
SVリーグ女子は「プロ」として成功できるのか? 集客・地域活動のプロが見据える多大なる可能性
2024年10月に最初のシーズンが開幕したバレーボールのSVリーグ。注目度の高い選手が集結した男子に比べて、女子の試合の観客席には空席も目立ち、集客の面でやや苦戦が続いている。そんななか、「女子集客推進アドバイザー」としてSVリーグと契約を交わした「ツーウィルスポーツ」が見据えるSVリーグ女子、そして日本の女子スポーツの未来に懸ける思いとは?
(文=大島和人、トップ写真=西村尚己/アフロスポーツ、撮影=福村香奈恵[セイカダイ])
WEリーグ、Wリーグ、SVリーグも苦戦する女子の集客
ツーウィルスポーツ(Two Wheel Sports/以下TWS)は川崎フロンターレの「カルチャー」を作った立役者でもある天野春果が代表取締役を務め、同じくフロンターレOBの恋塚唯、谷田部然輝とともに立ち上げたベンチャー企業だ。「スポーツのあまりあるチカラを最大限引き出す」というビジョンを掲げ、サッカーにとどまらずさまざまなスポーツをプロモートして価値を引き出し、地域に根ざす存在となる手助けをしている。
2024年12月にはバレーボールのトップリーグ・SVリーグと「女子集客推進アドバイザー」の契約を締結し、集客・地域活動のサポートをすることも決まった。天野、恋塚がこのプロジェクトの担当として、今後クラブと向き合っていくことになる。
SVリーグは2024年秋に、従来のVリーグが発展的解消を遂げて設立された新リーグだ。大河正明チェアマンはバスケットボールBリーグの立ち上げ・成長に貢献した人物で、他にも他競技で「プロ」を経験したリーグスタッフが集まっている。しかし複数の有力クラブは「企業チーム」または「企業に属した実業団チーム」で試合の演出や運営、集客にはまだ「伸びしろ」が残る。
それでも男子は1試合平均の観客数が2929人(※2025年2月時点)で、事前の目標値(2750人)を上回る観客を集めている。一方で女子は平均1094人と苦戦している(目標値は2000人)。
男子は髙橋藍(サントリーサンバーズ大阪)、西田有志(大阪ブルテオン)といった人気選手がおり、「選手」で客を呼べる状態にある。女子は現役選手に分かりやすいスターが不在で、「チーム」で客を呼び込むだけの吸引力も持てていない。
そもそもサッカーのWEリーグ、バスケのWリーグを見ても女子の集客や事業化は容易でない。 TWSのプロフェッショナルがなぜ女子バレーに関わるのか? プロモーション、集客にどう取り組むのか? どこに「可能性」を見出しているのか? 本稿はそのようなテーマで天野と恋塚の2人に話を聞いた。

地域スポーツの浸透、女子バレーの熱気を知る原体験
そもそもバレーボール、SVリーグへの参画は天野の熱望から始まった。
「(実業団から)Jリーグへの移行を僕は見ているし、Bリーグも変わりました。SVリーグも間違いなく、すごいことが起こる確信がありました。あとフロンターレにいたときから女子バレーに興味を持っていたし、やりたいとも思っていました。SVリーグができたことも(フロンターレを)辞めた一つ要因です」(天野)
恋塚も「元フロンターレ」だが、2014年にバスケ界へ身を転じた。Bリーグの前身に相当するNBLでは事務局長を務め、その後は強豪・アルバルク東京でGMなどの要職を任されていた。彼らはもともとSVリーグの大河チェアマンや他のスタッフとつながりがあり、まずTWS側から今回の話を持ちかけたという。
では、そもそもなぜ「女子バレー」だったのか。実は天野自身が過去に女子バレーと関わりを持っていた。1990年代にワシントン州立大へ留学してスポーツマネジメントを専攻していた彼には、女子バレーとの接点があった。
「自分が通っていた学部は、単位取得のために(チームの)中で働かなければいけないんです。僕がメインに担当していた、任されていたのは女子バレーでした。単位を取得したあとも、面白かったので僕はずっと女子バレーのマネージャーをやらせてもらっていました。大学のアリーナなので2000人くらいですけど、常に満員です。学生だけでなく地元の人も来て、地域プロスポーツと変わらない状況でした」(天野) ワシントン州立大の女子バレーチームはNCAAのディビジョン1所属で、1990年代はNCAAトーナメントの常連だった。天野は女子バレーの熱気を知り、地域スポーツとしての浸透も原体験として持っている。
SVリーグ女子をどのように変革するのか?
