
マムシ〇:オンラインでも指導していたのですが、藤澤さんがお仕事で東京に来るタイミングが月に2回ほどあったので、その時に2日間目いっぱいトレーニングをして、ポージングやウォーキングの練習をして、個人のトレーニング計画を立てて……という感じで、月に2回は対面で集中的にトレーニングをしました。大会を一緒に見に行ったこともあります。
――藤澤さんのトレーニングを進めていく上で大変だったこととか、マムシ〇さん自身が驚いたことはありましたか?
マムシ〇:「勝ちたいんだったらこれやらないとダメだよね」ということに対して、「仕事もあるし」とか言い訳をつけてしまったり、取り組み方に甘さや迷いのある方もいるんですが、藤澤さんは、こちらが提案することに対して何でも積極的にチャレンジしてくれて、時間がかかることや、自分にとってつらいことに対しても何の迷いもなくストイックにこなしていました。短い時間で成果が出るのはある意味で必然だったと思います。そういう自分との向き合い方がやっぱり本物というか、カーリング競技を突き詰めたオリンピック選手の向き合い方なんだなと思いました。
優勝を目指した中でオープン部門で2位、ノービス部門で3位に
――藤澤さんはもともと色白な印象でしたが、大会の映像を見ると、肌が綺麗に日焼けしていました。筋肉を美しく見せるために焼いているんでしょうか?
マムシ〇:そうです。肌が白いと、ステージ上で照明が当たった時に筋肉のカットがぼやけて見えたり、膨張して太って見えたりしてしまうんです。それで、出場者は大会前に彫りを深く見せるようなメイクをしたり、体にスプレーを吹きかけてカラーリングをするのですが、ある程度下地を焼いておかないとうまくいかないことがあるので、日焼けサロンで焼くんです。ただ、藤澤さんは肌がちょっと弱くてあまり焼けない事情があったので、大会前にカラーリングを2回入れました。
――コンテストではオープン部門が2位、ノービス部門が3位という結果でした。これはトレーナーとしても嬉しかったんじゃないですか。
マムシ〇:そうですね。優勝を目指していたので私も悔しさは残りましたが、ベストは尽くせたと思います。オープンは最もハイレベルで、3位以内に入るのは難しいんです。タイトルを取れるか取れないかは組み合わせとか、いろいろな環境によっても変わるので、素晴らしい結果だったなと思いますね。
――初出場で2位はすごいことですね! オープン部門で1位との差を分けたのは何だったのでしょうか。
マムシ〇:一つは、ビキニの体って少し女性らしい部分を残すことが必要なので、藤澤さんの場合は少し絞りすぎたところがありました。ただ、筋量さえあればどんなに絞っていても「絞りすぎ」と言われないので、次はもっと筋量をつけて同じぐらい絞れば、理想的な筋肉量になると思います。
もう一つが、ビキニ競技に対するトレーニング歴や経験値です。筋肉の作り方や大きさが、年数かけていった人に対してはやっぱり少し及ばないところがありました。
――経験値も重要なんですね。今回、カーリングの藤澤選手の大変身で、ボディメイクに興味を持った人も多いと思います。マムシ〇さんは、これを機にボディメイクのどんな魅力を知ってもらいたいですか?
マムシ〇:運動、食事改善をすることで人生が明るくなったり、健康的に暮らせるようになることが一番の魅力だと思います。今回、藤澤さんの大会出場が大きなニュースになったことによって、ボディメイクに興味を持って「ジムに通い始めた」という人の声も多く聞きます。そういう健康意識がさらに高まっていけばいいなと思っているので、「私には無理だろうな」と思わずに興味を持って行動してもらえる方が増えたら嬉しいです。
【連載後編】藤澤五月のボディメイク支えたトレーナー・マムシ〇口子が明かすボディメイクの始め方「お尻と、デコルテラインを美しく」
<了>
カーリング旋風から4年、ロコ・ソラーレ世界一への真摯な歩み。苦難と逆境で手に入れた「武器」
「日本は本気で変わりたいのか?」 アイスホッケー界を背負い続けた37歳・福藤豊の悲痛な叫び
“120万人に1人の難病” スキージャンプ竹内択は、なぜリスク覚悟でプロ転向を決めたのか?
