そのプレスではプレッシャーにならない。日本人が欧州移籍で直面する“インテンシティ”の真の意味とは

Opinion
2022.06.20

昨今、大きな期待を背負って欧州の舞台に挑戦する日本人選手は数多い。そのなかで成長を続ける選手と超えられない壁にぶつかる選手、それぞれに多く見られる共通点はあるのだろうか? そして、欧州に渡った選手が必ず口にする「インテンシティの違い」とは何か? ドイツ・ブンデスリーガでプレーする日本人選手を長年見続け、自身も指導者として活動する中野吉之伴が、欧州の地で成功する選手に共通するサッカーの本質を考察する。

(文=中野吉之伴、写真=Getty Images)

現代サッカーに欠かせない「インテンシティの高いプレー」とは?

どんな選手にも自分がやりやすいポジションはある。その一方で、指導者が求める要素との兼ね合いというものが生まれる。

ブンデスリーガでプレーしている日本人選手を見ていると、これまで自分のプレーしていたポジションやタスクとは違う役割で起用されたときに、かなりの戸惑いが見られる選手が少なからずいるのではと感じている。例えば現在シュトゥットガルトでプレーする遠藤航が今季、ボランチではなく、インサイドハーフで起用されることが多くなったが、当初はボールをうまく引き出すことができず、なかなか試合のリズムに入っていけないことがあった。田中碧がデュッセルドルフで置かれている境遇も近いかもしれない。本人はボランチとしてプレーしたいけれど、クラブが求めるボランチ像との間にどうしても大きな差があるのかもしれない。

最近は日本でも「インテンシティ」という言葉をよく耳にするようになった。一方、世界では2010年FIFAワールドカップ直後に行われたドイツサッカー連盟とドイツプロコーチ協会共催の国際コーチ会議にて次のように報告がされていた。

「個々の守備戦術能力が上がり、守備陣の連携が向上したことで、より高い位置にラインを引き、よりいい位置でボールを奪うことを目指す国が増え、小さなトレンドとして状況に応じた前線からのプレスも見られるようになった。すべての選手に守備への貢献が求められることが当たり前となり、チーム全体で積極的に守るということがこれまで以上に要求されるようになった。

攻守の切り替えがこれまでよりもさらに早くなったことも特徴だ。相手ペナルティーエリアに攻め込んだあとでも、相手チームがカウンターを仕掛けた場合に、上位に残ったチームは7秒以内に7、8人の選手がペナルティーエリアまで戻っていた」

守備から攻撃、攻撃から守備への切り替えをより早く行い、相手よりも素早く次のプレーへ移行できるかどうかがこれまで以上に重要となり、インテンシティというものが2010年にはすでに注目されるようになっていた。

とはいえ、「インテンシティの高いプレー」というのは、2010年以降に新しく生まれたわけではない。それまでも激しい球際へのアプローチや、足を止めずに連続して行われるプレスは存在した。そうしたインテンシティがベースとしてあったうえで、さらにその頻度とタイミング、走る距離やエリアが格段に増えてきているのが現代のサッカーということになる。

欧州に渡った日本人選手が口にする「インテンシティが違う」の意味

ただ「インテンシティが大切」だと言ってプレーをしようにも、「インテンシティの高いプレー」とは具体的にどういうプレーなのかが抜け落ちてしまうとその本質は理解できない。

なぜ欧州に渡った日本人選手はほぼ例外なく「インテンシティが違う」という言葉を口にするのか。その理由の一つに、本人が思っている“できている”プレーと、監督やチームメートが要求している“できている”プレーに差が生じていることが原因なのではないか。

例えばプレスに行くときに、距離を取ったり、相手の前で足を止めてしまうことは欧州サッカーではありえない。もちろんやみくもなアタックであっさりかわされたら意味がない。とはいえ相手との距離が2mもあるところで足を止めて待ってしまったらプレッシャーにはならない。プレッシャーとは相手との距離をどこまで縮めるかという空間的なものだけではなく、「この距離で、この勢いで来られたらボールを奪われてしまうかもしれない」と相手に精神的なプレッシャーを与えられなければならない。激しくぶつかってくるプレーに慣れている選手にとっては、足を止めて距離を取る守備はプレッシャーにすらならないのだ。

