河村勇輝ら「特指」選手の活躍に沸くBリーグ キャリア形成の進化のヒントはJリーグ?
河村勇輝などの活躍で、高校や大学の部員がBリーグのクラブと二重登録ができる特別指定制度への注目度が増している。岡田侑大や馬場雄大など大学の中途退部後のプロ入りも増えてきた。バスケ界の若者の選択肢が少しずつ多様化を見せる中、かつてJリーグで起こった現象を辿るとBリーグのこれからが見えてくる。
(文=大島和人、写真=GettyImages)
特別指定選手の活躍に沸くBリーグ
2020年冬、Bリーグは特別指定選手の活躍に沸いている。その代表はやはり河村勇輝だ。福岡第一高校をウインターカップ2連覇に導いた18歳のポイントガード(PG)は、卒業を待たずに三遠ネオフェニックス入り。1月25日のデビューから7試合で平均14.7得点を挙げ、B1の日本人選手としてトップレベルの攻撃力を見せている。彼の絡む試合のチケットは現在4試合連続で完売中だ。
特別指定制度は「3月31日時点で22歳以下」が対象で、通常の12人枠にプラスして2名以内を登録できる仕組みだ。Bリーグは秋開幕で、最終シーズンを終えた選手は年末か年明けに合流する。
高校、大学の部員がBリーグのクラブと二重登録できるところに制度の大きなメリットがある。テーブス海(宇都宮ブレックス)のように、大学を中退したプロ選手もこの枠で登録できる。
★主な特別指定選手(2019-20シーズン/2月14日時点)
多田武史(拓殖大学4年/秋田ノーザンハピネッツ)
大倉颯太(東海大学2年/千葉ジェッツ)
小酒部泰暉(神奈川大学3年/アルバルク東京)
盛實海翔(専修大学4年/サンロッカーズ渋谷)
増田啓介(筑波大学4年/川崎ブレイブサンダース)
赤穂雷太(青山学院大学3年/横浜ビー・コルセアーズ)
河村勇輝(福岡第一高校3年/三遠ネオフェニックス)
西田優大(東海大学3年/名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)
中村浩陸(大東文化大学4年/大阪エヴェッサ)
牧隼利(筑波大学4年/琉球ゴールデンキングス)
現大学4年生は八村世代で、Bリーグの発足は入学直後の秋だった。彼らは早くから「プロでプレーする自分」をイメージし、用意もしていたのだろう。
最終学年の選手が卒業を待たずにプレーするアーリーエントリーは旧リーグ、他競技でも活用されてきた仕組みだ。一方でBリーグの特指にはインターンシップの側面がある。盛實海翔、増田啓介は昨季(2018-19シーズン)のB1でも大学3年生ながらインパクトのあるプレーを見せた。今季(2019-20シーズン)は赤穂雷太や西田優大が大学3年生ながらB1で堂々とプレーしている。
また小酒部泰暉は、大学卒業は目指しつつバスケットボール部に戻らない意思表示をした。法政大学の中村太地も八村世代で、1年から計3クラブで特指を経験。今季は通常登録のプロとして京都ハンナリーズの主軸を担っている。寺嶋良(東海大学/京都)と大浦颯太(日本体育大学/秋田)も特指枠の関係で通常の登録だが、卒業を待つ大学生4年生だ。
ただし河村は既に東海大学への進学が決まっていて、3月中に三遠を去ることが既定路線だ。B1で通用する人材が大学に戻る選択を、不思議に感じる人もいるだろう。
この10年間で急速に一般化された「高卒J2」
Jリーグの草創期に起こった現象が、Bリーグでも起こっている──。それが筆者の見立てだ。
1993年に開幕したサッカーのJリーグは、開幕から2シーズンに及ぶブームを起こした。それまでのサッカー界は、大学を経て実業団に入るルートが一般的だった。バブル崩壊前は、大卒の資格が引退後の社内キャリア、待遇に好影響をもたらしていた。
しかしJリーグ発足でレベル、待遇が上がった。これを受けて大学に在学中の有望株が立て続けに中退を選択した。サッカーで食える時代が訪れたからだ。
★Jリーグ創設期の主な中途退部例
礒貝洋光(1969年生まれ/東海大学→ガンバ大阪)
永井秀樹(1971年生まれ/国士舘大学→ヴェルディ川崎)
岡野雅行(1972年生まれ/日本大学→浦和レッズ)