スポーツ複業時代、ツムラ社とアイスホッケー選手に見る「二足の草鞋」取り巻く関係者の本音
武井壮が語った、スポーツの未来 「全てのアスリートがプロになるべき時代」
[PROFILE]
マムシ〇口子(まむしまるくちこ)
1988年生まれ、東京都出身。絵本読み聞かせアーティストとして活動する傍ら、2020年にボディメイクを始め、現在は食事指導(オンライン)、ダイエットサポート、ビキニフィットネス、対面のパーソナルサポートなどを行う。今年4月にカーリング日本代表の藤澤五月さんから連絡を受け、減量とボディメイクをサポート。7月に国内最大級のアマチュアフィットネス団体「Fitness World Japan」(FWJ)が主催するボディメイクコンテスト「MOLA CUP」に出場し、ビキニクラスのノービスで3位、オープンで2位の好成績につなげた。
この記事をシェア
KEYWORD
#INTERVIEWRANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
指導者の言いなりサッカーに未来はあるのか?「ミスしたから交代」なんて言語道断。育成年代において重要な子供との向き合い方
2024.07.26Training -
松本光平が移籍先にソロモン諸島を選んだ理由「獲物は魚にタコ。野生の鶏とか豚を捕まえて食べていました」
2024.07.22Career -
サッカーを楽しむための公立中という選択肢。部活動はJ下部、街クラブに入れなかった子が行く場所なのか?
2024.07.16Education -
新関脇として大関昇進を目指す、大の里の素顔。初土俵から7場所「最速優勝」果たした愚直な青年の軌跡
2024.07.12Career -
リヴァプール元主将が語る30年ぶりのリーグ制覇。「僕がトロフィーを空高く掲げ、チームが勝利の雄叫びを上げた」
2024.07.12Career -
ドイツ国内における伊藤洋輝の評価とは? 盟主バイエルンでの活躍を疑問視する声が少ない理由
2024.07.11Career -
クロップ率いるリヴァプールがCL決勝で見せた輝き。ジョーダン・ヘンダーソンが語る「あと一歩の男」との訣別
2024.07.10Career -
なぜ森保ジャパンの「攻撃的3バック」は「モダン」なのか? W杯アジア最終予選で問われる6年目の進化と結果
2024.07.10Opinion -
「サッカー続けたいけどチーム選びで悩んでいる子はいませんか?」中体連に参加するクラブチーム・ソルシエロFCの価値ある挑戦
2024.07.09Opinion -
高校年代のラグビー競技人口が20年で半減。「主チーム」と「副チーム」で活動できる新たな制度は起爆剤となれるのか?
2024.07.08Opinion -
ジョーダン・ヘンダーソンが振り返る、リヴァプールがマドリードに敗れた経験の差。「勝つときも負けるときも全員一緒だ」
2024.07.08Opinion -
岩渕真奈と町田瑠唯。女子サッカーと女子バスケのメダリストが語る、競技発展とパリ五輪への思い
2024.07.05Opinion
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
松本光平が移籍先にソロモン諸島を選んだ理由「獲物は魚にタコ。野生の鶏とか豚を捕まえて食べていました」
2024.07.22Career -
新関脇として大関昇進を目指す、大の里の素顔。初土俵から7場所「最速優勝」果たした愚直な青年の軌跡
2024.07.12Career -
リヴァプール元主将が語る30年ぶりのリーグ制覇。「僕がトロフィーを空高く掲げ、チームが勝利の雄叫びを上げた」
2024.07.12Career -
ドイツ国内における伊藤洋輝の評価とは? 盟主バイエルンでの活躍を疑問視する声が少ない理由
2024.07.11Career -
クロップ率いるリヴァプールがCL決勝で見せた輝き。ジョーダン・ヘンダーソンが語る「あと一歩の男」との訣別
2024.07.10Career -
リヴァプール主将の腕章の重み。ジョーダン・ヘンダーソンの葛藤。これまで何度も「僕がいなくても」と考えてきた
2024.07.05Career -
バスケ×サッカー“93年組”女子代表2人が明かす五輪の舞台裏。「気持ち悪くなるほどのプレッシャーがあった」
2024.07.02Career -
バスケ実業団選手からラグビーに転向、3年で代表入り。村上愛梨が「好きだからでしかない」競技を続けられた原動力とは?
2024.07.02Career -
「そっくり!」と話題になった2人が初対面。アカツキジャパン町田瑠唯と元なでしこジャパン岩渕真奈、納得の共通点とは?
2024.06.28Career -
西村拓真が海外再挑戦で掴んだ経験。「もう少し賢く自分らしさを出せればよかった」
2024.06.24Career -
WEリーグ得点王・清家貴子が海外挑戦へ「成長して、また浦和に帰ってきたいです」
2024.06.19Career -
浦和の記録づくめのシーズンを牽引。WEリーグの“赤い稲妻”清家貴子の飛躍の源「スピードに技術を上乗せできた」
2024.06.17Career