プロモーション、集客について2人は豊富なノウハウを持っている。それが競技を超えて通用するという自信も持っている。とはいえSVリーグ女子の14チームを苦もなく引き上げられるかといえば、それはノーだろう。
2人はまず各地の会場を訪ね、現状把握に務めている。実際の「アクション」が起こるのは5月にシーズンが終わってからだ。
恋塚はこう説明する。
「ホームゲームだけでなく、オフの間に各チームへ訪問して、地域や施設の話をしていけたらと思っています。来季に向けてどう進めるかは、リーグやチームと話します」
天野は直近のアプローチをこう振り返る。
「SVリーグ女子の実行委員幹事会に参加させてもらいました。まだ全クラブを見られていないのですが、今まで行った9チームのホームゲームを見た感想、どういうところが向上のポイントかという話はさせてもらいました。それぞれの事情がありますし、プロモーションに対する興味にも差はあります。でもどこかで成功事例を一つ作れば、他のチームもついてくると思います」
SVリーグ女子にはすでに独立法人化を済ませ、集客に力を入れているクラブもある。とはいえ専任スタッフの人数や予算にバラつきはあるし、集客への温度差は当然大きい。まずは「その気」があるクラブのチャレンジをTWSがサポートし、その事例を共有した上で横に展開させていく順序になるだろう。
各チームの現状について、恋塚はこう述べる。
「ホームゲームの設営は、Bリーグのホームゲームとあまり変わりません。ただしフォーマット化されたものをやっているだけで、どう見せたいかというビジョンやコンセプトはまだ見えない。それでも僕がNBLにいたときの企業クラブと比べれば、お客さん目線になってはいます」
彼らが何か難しいこと、特殊なことを広めようとしているわけではない。恋塚は川崎フロンターレ、アルバルク東京のプロモーションをこう振り返る。
「当たり前のことを当たり前にやるだけです。例えばアルバルクなら地域にちゃんと目を向ける、集客のためにプロモーションを打つ、広報する、地域に働きかける……といったことでした。やっていないだけだったので、やれば結果が出ました」
言ってしまえばSVリーグ女子も今は「当たり前のことを当たり前にやる」だけで大きく伸びる段階だ。天野は話を引き取ってこう続ける。 「実際のところ、抑えるポイントは決まっています。ホームタウンの自治体、地元スポンサー、地元メディア、町会、商店街、JC(青年会議所)、PTAと向き合うという、実に当たり前の話です」

「地域と集客」の意味とは? 「プロ」が成り立つ条件
バレーボール、しかも女子のカテゴリーで「プロ」が成り立つのか、疑問に思っているファンも少なからずいるだろう。しかし天野はその可能性をかなり高く評価している。
「地域スポーツの女子プロリーグは確かに世界を見てもあまり盛り上がっていません。でもSVリーグの女子にはポテンシャルがあります。世界中から有名な選手が来ているし、逆に日本代表が海外にあまり行きません。つまり野球やサッカーとは逆の流れを作ることができます。男子もそうですが世界ランキングは一桁ですし、日本代表戦は地上波でも中継があります。往年の選手も含めて名前が知られていて、春高バレーはあれだけ露出もある。ママさんバレーという『する』ものもあるし、学校の授業でもやっています。初めて来た人も分かりやすくて『なぜ今3点入ったの?』みたいなこともない。女子のバレーはスタイリッシュだし、ラリーも面白いし、みんなでつないで1点を取るために戦っていく競技性も魅力的ですね」
一方でSVリーグには課題もある。男子も含めた話だが「ファミリー層」「ライト層」の来やすい雰囲気を作るところは大切なポイントだろう。そのためには個を推す芸能的なカルチャーから、地域と結びついてクラブ自体が推されるカルチャーへの変容が問われる。
現状を見るとSVリーグ男子は女性客比率が4分の3ほどと多く、逆に女子は男性客比率が高い。選手をカメラで撮影するためにコートサイドの高価な席を買うファンは大切なお客だが、地域スポーツを目指すならばもっと広く支持される存在になる必要がある。