上野良治(1973年生まれ/早稲田大学→横浜マリノス)
三浦淳宏(1974年生まれ/青山学院大学→横浜フリューゲルス)
阿部敏之(1974年生まれ/筑波大学→鹿島アントラーズ)
伊藤卓(1975年生まれ/国士舘大学→名古屋グランパス)
ただし徐々に強引な中退は減っていった。これより下の川口能活、城彰二、中田英寿らJリーグのニューカマーは高卒でプロに飛び込み、早いタイミングで日本代表へ上り詰めた。中退せず4年間やり切った選手もそれなりに結果を出し、また大学サッカーはプロに引っ張られてレベルを上げていく。
例えば関東大学リーグ1部・2部はチーム数を「8→12」と増やし、秋だけでなく春もリーグ戦を行う体制となった。つまり試合数が一気に3倍強になった。またプロ化は人材の流動化も促進させる。サッカー界は会社、学閥の外に出ても、食べていける世界になった。プロフェッショナルな人材が大学の指導に関われば、やはり競技面のプラスが大きい。
対するJリーグはレベルアップに伴い、高卒がすぐ出場しづらいリーグとなっていく。2000年代に入ると逆に「大学に行ったほうが伸びる」という感覚が一般にも広まった。Jクラブ入りした高卒選手が2年、3年と実戦から遠ざかり、スポイルされる現象が目立っていたからだ。
2010年頃の話だ。愛媛FCのU-18に将来を有望視される選手がいた。彼は進学校の生徒でもあった。夏の大会で監督に進路を尋ねると「大学です」と述べた上で、こんな認識が返ってきた。
「今のJ2は10代の子を伸ばして上げられる環境にない。大学のほうが人間的な部分も含めて引き上げられる」
指導者やトレーナーの人数、練習施設、競技に打ち込むカルチャーも含めて、当時のJ2には不足が多かった。ただしこの10年間で各クラブの環境は急速に整備され、高卒J2は一般化している。チーム選びの大切なポイントは「試合に出られる」「本気で打ち込む環境がある」こと。バスケもカテゴリーを問わずそんなチームが徐々に増えていくだろう。
目下の問題はトップクラス一つ手前の人材の進路
バスケ界では中途退部後のプロ入りが以前からある。Bリーグ発足後の例を見ると、2018-19シーズンの新人王に輝いた岡田侑大(シーホース三河)は拓殖大学を2年途中で退学している。2017-18シーズンのMVPで、アルバルク東京の2連覇に貢献した馬場雄大(テキサス・レジェンズ)も筑波大学4年の夏にプロ入りした。馬場はアルバルク東京で2シーズンを過ごし、今ではアメリカのGリーグ(NBAの下部組織)で活躍を見せている。
日本の超トップクラスは高校、もしくは大学に進むタイミングで渡米している例が多い。具体的には田臥勇太(宇都宮)、富樫勇樹(千葉)、渡邊雄太(メンフィス・グリズリーズ)、八村塁(ワシントン・ウィザーズ)、富永啓生(レンジャー短大)、田中力(IMGアカデミー)といった選手たちだ。NCAA(全米大学)I部の有力カンファレンスならばレベルはB1以上。奨学金を得てハイレベルな試合に絡めるならばそれは理想的だ。
目下の問題は一つ手前の状態にある人材の進路だ。馬場、河村のような活躍ができるならば、在学中にプロに移る選択肢を持てたほうがいい。一方で大学が強引に押し切られる、不利益を押し付けられる形は非生産的だ。誰かにしわ寄せがいく仕組みには永続性がない。
繰り返しになるが、Jリーグで起こった現象はBリーグでも高確率で再現される。サッカーの歴史を振り返ると、大学の「辞め方」には多彩なモデルがあった。
サッカーの日本代表経験者だと長友佑都(ガラタサライ)、武藤嘉紀(ニューカッスル)、室屋成(FC東京)が大学を中途退部している。ただし3人は卒業を目指して大学に残った。長友は指定校推薦、武藤は付属校だが、室屋はスポーツ推薦ながら明治大学がプロに送り出した。馬場もそうだが「3年までに単位を取っておく」「最終シーズンは授業の負担なくプロでプレーする」流れならデメリットは小さい。
