8部から4年でJFLへ! いわきFCが揺るがない「昇格することを目的化しない」姿勢

Business
2019.11.25

11月8日に開幕した全国地域サッカーチャンピオンズリーグ2019はいわきFCの優勝で幕を閉じ、JFL昇格が内定した。4年前に福島県2部(実質8部)からスタートしたいわきFCは、いよいよ全国リーグに挑戦することになった。

一方で、いわきFCはJFLやJリーグの要件となっている天然芝のホームスタジアムがないという問題点を抱えている。この問題を大倉智代表はどう考えているのか? そこには、日本のサッカー界に一石を投じることになるかもしれない、“フットボール伝統国では当たり前” のスタンスがあった。

(文・写真=宇都宮徹壱)

吹きさらしのグラウンドからJFLへ

「ついに」と言うべきか、それとも「やっと」と言うべきか、いわきFCが全国リーグに到達した。地域リーグからJFLに昇格するために、避けては通れない狭き門。それが全国地域サッカーチャンピオンズリーグ(地域CL)だ。東北リーグで無双を誇るいわきFCは、大会初出場ながら、その狭き門を軽々と乗り越えてしまった。私自身、このクラブの立ち上げから折に触れて取材してきたが、ここまでのスピード感は正直なところ想定外であった。

地域CLは、12チームを3グループに分けて行われて1次ラウンドを戦い、各グループの1位と最も成績の良い2位1チームの計4チームが決勝ラウンドに進出。上位2チームがJFL昇格となる。今大会でいわきFCは、関東リーグ優勝のVONDS市原FCや全国社会人サッカー選手権大会(全社)優勝のFCティアモ枚方と同組になりながら、1次ラウンドを1位通過。決勝ラウンドでも、高知ユナイテッドSCに3-0、おこしやす京都ACに1-0、福井ユナイテッドFCに1-1とし、文句なしの優勝でJFL昇格に花を添えた。

「うれしいですし、ホッとしましたね。この大会の難しさというのは、話には聞いていました。『まずは経験してみないと』という思いはあったんですけど、初めての挑戦で昇格できるとは思ってもみなかったです。ただ、1次ラウンドが(秋田県の)仁賀保グリーンフィールドで、決勝ラウンドがJヴィレッジスタジアムというのは大きかったですね。1次ラウンドの時も『Jヴィレッジに戻るんだ!』ということで、チームの意思統一ができていましたし」

そう語るのは、いわきFCの大倉智代表である。今から4年前の2015年12月、湘南ベルマーレの社長職を辞し、株式会社ドーム(アンダーアーマーの日本における総代理店)が経営権を取得した、福島県2部のアマチュアクラブの代表となった。ドームの多大なる支援のもと、人工芝の練習場であるいわきFCフィールドが完成したのは、それから1年後のこと。商業スペースを併設したクラブハウス、いわきFCパークのオープンはさらに半年後である。何もない吹きさらしのグラウンドから、大倉代表といわきFCの挑戦は始まった。

なぜいわきFCは「飛び級」を使わなかったのか?

Jリーグ以下のカテゴリーに馴染みのないサッカーファンにとり、いわきFCの存在を初めて知るきっかけとなったのが2017年の天皇杯2回戦。この試合でいわきFCは、北海道コンサドーレ札幌を延長戦の末に5-2で破っている。結果もさることながら、J1クラブさえも圧倒するフィジカルと走力に注目が集まり、「ボールを使った練習よりもストレングスとランニングの強化がメイン」というユニークな方針も話題となった。

その当時、いわきFCは東北リーグのさらに下の福島県1部で活動していた。現体制になってからの4シーズン、いわきFCは県2部、県1部、東北2部、そして東北1部と、一段ずつ階段を踏みしめながら、ようやく全国リーグにたどり着いたのである。ちなみに今季のリーグ戦の戦績は、15勝3分0敗で得点104の失点4。これだけ圧倒的な力を持ちながら、飛び級制度を行使してJFLを目指すことは考えなかったのだろうか。私の疑問に対する、大倉代表の答えはこうだ。

「実際のところ、飛び級を考えていたこともあったんですよ。県1部の時の全社で勝ち上がって、地域CLに出場していたら、その可能性もあったわけですから。結果的にそうはならなくて、去年からは(制度変更で)飛び級もできなくなってしまいましたけど、それで落胆することはなかったですね。むしろ東北リーグのチャンピオンとして、地域CLに臨みたかったし、東北を代表するチームとして昇格できたのは誇りに思っています」

この発言ひとつとっても、いわきFCが他の「上を目指すクラブ」と明確に一線を画していることが理解できるだろう。昇格は、勝利を積み重ねた結果であり、それ自体が目的ではない。いわきFCが第一に目指しているのは、東日本大震災で打ちひしがれた地域に、スポーツの力で活力を与えることにある。派手な話題ばかりが先行しているが、実は非常に実直で芯の通ったクラブであると私は常々感じている。

