「同じことを繰り返してる。堂安律とか田中碧とか」岡崎慎司が封印解いて語る“欧州で培った経験”の金言
これまでドイツ、イングランド、スペインでプレーし、プレミアリーグでは優勝も経験した岡崎慎司。現在、36歳となっても変わらず欧州の地でプレーを続ける岡崎は、若い世代の日本人選手が置かれている状況を見て「俺が今まで経験してきたことを繰り返している」と語る。常に日本サッカーのために何ができるかを考え続けたうえで、葛藤を乗り越えて自らが決めた封印を解き、岡崎が日本人選手に伝えたいメッセージとは?
(インタビュー・構成=中野吉之伴、写真=Getty Images)
海外でプレーするなか抱き続けた「日本サッカー界への恩返し」
元日本代表FW岡崎慎司が日本サッカーや日本の育成に対してのアプローチや発信をここ最近積極的に行っている。
彼が道を切り開いてきたこれまでの欧州キャリアは素晴らしいものがある。2011年に清水エスパルスからブンデスリーガ1部シュツットガルトへ移籍。2013年に同じくブンデスリーガ1部のマインツへ活躍の場所を移すと、2013-14シーズンに15得点という欧州主要リーグ日本人最多得点を記録。そこからさらに飛翔を続ける。2015年にプレミアリーグのレスターへ移籍が決まると、2015-16シーズンには創設132年でクラブ初のリーグ優勝に貢献。2016-17シーズンにはUEFAチャンピオンズリーグ出場も果たした。2019年からは戦いの場をスペイン2部に移し、ウエスカに2シーズン所属した後、2021年8月からはカルタヘナでプレーを続けている。
そんな岡崎は海外でプレーをしながら、日本サッカー界へいずれ何か恩返しをしたいという思いがずっと胸の中にあったという。
「もともと日本代表でプレーしているとき、エスパルスから海外に出るときなどいろんな人といろんな話をしていて、いつか日本サッカー界への恩返しというか、社会貢献ができたらと話をしていたんです。まず自分のアカデミーをつくりたいという思いはずっと頭にあったんです。
実際にアカデミー『岡崎慎司SDウエスカアカデミー』をつくって育成にも携わるようになって、サッカークラブをつくる大変さがよりリアルにわかってきました。子どもたちのことはもちろん、保護者とのこと、指導者のこと、クラブとの関係なども含めて簡単じゃないんだなっていう、そういう現実がわかってきましたね」
「今の自分には周りのこと、育成のことを考えている余裕はない」
アカデミーを設立し、さらに積極的に自ら発信する場をつくった経緯については、大きな葛藤を経て今があるという。現在は自身のWebコンテンツ「Dialogue w/ (ダイアローグウィズ)~世界への挑戦状」もスタートさせた。
「こうやって発信しようと思えたのはつい最近だったんですけど、自分の中には布石みたいなものがあったんです。実は僕ドイツ時代にユーチューバーの端くれみたいなことをやっていたんですよ。誰もまだサッカー関係者がやってないときに、試合後に1人でいろいろSNSを使って発信をしていたんです。
そのときは『こんないい実験台がいるのに。もっと俺を使ってくれよ」という思いで始めました。やっぱりメディアだと『岡崎はやっぱ点を取ってすげえな』とか、『岡崎はちょっと調子悪そうだな』くらいでしか判断されない。それは僕の意図するものではなかった。だから本当に大事なものっていうのは、自分からダイレクトにしか伝えられないと思っていたんです。
ただレスターでリーグ優勝したとき、当然うれしい反面、悔しさが出てきてました。(リヤド・)マフレズとか(ジェイミー・)バーディみたいにのし上がりたいのに、今の自分には周りのこととか、育成のこととかを考えている余裕はないのではないかと考えるようになって。
だからそこで一度その思いを消したんです。選手の自分がそうしたことについて言うと、自分が何ものかわからなくなるっていうのが一番大きかったかもしれません。指導者でもないのに、指導者目線であれこれ話してしまったら、指導者に対してリスペクトがないのかなって考えていたので、何かこう、本当に封印していたんです」
封印していた気持ちを解き放って、いま伝える理由
プロ選手として厳しい日々と向き合う。毎日が戦いだ。明日自分がどうなるかもわからない。だから毎日の練習を大切に、一回一回の試合で精一杯向き合って勝負していく。そうやってこれまでのキャリアをつくり上げてきた。そんな岡崎から封印していたものが解放されたのはなぜだろう?
