決勝はABEMAで生中継。本田圭佑が立ち上げた“何度でも挑戦できる”U-10サッカー大会「4v4」とは
「4年生以下の全国大会をつくりたい」――これまで何度も同じことを試みては、挫折を繰り返してきた先駆者たちを超え、4人制のU-10サッカー大会『「4v4(フォーブイフォー)」がスタートした。開幕からわずか3カ月で、早くもエントリー数は1万6000件を超え、7500人以上の選手たちが全国大会への切符をかけ、各地で熱戦を繰り広げている。数々の課題を打開し、新たなプロジェクトを立ち上げたのは、本田圭佑氏が代表取締役社長を務めるNowDo株式会社。今回、この「4v4プロジェクト」を先導し、本田氏の“右腕”として事業を進める取締役副社長の鈴木良介氏に、実現に至るまでの経緯と思い、そしてこれからの展望を聞いた。
(インタビュー=北健一郎、構成=青木ひかる、写真=NowDo株式会社)
育成現場の「DX化」を目指して
――NowDo株式会社は、どんな思いを持って始められたのでしょうか?
鈴木:2010年に本田(圭佑)と知り合って、2012年に一緒にSOLTILO株式会社を創業し、スクール事業を始めたことが最初の第一歩でした。
SOLTILOサッカースクールを全国に拡大していくうちにさまざまな問題に直面しました。しかもそれは、ずっと昔から慢性的に抱えているものばかりなんです。
その大きな要因としてあるのは、やっぱりサッカー界がまだまだ“アナログ”だというところ。
指導者をはじめ、親御さんたちも含めてリテラシーをアップデートして“DX化”を進めることで、育成の現場をもっとハッピーな場所にしていきたいという思いから、NowDo株式会社を新たに設立しました。
そこから、指導者と施設の空き時間とユーザーをマッチングするサービスを始めてみたり、「knows」というウェアラブルセンサーを開発したりと、自分たちが感じた課題を解決するための新しい試みをどんどんしてきましたね。
ないものには理由がある
――今回、U-10の大会を新しく作ろうと思ったきっかけを教えてください。
鈴木:まず、SOLTILOのなかで育成年代で何か新しいことを始めようと話が出て、ユーザー側の声に耳を傾けた時に「日本サッカー協会(JFA)が主催する4年生以下の全国大会がない」という点に着目しました。
最近の親御さんや選手は、向上心も強く貪欲な方が多く、確実に需要はある。でも、全国大会ができない理由もまたある。
全国大会があることで、ゴールデンエイジといわれるこの年代が『「勝利至上主義」に偏ってしまうのではないかと危惧する声があります。試合の勝ち負けよりも、ボールを触る楽しさやチームワークの大切さを重視するべきだという考えがあるなか、大きな大会を目指すとなると、どうしても勝ちにこだわりたくなってしまうんじゃないかと。
加えて、少子化と地域格差の問題で1チームで8人集めるのが精一杯のクラブチームも増えていたり、大会を開いても、親御さんの人手不足で試合ができないといった現状もあります。
そこを解決する策がなかなかが見つからず、一度計画はストップしてしまって。頭を抱える時間が続きました。
別の畑からのアイデアを生かして
――たくさんのハードルがあった中、突破の糸口となったのは?
鈴木:そうなんですよ。でも、やれる方法は本当にないのかと考えた時に、スクール事業を主としたSOLTILOではなく、DXに特化したNowDoが主体になったらどうなるか試してみようという話になりました。そうしたら、プロジェクトチームのなかから「そもそもルールを作り直せばいいんじゃないか?」という新しい発想が生まれたんです。
――たしかに、この「4v4」には独自のルールがたくさん設定されています。何か参考にした競技などはあるんですか?
