
今夏、アメリカNCAAチームがやってくる! 楽天とJUBFが切り拓く日本発「大学バスケのチャンピオンズリーグ」構想
目指すは日本発、“大学バスケットボールのチャンピオンズリーグ”。全日本大学バスケットボール連盟(以下、JUBF)による主催、楽天グループ株式会社(以下、楽天)でアスリート支援をはじめスポーツ事業をグローバルで展開するRakuten Sportsが運営協力として昨年から開催したSun Chlorella presents World University Basketball Series(以下、WUBS)は、相次ぐ日本人NBA選手の誕生、男女の日本代表の活躍に沸く日本バスケットボール界が「世界」にアプローチするイベントでもある。今年8月、第2回を迎える大会には、なんとアメリカNCAAディビジョン1に所属するラドフォード大学が参戦。運営協力を行う楽天のIPコンテンツ事業部スポーツビジネス課ディレクター、岡本直也氏に、大会設立の経緯、8月10日に開幕する大会の見どころについて話を聞いた。
(インタビュー・構成=大塚一樹、写真提供=©︎WUBS)
“大学バスケのチャンピオンズリーグ”を目指して
東北楽天ゴールデンイーグルス、ヴィッセル神戸のクラブ運営はもちろん、数々のアスリート支援、ゴールデンステート・ウォリアーズへのスポンサードなどを行う楽天では、スポーツへの関与を単なる支援で終わらせるのではなく、自社の提供するサービスとの親和性、そして新規のIPビジネスとしての可能性を模索していた。
スポーツの発展にグローバルな視点で取り組むRakuten Sportsでディレクターを務める岡本直也に託されたのは、この方針に沿った新規イベントの開拓だった。
「今までにないもの、これまでなかったところに新しい何かを始めるようなイベントをということでしばらく頭を悩ませていました。Rakuten Sportsでは、河村勇輝選手(横浜ビー・コルセアーズ所属)とのマネジメント契約をはじめとして、今日本でも盛り上がりつつあるバスケットボールとの関係を深めているところでした。バスケットボールは世界的に見ても人気が高いスポーツで、本場アメリカはもちろん、近年ではサッカーの独壇場だったヨーロッパ、アジアの国々でも高い人気を誇っています。バスケットボールの、しかも大学の世界大会を日本発で開催できたら、これは今までにないイベントになるんじゃないかというのがWUBSの構想の発端です」
高いプレーレベルに対して露出向上の余地がある大学バスケに注目
Rakuten Sportsが目指す「今までにない」「これまでなかったところ」「新しい」の部分では、すでにビジネスの展開がある程度済んでいるプロリーグや高校以外、つまり大学がもっともしっくりくる選択肢だった。
とはいえ大学バスケットボールは、プロや高校に比べて露出が多くはない、と思われてきた歴史があった。だからこそ露出向上の余地があるわけだが、Rakuten Sportsは大学バスケに以前からポテンシャルを感じていた。
「自分自身がバスケットボールをプレーしていたこともありますが、バスケの魅力はやはりプレーにあると思っています。日本の大学バスケのレベルが低いかというとまったくそんなことはなく、展開されているリーグ戦の熱量は、プロにはない学生らしい激しさ、ひたむきさがあり、高校生にはない迫力、レベルの高さがありました」
楽天では、2021年から東海大学男子バスケットボール部「SEAGULLS」とブランディング支援に関する契約を結んでいる。岡本はこの契約にも関わっており、大学バスケの魅力については実際の現場を体感していた。
しかも世界に目を向ければ、スポーツビジネスの一大成功例でもある全米体育協会(NCAA)のコンテンツとしても規格外といわれるトーナメントを有するアメリカの大学バスケ界がある。
とにかく時間がない中で開催された第1回大会の成果
「どういう枠組みでやるか、大学というカテゴリで大会を開催する以上、楽天が勝手に旗を立てればできるというものでもありません。まずは全日本大学バスケットボール連盟(以下、JUBF)へご挨拶に行くところからでした」
多くの大学スポーツ同様、JUBFも大学バスケ界の盛り上げのために様々な可能性を模索しており、その起爆剤となる国際大会は歓迎だった。国際大会を開催するためには、日本バスケットボ-ル協会(JBA)との調整も必要だった。
「諸々の調整が済んで、JUBFの理事会で正式に開催が承認されたのが2022年の3月頃だったと記憶していますが、そこから半年もない8月には第1回大会が開催されるという急展開でした」
世界大会を名乗るからには、世界から大学を集めなければいけない。歴史を重ねて行く前提でスタートする大会だったので、初回から「プレーレベルのある程度の均衡」「参加大学が全力を出す真剣勝負、コンペティティブな場であること」「国の王者、国・地域を代表する立場の大学が参加すること」にはこだわった。
第1回大会にはフィリピンのアテネオ大学、インドネシアのペリタハラパン大学、チャイニーズ・タイペイの国立政治大学、日本からはインカレ王者の東海大学が参加したが、結論を先にいえば、Rakuten Sportsが開催前に掲げていたこだわりはほとんどかなえられた。
「告知期間が短かったものの、日本から参加した東海大学の関係者を始め、多くの人から世界の大学バスケの迫力、激しさ、レベルの高さを実感できたという声をいただきました。ワンサイドゲームもほとんどなく、実力は拮抗。両チームが同じくらいの熱量で激しくプレーしていたので、ファウルで試合が止まる時間も少なくて、普段バスケをあまり見ない人も楽しめたのではないかと思います」
