森保ジャパンが描くワールドカップ優勝への設計図。4×100mリレーと女子チームパシュートに重ねる組織の戦略
ワールドカップイヤーを迎えるなか、日本代表・森保一監督が思い描く北中米ワールドカップへの戦い方をたどると、意外な2競技に行き着く。指揮官がそのイメージとして例に挙げたのは、「陸上男子4×100mリレー」と「スピードスケート女子チームパシュート」。サッカーとは縁がないように見える2競技だが、そこには日本が世界と戦ううえでの本質的なヒントが詰まっているという。個の力では及ばなくとも、規律と連動、組織力を武器に世界の頂点へ挑んできた両競技。その姿は、カタールワールドカップを経て進化を遂げた森保ジャパンの現在地とも重なる。異競技の比喩を手がかりに、2度目のワールドカップで森保監督が描く優勝への戦略の一端をひも解く。
(文=藤江直人、写真=アフロ)
異競技に見た「優勝へのヒント」
陸上の男子4×100mリレー。そして、スピードスケートの女子チームパシュート。サッカーとはまったく関係ない他競技のメダル有望種目に、日本代表の森保一監督が熱い視線を注いでいる。
現時点で唯一無二のターゲットにすえているのは、開幕が6月に迫る次回のFIFAワールドカップ北中米大会。目標に掲げる「優勝」を目指す戦い方と両種目のイメージが指揮官のなかで重なっている。
サッカーとの接点はいったいどこにあるのか。2008年の北京、2016年のリオデジャネイロ両五輪で銀メダルを獲得している陸上の男子4×100mリレーに、森保監督は次のように言及する。
「たとえば個人種目の100mでは、世界選手権も含めて現状ではメダルを獲得できていない。これがリレーになるとメダルを取れるようになる。そこがすごくヒントになると思っている」
世界選手権を振り返っても、2017年ロンドン、2019年ドーハ両大会で男子4×100mリレーは銅メダルを獲得している。個人では2017年9月に9秒98をマークし、日本人選手で初めて10秒の壁を破った桐生祥秀に続いて、いまでは総勢4人の選手が9秒台へと足を踏み入れている。
現時点の日本記録は山縣亮太の9秒95。世界の歴代トップ10に名を連ねるレジェンドたちには及ばないものの、9秒台が夢と言われた時代と比べれば、この10年で大きく変わっている。
陸上界が迎えてきた状況は、日本からサッカーの本場ヨーロッパへ活躍の場を求めた日本人選手が数多く活躍しているサッカー界に通じるものがあると、森保監督はとらえてきた。
「サッカーにおいても、日本人選手たちの世界的な水準は上がってきている。もちろんトップクラスのモンスターたちが大勢いるし、個々ではそこまで到達していないかもしれないけど、それでも高い水準のなかでプレーしている。そこで規律や連携、あるいは連動を前面に押し出しながらチームとして戦っていけば、すでに彼らを超えていける領域にまで来ているのかな、と」
カタール大会の成功体験が変えた「基準」
選手個々のレベルが格段に上がっている状況で、男子4×100mリレーが武器としてきたアンダーハンドパスに代表されるチーム戦術が融合されれば世界と伍して戦える。そして、同じ考え方がスピードスケートの女子チームパシュートにも当てはまると森保監督は考えている。
個人でもメダルを狙える絶対的エース、高木美帆を中心に日本は2018年の平昌冬季五輪で金メダルを獲得。2022年の北京冬季五輪でも銀メダルを獲得し、まもなく開幕するミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪でも有望種目となっていて、森保監督もオリンピック本番を楽しみにしている。
「日本のスピードスケートの女子選手は、個人種目でもメダル獲得が期待できる。これがチームパシュートになれば、よほどのアクシデントがない限りは自然とメダルに近づきますよね」
あくまでもチームスポーツの観点で陸上とスピードスケートをとらえ、日本代表の戦い方に重ね合わせていく。この考え方が深まったのは、前回カタール大会以降だと指揮官は笑う。
ワールドカップで優勝経験のあるドイツ、スペイン両代表と対峙したグループステージ。ともに前半に先制されながら後半の逆転劇で強豪国から勝利を奪い、そのたびに世界を驚かせた戦いを、森保監督は「成功体験というのは、やはりすごく大きいと思っています」とこう続ける。
「カタール大会では、それこそ10回戦って一度勝てるかどうかの試合をしようと思っていました。たとえばボール保持率で言えば2対8くらいだったなかで、それでも両国に勝てた。じゃあカタール後の4年間でボール保持率を含めて、強豪国と呼ばれる国に対してすべてを逆転できたかと言われればそれは不可能です。五分五分と言いたいところですけど、正直に言えば、まだそこまでも行っていない。それでも実際に戦って、勝つか負けるかがわからない、という勝負にはもっていける、というところまでは来ているかなと思います。勝負強いチームになってきたかな、と」
