
なでしこJにニールセン新監督が授けた自信。「ミスをしないのは、チャレンジしていないということ」長野風花が語る変化
ニルス・ニールセン監督就任後、初陣となった「SheBelieves Cup(シービリーブスカップ)」で、初タイトルを獲得したなでしこジャパン。準備期間も限られた中で優勝できた理由について、中盤の軸を担った長野風花は「全員が自信を持ってチャレンジできた」と振り返る。ニールセン新監督は、その自信をどのようにチームに植えつけたのか? また、 戦術的にも若手選手が融合した新しいチームの形が見られた中、チームの雰囲気に変化はあったのだろうか。リバプールでプレーする長野に、海外組を中心に個のレベルアップが見られるなでしこジャパンの現在地と、ニルス・ジャパンの展望について語ってもらった。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=ロイター/アフロ)
士気を高めた指揮官の言葉「自分とチームを信じて」
――ニールセン監督はなでしこジャパンで初の外国人監督となりましたが、今大会でともに戦った印象はいかがですか?
長野:「本当に優しい方だな」という印象です。選手に自信を与えて、モチベーションを上げてくれる監督だと思いました。今大会中も常に「みんなすごくいい選手なんだから、自信を持って何も恐れず勇敢にプレーしてほしい」というメッセージを常々伝えてくれていたので、みんな自信を持ってプレーできたと思います。
――日本代表の密着動画「Team Cam」の中では「勇気を持って主導権を握ってほしい。君たちは僕が知っているほとんどのチームよりもずっと優れている」と選手に語りかけていたのが印象的でした。長野選手はニールセン監督の言葉で特に印象に残ったものはありますか?
長野:「ミスをしないことは、チャレンジをしていないということだ」という言葉や、「自分を信じて、チームを信じて戦ってほしい。勇敢に戦えば君たちは絶対にできる」というような言葉を、ミーティングや練習でも常々かけてくれていました。だからこそ「たとえチャレンジしてミスをしても、リスクを負わずにチャレンジしないほうが良くない」と思わされましたし、それを意識しながら一人一人がチャレンジできたからこそ、チームとしても個人でものびのびと良さを発揮できたんじゃないかと思います。
若手・新戦力も融合。「先輩・後輩という感じじゃない」
――籾木結花選手や宝田沙織選手、三浦成美選手など、久しぶりに代表のピッチに戻ってきた選手たちもスムーズな連係を見せていましたね。
長野:ニールセン監督が就任してから、新しいチームでまだ誰もポジションを確約されているわけではない状況ですが、みんな代表でも過去にプレーしたことがあるメンバーなので、お互いの特徴を知っている上でしっかりコミュニケーションも取れていたのは大きかったです。
――藤野あおば選手や浜野まいか選手、谷川萌々子選手、古賀塔子選手など、パリ五輪の時以上に下の世代が伸び伸びとプレーしているのも印象的でした。下の世代がうまく融合できるように心がけていることはありますか?
長野:みんな選手としても確かな実力を持っているし、年齢関係なく素晴らしい選手たちだと思います。キャラクターもそれぞれ可愛いし、積極的に話しかけてきてくれて、こっちからも話しかけやすい選手たちです。先輩・後輩という感じじゃなくて、チームとして一つになっている感じがすごくあるので、今は誰が出ても同じサッカーができる自信があります。
――中2日の連戦でゆっくり散歩する時間などは取れなかったと思いますが、チームの雰囲気はどうでしたか?
長野:それは(前監督の池田)太さんの時から変わらず、みんなご飯を食べ終わっているのに部屋に帰らずしゃべり続けていたり、雰囲気はすごく良かったです。海外でプレーしている選手が多いので、みんな久々の日本語がうれしくて、しゃべりたくて仕方ない感じもあって。どのテーブルでも話題が尽きず、食事が終わってもみんな部屋に帰ろうとしませんから(笑)。
――仲の良さが伝わってきますね。長野選手も普段は英語圏でプレーしていますが、ニールセン監督との英語でのコミュニケーションはどうですか?
長野:ニールセン監督の英語は聞き取りやすいですし、かなり分かりやすく伝えてくれるので、理解に困ることはないですね。英語はリバプールに移籍して1年目よりはしゃべれるようになったと思いますが、私はメディア向けみたいなきれいな英語がしゃべれないので、友達とコミュニケーションするぐらいのフランクな感じで使いながら、日々成長中です。
――今回の代表活動では、久々の日本語に喜びを感じました?
