
リバプール・長野風花が挑む3年目の戦い。「一瞬でファンになった」聖地で感じた“選手としての喜び”
今季、12名の日本人選手がプレーするイングランド・女子スーパーリーグ。名門・リバプールでプレーする長野風花は、3年目のシーズンを迎えている。昨季は4位でフィニッシュしたが、今季はケガ人が続出した前半戦の苦戦も響き、16試合を終えて6位。2月末にはマット・ビアード監督が解任され、暫定監督としてアンバー・ホワイトリー氏が就任した。守備的MFとして中盤に欠かせない存在となった背番号8は、今季の戦いぶりをどのように感じているのか。また、「リバプールの大ファン」を公言する長野にとって、理想とする選手像の変化や、同じクラブで戦う日本代表のキャプテン、遠藤航から受ける影響についても語ってもらった。
(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=ロイター/アフロ)
監督交代で再スタート。「ボールを大切にする」スタイルへ
――リバプールで3年目の今シーズン、2月にはマット・ビアード監督が退任し、アンバー・ホワイトリー監督が暫定で指揮を執ることになりました。現状をどんなふうに受け止めていますか?
長野:今年は難しいシーズンで、前半戦はケガ人が多くてまともに戦えないところがありました。ただ、そういう難しい状況でも何かを残せる選手でありたいとはいつも思っています。リバプールではアンカーでプレーしていますが、低い位置からいかに前線にボールを送れるかということや、失点しないためにディフェンスと連係していかに守れるか、個人の成長を突き詰めてやっていくしかないと思っています。
――強豪チームがひしめく中で、なかなかボールを持って試合を進めるのは難しいと思いますが、リバプールで周りの選手がボールを持った時に長野選手を見てくれる機会は増えたと思います。自分らしいプレーが出しやすくなっている手応えはありますか?
長野:そうですね。監督が代わって、新しいコーチはあまりボールを蹴らずに大切にしていきたい、と言っています。私自身は大きくポジションや役割が変わることはないと思いますが、しっかりチームメートとコミュニケーションを取りながら、要求するところは要求して、もっと自分のプレーを出していきたいと思っています。
試合を重ねてつかんだタイミング。小柄でも「戦える」選手に
――予測を生かしたプレーやワンタッチパス、目を見張るようなスルーパスは長野選手の代名詞とも言えると思いますが、デュエルや球際でもパワーアップした姿が見られます。毎週、強度の高い試合を重ねてきた中で、ボールの奪い方や体のぶつけ方でつかんだ手応えはありますか?
長野:最初の頃は、「なんだこのスピードは!」とか、相手の強さに圧倒されていた部分もありましたけど、トレーニングと試合を重ねる中で、相手からボールがちょっと離れたタイミングで当たりに行くプレーなど、奪えるタイミングは身についてきました。まだまだ足りない部分は多くありますが、そういう競り合いで勝てる場面が増えてきたのは感じています。「SheBelieves Cup(シービリーブスカップ)」で対戦したアメリカのリンジー・ヒープス選手には全然通用しなかったですけどね(苦笑)。そういう部分では、まだまだ成長できる実感も得ています。世界大会で強い相手と対戦する時には、中盤での強さは必ず求められるので、成長あるのみだなと。
――以前、印象に残った選手にマンチェスター・シティのセンターバックのアレックス・グリーンウッド選手を挙げていましたが、中盤のマッチアップで基準にしている選手はいますか?
長野:チェルシーの8番、エリン・カスバート選手です。そんなに高さはない(163cm)ですが、球際で戦える選手だし、強度が強い中でもガツンと行けるので、そういうところは私も身につけたいと思い、いつも注目して見ています。
――国内でプレーしていた時には、男子のバルセロナで黄金期を築いたシャビ・エルナンデス選手のプレー映像をよく見ていると話していましたが、目指す選手像に変化はありましたか?
長野:シャビ選手はずっと好きで、今もよく映像を見ています。最近だと、リバプールの(アレクシス・)マック・アリスター選手のプレーを参考にしています。生で試合を見てもサイズ的に大きくない(176cm)し、プレミアリーグの中では小柄なほうですが、うまくて強いので、戦う姿勢や技術は参考にしています。
――中盤では遠藤航選手がボール奪取の達人ですが、プレーを参考にしたりはしますか?