学業との両立モデルは他にもある。ガンバ大阪の宮本恒靖監督はユースからトップに昇格し、同時に同志社大学へ入学。6年かけて卒業している。加藤久氏は読売クラブや日本代表で長くプレーしつつ大学院へ進学し、博士号を取得。一時は早稲田大学で教鞭もとっていた。現役だと遠藤航(シュトゥットガルト)が神奈川大学に籍を置いていた。もっともプロに午前練のカルチャーが広まり、大学生Jリーガーは減った。逆に早稲田大学人間科学部eスクールなど通信制に通う選手は増えている。
「高卒プロ入り」「引退後に大学進学」というケースもある。J2のFC町田ゼルビアは下のカテゴリーに所属していた頃に元Jリーガー学生を積極的に獲得していた。4浪、5浪の遠回りを経て大学を卒業し、いわゆる「いい企業」に就職した選手を複数知っている。
NCAAは大学を1、2年修了後のNBA入りが一般的で、指導者もそれを前提にしてチーム作りをしている。ただしマイケル・ジョーダンのような超一流でさえ、引退後に復学して卒業をするカルチャーがある。
野球界はドラフト制度の指名対象が「大学に4年間在学した選手」に限られるため、中退組が独立リーグや社会人に流れる。しかし他競技はもっとキャリアが自由だ。
男子バレーボールの石川祐希(パッラヴォーロ・パドヴァ)は中央大学在学中に、毎年4カ月程度に渡るイタリアでの武者修行を行っていた。同大学はハンドボールの部井久アダム勇樹もフランスに送り出している。卓球、フィギュアスケートなどの個人競技では高校、大学が海外での活動を認める例が多い。有力校に「Bリーグへの国内留学」を後押しする制度があれば有益だろう。

気持ちよく大学から送り出される形態
部と指導者は施設整備や入学などのサポートを受ける以上、学校に対する責任を負っている。一方で学生が世界、プロに羽ばたいた事実は、その大学のイメージを上げる。「気持ちよくプロに送り出す学校」という評価を得れば、才能も集まるはずだ。
この国は在学年数に制限を設ける大学が多く、30歳を過ぎてからの復学は非現実的だ。とはいえ「トップレベルの子は途中で抜ける」感覚が、日本バスケにも少しずつ広がっていくのではないだろうか。
もっとも学歴は今の時代に「保険」として弱い。仕事がおざなりな人間を一生養ってくれる優しい企業などない。実業団スポーツの選手も社業でバリバリ成功する例がある一方で、引退後に不本意な扱いを受けて退社する例も実は多い。「それぞれの人間性、能力次第」という冷めた感覚が筆者にはある。
最後に今後の見立てを述べる。Bリーグは現状だと1年に「若干名」の高卒プロ入りが増えていくだろう。ただし無理やりレールから外れる脱線型の中退が常識になるとは思えない。逆に大学や指導者の理解を得た上で、気持ちよく送り出される形態は一般化するだろう。
大学バスケの立ち位置が軽くなるわけではない。早熟、晩熟の個人差は大きく高卒後に化ける選手は必ずいる。サッカーと野球は高卒プロが一般的だが、大学カテゴリーは今なお重要で、日の丸を背負うレベルの人材を輩出する場であり続けている。
サッカー界ではもう「大学サッカーは緩い」といった批判を聞かない。天皇杯でプロを倒す、試合出場の壁がJ2下位より高い明治大学や法政大学のようなチームもある。バスケ界なら東海大学、筑波大学などが既にその立ち位置だ。あと10年、20年経つと「東海大に行ってもなかなか試合に出られないからB2を選ぶ高校生」が出てくるだろう。
メディアが個別の進路に口を挟むことは非生産的で、第三者の無責任なアドバイスが有益だった例を私は知らない。本人が確信を持って「いい」と思っているのならばその進路はベストだ。
しかし若者に選択肢、環境を用意するのは大人の責任だ。まず特指でプロを経験できる仕組みがあることは一つの進歩。中長期的に多様で柔軟な進路選択を認める傾向が強まるのではないだろうか。
キャンパスは若者の可能性を拓く場であって、閉ざす場ではない。4年間の通学、卒業は手段であって目的ではない。既にプロレベルにある選手が程よいタイミングで、関係性を保ったまま部から離れる──。そんなサイクルがバスケ界でも必要になっていくだろう。
<了>
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