Bリーグのアカデミー出身者が高校バスケで活躍? これから求められる育成環境の更なる整備

Education
2021.01.08

高校バスケットボールにおける最大のビッグタイトル「ウインターカップ」。2020年末の男子決勝では接戦の末に仙台大学附属明成が東山を退け、3年ぶりの優勝を飾っている。今大会は中学時にBリーグの大会で活躍した選手が華やかな活躍を見せた一方で、Bリーグのアカデミー整備は過渡期にある。

(文=大島和人、写真提供=日本バスケットボール協会)

Bリーグの育成組織を経験した選手の活躍が目立った大会

高校バスケで活躍した選手が、Bリーグにやってくる。それは当然の進路だ。ただ昨年12月に開催されたウインターカップは逆に、Bリーグの育成組織でプレーした選手の活躍が目立った。

昨年12月29日に行われた男子決勝戦は、仙台大学附属明成が東山を72-70で下して優勝を決めた。明成のエースは山﨑一渉で、2年生ながら決勝で25点、準決勝で16点、準々決勝で29得点を挙げている。

準々決勝以降の3試合はいずれも外国人留学生を擁する相手との対戦だったが、山﨑は守備で彼らを封じ、リバウンドで体を張りつつ、内外角からの得点を量産した。199センチの長身で、ギニア人の父を持つ彼はメディアから「八村塁二世」の二つ名で呼ばれることも多い。山﨑は松戸市立第一中バスケットボール部の出身だが、夏の大会後に千葉ジェッツU15でプレーしていた。

準優勝を果たした東山の中川泰志も、Fイーグルス名古屋U15でプレーし、2017年8月の「BリーグU15チャンピオンシップ」ではMVPに輝いた。190センチを超す長身ながら中学時代も今も3ポイントシュートを武器としている。

BリーグU15チャンピオンシップは昨年度から開催時期を冬に移したが、2020年1月の同大会でMVPを受賞したのが星川開聖(宇都宮ブレックスU15→洛南高)だ。彼は高1から名門・洛南の主力となり、12月のウインターカップは準決勝進出に貢献した。

2020年2月の韓国遠征に参加したBリーグ U15選抜チームのメンバーは他にも福岡大学附属大濠、中部大学第一のような強豪校に進んでいる。加藤律輝(山形ワイヴァンズU15→羽黒高)も1年生ながら、今大会で鮮烈なプレーを見せていた。

ただし、高校バスケの逸材を「Bリーグが育てた」と評するのは明らかに早計だろう。Bリーグの育成組織は体制整備を進めている途上で、端的にいえば過渡期だ。

Bリーグの育成組織が強化に貢献したとはいえない

日本バスケットボール協会(JBA)は2014年秋、国際バスケットボール連盟(FIBA)による制裁処分を受けた。そしてFIBAの介入や川淵三郎チェアマンが率いる「ジャパン2024タスクフォース」の動きから、さまざまな改革がスタートされた。FIBAから与えられた“宿題”の一つが強化で、Bリーグのアカデミー組織整備もその一貫。Bリーグは中学生(U15)年代から、取り組みをスタートしている。

横浜ビー・コルセアーズ、宇都宮ブレックスのようにBリーグ設立前からアカデミーの整備を進めていたクラブはある。またBリーグと無関係に、バスケ界には中学生年代のスクール、クラブチームが以前から活動をしていた。一方で大半のBリーグ勢はライセンスによる義務付けを受け、2018年4月のタイムリミットに合わせてアカデミー組織を立ち上げた。

また暫定措置として選手の多重登録が認められている。2017年夏の大会でMVPに輝いた中川泰志は刈谷市立朝日中でプレーしつつ、それと別に東海市ジュニアバスケットボールクラブで週3回の練習を行っていた。

さらに夏の大会のみ「ジュニア連盟のチームからレンタル」という扱いでFE名古屋U15の活動に参加。愛知はクラブチームの活動が盛んで能力の高い選手が多く、その力を得たFE名古屋U15は即席編成で第1回のBリーグU15チャンピオンシップを制した。確かに大舞台の経験値を提供したのはBリーグだ。しかし数回の練習参加では、Bリーグの育成組織が強化に貢献したとはいえない。

