「日本は本気で変わりたいのか?」 アイスホッケー界を背負い続けた37歳・福藤豊の悲痛な叫び

Opinion
2020.04.01

北京への道のりは、早くも閉ざされてしまった。2月にスロベニアで開催された2022年北京五輪の男子アイスホッケー3次予選で敗退し、日本代表24年ぶり出場の夢はかなわなかった。

日本のアイスホッケー界が、本気で変わろうとしているとは、正直思えない――。

日本人で初めてにして唯一、世界最高峰の舞台NHLでプレーした経歴を持つ男は、静かに、だが強く、自らの率直な想いを口にした。18歳で日本代表に初選出されてから約20年。日の丸の責任を背負い続けてきた37歳は、未来をも背負う覚悟がある。福藤豊の悲痛な叫びは、届いているか?

(インタビュー・構成=沢田聡子、撮影=高須力)

一度は勝ったことのある国に完敗。歯がゆく悔しい思い

――2022年北京五輪3次予選(※)で男子日本代表は残念ながら敗退、最終予選に進むことができませんでした。3次予選での日本は第2戦まではいい勝ち方をしてきたように思いますが(日本9-0クロアチア、日本4-0リトアニア)、最終戦で負けてしまいました(日本2―6スロベニア)。その原因はなんでしょうか?
(※2月6~9日にスロベニア・イェセニツェで開催。クロアチア<世界ランキング29位>、スロベニア<同18位>、リトアニア<同24位>、日本<同23位>が参加。総当たりで各国3試合を行い、1位だけが最終予選に進む)

福藤:最終戦で対戦したスロベニアは、同じグループの中では一番ランクの高い国だったので、一気にプレースピードも上がって、そこで差が出てしまったかな。でも、よく守ってスコアリングチャンスもあったので、振り返ってみると勝てるチャンスはあったと思う。ただ60分間スロベニアに圧倒されていて、厳しい戦いであったことは間違いないですね。日本代表が負けを真摯に受け止めて、勝つために何をするべきか考えなくてはいけないと思います。

――日本は2014年ソチ五輪予選では最終予選に出られず、2018年平昌五輪予選の時は最終予選で敗退。今回、北京五輪予選では再び最終予選に進出できなかったわけですが、その間ずっと代表の正GKを務めていた福藤さんから見て、日本代表の問題はどういうところにあると思いますか?

福藤:代表の問題というより、リーグ全体の問題でもあると思うんですよね。代表にあまり協力的ではない部分もあると思うし、“チームあっての代表”といった風潮があるのは否定できない。もう少し代表メインであってもいいのかな、とは正直思います。「代表組が抜けるのは困る」というのではなく、代表で戦う時間をもっと長くしていかなくてはいけない。現状では代表に行ったからといって、高いレベルの試合ができるというメリットしかない。チームやリーグ全体での代表強化への協力が、もう少し必要なのかなと思いますね。

やっぱり僕自身、韓国に勝っていた時期、追いつかれた時期、そして追い抜かれた時期を全部知っている。それは他の国でも同じで、スロベニアには一度韓国開催の世界選手権(2014年)で勝っている。そういう国に今回圧倒的な差を見せられたことに関しては、歯がゆいというか、すごく悔しいです。

――女子代表はソチ・平昌と続けて五輪に出場し、ジュニア世代もユース五輪で優勝しています。女子はクラブチームでプレーしているため強化しやすいのに対し、男子は学校や実業団でプレーしているので、代表練習の予定が組みにくいという問題がありますよね。

福藤:女子は、月1回ぐらい代表で練習をしているんですよね。男子代表はそこの問題をクリアできない限り、代表で練習できる時間も今まで通り限られてきてしまうので、もう少しルールがあってもいいのかなと思います。代表としての時間をより多く過ごすことで、チーム力は必ず上がると思うので。

――選手である福藤さんには言えることに限りがあるとは思いますが、どういったことが必要でしょうか?

福藤:ジュニア世代の強化はもちろん必要ですが、いい選手をもっと高いレベルでプレーさせる環境は絶対に必要だと思います。いい大学生や高校生がいたらアジアリーグに出場させる環境、“飛び級制度”というのも大事。あとは、指導者ですね。まずは、いい指導者がしっかりとした評価を得られる環境も必要です。

――ゴーリー(アイスホッケーでのGKの名称)は特殊なポジションですが、その強化については?

