女子W杯の優勝賞金は、男子W杯のGS敗退以下? 比較で知る賞金・代表ボーナスの格差
開幕目前となったFIFA女子ワールドカップ フランス大会。国際サッカー連盟(FIFA)のジャンニ・インファンティーノ会長は、今大会の賞金総額を「倍増」させると発表している。2018年に開催された男子のFIFAワールドカップの優勝賞金は3800万ドル(約41億8000万円)だったが、女子の賞金額はいくらになるのだろうか――?
(文=池田敏明)
米国女子代表のアレックス・モーガンの年収は約300万ドル
2019年6月7日(日本時間6月8日)、フランスでFIFA女子ワールドカップが開幕する。大会は通算8度目となり、なでしこジャパンは8大会連続の出場となる。2011年のドイツ大会では初優勝を飾って「なでしこブーム」を巻き起こし、前回の2015年カナダ大会は決勝でアメリカに敗れ、連覇を逃した。
高倉麻子監督は2011年大会優勝を経験した阪口夢穂や鮫島彩らに加え、監督自身が率いて2014年のU-17ワールドカップを制したチームから長谷川唯や杉田妃和、さらには2018年のU-20ワールドカップ優勝メンバーから南萌華や遠藤純も加えた“3世代融合”のチームで、2大会ぶりの世界制覇に挑むこととなる。
ところで、サッカーは選手の男女格差が非常に大きな競技とされている。日本人プレーヤーを見ても、男子選手はJリーグのトップクラスで1億円以上を稼ぎ、ヨーロッパのクラブに移籍すれば数億円の年俸に加え、企業とのスポンサー契約でさらに多くの年収を稼ぎ出すことができる。
一方、なでしこリーグではプロとして活動している選手はわずかで、大半は所属クラブや提携する企業でスタッフとして働きながらサッカーに従事している。世界に目を転じると、アメリカ女子代表のアレックス・モーガンは年収が約300万ドル(約3億3000万円)といわれているが、彼女はその美貌やスタイルの良さを生かしてモデルとしても活動しており、収入の9割近くがスポンサー契約などによる収入だ。
所属するリヨンはUEFA女子チャンピオンズリーグを最多6度も優勝する欧州屈指の強豪にもかかわらず、クラブから得ている年俸は数十万ドル程度と見られており、男子選手と比べると、やはり大きな差があるといえるだろう。
このような状況の改善に向け、国際サッカー連盟(FIFA)のジャンニ・インファンティーノ会長は昨年10月、「2019年女子ワールドカップの賞金総額を、2015年大会から倍増させる」と明らかにした。「倍増」と聞くといかにも気前のいい話だが、いったいいくらになったのだろうか。
女子の優勝賞金は、男子のGS敗退以下
参考までに男子の大会の話をすると、2018年ロシアワールドカップの賞金は以下のとおりだった。なお、1ドルは110円で換算している。
優勝 :3800万ドル(41億8000万円)
準優勝 :2800万ドル(30億8000万円)
3位 :2400万ドル(26億4000万円)
4位 :2200万ドル(24億2000万円)
ベスト8:1600万ドル(17億6000万円)
ベスト16:1200万ドル(13億2000万円)
GS敗退:800万ドル(8億8000万円)
準備金 :150万ドル(1億6500万円)
優勝したフランスは3800万ドル、準優勝のクロアチアは2800万ドルの賞金を手にしており、他に大会に参加することで支払われる準備金の150万ドルもこれに加算された。
ベスト16に進出した日本は1200万ドル+150万ドル、2014年ブラジル大会で優勝しながらまさかのグループステージ敗退を喫したドイツは800万ドル+150万ドルという金額だった。優勝賞金に関しては、2014年ブラジル大会から300万ドルも増額されている。
では、女子ワールドカップの賞金はどうなのか。2019年大会の各順位の賞金額はまだ明らかにされていないので、参考までに2015年大会の賞金額を見てみよう。
優勝 :200万ドル(2億2000万円)
準優勝 :140万ドル(1億5400万円)
3位 :70万ドル(7700万円)
4位 :70万ドル(7700万円)
ベスト8:40万ドル(4400万円)
ベスト16:20万ドル(2200万円)
GS敗退:10万ドル(1100万円)
準備金 :20万ドル(2200万円)
「わずか」という表現が適切かどうかはわからないが、2015年大会を制したアメリカ女子代表が手にしたのはわずか200万ドル。2018年ロシアワールドカップでフランス男子代表が手にした優勝賞金と比べると19分の1という金額であり、男子の準備金150万ドルと大差はない。
インファンティーノ会長が名言したように「倍増」となれば、2019年大会の優勝賞金は単純計算で400万ドルということになるが、それでも2018年ロシア大会で男子のグループステージ敗退チームに支払われた800万ドルの半額という数字だ
JFAから代表選手への報酬支払は?