確信へと変わったブラジル戦
深まりつつあった手応えが確信に変わったのが、サッカー王国ブラジル代表から14回目の対戦で歴史的な初勝利をあげた昨年10月の国際親善試合だった。前半に2点のビハインドを背負った日本は、後半に南野拓実、中村敬斗、そして上田綺世の3連続ゴールで怒涛の逆転勝ちをもぎ取った。
「まさにブラジル戦は0-2とされた時点で気持ちが切れて、さらに失点を重ねて大敗してもおかしくなかったかもしれない。そこで『サッカーは悪い時間帯があるから』という感じで耐えながら、ちょっとずつ改善していこう、といったメンタリティーでチャンスを手繰り寄せてくれた」
劣勢でも動じないメンタリティーこそがカタール大会で得た成功体験となる。指揮官が続ける。
「その意味で、カタール大会後は絶対にチーム力が上がっていくと確信していました。いまのチームは『厳しいけどチャンスはある』と思いながら、戦ってくれる選手が多くなった。圧倒して勝て、と言われればおそらく無理だと思う。そうじゃなくて勇気とアグレッシブさ、そして我慢強さのすべてを融合させながら戦い抜いてくれるので、そこに勝つチャンスが生まれてくると思っています」
来たる北中米大会ではグループFで、FIFAランキング7位のオランダ、アフリカ予選を無敗・無失点で突破したチュニジア、そしてウクライナやポーランド、スウェーデンと難敵が集うヨーロッパプレーオフBの勝者と対戦する。特に初戦で当たるオランダは過去1分け2敗と未勝利の強敵だ。
グループFの上位2位以内に入ってノックアウトラウンドへ進出すれば、ベスト32でグループCの上位2位とたすき掛けで対戦する。グループCからはブラジルとカタール大会ベスト4のモロッコの勝ち抜けが有力視されるなかで、どちらにしても難敵との激突は避けられない。
「史上最強」の捉え方
対する日本は「史上最強の――」といった枕詞をつけられるようになって久しい。ただ、ベスト16で敗退したカタール大会後に、鎌田大地は「ビッグクラブでプレーするような選手が数人は必要だと思う」と課題をあげた。しかし、現時点までに目標が達成されたかと言えば答えはノーとなる。
4年の間にビッグクラブへ移籍した選手はキャプテンの遠藤航(リバプール)だけだが、現状は定位置を失った上に出場時間も激減している。鎌田が移籍したクリスタル・パレスもビッグクラブではないし、三笘薫も久保建英もカタール大会時から所属クラブは変わっていない。
それでも森保監督は、多用される枕詞に「それは当たり前なのかなと」と自信を寄せる。
「全員がチャンピオンズリーグで優勝を狙えるようなビッグクラブに所属していなくても、チームのコンセプト、その国が持っているメンタリティーや身体的な特徴を生かして、チームとして戦えば勝てる。いまは個の力で局面を打破できる日本人選手が増えてきたし、かつ組織としても連携、連動して戦える。過去の歴史を生かしながら、ポジティブ変換していけるところは日本人のよさですし、それがサッカー界にはより強く反映されている。そこへ世界で評価される日本人選手がこれだけ多くなったなかで、史上最強というのはこれからも続くと思っています」
日本代表チームの過去・現在・未来を熱く語る森保監督の思考回路は、そのまま陸上の男子4×100mリレーとスピードスケートの女子チームパシュートが描いてきた軌跡とリンクしている。
両種目が世界大会で獲得してきたメダルだけではない。ライバル国が日本の組織力を研究し、わずかなミスも許されないギリギリの戦いが演じられている現状も踏まえながら指揮官はこう続ける。
「これまでの日本の戦いは、おそらくすべて分析されて対応される。さらに上を行くための戦術的な次の手はもっておかなければいけないし、チームとして戦える、という日本の絶対的な武器があるなかで、あとは選手たちが各所属クラブで個の力をどれだけ上げていけるか。私が思っているよりはるかに高みを目指している選手たちなので、言わなくても大丈夫だと思っていますけど」
今後は3月下旬にともに敵地で行われるスコットランド、イングランド両代表との国際親善試合を終えれば、5月下旬に予定されているワールドカップ代表メンバー発表まで代表活動はない。限られた時間のなかで、チーム、選手個々の双方で最大限の準備が進められていく。
<了>
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