「現役のサッカー選手だからこそ、リアルに伝わることがあると思ったんです。例えば僕はドイツからずっと上がっていったじゃないですか。シュツットガルト、マインツ、レスターって。上に上がっていくときは、評価された上で移籍するので、ある程度信頼はしてもらえている状態です。で、今回初めて下に落ちた。フラットな状態で見られたときに、今回のカルタヘナもそうなんですけど、ほとんどメンバーが決まっている中で自分が入ったときに、自分の競争したいところではないグループに入れられることがあるわけです。
イングランドのプレミアリーグという最高峰から、スペイン2部へ。カテゴリーでいったらだいぶ落ちているはずなのに、自分も試合に出たり出なかったり。そういう経験って、すごくリアルじゃないかって。スペイン2部でやっていて、負ける気がしない相手がライバルで、それでも出場するかどうかの戦いをしているわけです。そうしたときの生き残り方、こういう考えを持ったらというヒントになるようなものは伝えられるかもしれない。スペインでもがいているときに、そういう部分が僕の中でつながったというか」
将来について考えたことも、心境の変化に影響したという。
「僕は将来的に指導者になりたいとも考えているんです。去年の夏ぐらいに日本で自分のアカデミーで子どもたちを長く見ていたり、指導者としてちょっと関わったりしたときに、指導っていいなあという思いも自分の中で生まれてきました。
ただ、先を見据えたときに、僕が選手のうちに何も言わずに、指導者になってから現役時代の考えを話すのは違うのかなって思ったんです。指導者になったときにいくら俺が選手時代のことを言おうとしても、『いやまだ指導者としてはこのレベルだろ』ってなりますよね。だから今しかできないことがあるなって。封印していた気持ちを解き放って、いまやっぱり伝えていこうって思っているんです」
「同じことを繰り返しているんだなって。堂安律とか田中碧とか」
選手として感じたこと、培ったこと、積み重ねてきたことを自分の言葉でストレートに伝えていく。これからの世代の選手たちや、彼・彼女らが育つ環境に携わる指導者たちへの確かなメッセージになるはずだ。欧州でサッカーをする意味とは? どうすればより順応することができるのか? 自分の本来の力を発揮する方法は? 岡崎はいま、若い世代の日本人選手が置かれている状況を見て思うことがあるという。
「同じことを繰り返しているんだなって。堂安律とか田中碧とか、今の若い選手たちは俺が今まで経験してきたことを繰り返しているわけですよ。だからやっぱり今伝えなければいけないなと。俺がせっかく経験したものがあるのに、それを知らずに来た選手がまた日本人であるがために同じような壁にぶつかってしまう。
もしかしたら2、3年、あるいはそれ以上長い間、慣れるためだけの時間を過ごすことになってしまって、27、28歳でようやくクラブに認められるみたいになってしまうかもしれない。一回活躍できたとしても、違うチームに行ったらまた同じことを繰り返すと思うんですよ。これって多分日本人だからなんじゃないかなって僕は思うので、日本人だから余計なことをいっぱい考えて、自分で苦しくなっている場面が多いんだと思うんです。
そこを短縮させるためには、自分がもっと育成に対して関わったり、意見を知らせたい。JFA(日本サッカー協会)の人だけではなくて、もっと多くの人たちに『ヨーロッパは、ヨーロッパのサッカーはこういう現状』というのを知ってもらわなきゃいけない」
日本人は『お前、わかってるよな』という雰囲気に押し切られる
日本と海外は違う。そのことはみんな知っている。でも何がどのように違うのか。それに対してどんな対処をした方がいいのかは、なかなかわからない。チームメートとのコミュニケーションもそうだ。相手が自分の振る舞いに対してどんな風に受け止めるのか、リアルな経験談は知っておいて損は絶対にない。
