「W杯のことは考えていない」欧州で戦う日本代表選手が語る“本音”が示す成熟
リバプールの遠藤航、レアル・ソシエダの久保建英、フランクフルトの堂安律、ブレーメンの菅原由勢……。昨年11月のキリンチャレンジカップに招集された日本代表の26人の選手のうち、23人が欧州クラブでプレーする選手たちだった。今年6月にはFIFAワールドカップ本大会を控え、ここからさらに熾烈なメンバー争いが繰り広げられることになる。それでも彼らは「ワールドカップのことよりも、クラブでの日常が重要」だと語る。欧州の最前線で戦う日本人選手たちの“本音”を追った。
(文=中野吉之伴、写真=アフロ)
「聞きたくなるのは当然だけど…」菅原由勢が語った真実
今年はワールドカップイヤーだ。
すでに出場を決めている国では、誰を中心にチーム作りが進むのか、当落線上にいるのはどの選手なのかといった話題が、日に日に熱を帯びていく。
「所属クラブでの出場機会が減ること=代表選考で不利になる」。現実はシンプルだ。最後のチャンスにかけて移籍を決断するケースもある。メディアもまた、選手の口から「代表」「ワールドカップ」という言葉を引き出そうと、さまざまな質問を投げかける。
ワールドカップ開催を控えたシーズンは残すところあと4カ月余り。「もう4カ月しかない」と捉えるのか、それとも「まだ4カ月もある」と考えるのか。ここからどんなパフォーマンスを見せ、結果を残すのかによって、驚きの選出があっても不思議ではない。ファンはさまざまな予想を巡らせながら、その行方を楽しんでいる。
では欧州の舞台でプレーする日本人選手たちは「代表」や「ワールドカップ」について、どう捉えているのだろう?
先日、取材で訪れたブレーメンで、菅原由勢が印象深い言葉を残している。「ワールドカップについて聞きたくなるのは当然だと思いますけど……」と前置きをしたうえで、こう続けたのだ。
「たぶん誰一人『ワールドカップ、ワールドカップ』ってなっている選手はいないと思います」
この言葉が意味するところを理解すると、日本代表が置かれている立ち位置が、少し前とは様変わりしていることに気づかされる。
欧州組が証明する、かつてないほど厳しい代表選考
菅原がさらに言葉をつないだ。
「各々がチームでの結果、現在の立ち位置とパフォーマンスをシビアに見ていかないと、ワールドカップには行けない。ワールドカップというのは、その時のベストの選手、確かな結果を残している選手が立てる舞台です。だから、代表がどうこうということを考えるのではなく、まずは自分のチームでのパフォーマンスを見つめている選手しかいないと思います。選手それぞれ短期と長期のその両方のプロセスを持ちながら、今やるべきことに目を向けています」
現在、ドイツのブンデスリーガでプレーする日本人選手だけで15人を数える。イングランドのプレミアリーグ、スペインのラ・リーガ、イタリアのセリエA、フランスのリーグ・アンといった欧州5大リーグでも、日本人選手が主力としてプレーする姿は珍しくなくなった。UEFAチャンピオンズリーグ・UEFAヨーロッパリーグの舞台で戦うことももはや日常だ。その分、代表選考を巡る競争は、極めて激しさを増している。
だからこそ、アピールを意識するあまり、自身のやるべきこと以上を求めたり、数字やデータにとらわれすぎたりすると、本質がぼやけてしまう。
オフェンスの選手であれば、ゴールやアシストを積み重ねれば、注目度は高まる。期待値も上がる。ただ、その数字を追い求めるあまり、ゴール前でのプレーに意識が傾きすぎれば、チームへの貢献度が下がり、結果的に出場機会を失うことにもなりかねない。
代表で求められるプレーから逆算して、クラブでのプレーを変えるのもまた違う。そもそも代表とクラブは別のチームだ。それぞれにおいて基準となるものも、求められる役割も異なる。
「ワールドカップはそんなに甘くない」岡崎慎司が語る過去
選手として成長するためには、所属クラブでの出場機会が必要不可欠だ。そして出場機会をつかむためには、クラブにとって必要な存在になるしかない。そのためには、チームタスクへの理解が欠かせないし、ハードワークや守備への貢献は、どんなクラブでもベースとなる要素だ。
