巨人・高橋優貴 59年ぶり快挙のドラ1左腕が醸し出す独特の大物感
読売ジャイアンツの大卒新人として59年ぶりの初登板初勝利という鮮烈デビューを飾り、その後も先発ローテーションの一角として好調ジャイアンツを支えている高橋優貴。ファン待望の即戦力投手は将来のエース候補に名乗りを挙げるのか? 疑う余地のないポテンシャルを持つドラ1左腕は大学時代に見られた「ムラッ気」を克服しつつある。
(文=菊地高弘、写真=Getty Images)
疑いようのないポテンシャル しかし「こんなに早く」とは
一般的に大卒ドラフト1位の投手には、「即戦力」としての役割が期待されるものだ。
昨秋のドラフト会議で八戸学院大から巨人に1位指名されたサウスポー・高橋優貴にそんな期待を抱いた巨人ファンは多かったに違いない。
高橋は春季キャンプから順調に調整をこなし、開幕ローテーションに加わった。5月24日現在、7試合に登板して3勝2敗、防御率2.45の好成績を収めている。立派に「即戦力」としての働きを収めていると言っていいだろう。
しかし、大学時代の高橋を見たことがある者からすれば、「こんなに早く戦力になるとは思わなかった」というのが正直な実感なのではないだろうか。
潜在能力は疑いようがないほど高い。しっかりと指にかかった渾身の1球は、うなるように捕手のミットに突き刺さり、迫力と強さが違う。その快速球と同じ軌道から曲がるスライダーを混ぜるのだから、奪三振数はおのずと増えていく。大学4年間を通じて、北東北大学リーグ新記録となる301奪三振をマークした。
ドラフト1位の評価は、高橋の「最大値」を知れば当然にも思える。だが、高橋の「最低値」を知ると、とたんに不安に襲われてしまう。
八戸学院大の正村公弘監督は昨春、こう言っていたものだ。
「自分の気持ちを安定させることができれば、もっといいピッチャーになれるんですけどね……」
「最大値」の輝きを見せながらムラッ気があった大学時代
素晴らしい球を投げていたと思ったら、突然ボールが走らなくなる。コントロールを乱す。高橋という投手は、常にムラっ気と隣合わせにいた。だから抜群の能力を持ちながらも、大学4年間で北東北大学リーグでは一度も優勝できず、ライバル・富士大の後塵を拝するシーズンが続いた。
大学時代、正村監督は、高橋にこんな懇願めいたアドバイスを送っていた。
「頼むから三振を狙うなと、お願いするレベルです(笑)。今まで力みまくって、あいつで負けてきていますから。でも、力を入れなくてもだいたい(バッターを)差し込めるので、もっとリラックスして投げてほしいんです」
正村監督自身、NTT東京(現NTT東日本)で活躍した左腕だった。投手指導に定評があり、これまで青山浩二(楽天)ら数々の好投手をプロへと送り込んでいる。昨夏の甲子園で大フィーバーを巻き起こした金足農・吉田輝星(現日本ハム)を指導し、開花へと導いたことでも知られている。
高橋は、東京の東海大菅生から青森の八戸学院大へと進んだ理由を、「同じ左ピッチャーであり、経験のある正村監督の指導を受けたい」という希望があったからと公言している。
正村監督の指導を受けたことで、ストレートの球速は最速152キロまで向上。マウンドでの心得など、投げる技術以外のことも学んだ。だが、自分自身をコントロールすることにかけては、4年間では時間が足りなかったのかもしれない。
高橋は大学4年時、こんなことを言っていた。
「ユニホームを着て、マウンドに立つとスイッチが入るんです。カーっとなることもあるんですけど、それはよくないので、なるべく冷静に投げられるようになりたいですね」
マウンドを降りれば、高橋は穏やかな口調で自分自身を振り返ることができる。しかし、ひとたびマウンドに立つと、良くも悪くも入り込みすぎてしまう。それが大学時代の高橋という投手だった。
独特の感覚、雰囲気に漂う大物感 新エースへの道は?
高橋はドラフト1位、しかも巨人というNPB屈指の人気球団に入団した。大学時代とは比べ物にならないほど結果が求められ、プレッシャーがかかるプロの世界で、果たして高橋は1年目から力を発揮できるのか。その意味では、スカウトを含めて懐疑的な見方をしていた人間は多かったはずだ。
ところが、高橋は意外にも好スタートを切った。4月4日の阪神戦(東京ドーム)でプロ初登板初先発。阪神ファンだった祖父の影響で、阪神戦を見て育ったという高橋は、縁のあるチームを相手に6イニングを投げ抜き、被安打4、奪三振5、与四死球1と安定した投球で1失点に抑えた。打線の大量リードにも守られ勝利投手に。巨人の大卒新人がプロ初登板初先発で勝利を挙げるのは、なんと59年ぶりのことだった。アマチュア時代に全国大会経験すらない高橋が、「伝統の一戦」でいきなり勝利投手になってしまったのだ。
その後も先発投手として毎試合5イニング以上を投げるなど、着実にゲームを作り続けている。ややコントロールに難はありながらも、結果を残しているのは大学時代の苦労が糧になっているからではないか。また、今さらながら高橋優貴という選手の器がそれだけ大きかったという証明でもあるだろう。
もちろん、プロは年間通して活躍してこそ初めて一流と認められる。好不調の波が激しい高橋にとっては、これから試練の連続が訪れるに違いない。仮にプロの壁に当たったとしても、高橋の長い野球人生の貴重な養分になるはずだ。
ちなみに、筆者が大学時代の高橋を見た試合では、高橋は七分袖のアンダーシャツを着てプレーしていた。その理由を聞くと、こんな答えが返ってきた。
「投げているうちに袖をめくるクセがあって、長袖だとめくりやすいじゃないですか。七分袖ならめくらずに済むので」
その理由が今ひとつ理解できなかった。要は袖をめくる煩わしさ、不快感から逃れるために七分袖にしているようだ。話を聞きながら、「不思議な感覚の持ち主だな……」と思わずにはいられなかった。
独特の大物感を醸し出す高橋なら、もしかして……。秋が深まる頃、新人王争いに高橋が加わっているかもしれない。そんな淡い希望が早くもふくらみ始めている。
<了>
PROFILE
高橋優貴(たかはし ゆうき)
勝田スポーツ少年団で野球を始め、友部リトルシニアから東海大菅生高校へ。1年夏からベンチ入りしたが、甲子園出場はならず。八戸学院大学に進み、多和田真三郎(現・西武ライオンズ)の持つ奪三振記録を更新。2018年のドラフト会議で読売ジャイアンツに1位指名を受け入団。2019シーズン開幕ローテ入りを果たし、大卒新人としてチーム59年ぶりの初登板初勝利を飾った。
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