ガンバ×セレッソ社長対談に見る、大阪ダービーの未来図。「世界に通用するクラブへ」両雄が描く育成、クラブ経営、グローバル戦略

Business
2025.07.04

1995年からスタートした、ガンバ大阪とセレッソ大阪による「大阪ダービー」。それからちょうど30年ということで、7月5日の大阪ダービーに合わせて、ガンバ大阪の水谷尚人社長とセレッソ大阪の日置貴之社長の対談をお届けする。後編では、同じ大阪で展開する育成の考え方、それぞれのグローバル戦略、そして来たるダービーへの意気込みについても語っていただいた。

(インタビュー・構成=宇都宮徹壱、トップ写真=アフロ、本文写真提供=(C)GAMBA OSAKA)

※前編はこちら

「競合するケースはある」アカデミーの立ち位置

──ここからはフットボール的な視点も交えて、お話を伺えればと思います。日置さんは、現場にあまり口を出さないとおっしゃっていましたが、水谷さんは現場との関わりという意味で、どんなコミュニケーションを意識されていますか?

水谷:僕も現場に対して「ああしろ、こうしろ」とは言わないです。もちろん、倫理的に問題があることはダメですが、サッカーの内容については基本的に現場に任せています。ただ、今日もそうですが、時間があれば練習を見に行ったり、監督と話したりしています。

日置:今、週に1〜2回ほど強化ミーティングに出席しています。やっているのは、過去の取り組みを論理的に整理したり、新しい考え方を取り入れたりする作業ですね。僕自身、サッカー経験はないですが、監督とは「困っていることがあれば教えてくれ」と毎週話をしています。そこで課題があれば、クラブとして解決していく形です。

──ガンバもセレッソも、アカデミーや育成面で長年にわたって多くの選手を輩出してきたクラブです。歴史的にはガンバがやや先行して、セレッソがそこにキャッチアップしてきた印象があります。選手獲得などで競合する場合はあると思うのですが、その点はいかがでしょうか?

水谷:競合するケースは、やっぱりありますね。ただ、実際に住んでみて感じたのは、北(ガンバ)と南(セレッソ)で、思った以上に分かれているということです。特に中学生の段階では、基本的に自宅から通える選手しか入れません。ですので、地元に根差した子どもたちが集まる構造になっていますね。高校になると寮があるので、もう少し広範囲から集まってきますが。

日置:こちらとしても、ガンバさんとの競合を避けるという意味で、クラブの特徴をもっと明確に打ち出していく必要があると思っています。「セレッソのアカデミーといえば?」と聞かれた時に、すぐにイメージが浮かぶような明確な軸を作りたい。そのために、ちょっとマーケティング的な言い方にはなりますが「ブランドづくり」も意識しています。

 スクールに関しては「誰もが楽しくサッカーに触れられる場所」にリニューアルしている最中です。一方でアカデミーは、プロを目指す環境として、ただうまい選手を育てるだけでなく「どこに行っても通用する人間力を持った人」を育てたいと考えています。

鎌田大地のような選手をいかにして生み出すか

──セレッソはガンバに、ガンバはセレッソに、それぞれない特徴を明確化することで、不必要なバッティングを防ぐということだと思いますが、そのための具体的な方策を言える範囲で教えていただけますでしょうか?

日置:今は毎週、アカデミーディレクターと議論しています。選手が大学に進んだり、海外に行ったりする中で、トップチームとのつながりも含めて、アカデミーを持つことの意義について再定義が求められていると思います。「どんな選手を育んでいくのか」について、クラブとしてしっかりコミットしていくことが求められていると強く感じます。

 そのためには、プロクラブがアカデミーを持つ意義が曖昧になってはいけないと思っていますし、そこはわれわれの責任だと捉えています。ただ、優秀な選手を輩出すればいいという話ではありません。ウチのアカデミー出身者が、企業の役員になってスポンサーになってくれることだってあるかもしれないし、自分の子どもをスタジアムに連れてきてくれる未来もあるわけですから。

水谷:ガンバの強みとしては、これまでに輩出してきた選手たちの存在ですね。親御さんたちも「自分の子がこうなれるかもしれない」と期待を持ってくれている。これは継続していかないといけないと思っています。ただし難しい面もあって、それはクラブとして明確な「カラー」や「スタイル」を持つ必要があるという点です。

 今のガンバは「攻撃的で常に主導権を握る」というテーマは持っているものの、サッカー自体が時代とともに変化していくものでもあります。昔のバルセロナと今のバルセロナでは、スタイルが変わっていますよね。そんな中、アカデミーに関しては個々のサッカーIQの高さ、足元の技術など、変えてはいけないベースはしっかり押さえていかなければならないと感じています。

日置:本当にそうですよね。自分の立ち位置を考えながら、柔軟に環境に対応できる選手が求められていると思います。どんなスタイルにも対応できる力を育成でどう身につけさせるか。すごく難しい課題ですが、日本代表の鎌田大地選手のように、試合中にフォーメーションを読み取りながらプレーを替えていける選手が、今後ますます重要になっていくんでしょうね。

水谷:鎌田選手、ガンバのジュニアユース出身なんですよ。

日置:そうですよね! 彼のような選手が国内外で長く活躍しているのを見ると「教えるとは何か?」をあらためて考えさせられます。今は単に「教える」というより「機会を提供する」ことのほうが重要なのかもしれません。

海外でもブランド浸透のガンバの強み、海外戦略の強化に取り組むセレッソ

──関西にはガンバ、セレッソ、ヴィッセル神戸、京都サンガF.C.と近隣に4つのJ1クラブがあって、それぞれがライバル関係にあります。単なる対戦だけではなく、「どちらが先に世界に名を馳せるか」という競争の側面もあるかと思います。クラブとしての世界戦略について、水谷さんはどのようにお考えでしょうか?

