スケートボード・ストリートで男女表彰台を独占! 日本が世界で勝てる「2つの理由」
12月10日から17日まで、東京・有明コロシアムで開催されたワールドスケートボードストリート世界選手権2023東京で、日本人選手が表彰台にずらりと並んだ。なぜ、日本は国際大会でここまで強くなることができたのか? 真の「スケートボード大国」になるために必要なこととは? プロカメラマンとして、日本スケートボード界を長く追い続けてきた吉田佳央氏が考察する。
(文=吉田佳央、写真=吉田佳央 / World Skate)
パリ五輪出場権をかけた「世界一激しい」代表争い
『5/6』
この数字は何を意味するだろうか?
先日、日本初開催となったワールドスケートボードストリート世界選手権2023東京における、表彰台に上がった日本勢の数である。
男子は優勝 白井空良、準優勝 根附海龍、3位 堀米雄斗と表彰台を独占、女子も優勝 織田夢海、3位に西矢椛と、2位のライッサ・レアウを除き、全て日本人となった。
今回はおよそ50カ国200人以上の選手が集まった世界選手権、もともと日本はスケートボード強国で、地の利もあったとはいえ、これほどまで上位を独占したことに驚きを持った人も多いのではないだろうか。
ただ、その分激しさを増すのがパリ五輪出場権をかけた争いだ。全体の出場枠は22人で、一国に与えられる出場枠は最大3人なので、どれだけ激しい出場権争いが繰り広げられているかがわかる。
今大会の結果を踏まえた最新の世界ランクを見てみると、男子は2位に白井空良、5位に小野寺吟雲、6位に根附海龍、7位に堀米雄斗、10位に佐々木音憧、17位に青木勇貴斗となっているのだが、この6人は粒揃い。ほんの少しの勝負の綾が出場権を左右しそうな気配が漂う。
女子は1位に西矢椛、3位に織田夢海、5位に赤間凛音、6位に中山楓奈、7位に吉沢恋、10位に伊藤美優、13位に上村葵、20位に藤澤虹々可とトップ20に8人の選手がランクインする。来年3月の次戦UAE大会が終了した時点で国内トップ6に入っていないとそれ以降のフェーズ2に進めないため、来年は序盤から神経をすり減らす戦いが続いていく。過去の実績を見れば6位の中山楓奈までの4人による争いが中心になりそうだが、女子は男子以上に若年層の活躍が顕著でシーンの移り変わりも激しいため、下位に甘んじている選手が来年以降どこまで伸びて巻き返していくのかにも大いに注目が集まる。
このように、男女どちらも、世界ランクトップ10に入るよりもオリンピック日本代表になる方が難しいという、世界一ハイレベルな代表争いが繰り広げられているのである。
日本が世界で勝てる「2つの理由」。一つは環境面のアドバンテージ
では、なぜ日本はこれほどまで強いのだろう?
筆者が考える要因は2つある。一つは「コンテストの仕組み」だ。
実は日本は幼少期からどの年代でもコンテストにおける目指すべきゴールが明確になっているのだ。基本的にスケートボードには国体やインターハイといった他のスポーツにある年代別の全国大会はないし、世界を見てもアンダーカテゴリーの国際大会は聞いたことがない。だが協会やブランドが、インターハイでいう高体連などの組織の代わりを担う立場で開催しており、それが独自の強みとなっているのだ。
その代表的な組織がFlake(フレイク)とAJSA(一般社団法人日本スケートボード協会)といえる。
Flakeはもともと小学生までを対象としたキッズアパレルブランドで、今のようにキッズが参加者の大多数を占めるようになる前の2007年から毎年コンテストを開催しており、その規模は年々拡大を続けている。今やイオンモールと提携して全国各地を転戦するジャパンツアーを行い、そこを勝ち抜いた選手たちによるチャンピオンシップによって日本一の小学生を決めるという「日本最大のキッズ・スケートボードコンテスト」に成長した。
しかもFlake Cupには小学校3年生以下のキッズクラスと小学校4~6年のジュニアクラスがあるので、体格や体力差を最小限に抑えつつ、各年代で上を目指せる環境が出来上がっているのだ。
もう一つのAJSAはというと、40年以上続く歴史ある協会になる。2000年代より全国各地域のアマチュアサーキットと、それを勝ち抜いた選手たちによるプロ昇格権を懸けた全日本アマチュア選手権、そしてプロサーキットと、明確なピラミッド型のコンテストシステムを確立している国内唯一の組織なのだが、面白いのが各カテゴリーの出場選手の年齢層だ。
2010年代より出場選手の低年齢化が急速に進んだ結果、今のプロ戦は高校生が中心となっているのだが、全国各地域のアマチュアサーキットの参加者は中学生が最も多く、そこに前述のFlake Cupを加えると、王道の成長ルートが見えてくるのだ。
スケートボードを始めたら、まずはFlake Cupのキッズクラス優勝を目指し、高学年になったらジュニアクラスの優勝を目指すとともに、卒業後を考えてAJSAの大会にも出始める。そして中学生のうちにプロ資格を取得し、高校在学中に国内No.1と世界進出を目指すという、成長過程における見本ともいえる道筋が自然と出来上がっているというわけだ。
もちろんこのルートがすべてではないのだが、成長ルートが可視化できる育成システムは、間違いなく日本独自の強みと言えるだろう。さらにコンテストのシステムが整うと、自然とそれに伴うスクールも増えていくので、互いに相乗効果をもたらしているのが今の日本の強さの根源となっているのは間違いない。
スケートボードのコンテストとマッチした国民性
もう一つは「競技志向が強く、勤勉な国民性」である。