鈴木:バスケの3×3(スリーエックススリー)を日本で広めている方々にもアドバイスをいただき、1ゴール当たり複数点が加算されたり、20秒以内にシュートを打たなければいけないショットクロックのルールを導入しました。
そして、問題だった「勝利至上主義」についてはベンチに大人の監督、コーチを置かないというルールを設定することで、過剰な応援やバイアスを排除できるようにしました。子どもだけでチーム編成や交代を決め、ピッチ上で起きた問題を自分たちで解決する力も身につきますし、帯同の大人がいないから試合ができないということもありません。
――サッカーの「当たり前」を取り払った、画期的なアイデアですよね。
鈴木:もともとNowDoには、サッカー界の人間は自分と本田しかいないのですが、自分と同じ畑だと同じことの繰り返しになってしまうことも、全く違うビジネスモデルや事例を当てはめてみることで解決の糸口が見つかったり、思いもよらないひらめきが生まれてきます。あらためて別の畑のノウハウを生かすことの重要性を実感しましたね。
https://4v4.jp/2023/japancup/u10
大事なのは「継続させること」
――4v4」フットサル施設や、オーガナイザーと呼ばれる主催者に大会運営を任せていることが画期的だと感じます。
鈴木:この「4v4」の重要なポイントは「どうすれば主催者が開きたくなるか」でした。大会を開くことでメリットがある人は誰なのかというのを考えると、一番は余ったリソースを活用したいと思っているコーチや施設です。
僕たちがSOLTILOのスクール事業をやってきて感じた大きな課題は、どうしても平日の午前中は施設も指導者のリソースが空いてしまうこと。週末稼働を増やす余裕もないし、月謝も相場がだいたい決まっているので、生み出せる利益に限界があります。
そんなとき、コートが空いている1時間枠を使って気軽に開催できる大会があれば、施設側も「ぜひやりたい!」と思ってくれるはず。ユーザー側も、8人制よりも人集めのハードルが少しは下がるので、1チーム4人から参加可能にしたのは、実はいろんな背景があるんですよ。
――人数が少ない方が、ボールを触る回数も増やせるという側面もありますよね。
鈴木:もちろん、それは大前提です。ただ、子どもたちのプレー機会や試合経験を増やすことって僕たちが今までずっと考えて考えて、やってきていることなので、そこには自信を持っています。なので、大事なのはそれをいかに続けていくか。
そのためには、ビジネスの要素が必ず必要になってきます。リリース当初は「また新しいお金稼ぎか」なんてことを言われることもありましたけど、どうしたら子どもたちも主催者側も、この大会に参加したいと思ってくれるのか。
この「4v4」に関しては、そこをとにかく考え抜いて、サービスを設計をしています。
ワクワクすることに着手する人生を
――どれくらいの時間をかけてプロジェクトをリリースしたんですか?
鈴木:SOLTILOで発案したものの、止まってしまったのが3月。そこから5月にNowDoで巻き取って、7月にエントリーをスタートして、第1回大会を8月に開催したという流れです。
――これだけ大規模な大会を、3カ月で? ものすごいスピード感です……。
鈴木:確かに(笑)。本来であれば、新規事業はもっと時間をかけて検証実験を繰り返すものです。
でも、今回に関してはこれまでの成功や失敗の蓄積もそうですが、自分たちがプレーヤーだった時に感じていたことや思いを乗せたものでもあったので、絶対にハマるという確固たる自信がありました。
発起人である本田も、自分が小学生の時に全国大会に出た経験はないですし、決してエリートではなかった背景もある。だからこそ、純粋にサッカーの育成や教育を大事にしています。
――アイデアマンの本田さんと実行力のある鈴木さんとの“黄金コンビ”による影響力やパワーを感じるプロジェクトですね。
鈴木:僕がビジョナリーになって引っ張るのは、なかなか難しい。世の中にインパクトを与える発信ができるのは、本田が持っている特別な力です。
彼の魅力は、僕らだと考えつかないようなアイデアを常に発信し続けてくれること。そしてそれに対して、できるかどうかは置いておいて、僕が一度やってみて、もしうまくいけばそれを継続していくために必要なことを整える。
そこに僕がずっと関わることになると他のことができなくなってしまうので、一番適任者を当てて事業を回していく。
――本田・鈴木コンビがどんなイノベーションを起こすのか。これからも楽しみです。
鈴木:「4v4」に関しても、スピード感を持って、現状維持をせずにチャレンジし続ける。そうしないと、本田も飽きてきちゃうので(笑)。
13年前から本田と一緒に仕事をして、いろいろな新しいことをやっていますけど、こんなことをしているなんて考えもしなかった。でも、これだけの反響をいただくことができて、やってよかったなと思っているし、どんどん発展させていきたいです。
僕個人としては、その時々に面白そうだったり、ワクワクするものにとにかく着手してみる人生を、これからも大切にしていきたいですね。
――そんな革新的な取り組みをしている鈴木さんが審査員を務めるのが、スポーツ庁主催の『SPORTS INNOVATION STUDIO コンテスト』です。鈴木さんをあっと驚かせるのはかなりハードルが高そうな気もしますが……。
鈴木:そんなことはありません(笑)! 僕たちは常に新しい刺激や、ヒントを求めているので、たくさんのアイデアを見たいという気持ちが強いです。ぜひ、どんどん応募していただいて、スポーツ界のイノベーションがもっともっと活性化していくといいなと思っています。
■「SPORTS INNOVATION STUDIO コンテスト」
産業拡張につながるイノベーティブな取り組みや経済成長・社会変革を今まさに起こそうとする取り組みをたたえ、広く世の中に届ける、日本最大級のスポーツのコンテスト。最もイノベーティブな取り組みをたたえる「スポーツオープンイノベーション大賞」をはじめ「ビジネス・グロース賞」「ソーシャル・インパクト賞」「パイオニア賞」と4つの賞区分がある。国内に拠点を置く企業、競技団体・チーム・NPO・NGO地方自治体など、スポーツに関わる、あらゆる団体・個人が応募可能。