また、こうした賞金や準備金はあくまでFIFAから各国のサッカー協会、サッカー連盟に支払われるものであり、全額が選手やスタッフで分配されるわけではない。
2015年大会で日本は準優勝となり、140万ドルの賞金を手にしたが、この時は日本サッカー協会(JFA)が選手一人ひとりに対して「特別ボーナス」として300万円ずつを支給したという。
再び男子代表を例に挙げると、JFAは2011年2月に公表した「日本代表選手ペイメント問題に対する当協会の考え」という文書の中で、男子代表選手に対する報酬の支払いについて以下のような金額(すべて1人あたり)を公表している。
日当:1日1万円
W杯の勝利ボーナス:200万円
W杯の大会ボーナス:優勝…5000万円、2位…3000万円、3位…2000万円、ベスト4…1000万円、ベスト8…800万円、ベスト16…600万円
女子代表については、これらの金額は公表されていない。2015年大会で準優勝した女子代表の場合、日当や勝利ボーナス、大会ボーナスが支払われた上での特別ボーナス300万円だという。
日当については男子と同等の金額だと推察できるが、特別ボーナスが「特別」であるためには、勝利ボーナスや大会ボーナスが男子と同等の額とは考えにくい。
もちろん賞金のためにワールドカップを戦うわけではないと思うが、男女の格差はまだまだ大きいといえる。
<了>
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
33歳で欧州初挑戦、谷口彰悟が覆すキャリアの常識「ステップアップを狙っている。これからもギラギラしていく」
2024.10.10Career -
海外ビッグクラブを目指す10代に求められる“備え”とは? バルサへ逸材輩出した羽毛勇斗監督が語る「世界で戦えるマインド」
2024.10.09Training -
「周りを笑顔にする」さくらジャパン・及川栞の笑顔と健康美の原点。キャリア最大の逆境乗り越えた“伝える”力
2024.10.08Career -
バルサのカンテラ加入・西山芯太を育てたFC PORTAの育成哲学。学校で教えられない「楽しさ」の本質と世界基準
2024.10.07Training -
「ホッケー界が一歩前進できた」さくらジャパンがつかんだ12年ぶりの勝利。守備の要・及川栞がパリに刻んだ足跡
2024.10.07Career -
9歳で“飛び級”バルサ下部組織へ。久保建英、中井卓大に続く「神童」西山芯太の人間的魅力とは
2024.10.04Career -
高知ユナイテッドSCは「Jなし県」を悲願の舞台に導けるか? 「サッカー不毛の地」高知県に起きた大きな変化
2024.10.04Opinion -
なぜ日本人は凱旋門賞を愛するのか? 日本調教馬シンエンペラーの挑戦、その可能性とドラマ性
2024.10.04Opinion -
佐伯夕利子がビジャレアルの指導改革で気づいた“自分を疑う力”。選手が「何を感じ、何を求めているのか」
2024.10.04Training -
デ・ゼルビが起こした革新と新規軸。ペップが「唯一のもの」と絶賛し、三笘薫を飛躍させた新時代のサッカースタイルを紐解く
2024.10.02Opinion -
男子バレー、パリ五輪・イタリア戦の真相。日本代表コーチ伊藤健士が語る激闘「もしも最後、石川が後衛にいれば」
2024.09.27Opinion -
なぜ躍進を続けてきた日本男子バレーはパリ五輪で苦しんだのか? 日本代表を10年間支えてきた代表コーチの証言
2024.09.27Opinion
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
浦和サポが呆気に取られてブーイングを忘れた伝説の企画「メーカブー誕生祭」。担当者が「間違っていた」と語った意外過ぎる理由
2024.09.04Business -
スポーツ界の課題と向き合い、世界一を目指すヴォレアス北海道。「試合会場でジャンクフードを食べるのは不健全」
2024.08.23Business -
バレーボール最速昇格成し遂げた“SVリーグの異端児”。旭川初のプロスポーツチーム・ヴォレアス北海道の挑戦
2024.08.22Business -
なぜ南米選手権、クラブW杯、北中米W杯がアメリカ開催となったのか? 現地専門家が語る米国の底力
2024.07.03Business -
ハワイがサッカー界の「ラストマーケット」? プロスポーツがない超人気観光地が秘める無限の可能性
2024.07.01Business -
「学校教育にとどまらない、無限の可能性を」スポーツ庁・室伏長官がオープンイノベーションを推進する理由
2024.03.25Business -
なぜDAZNは当時、次なる市場に日本を選んだのか? 当事者が語るJリーグの「DAZN元年」
2024.03.15Business -
Jリーグ開幕から20年を経て泥沼に陥った混迷時代。ビジネスマン村井満が必要とされた理由
2024.03.01Business -
歴代Jチェアマンを振り返ると浮かび上がる村井満の異端。「伏線めいた」川淵三郎との出会い
2024.03.01Business -
アトレチコ鈴鹿クラブ誕生物語。元Jリーガー社長が主導し「地元に愛される育成型クラブ」へ
2024.01.12Business -
決勝はABEMAで生中継。本田圭佑が立ち上げた“何度でも挑戦できる”U-10サッカー大会「4v4」とは
2023.12.13Business -
アメリカで“女子スポーツ史上最大のメディア投資”が実現。米在住の元WEリーグチェアに聞く成功の裏側
2023.12.12Business