阪神・秋山拓巳「6歩から6歩半」の改革。チームの新時代へ、生え抜きの決意と覚悟
2021シーズン、阪神タイガースのキーマンは誰か?「スポーツニッポン(スポニチ)」で阪神担当記者を務める遠藤礼氏は、12年目の生え抜き、秋山拓巳の名前を挙げる。昨季はチームトップタイの11勝と輝きを見せた。これまでにも2度、飛躍の瞬間はあったにもかかわらず、いずれも翌年につまずいた。“3度目の正直”に懸ける今季、男は決意と覚悟を見せている――。
(文=遠藤礼、写真=Getty Images)
2年連続の2桁勝利へ。“2年目の壁”を打ち破るために着手した改革
2月、沖縄・宜野座のブルペンには低いうなり声が、響き続けていた。一球、一球に今季へ懸ける思いを込めているように――。
藤川球児、能見篤史と2人の象徴的な人物がチームを去って迎えた2021年。生まれ変わった阪神タイガースの投手陣を一体、誰が引っ張っていくのか。その意気込みを12年目の生え抜き、秋山拓巳から感じ取らずにはいられない1カ月だった。
昨季、西勇輝と並んでチームトップの11勝をマークしローテーションの一角を担った。3年ぶりの2桁勝利は、29歳に強い自覚を促した。
「もう年齢的にも若手ではないですし、自分たち中堅が引っ張っていかないといけない立場になった。個人的には2年連続で2桁勝てることを目標にやっていきたい」
“2桁”には苦い思いがにじむ。金本知憲が指揮を執っていた2017年に12勝して飛躍したものの、翌年は5勝10敗と失速。不完全燃焼に終わった上、シーズン終了後には慢性的に痛みを抱えていた右膝を手術した。さらにさかのぼれば、高卒で入団した2010年も完封を含む4勝を挙げて大きく「ホップ」しながら次の「ステップ」でつまずいた。フォームで迷走するなど、2011年からの6年間でわずか2勝。単発の2度の輝きこそあれ、苦闘してきた。“2年目の壁”と対峙(たいじ)するのは、もう3度目だ。そんなジンクスを打破するべく、技術面で昨オフから着手していることがあった。
「6歩」から「6歩半」へ。小さな変化も、大きな挑戦
「ザクッ、ザクッ、ザクッ」。沖縄のブルペンでのこと。マウンドに上がった右腕はまず、プレートから一歩、二歩……と両足を交互に重ね合わせながら前進していき、必ず決まった部分で土を掘る。ちょうど「6歩半」。これが厚い壁をぶち破るカギだという。2020年は手術した右膝の状態を考慮して「6歩」だった左足の踏み出しを「6歩半」に広げるべく、昨年12月から股関節の可動域に特化したトレーニングやストレッチを続けてきた。
6歩半を確立できれば投球にこれまで以上の間が生まれて、打者のタイミングをずらすなど手にできる“利益”は少なくない。6歩で「楽をしていた」と振り返る右腕。当然、膝への負担もこれまでより増す。小さな変化であって、大きな挑戦。キャンプ中は実戦で計8回1失点と効果は上々で、「間が取れるようになって、低めに制球できるようになって。思ってもいなかった効果が出てる」とうなずく。昨季、与四球率0点台の制球力のグレードアップという副産物も手にした。
矢野監督も目を細める、グラウンドでの姿勢
マウンドが「半歩」なら、「大幅」に変化を見て取れたのは姿勢の面だ。練習中、投手キャプテンで同世代の岩貞祐太と先頭に立って声を出し、練習を盛り上げる場面が目立った。伊藤将司、佐藤蓮、石井大智の新人3人だけでなく1軍キャンプに参加した投手陣はほとんどが年下。グラウンド外では積極的に後輩たちに声を掛け、時には助言、激励したという。
「僕が周りを見られるようになればチームは強くなる」
そんな信念の下、投げ込む背中も見せた。投手陣では最多となる1100球を超える球数。誰よりもマウンドに上がり、腕を振る姿に指揮官も自然その熱意を感じ取っていた。キャンプ中盤、矢野燿大監督は目を細めた。
「自覚がすごいね。声掛けとか、投内連携の時も若いやつに、こうじゃないか、ああじゃないかと。ブルペンでも気迫を感じるよね。(ブルペンの)一番端に俺がいたとして、(逆の)端でアキ(秋山)が投げていても、そういうのが伝わる。自分が勝つだけのことじゃない部分の意識がすごいから」
心身両面で体現していることは、周囲にも伝わっていた。
11勝は「自分の力でとは全く思っていない」。“火曜日の男”への決意
シーズン初戦は4月1日の開幕2カード目の広島戦が見込まれる。順番では開幕ローテーションの大トリ6番目としての登場となるが、果たすべき役割は小さくない。中6日での登板間隔でいけば、ジャイアンツと4月だけで2度もぶつかる。昨季、チームが8勝16敗と大きく負け越したリーグ覇者への逆襲という重大ミッションを担う。
ただ、本人はもう一つの“高み”も目指すはずだ。昨年から口にし続けてきたのは「カード初戦」での先発。つまり火曜日。実際、2月から火曜日の登板を続けてきただけに、視野に入っていたはず。6連戦のスタートで長いイニングを投げ切り、チームへの勢いをもたらす……「火曜日の男」が求められるものは多い。他球団のエース格とぶつかる機会も必然的に増してくる。
「昨年は日曜日の登板が多かったので。日曜日は他球団もちょっと先発投手の力が落ちるのかなというところで、打線の援護に助けられてしっかり勝ちを付けることができた。自分の力での11勝とは全く思っていないです」
真価……いや自力が問われる1年は、ローテーション投手という立場に安住するつもりはない。
梅野隆太郎、岩貞祐太、原口文仁、岩崎優、陽川尚将と生え抜きの同世代がチームの中枢を形成し始めた中で、先発ピッチャーは秋山だけだ。真っさらなマウンドから踏み出す挑戦。「半歩先」に待つ新たな時代をけん引する。
<了>
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