応募期間:2023年7月3日(月)~12月22日(金)23:59
▼詳細はこちら
https://sports-innovation-studio.com/contest/
<了>
なぜ南葛SCは風間八宏監督を招聘できたのか?岩本義弘GMが描くクラブの未来図
今野泰幸が刺激を受けた本田圭佑のサッカー観「プロになると“全体的にうまい”では通用しない」
本田圭佑が挑戦する「レッスンしない指導」とは? 育成改革目指す「NowDo」の野望
「今の若い選手達は焦っている」岡崎慎司が語る、試合に出られない時に大切な『自分を極める』感覚
「同じことを繰り返してる。堂安律とか田中碧とか」岡崎慎司が封印解いて語る“欧州で培った経験”の金言
PROFILE
鈴木良介(すずき・りょうすけ)
1981年生まれ、東京都出身。「ONE TOKYO」代表。「NowDo株式会社」取締役副社長。本田圭佑と共に2010年から国内外でサッカークリニックなどを開催。2012年には「SOLTILO FAMILIA SOCCER SCHOOL」を本田と共に立ち上げ、全国76校にわたる国内外でサッカースクール、施設運営事業を行う「SOLTILO 株式会社」を設立し、取締役副社長に就任。今回の「NowDo株式会社」の取締役副社長に加え、スポーツ競技におけるセンシング技術を使った(ウェアラブル)IoT事業ビジネスを展開する「Knows株式会社」、2019年4月にスタートした幕張ベイエリア内の認可保育園、インターナショナルスクールの経営を行う「SOLTILO CCC株式会社」の代表取締役社長も務める。
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
ラグビー欧州組が日本代表にもたらすものとは? 齋藤直人が示す「主導権を握る」ロールモデル
2024.12.04Opinion -
卓球・カットマンは絶滅危惧種なのか? 佐藤瞳・橋本帆乃香ペアが世界の頂点へ。中国勢を連破した旋風と可能性
2024.12.03Opinion -
非エリート街道から世界トップ100へ。18年のプロテニス選手生活に終止符、伊藤竜馬が刻んだ開拓者魂
2024.12.02Career -
なぜ“史上最強”積水化学は負けたのか。新谷仁美が話すクイーンズ駅伝の敗因と、支える側の意思
2024.11.29Opinion -
FC今治、J2昇格の背景にある「理想と現実の相克」。服部監督が語る、岡田メソッドの進化が生んだ安定と覚醒
2024.11.29Opinion -
スポーツ組織のトップに求められるリーダー像とは? 常勝チームの共通点と「限られた予算で勝つ」セオリー
2024.11.29Business -
漫画人気はマイナー競技の発展には直結しない?「4年に一度の大会頼みは限界」国内スポーツ改革の現在地
2024.11.28Opinion -
高校サッカー選手権、強豪校ひしめく“死の組”を制するのは? 難題に挑む青森山田、東福岡らプレミア勢
2024.11.27Opinion -
スポーツ育成大国に見るスタンダードとゴールデンエイジ。専門家の見解は?「勝敗を気にするのは大人だけ」
2024.11.27Opinion -
「甲子園は5大会あっていい」プロホッケーコーチが指摘する育成界の課題。スポーツ文化発展に不可欠な競技構造改革
2024.11.26Opinion -
なぜザルツブルクから特別な若手選手が世界へ羽ばたくのか? ハーランドとのプレー比較が可能な育成環境とは
2024.11.26Technology -
驚きの共有空間「ピーススタジアム」を通して専門家が読み解く、長崎スタジアムシティの全貌
2024.11.26Technology
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
スポーツ組織のトップに求められるリーダー像とは? 常勝チームの共通点と「限られた予算で勝つ」セオリー
2024.11.29Business -
なぜイングランド女子サッカーは観客が増えているのか? スタジアム、ファン、グルメ…フットボール熱の舞台裏
2024.11.05Business -
アスリートを襲う破産の危機。横領問題で再燃した資金管理問題。「お金の勉強」で未来が変わる?
2024.10.18Business -
最大の不安は「引退後の仕事」。大学生になった金メダリスト髙木菜那がリスキリングで描く「まだ見えない」夢の先
2024.10.16Business -
浦和サポが呆気に取られてブーイングを忘れた伝説の企画「メーカブー誕生祭」。担当者が「間違っていた」と語った意外過ぎる理由
2024.09.04Business -
スポーツ界の課題と向き合い、世界一を目指すヴォレアス北海道。「試合会場でジャンクフードを食べるのは不健全」
2024.08.23Business -
バレーボール最速昇格成し遂げた“SVリーグの異端児”。旭川初のプロスポーツチーム・ヴォレアス北海道の挑戦
2024.08.22Business -
なぜ南米選手権、クラブW杯、北中米W杯がアメリカ開催となったのか? 現地専門家が語る米国の底力
2024.07.03Business -
ハワイがサッカー界の「ラストマーケット」? プロスポーツがない超人気観光地が秘める無限の可能性
2024.07.01Business -
「学校教育にとどまらない、無限の可能性を」スポーツ庁・室伏長官がオープンイノベーションを推進する理由
2024.03.25Business -
なぜDAZNは当時、次なる市場に日本を選んだのか? 当事者が語るJリーグの「DAZN元年」
2024.03.15Business -
Jリーグ開幕から20年を経て泥沼に陥った混迷時代。ビジネスマン村井満が必要とされた理由
2024.03.01Business