そもそも日本は言葉や料理ひとつをとっても、ものすごく繊細な部分を持ち合わせている国だ。その裏には勤勉で労を惜しまない国民性があることは多くの方の理解するところだと思う。
自分はそういった要素が、スケートボードコンテストにおける特性と非常にマッチしていると感じる。
一回でも乗ったことがある人ならわかると思うが、スケートボードはほんのわずかなバランスや重心の違いで成否が分かれる、99%失敗するといっても過言ではないアクティビティ。失敗に失敗を重ねた末にようやく一つのトリックを身に付けられるほど、極限までの根気と忍耐力が必要とされる。
それはスケートボードが今まで歩んできた「カルチャー」や「遊び」といった要素とは対極に位置するものである。だがオリンピック競技に採用されれば当然、競技・アストリート色が強くなってくる。今はちょうどそういった価値観が変化する過渡期にある気がしてならないのだ。だからこそ保守的な価値観によって競技としての部分ばかりが強調される日本の国民性が真価を発揮しているのではないかと思う。
文化の違う海外では、ビデオパートと呼ばれる自身のライディングカットを収めた映像作品の持つ価値が日本よりも高いため、たとえ世界選手権であろうとも、いわゆる遊びやカルチャーの延長線上で捉えている傾向が強いと感じる。
一方、日本は競技色が強く、特に中学・高校年代はその傾向が強いため、スクールからきっちり始めて真面目にコツコツ練習する。その差がこの結果を生んでいるのではないかと思う。
実際に今大会で優勝を飾った白井空良は、パリ五輪のためにプロスケーターにとって不可欠ともいえる映像作品制作をあえて封印して挑んでいたのに対し、3位の堀米雄斗は2本の作品を残している。
もしかしたら今大会は”カルチャー”と”競技”の二刀流は難しいということも、同時に証明した大会だったのかもしれない。
国際大会で日本がここまで強いと、国民感情として心配になるのが「日本人に不利なルール改正が行われないのか?」ということだ。
実はルール改正は東京五輪後に行われており、ラン2本とベストトリック5本の合計7本のうち、ベストスコア4本を採点する形式だったのが、2本のランのうち1本が必ず加算されるようになり、5本中2本のベストトリックと合わせた3本を採点する形に変更されたのだ。また1トライにつき10点満点(最高得点は40.0点)だったが、パリ五輪予選からは100点満点で採点され、小数点以下2点まで(最高得点は300.00点)採点されるようになっている。
要は、ランで失敗すると逆転の芽はほぼ潰えてしまうので、より総合力が試されるルールに変更になったのだ。ここで東京五輪を思い起こしてほしい。ランで振るわなかった堀米雄斗選手が、ベストトリックで大逆転したのは多くの人の記憶に残っているところだと思う。あくまで私見ではあるが、このルール変更は日本人対策だったのではないか?と思う。
実際に「ランが苦手」と口にする選手は多く、今回優勝した白井空良や織田夢海もそうだった。だがフタを開けてみれば、両選手とも見事にランをノーミスで終え、ルール変更の壁を乗り越えている。
日本人の競技志向と勤勉性が、ルール改正におけるハンデをも跳ね返したといえるだろう。
日本がスケートボード大国になるために必要なこととは?
日本がスケートボード大国になり、世界で勝ち続けるために必要なことは何だろうか。
前提として、スケートボード大国であることと、世界で勝つことはイコールではないと筆者は考える。現在の日本は世界から見たら、あくまで「コンテストに強い国」でしかないと思う。スケートボード大国と呼ばれるようになるには、スケートボードが一般市民の日常に溶け込む必要があるからだ。
今の日本は街中の至る所に禁止看板が乱立しており、日常生活からは完全に隔離されているのが現実だ。ただストリートという種目名からもわかるように、スケートボードと街は切っても切り離せない関係で、競技のルーツが街中にあるのも事実。そこで近年、海外で注目を浴びているのが、「スケートボードを前提にした街づくり」だ。何事にも保守的な価値観が根強く、高齢化社会が進んでいる日本のバックグラウンドを考慮すると難しいだろう。だが発想を変えれば、日常に溶け込ませること自体は可能だ。
それは「スケートボードの部活化」だ。
全国各地域のスケートパークと学校が連携をとって、部活化を進めていく。部活動の民間委託が叫ばれている昨今の社会状況と、増加の一途を辿るスケートパークとキッズスケーターの数を考えれば、決して不可能ではないはずだ。
そうなれば地域ベースで相対的に一般認知度を高めることが出来るし、それが優秀な選手の輩出にもつながると思う。さらに言えば、本来のルーツである街とスケートボードの共存に向けた活動もしやすくなっていくのではないだろうか。
ただし、現在の日本はあまりにも世界で強いため、優秀な指導者は海外に引き抜かれる傾向にある。女子ストリートで中国勢初の決勝進出を果たしたチェンシー・ツイ選手には、小野寺吟雲も指導し、以前には青木勇貴斗、根附海龍を育てた経歴を持つ中坂優太コーチが専属で付いているし、他にも日本人指導者の海外進出は進んでいる。今後は海外勢も急速に力をつけてくるはずだ。
愛好者が本質であるカルチャーを大切にする気持ちは十分にわかるのだが、それを突き通すのは日本社会ではあまりにもハードルが高い。最終的なゴールはそこに置くとしても、その過程で日本独自の部活文化を生かし、日本なりの進化を遂げていくのも、一つの方法ではないだろうか。
<了>
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