天野は「地域と集客」の意味をこう言葉にする。
「遠くの三ツ星レストランと地元にある定食屋があったとして、毎日行くなら定食屋ですよね。多く来ることを期待できるのは地域の人たちです。その人たちがお金を落としてくれなかったら、永続的なクラブ経営はできません。集客すなわち需要で、需要のあるクラブとは地域に愛されるクラブです。『地域の人たちに愛される』『地域を自分たちの力で元気にする、笑顔にする』という想いでやって、たくさんの方に来てもらうことが集客です」
エンターテインメント性の向上も重要だ。恋塚はこう強調する。
「『お客さんに楽しんでもらえるもの』がエンタメです。子どもたちが試合をずっと見ていたら、やはり飽きます。皆さんが飽きないために、楽しんでもらえるものをどう組み込んでいくかという話です。別にJリーグやBリーグを真似しなければいけないわけではないですけど、地域に根ざしてやっていくためには、地域を絡めないといけません。あとは『見ている人が、ただ見ているだけでなく参加する。参加して楽しんでもらえる、また来ようと思ってもらえる環境を作る』ことも大切です」
女子スポーツのプロとしてモデルケースを
川崎フロンターレはユニークなイベント、商店街への訪問、算数ドリルの作成といった広範な活動を通じて地域との接点を増やし、クラブの「価値」「需要」を高めた。それがチームの強化にも結びつき、2018年からは5年間で4度優勝という黄金時代に突入した。チームの強化は、需要が広がり、集客の成功したその先にあった。
天野は説く。
「需要は勝ち負けだけではありません。『勝っているから』だけでなく『地域に貢献してくれている』『身近にいる』と思ってもらえるような接点作りをクラブとしてやれば、勝敗だけではないところで評価され、価値が上がります」
恋塚は言う。
「女子スポーツのプロとしてモデルケースを作りたいので、バレーにトライしたかったという部分もあります。それはサッカー、バスケの女子を盛り上げていくことにもつながると思います」
【連載前編】川崎フロンターレの“成功”支えた天野春果と恋塚唯。「企業依存脱却」模索するスポーツ界で背負う新たな役割
<了>
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[PROFILE]
天野春果(あまの・はるか)
1971年生まれ、東京都出身。Two Wheel Sports代表。南葛SCプロモ部長、SVリーグ女子集客推進アドバイザー。1993年からワシントン州立大学でスポーツマネジメントを学び、1996年のアトランタ五輪にボランティア参加。翌年、川崎フロンターレに入社し、ホームタウン推進室でクラブの地域密着を推進。1998年に長野冬季五輪・バイアスロン会場競技役員に参加し、2002年に日韓ワールドカップ組織委員会に出向。同年、大会終了後にフロンターレに復職。2011年、プロモーション部部長に就任。2017年に東京オリンピック・パラリンピック組織委員会に出向。2020年にフロンターレに復職。2024年にフロンターレを退職し、Two Wheel Sportsを設立。
[PROFILE]
恋塚唯(こいづか・ゆい)
1973年生まれ、東京都出身。Two Wheel Sports取締役。SVリーグ女子集客推進アドバイザー。1997年より出版業界で編集に従事。2004年に川崎フロンターレに入社。2009年に営業部からプロモーション部へ異動。2014年にフロンターレを退職し、日本バスケットボールリーグに入社。翌年、事務局長に就任。2016年にアルバルク東京に入社し事業部長に就任。翌年、事業部長兼GMに就任。2023年に商社に入社し、2024年に退職。同年、Two Wheel Sportsを設立。
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