水谷:ガンバにとってありがたいのは、やはりパナソニックというグローバル企業が親会社であることですね。海外でもブランドが浸透しているので、それを活かさない手はありません。昨年、オランダのAFCアヤックスと提携し、今年1月には、アカデミーのコーチ13名が10日間、現地で研修を受けてきました。アヤックスの練習に参加したり、実際に指導してみたり、非常にいい刺激になりました。その流れで、U-17の国際大会「Future Cup」にも出場することができました。高校1年生くらいの選手たちがフィジカルで圧倒されながらも、ひるまずにボールを前に運んでいく姿を見て、非常に良い経験が積めていると感じました。

 アジアに関しては、タイのバンコク都との提携。これはサッカーに加え、巡回事業も一緒に展開しようという動きです。パナソニックの名前もあり、タイではある程度の認知もありますし、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)などで戦う際にも有利に働くでしょう。ちょうど今月から、バンコク都内で循環指導も始まるんですが、そうした活動を今後も広げていきたいです。

日置:こちらも今まさに、海外戦略の強化に取り組んでいるところです。Jクラブって、もっと大きくなってもいいと思っているんですよ。関西圏だけで2000万人のマーケットがあって、そこに複数のクラブがあるわけです。欧州の小さな都市と比べたら、僕らがもっと売上を伸ばしても不思議じゃないんですよ。

 しっかり育ててから海外クラブに移籍させて、トランスファー収入を得ていくための仕組みを確立しないといけない。同時に、Jリーグ全体としてのブランド価値を上げていくことも必要です。たとえば放映権の海外販売。もっとグローバルに売れるようになれば、物販や興行面でも波及効果が期待できます。そういう仕組みを作っていかなければならない時代に入っているんです。

「2月のダービーでは塩を…」「恥ずかしくない試合を」

──海外との提携を進める流れというのは、これまでは一部のクラブに限られていたかもしれませんが、今後はそうした競争が激しくなっていきそうですね。

日置:そうなんです。僕ら自身も、積極的に海外に出ていく必要があると感じています。昨年ブラジルに行ってきましたが、アカデミーの仕組みに大きな刺激を受けました。ヨーロッパでは、ドルトムントやロッテルダムにも足を運びました。

 現地でクラブマネジメントしている方々ともディスカッションをして、日本のサッカー界がどう進化していくべきかを考えさせられました。まるで明治時代の海外留学のような感覚で、世界を見て自分たちの立ち位置を把握していく。そういう時代なんだと思います。

水谷:日置さんがおっしゃるように、これからはクラブのフロントスタッフがグローバルに出ていく時代です。他のクラブでは、なかなか取り組めていない部分かもしれませんが、ガンバとしては積極的にチャレンジしていきたいですね。

日置:僕と水谷さんのように、親会社とは関係ない外部の人材がクラブ経営に入ってくる動きは今後、徐々に広がっていくかもしれませんね。他のジャンルや業界で得た知見を持ち込んで、新しい交差点を増やしていくことが大事です。

 特に今は、語学力や国際経験のあるプロ人材の採用が急務だと思います。データサイエンティストなどの専門職についても、われわれが無理してキャッチアップするのではなく、そうした人材を採用して能力を発揮しやすい環境を整えるべきだと考えています。

──ガンバとセレッソが、それぞれ異色の経歴の社長を迎えることで、どんな進化を遂げていくのか楽しみです。最後に、ダービーに向けての決意表明をお願いします。

水谷:2月のダービーでは塩を送りましたから(笑)、今回はしっかり勝ちたいです。クラブとサポーターが一体となって、全力で勝利を目指したいと思います。

日置:僕らフロントとしては、選手とサポーターが最高のパフォーマンスを出せるようサポートするだけです。結果がどうなるかはわかりませんが、胸を張って後に語り継がれるような、恥ずかしくない試合をお見せしたいと思います。

<了>

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[PROFILE]
水谷尚人(みずたに・なおひと)
1966年生まれ、東京都出身。Jリーグ・ガンバ大阪 代表取締役社長。早稲田大学を卒業後、リクルートへ入社。1992年より日本サッカー協会に転職し、1996年から2002年FIFAワールドカップ日本組織委員会に出向。2002年に株式会社SEA、翌年には株式会社SEA Globalを設立し代表取締役に就任。さらに、02年より湘南ベルマーレ強化部長、取締役、代表取締役社長を歴任。その後、2023年にJリーグのカテゴリーダイレクターに就任。2025年1月より現職。

[PROFILE]
日置貴之(ひおき・たかゆき)
1974年生まれ、東京都出身。Jリーグ・セレッソ大阪 代表取締役社長。大学を卒業後、株式会社博報堂に入社、その後FIFAマーケティングに転職し、2002年日韓ワールドカップのマーケティング業務に携わる。2003年にスポーツマーケティングジャパンを設立し代表取締役に就任。2010年よりアジアリーグアイスホッケーのH.C.栃木日光アイスバックスの取締役GMを務める。2013年よりNFLJAPANリエゾンオフィス代表も兼務。2014年より東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会に関わり、2020年東京五輪では開会式と閉会式でエグゼクティブプロデューサーを務めた。2025年4月より現職。

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