いよいよ全国へ。その一方で抱える課題とは

いわきFCのJFL昇格内定が決まった11月22日、Twitterのトレンドに「いわきFC」が入った。これには大倉代表も驚いたようで、「僕らが昇格することへの期待感がすごいけど、なぜなんでしょうね?」と不思議がっていた。真相は、実にシンプルだと思う。サッカーファンは、いわきFCのサッカーを現場で見てみたいのだ。これまでは、東北まで足を伸ばさないと見られなかったが、来年からはいよいよ全国展開。東京や大阪にも、いわきFCはやって来るのである。そのインパクトは、決して小さくはないはずだ。

一方で気になるのが、ホームゲームを開催するスタジアムである。東北リーグまでは、人工芝のいわきFCフィールドを使用していたが、JFLでは天然芝のグラウンドでの開催が義務づけられている。さらにJ3ライセンスを取得するのであれば、スタジアム基準についてもクリアしなければならない。いわきFCの場合、市内に夜間照明があるスタジアムがないため、天皇杯のホームゲーム開催が認められなかった苦い経験があった。この件については、大倉代表はどう考えているのだろう。

「当面、いわきグリーンフィールドやJヴィレッジを会場として使用させていただくことで検討しています。われわれは復興のチームなので、近い将来、ホームタウンを広げる可能性もあるかもしれない。そういうことを言うと、たまに『Jリーグに行ったら、いわきから出ていくんですか?』と聞かれたりするんですが(苦笑)、もちろんそんなことはないですよ」

その一方で、来季の編成については「見直す」とも。基本的にいわきFCの選手は、ドームの物流倉庫で働きながらプレーを続けている。しかし今後は、プロ契約の選手を増やすことも視野に入れながら、チーム編成を再検討する方向で考えているという。「これまで風呂敷を広げすぎた感がありました。今後は『選択と集中』をしていく必要があると思います」と大倉代表。それ以上の言及はなかったが、立ち上げから5シーズン目を前に「そろそろ自分の足で立てるように」という、ある種の決意表明のようなものは感じられた。

「昇格することを目的化しない」いわきFCの姿勢

JFLへの昇格が決まれば、いずれはJリーグを意識せざるを得なくなる。いわきFCの場合、他の上を目指すクラブのように「○年までにJリーグへ」という言葉を一度も発したことはない(むしろ、あえて言及を避けてきたようにさえ感じられる)。もちろんJFLは簡単なリーグではないが、全国リーグの環境に慣れてライセンスも下りれば、将来のJリーグ入りはリアルな話になってくるはずだ。

「自分の中ではJ3と、そこから上との間には、大きな開きがあると思っています。将来的にJ3に上がって、さらにJ2がリアルに見えてきたら、会社の方針を替えていく必要があるかもしれないですね。例えば、育成型クラブとしてタレントを輩出しながら、浜通りの立地を生かしてJFAアカデミー福島と密に連携していくとか。『いわきFCって、いい選手が育つよね』という評価が得られれば、そこに投資する企業も出てくると考えています」

その上で大倉代表は、会社の方針は変わったとしても、クラブとしての基本姿勢を変えていくつもりはないと断言する。それはすなわち「昇格することを目的化しない」ということだ。どういうことなのか、具体的に説明してもらおう。

「Jリーグの問題点として、『いついつまでに昇格しなければならない』とか『(そのために)スタジアムを作らないといけない』というものがあると思うんです。われわれとしては、そこに巻き込まれたくないというのが正直ありますね(苦笑)。もちろん、われわれもJリーグ仕様の新スタジアムを計画しています。けれども、昇格ありき、スタジアムありきのスタンスではないんですよ」

実力と実績を積み重ねていけば、やがてファンやスポンサーが付き、自ずとカテゴリーも上がっていく。それが、いわきFCの基本スタンスである。もちろん、フットボールの伝統国では、当たり前の話だ。むしろ「何が何でも上のカテゴリーへ」という、これまでの日本サッカーのあり方自体に、問題があったと言えるのではないか。その意味で、今回のいわきFCのJFL昇格は、一石を投じるものになるのかもしれない。

<了>

岩政大樹と渡邉大剛が語る「1.5キャリア」 アマチュアでプレーする意義と苦労とは 

収益倍増、観客数3倍、J2昇格! FC琉球を快進撃に導いた社長はなぜ2年で交代したのか? 

岡田武史がFC今治で見せる独自の組織論とは?“経営者”としての信念と、未来への挑戦 

石川直宏、引退してなお深まるFC東京への愛情「必ずその先にクラブを強くしたい想いがある」 

FC今治J3昇格は、『27』に引き寄せられた。橋本英郎と岡田武史の「絆」の物語

この記事をシェア

KEYWORD

#INTERVIEW

LATEST

最新の記事

RECOMMENDED

おすすめの記事