自身が思う長所と、クラブが評価している強みが一致しないことだってある。場合によっては、得意だと思っているポジションやタスクとは違う役割を任されることもある。しかしそのことが、選手としての幅を広げ、奥行きをもたらす大事な経験になる。
チームタスクを当たり前に実践したうえで、自身のプレークオリティを高める。試合状況に応じた経験を積み重ね、ハイインテンシティ、ハイプレッシャーの試合でも、変化をつけられる存在になる。その積み重ねこそが、ビッグトーナメントで上のステージへ挑む力になる。
元日本代表FW岡崎慎司がかつてこんな指摘をしていたことがある。
2014年のワールドカップ・ブラジル大会。香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)、本田圭佑(ACミラン)、長友佑都(インテル)、内田篤人(シャルケ)などなど欧州1部リーグのビッグクラブで主力を張る選手がそろい、世間からの注目と期待はとても高かった。だが、結果はグループリーグ敗退に終わった。その大会を振り返っての言葉だ。
「ワールドカップでは自分たちの基準となる戦い方があった上で、プランB、プランC、プランDくらいまで、それぞれの状況や戦い方に応じて準備されていないと、いざというときに対応できない。だからワールドカップという大会は日本にとって、『自分たちがどうしたいか』よりも、『勝つためにどうするか』を突き詰める大会だなって思いました。そんなに甘くない」
2018年のロシア大会、2022年のカタール大会では、そうした積み重ねが随所に感じられた。
堂安律の2ゴールを生んだ「いつも通りの生活」
クラブレベルで日々どれだけ自分に矢印を向け、貪欲に成長と向き合えるか。カタール大会前に堂安律がこんな言葉を残している。
「今まで積み重ねた努力が、この舞台で結果として出ると思ってます。だからあせることはない。いつも通りの生活を送っていれば、いい結果、特別なものが、自分に訪れるんじゃないかなと信じてやりたい」
その結果と成果は、誰もが知っている。ドイツとスペイン相手に決めたあのゴール。センセーショナルな結果で、世界を驚かせた。だが、それでも、ベスト16が最終地点だった。
日常的に切磋琢磨するフィールドのレベルが上がれば上がるほど、そこで戦う日本人選手が増えれば増えるほど、日本代表のベースは確実に高まっていく。近道はない。
鈴木唯人の静かな闘志「やるべきことは…」
ブンデスリーガのフライブルクで奮闘している鈴木唯人も、同じような思いを明かしている。
「やるべきことをここでずっとやってます。それが向こう(代表)の舞台につながるのは間違いない。特別ワールドカップイヤーだから、何かを変えるとかは考えてないんです。やるべきことは“積み重ねる”こと。やるべきことを見失わずに毎日頑張っていければ、おのずとついてくるのかなと」
今の日本代表の選手たちは誰もがそうした思いで戦えている。最初に紹介した「『ワールドカップ、ワールドカップ』ってなっている選手はいない」と語った菅原の言葉は、日本代表が明確な基準を持って上を目指すチームへと成熟してきた証でもある。
最後に、菅原はこう締めくくった。
「それぞれが置かれた立場で、結果を出し続けることが、今は一番大事。ワールドカップは6月の開催なので、まだ時間もある。それまでにもっとうまくなる、もっといい選手になるための取り組みをしないといけないのは、みんな一緒だと思います」
満足することなく、うまくいったことにも、うまくいかなかったことにも一喜一憂せず、気負わず、がんばったつもりにならずに、自分の成長にどれだけ貪欲になれるか。
世界各地のクラブで積み重ねられている一日一日の延長線上に、ワールドカップという非日常が待っているのだ。
<了>
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