「例えば、ドイツでよく経験したんですけど、僕がミスしたときだけめちゃくちゃ言ってくる奴がいるんですよ。監督の方を見ながら「おいー!」みたいな感じで。そういう場面で、言葉がしゃべれないからそこでだんまりしてしまったり、ごめんごめんってなっちゃったら、自分のミスだと認めてしまうわけじゃないですか。だからそうした空気を感じたら、逆に自分から先にそっちに対して怒ってしまうみたいなコミュニケーションも必要なのかなと。
日本人は『お前、わかってるよな』みたいな感じで押し切れると思われているのかもしれないです。自然に意見を言い合えるぐらいの語学力、それは生活で使う語学力だけではなくて、言い返すための言葉とか、そういうことを海外に行く前に学んでおくべきです。反射的にどう言い返したらそういった人たちに対抗できるのかを知っておいた方がいい。
でも、日本人は胸に秘めてしまうというか。例えば、もめごとがあったときにヨーロッパの選手はそのあと平気でロッカールームで会話するけど、僕は仲良くなれない。『さっき喧嘩してたのに』って思ってしまう。こっちの選手の後腐れない感じは受け入れるのがすごく難しい。
それって日本にいるときに、育成なのか、育った環境なのか、言い合って解決するっていう形じゃなかったことも影響しているのかなとか考えたりもします。だから僕がこうした方がいいっていうよりも、経験をそのまま伝えることが大事だとすごく思うんです」
先人の知識・経験から学び、確かな準備をしたうえで臨む重要性
欧州サッカーの戦術や特徴、施設の充実や立地条件などは話題に上りやすい。一方で、実際に欧州クラブから獲得された選手は、世界中からライバルが集まるなか、練習や試合でしのぎを削るだけではない。選手や監督、クラブ関係者との日ごろの付き合い方や、自分の立ち位置の見つけ方、言葉の問題や、食環境が大きく変化する食事面を含めた日常生活の過ごし方など、さまざまなことと向き合わなければならない。
見慣れないジェスチャーやしぐさで相手に悪意はないのに、すごくひどい扱いを受けているように感じてしまうことだってある。逆に何も思い当たることがないのに、相手に嫌な感情を持たれてしまうこともある。何事もわからないままでは解決は生まれない。向き合う相手自身はもちろん、その背景にあるその国とその生活とその習慣を知ることで、彼ら・彼女らの考え方や感じ方、付き合い方が見えてくる。
現地に行ってから直接体験して学んでいくことも大切だが、先人の知識・経験から学び、確かな準備をしたうえで臨むことは、海外でプレーして、そこからステップアップをしていくうえで重要なポイントになるはずだ。
【連載中編】なぜ日本人は欧州で交代要員にされるのか? 岡崎慎司が海外へ挑む日本人に伝えたいリアル
【連載後編】欧州では教えられた小手先の技術は通用しない。岡崎慎司が目指す、自分に矢印を向ける育成
<了>
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PROFILE
岡崎慎司(おかざき・しんじ)
1986年4月16日生まれ、兵庫県出身。スペインリーグ2部・カルタヘナ所属。ポジションはフォワード。滝川第二高校を経て2005年にJリーグ・清水エスパルスに加入。2011年にドイツ・ブンデスリーガのシュツットガルトへ移籍。2013年から同じくブンデスリーガのマインツでプレーし、2年連続2桁得点を挙げる。2015年にイングランド・プレミアリーグ、レスターに加入。加入初年度の2015-16シーズン、クラブ創設132年で初のプレミアリーグ優勝に貢献。2019年に活躍の地をスペインに移し、ラリーガ2部のウエスカに移籍。リーグ戦12得点を挙げてチーム得点王として優勝(1部昇格)に貢献。2021年8月より同じくラリーガ2部のカルタヘナでプレーする。日本代表としても、歴代3位の通算50得点を記録し、3度のワールドカップ出場を経験。2016年にはアジア国際最優秀選手賞を受賞している。
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