あるいはボールをもらうときの動き。サッカーのメカニズム上、選手がボールを持っているときに持っていない味方選手が寄っていくと、自然と相手選手もついてくるのでプレーエリアが狭くなってしまう。パスの出口を確保したうえでの動きならばそれを逆手に相手をつり出すこともできるが、不用意にボールに寄って受けようとして、そこでボールをロストするなんてことがあったら、監督やチームメートの信頼を一瞬にして失ってしまう。

選手自身は「自分はボランチの位置でボールを奪取するのが得意」と思っていても、屈強なフィジカルを持つ選手がそろうブンデスリーガの監督から見ると「ボールを単独で取り切ることができないし、ヘディングで競り負けることも多く、相手の前進を許してしまうから中盤の底では起用しづらい」と思われてしまうこともある。

長谷部、岡崎、原口…。欧州で大きく成長した日本人選手の好例

インテンシティというのは、フィジカル的なことだけを指すわけではない。ボールを受けると少しの余裕もなく、相手のプレスがいつでもすぐに来るという状況のなかで、瞬時に最適な判断をして、実践できなければならない。状況を認知し続け、その中で自分が今すべきプレー、状況を打破できるプレーを考え続けるという思考の面でのインテンシティが備わっていなければならない。

欧州で十分なプレー機会を得られなかった日本人選手で何度も目にしてきたのは、「フィジカル的にボランチの位置では起用しづらいけれど、技術レベルやパス能力は高いから、インサイドハーフやトップ下で起用しよう」と監督が判断して1列前で起用したものの、そこでもハマらないというケースだ。監督としては、「これだけの技術レベルがあれば、当然同様の戦術理解も備わっているだろう」と攻撃の起点となるプレーを期待するが、それが備わっていないのだ。戦術理解が乏しければ、足元の技術を持っているだけでは生かすことができない。ゲーム全体の流れ、スペースとポジショニングの概念、勢いをつくり出すプレーというのはポジションにかかわらず、サッカー選手の根本的な原則として身につけておかなければならないものだ。

局面打開能力とは、大局とつながり合うことで本当の力になる。

もちろん、そもそものところで、監督が選手の能力を見定めきれずに間違ったポジションとタスクを与えて、それが原因で機能しないということもよくある。中盤でボールを受けてゲームをつくるのが得意な選手を起用しておきながら、守備ラインから前線へのロングボールばかりなんて戦い方をしていたら、その選手は生かせない。

ただ、監督は監督でチームの戦力や戦術に左右されながらも、「この資質を持つ選手ならば、このポジションでも、このタスクでもできるはずだ」という視点で選手を起用していることをどう解釈するかが重要ではないだろうか。これまでやったことがないタスクやポジションをどのように受け止めて、取り組んでいくのか。そしてそれをどのように自分の武器としていくのか。

長谷部誠しかり、岡崎慎司しかり、原口元気しかり、遠藤航しかり。

当初は自身が思い描くポジションやタスクではなくとも、そこでのプレーに真摯(しんし)に向き合い、自身のポテンシャルを引き出し、主力として必要とされるクオリティを身につけている。

長谷部は本職ではない右サイドバックとしてヴォルフスブルクで優勝に貢献した。岡崎や原口は守備でも貢献できるサイドアタッカーとして重用された。自分が本来プレーしたいポジションやタスクではない起用法をすんなり受け入れられるわけではない。プロ選手として自分への誇りを安売りするわけにもいかないし、器用貧乏で終わるなんてまっぴらだったはずだ。遠藤にしても今季初めてインサイドハーフで起用されるようになったが、そこで起用される意図を理解し、求められるパフォーマンスを出せるようにアジャストしてみせたからこそ、最終戦での劇的残留弾につながった。

彼らは欧州で大きく成長した日本人選手の好例だ。

「ミスを恐れず受け続ける」原口元気が進化し続ける理由

原口の遂げた進化は象徴的だ。2014年のヘルタ・ベルリン移籍当初は、試合後のミックスゾーンで自身の攻撃のことばかりを口にしていた。不満も多かった。でも半年がたった頃には自分の守備への貢献への反省点をよく語るようになっていた。