Bリーグのアカデミーで育つ選手が増えていく未来

山﨑、星川は中3の夏からBリーグのアカデミーに移って練習を積んだ。バスケ部に限らない話だが、中学校の部活は一般的に夏が引退の時期で、秋以降は新チームに切り替わる。3年生にとっては、その期間が育成のブランクとなっていた。

Bリーグのアカデミーへの短期移籍でレベルの高い仲間と切磋琢磨し、プロの指導者に見てもらえる。選手にとって最高の練習は実戦だが、リーグ戦や大会の整備も進んでいる。このような環境整備は間違いなくプラスで、彼らの成長にもある程度の寄与はしているだろう。

2021年4月からはトップチームの特別指定選手を除いて、部活とクラブの二重登録が禁止になる。筆者の知る限りレバンガ北海道、宇都宮ブレックス、アルバルク東京、琉球ゴールデンキングスといったBリーグの有力アカデミーは、それを見越して3年前から「部活との掛け持ちがない体制」を徐々に取り始めていた。

サッカーや野球は中学生年代のクラブチームの大会が盛んに行われている。繰り返しになるが、バスケットボールというスポーツで最高の練習は実戦だ。今まで不足していた真剣勝負の機会が増えれば、クラブチームはより相対的に魅力的な環境となる。部活を経ず、Bリーグのアカデミーのみで中学生時代を過ごす選手も増えていくはずだ。

もっとも山﨑や星川のような逸材ならばBリーグのアカデミーは夏以降の移籍を受け入れるだろう。Bリーグのアカデミーはリーグ戦への登録が1チーム最大15名。セカンドチームの登録は可能で、年1回5名以内の入れ替えが認められている。

日本代表を見ても富樫勇樹(千葉ジェッツ)、比江島慎(宇都宮ブレックス)、渡邊雄太(トロント・ラプターズ)らは揃って中学生時代に学区外の居住地から越境入学をしている。「プレー環境を考えて進路を中学生年代から選ぶ」カルチャーは、ずっと以前からバスケ界に根付いていた。

「飛び級ができる環境」の強み

仙台大明成の佐藤久夫ヘッドコーチは、八村塁の指導を手掛け、育成年代の日本代表監督も務めた名伯楽。体格任せになりがちな大型選手にもきっちり基本を指導し、プロで通用する素地を作ってきた指導者だ。彼は決勝戦後にオールラウンダー育成への思いを問われてこう述べていた。

「選手たちは高校を卒業してからもバスケットを続けるという夢を持っています。大きい選手が小さい選手と同じようなことをできれば、夢も開けていくんだろうな……。そんな単純な思いです」

中高のバスケ部、街クラブには経験豊富で優秀な指導者がおり、その重要性は今後も変わらない。また選手の未来を開きたい、夢をかなえたいという思いは誰しもが共有しているだろう。そんな中でBリーグのアカデミーが持つ他にない強みは「飛び級ができる環境」だ。

Bリーグは特別指定選手制度を用意しており、2019-20シーズンには河村勇輝が福岡第一高3年生ながらB1の三遠ネオフェニックスで大活躍を見せた。大学バスケでは馬場雄大(メルボルン・ユナイテッド)や小酒部泰暉(アルバルク東京)、赤穂雷太(千葉ジェッツ)のように大学の卒業は目指しつつ、部の理解を得て在学中にプロ入りする例も増えている。

アカデミーの選手についても、レバンガ北海道U15の内藤耀悠がトップの練習に参加した例はある。とはいえU15の選手がU18、U18の選手がトップの練習に参加する環境がまだ一般的にはなっていない。

飛び級を認める環境整備は当然ながらトップエリートにとってプラスだ。そして「普通の選手」「普通のチーム」をスポイルする話ではない。高1でJ1にデビューし、高3でスペインに移籍した久保建英のような選手が出ても、高校サッカーの重要性はまったく落ちず人気も健在だ。

JBAの東野智弥・技術委員長が繰り返し語っているのが日本人選手の「トップデビューの遅さ」だ。年齢でなく能力で選手のカテゴリーが決まり、レベルを存分に上げられる環境を用意する――。それが日本バスケにとって育成のゴールだろう。

<了>

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