参加国のモチベーションとひたむきさ、共通する大学バスケの魅力
初年度ということもありフィリピン、インドネシア、チャイニーズ・タイペイと、アジア地域からの参加が主となったが、それぞれの国でのバスケットボ-ルの人気は、日本では想像できない領域にある。特にフィリピンでは、50年以上の歴史を持つプロリーグも人気だが、大学バスケもかなり盛ん。アメリカとの歴史的関係からバスケットボールは国技扱いであり実力も世界レベルだ。
「シンガポールで仕事をしていたこともあって、アジア諸国とのパイプは以前からありました。どの大学もぜひ参加したい、日本に行きたいと言ってくれました」
コロナ禍ということもあり、新設の国際大会は手放しで歓迎された。国家代表で組織される大学生スポーツの祭典、ユニバーシアードはあるが、大学単位で参加する国際大会は皆無といっていい状況なのも、参加大学の背中を押した。
「東海大学の陸川章監督からも『よくぞ開催してくれました』と感謝の言葉をいただいて恐縮しましたが、大学生年代で国際経験が積める場、異なる国の大学チームと戦う場というのが、これまでになかった。しかもその経験は、選手個人、チームにとってものすごい経験値になるということだったんですね。1回目の大会で、私たち運営側も、学生のひたむきなプレー、例えばルーズボールに飛び込んでいく姿、最後まであきらめずに勝利を目指す姿勢に感動をもらったんです。そしてこの感動は、会場で共有できる、見ている人すべての心を打つものだと実感できました」
予想外に伸びたのが、配信の視聴者数。スマホ大国といわれるインドネシアのペリタハラパン大学が参加していたこともあるかもしれないが、3日間の大会期間中、アジア4カ国でのべ380万人以上が視聴した。
ついに“本丸”アメリカNCAAディビジョン1所属のラドフォード大学が参戦
「大会自体は毎回進化するのがミッション」という岡本の言葉通り、2023年の第2回大会には、アメリカ、韓国、オーストラリアを追加した7か国、8チームが集う。
目玉はなんといっても、アメリカ、NCAAのディビジョン1に所属するラドフォード大学だ。
「大学バスケのチャンピオンズリーグを目指していくにあたって、アメリカ、NCAAにはどうしても参加してほしいと思っていましたし、第2回に合わせてそのつもりで動いていました。いろいろな大学にアプローチしましたが、結果的には日本人の山﨑一渉選手が所属する、しかもディビジョン1のラドフォード大学が参加してくれることに決まりました」
アメリカだけでなく世界の大学スポーツの総本山であるNCAAは、世界中からトップアスリートを集める人気・実力ともにプロリーグと比肩する特殊な環境にある。特にバスケットボールは、NBA予備軍が集い、リーグ戦の人気はもちろん、プレーオフトーナメントである“マーチマッドネス”は、文字どおりアメリカ中が熱狂の渦に巻き込まれる一大スポーツイベントだ。
「ラドフォード大学との交渉が始まってからはスムーズにいったのですが、NCAAのチームが海外のしかもアジアの日本に来るというのはなかなか前例がないことでして……」
ご存知の方もいるかもしれないが、NCAAは人気、実力だけでなく商業的にもプロ並みの成功を収めている。にもかかわらず、大学生のスポーツである前提を崩すことなく、学業成績などを練習参加、試合出場への条件として課すなどの厳格なルールを適用している。
「そういうルールとの関係もあるのかもしれませんが、NCAAのチームは海外に遠征できる回数が4年に1回に限定されているんです。そもそもNCAAディビジョン1のチームともなると、時間を有効に使いたい、遠征をするにしてもシーズンに役立つものにしたいという意向があります。キャンプ的に海外に遠征を行うチームはあるようですが、わざわざ長距離移動をして、アジアに来るというのはそれまでのNCAAの常識にはないことです」
「比類なき体験」で世界の大学バスケの新時代を切り拓け
山﨑の存在もあったのか、最終的にはラドフォード大学がWUBSへの参加自体に「貴重な経験」としての意義を見出し、モチベーション高く参加してくれることになったが、アメリカの大学バスケ事情を知る者であれば、ラドフォード大学のWUBS参戦がいかに画期的なことで、NCAAディビジョン1チームがエントリーしてくれたことがWUBSにとってどれだけ大きな一歩になるかをおわかりいただけるはずだ。
WUBSが掲げるスローガンは、比類なき体験による熱狂と感動。大学バスケの新時代を切り開く。
世界最高のプロバスケットボールリーグ・NBAの2023年のドラフトでは、222cmの19歳、NCAAを経由しないフランス人プレイヤーのビクター・ウェンバンヤマが全体1位で指名を受けた。以前はNCAA所属選手で埋め尽くされたNBAドラフトだが、近年では下部リーグやヨーロッパリーグなど多様なキャリアパスウェイを歩み指名を受ける選手が増えている。
「いずれWUBSを経験した選手たちがNBAで活躍する、国の代表として戦う、そんな未来がくればいいなと思っています」
日本で蒔かれたWUBSという種が、世界の大学バスケの新時代を切り拓くときがやってくるかもしれない。
<了>
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