自身が途中交代後にチームが失点して引き分けで終わった試合後には「僕が出ていたらあのシーンでしっかり対処して失点を食い止めることができたのに……」と悔しさをにじませていた。どうすればチームに貢献することができるのか。どうすればその中で自分の良さを発揮していくことができるのかを常に考え続けているのだ。

2018年からプレーするハノーファー時代にはチーム全体を配慮する選手になっていた。ボランチで初めて起用されたときにも、とても意欲的に取り組んでいたのが印象的だ。

「ボールを受けたがらない選手が多いなかで、ボールを受けて、ボールを運ぶこと。あと、もちろん守備ですね。守備でボールを奪いに行くところ。奪いに行きすぎずにうまくバランスを取りながらという部分は、僕自身も新しいポジションなので、いろいろなプレーを見たり、勉強しながらやっています」

そうした経験の連続が原口をさらに成熟させていく。今季ブンデスリーガを5位で終えたウニオン・ベルリンで、リーグ30試合に出場(うちスタメン出場23試合)。ウニオンの中盤はブンデスリーガの中でも極めてインテンシティが高いプレーを要求されるポジションであり、原口がインサイドハーフとしてシーズンを通して出場し続けたことは当たり前のことではない。

第7節のマインツ戦。中盤で原口のボールロストがきっかけとなり、失点したことがあった。外から見たら手痛いミス。でも本人は違う見方をしていた。

「個人的に意識しているのはボールが来る前に周りを見ておくこと。あのタイミング、ちょっと周りを見ているタイミングで寄せられちゃって。何も見ずにただ単にあそこで取られたというわけではないので。中盤の選手はどれだけ(試合の状況を)認知できるかだと思うので、そこは今後も続けていきたいですね。そこでミスを恐れず受け続けるというのは大事だし、もっとそういう回数を増やしていきたいと思います。

うまくいったらあそこからカウンターになっていたシーンだったと思う。そういう意図を持っていた。本当にうまい選手はああいうところで入れ替わったりできる。そういうのも狙っていかないとできないですから」

チームとしての戦い方を本質から理解したうえで、攻守にハイインテンシティのなかでプレーをしながら、今季2ゴール6アシストという数字を残した。求められる期待に応えるだけではなく、さらに自分の武器を生かして、攻撃でも決定的なチャンスに絡んでいける。そこに大きな価値がある。

次なるステージで成長し続けていくために大切な要素とは?

欧州挑戦1年目。苦しみながらも自らの存在価値を示し続け、ドイツ2部でフルシーズン戦い抜いた田中碧は、デュッセルドルフとの3年契約の完全移籍を勝ち取った。今後さらなる成長を見せてくれることだろう。

それぞれの選手の能力を最大限に生かす適正なポジションを探し出すのは決して簡単なことではない。選手自身が自分のまだ見ぬポテンシャルに気づいていないことだってある。今うまくいっていないから、来年もうまくいかないとも限らない。1年や2年ですぐにどうにかなることばかりじゃない。欧州の地で結果が出せなかったから失敗だというわけでもない。選手キャリアは選手それぞれにあるし、それぞれに意味がある。

ただ、いまより上のステージへ踏み出していくためには、正しい努力が必要なのは間違いないし、例えとして挙げた原口たちが成長していく過程で体感したようなことの多くを、あるいは何割かでも日本のサッカー界で経験することができるようになったら、日本人選手は今以上に飛躍する可能性を持つことができるというのは言い過ぎだろうか? 「欧州に渡らなければ身につかない」というのではやっぱり寂しい。

日本サッカー界が選手が成長し続けられる環境を常にアップデートし、選手は自分の武器にこだわりを持ちながら、周囲からのアドバイスにも積極的に耳を傾ける。何事にも新しい自分になれるチャンスを楽しみ、好奇心を持ちながらチャレンジしていくことは、成長し続けていくためにとても大切な要素なのではないだろうか。

<了>

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