福藤:僕もたまにジュニアの小学生を教えに行くんですけど、まったくスケートを滑れない子がキーパーをやらされていたりもするので、ゴーリーコーチとして教えることができないんですよ。最初の2~3年はプレーをしっかりやらせて、スケートが滑れるようになってからキーパーをやらせるという当たり前のことも浸透していないし、すごく見ていて苦しいです。そういった細かいことに気づける指導者は、絶対に必要だと思います。

強豪国が強いのには、それだけの理由がある。日本はどうする?

――日本のアイスホッケーの現状は決していいとはいえないところがありますが、アイスホッケー界は本気で変化しようとしているように見えますか?

福藤:変わろうとしているとは、正直思えない。現状維持って、低迷と同じじゃないですか。昨シーズンのオフにアメリカのゴーリースクールに行く機会があって、そこにいろいろな国の指導者が来ていたんですけど、スウェーデンのゴーリー部門トップのコーチも来ていたんですね。その人と食事する機会があったのですが、強豪国でも何かしらの課題を抱えている。その人は自分の国のアイスホッケー界が進化していくために、アイスホッケー後進国の日本人である僕にも意見を聞くぐらいオープンなマインドでしっかりと向き合っていたんですね。それを見て、やっぱり舵を取る人がしっかりとしたビジョンを持って正しい方向に進めない限りは、良くなっていくことは絶対ないんだなと思いました。スウェーデンという強豪国がトップであり続けるためには何をしなくてはいけないのか、というのがすごく見えた気がしますね。日本ではやる気とエネルギーがある人がトップに入っていけない状況にある、ということはすごく感じます。

――福藤さんがそこに入っていきたい思いはありますか?

福藤:もちろん、そういう思いもありますね。そこを変えていかない限りは、多分まったく変わらないと思う。海外でプロになる選手がどんどん増えてくるとは思いますが、選手頼りでは長続きしない。国自体のホッケーのレベルを上げなくてはいけないし、指導者も育てなくてはいけない。

――福藤さんのNHLでの活躍は、当時日本のアイスホッケー界では唯一の明るい話題でした。これからも日本のホッケーを背負う存在となろうとしているわけですが、重荷に感じることはないですか?

福藤:でも、ここまで来ましたからね。やっぱり、それはもう責任なのかな。今この年齢で、代表の正ゴーリーとしてプレーしている責任もあるし、僕自身は本当に100%ホッケーに打ち込まないと若い選手に失礼なので。僕はいいポテンシャルを持った選手のポジションを奪いながらずっとここにいるので、「ここまで来たからには、そういったところまで踏み込んでいかなくてはいけないのかな」という責任感もある。でもそれは嫌々やるんじゃなくて、望んでいる部分でもあります。だからこそ、もう少し視野を広げたい。今回オフにアメリカに行った時にもいろいろな国の人の意見を聞けたので、そういった機会をもっと増やしていかなくてはいけないのかなと思う。日本には、国際舞台で連絡がとれる人の存在も必要なのかなと思います。

【後編はこちら⇒】

<了>

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PROFILE
福藤豊(ふくふじ・ゆたか)
1982年9月17日生まれ、北海道出身。H.C.栃木日光アイスバックス所属。ポジションはゴーリー。小学3年生でアイスホッケーを始め、東北高校に進学、3年時に高校生初の日本代表入りを果たす。2001年コクド(後にSEIBUプリンス ラビッツに移管)に加入。2004年6月にNHLのロサンゼルス・キングスから日本人史上2人目となるドラフト指名、2005年8月に2年契約を結び、日本人初のNHL契約選手となる。傘下のマンチェスター・モナークス、レディング・ロイヤルズでプレーを続け、2006年12月にNHL初昇格。2007年1月13日、セントルイス・ブルース戦の第3ピリオドから初出場を果たした。その後、ベーカーズフィールド・コンドルス、SEIBUプリンスラビッツ(後に廃部)、デスティル・トラッパーズ(オランダ)でプレーし、2010-11シーズンに日光アイスバックスに加入。2014-15シーズンはエスビャウ・エナジー(デンマーク)でプレーし、2015-16シーズンに再び日光アイスバックスに復帰した。37歳となった今も日本代表の正ゴーリーとして活躍する、日本アイスホッケー界の生けるレジェンド。

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