長野:楽しかったですね。エバートンのほのちゃん(林穂之香)が近くに住んでいるので、時々一緒にご飯行ったりすることはあるんですけど、毎日とはいかないですから。代表に行くと、活動期間中は「言いたいことが通じるー!」という感じで、何も気にせずにしゃべれる喜びがあります。
世界最高峰での挑戦。11人の日本人選手とともに
――長野選手は日本、韓国、アメリカ、そしてイングランドと、様々なカテゴリーやリーグで実績を残しながらステップアップしてきましたが、3年目に突入した女子スーパーリーグのレベルについてどう感じていますか?
長野:どのチームも目指すサッカーは違いますけど、それぞれのチームの良さがあって、どのチームと対戦しても簡単な試合が一つもないし、本当にレベルが高くてバランスがいいリーグだなと感じています。
――女子スーパーリーグでは現在12人の日本人選手がプレーしています。中盤で日本人対決が見られる機会も増えましたが、その影響をどんなふうに感じていますか?
長野:日本人選手は「気が利いて、よく周りが見える」という特徴を出せていると思いますし、各チームの主軸になっている選手たちの活躍に刺激を受けています。私ももっともっと頑張らないといけないな、と。
――リーグの他にFAカップやリーグカップなど、平日の試合も多いですし、国外での代表活動の移動も含めた連戦下でのコンディション調整には慣れてきましたか?
長野:そうですね。1年目(2023年)は代表で長時間フライトが多くて、帰ってきてすぐ試合をしてケガをしてしまうことがあったんですが、今はだいぶ慣れて、ケガも減りました。
積み重ねた先に見据えるワールドカップ
――4月には国内お披露目となるコロンビア戦、そして5、6月と2度の代表活動を挟んで、7月には東アジアE-1選手権があり、10月と11月にも代表活動が予定されています。ニルス・ジャパンの今後の展望について教えてください。
長野:何もかもが楽しみです。来年はアジアカップがありますし、ワールドカップ、オリンピックと続いていきますが、優勝したシービリーブスカップでは、「自分たちを信じてこのまま積み重ねていけば、ワールドカップやオリンピックでの優勝も手が届くところにある」と感じられました。そのタイトルを獲るために日々積み重ねていますし、個々がそれぞれの場所で成長しながら、チームとしても成長を続けていきたいです。
――4月6日のコロンビア戦がますます楽しみになりました。海外挑戦をする中での個人的なキャリアアップについては、どのように考えていますか?
長野:代表でもクラブでも自分が一生懸命やることは変わらないですし、まずは目の前のトレーニングや試合で、自分の課題と向き合ってコツコツ積み重ねていく中で、その先にワールドカップでのタイトルも見えてくると思います。そのために自分の良さをもっと伸ばして、2027年のワールドカップでは、一回りも二回りも大きくなってチームの勝利に貢献できる選手になりたいと思います。
――日本は2031年のワールドカップの招致を断念せざるを得なくなりましたが、代表への期待は今後さらに高まると思います。子どもたち向けの普及やトークショーなどでも積極的に活動をしている長野選手から、最後に女子サッカー選手を目指す子どもたちへのメッセージをお願いします。
長野:私自身が常に心がけているのは、「楽しむ」ことです。だからこそ、「サッカーって楽しいものなんだよ!」ということを子どもたちにもっと知ってほしいし、これからもその感覚は大切にしながらプレーしていくので、その姿を見てほしいですし、子どもたちと一緒に私も成長していけたらと思います。
【連載前編】新生なでしこジャパン、アメリカ戦で歴史的勝利の裏側。長野風花が見た“新スタイル”への挑戦
【連載後編】リバプール・長野風花が挑む3年目の戦い。「一瞬でファンになった」聖地で感じた“選手としての喜び”
<了>
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[PROFILE]
長野風花(ながの・ふうか)
1999年3月9日生まれ、東京都出身。女子サッカーのイングランド1部(女子スーパーリーグ)・リバプール・ウィメン所属。三菱重工浦和レッズレディースのジュニアユース、ユースを経て、2014年にトップチームに昇格。豊富な運動量と的確なポジショニング、広い視野を持ち柔らかいタッチから繰り出される決定的なパスで味方を生かす。2014年FIFA U-17女子ワールドカップ優勝、16年の同大会で準優勝(大会MVP受賞)、18年FIFA U-20女子ワールドカップ優勝などの実績を持ち、19歳でなでしこジャパンに初選出された。韓国の仁川現代製鉄、アメリカのノースカロライナ・カレッジ、そしてイングランドのリバプールと海外挑戦を続けながら成長し、23年FIFA女子ワールドカップと24年パリ五輪では10番を背負った。24年末に就任したニルス・ニールセン新監督の下で臨んだ今年2月のシービリーブスカップでも同背番号を背負い、優勝に貢献した。
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