長野:もちろんです。私はリバブールの大ファンなので、遠藤選手のプレーも毎試合注目して見ています。スタジアムにもよく見に行きますし、行けない時は必ず映像で見ています。先日見たチャンピオンズリーグのパリ・サンジェルマン戦でも、遠藤選手が途中から入ってきて力強く相手にコンタクトしてボールを奪ったシーンなんかは「やっぱりすごいな!」と思いながら見ていました。そういう予測の部分やボールに対しての寄せ方は、いつも勉強させてもらっています。
聖地アンフィールドで聴いた歌声「鳥肌が立った」
――リバプールに住んで3年目ですが、街の印象はどうですか? おいしいお店は見つけました?
長野:リバプールは大都会という感じではないのですが、でも田舎町という感じでもなく、シティーセンターにも歩いて行けます。私にはちょうどいい雰囲気の街で居心地がすごくいいですし、人々もすごく優しくて、幸せな毎日を送っています。今はエバートンのほのちゃん(林穂之香)とお互いいい店を見つけたら一緒に行こうね、という感じで、この間はパエリアを食べに行きました。行きつけのお店は、私の家の近くにある日本食屋さんです。そこで遠藤航選手と食事会をしたこともありますし、南野拓実選手が在籍していた時も行っていたという噂を聞きました。リバプールでは唯一、日本食が食べられるところなので、定期的に通っています。
――女子は今季から1万8000人収容のトタリー・ウィッケッド・スタジアムをメインのホームスタジアムとして使用していますが、どうですか?
長野:自分たちのスタジアムという感覚に、ようやく慣れてきました。リバプールの都心からはちょっと遠いんですけど、設備も整っていて、すごくいい環境でやらせてもらっているので、残りの試合は全部勝ちたいです。
――昨年10月のマンチェスター・シティ戦など、大一番は6万人収容のアンフィールドで試合をすることもありますが、アンフィールドのピッチに立ってみてどんなふうに感じましたか?
長野:本当に幸せな気持ちになりました。私がリバプールに加入して初めてアンフィールドに行った時に「このチームは応援せざるを得ない」と思うぐらい、一瞬でファンになってしまったんです。それぐらい、サッカーを愛するリバプールの街やサポーター、アンフィールドの魅力は本当にたくさんあります。そのピッチに立てて、選手としての喜びを改めて感じた瞬間でした。
――リバプールの応援歌である「You’ll Never Walk Alone」を選手として聴くのは格別だったんじゃないですか?
長野:そうですね。いつも、男子の試合でたくさんのサポーターが「You’ll Never Walk Alone」を試合前に歌っているのを聴いて感動していたんですが、いざ自分がピッチの中で試合前にその歌声を聴いた時には鳥肌が立って、試合へのモチベーションがさらに高まりました。
――映像で見ていても鳥肌が立つぐらいですから、本当に特別な経験ですよね。最後に、3年目の今シーズン、残したい結果と目標を教えてください。
長野:まずは一戦一戦、チームの勝利に貢献することです。個人的にはまだゴールを決めていないので、残りの試合で狙っています。アンカーのポジションではチャンスも少ないと思いますが、そのワンチャンスでしっかり決めたいですね。(編注:3月15日のマンチェスター・ユナイテッド戦で移籍後初ゴールを決めた)
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<了>
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[PROFILE]
長野風花(ながの・ふうか)
1999年3月9日生まれ、東京都出身。女子サッカーのイングランド1部(女子スーパーリーグ)・リバプール・ウィメン所属。三菱重工浦和レッズレディースのジュニアユース、ユースを経て、2014年にトップチームに昇格。豊富な運動量と的確なポジショニング、広い視野を持ち柔らかいタッチから繰り出される決定的なパスで味方を生かす。2014年FIFA U-17女子ワールドカップ優勝、16年の同大会で準優勝(大会MVP受賞)、18年FIFA U-20女子ワールドカップ優勝などの実績を持ち、19歳でなでしこジャパンに初選出された。韓国の仁川現代製鉄、アメリカのノースカロライナ・カレッジ、そしてイングランドのリバプールと海外挑戦を続けながら成長し、23年FIFA女子ワールドカップと24年パリ五輪では10番を背負った。24年末に就任したニルス・ニールセン新監督の下で臨んだ今年2月のシービリーブスカップでも同背番号を背負い、優勝に貢献した。
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