明治大、早明戦リベンジの裏側。紙一重の好勝負の行方を分けた“たった一つ”のミス
熱戦の続く全国大学ラグビー選手権は、準々決勝で明治大学と早稲田大学が激突した。史上初めて実現した12月中の早明再戦は、紫紺のジャージーが関東大学対抗戦グループのリベンジを果たしてみせた。なぜ明治大は今年4回目の対戦にして初白星を挙げられたのか? 意地と誇りを懸けた伝統校同士の対決の裏側に迫る――。
(文=向風見也)
「明大にとってはラッキーだった」。紙一重の好勝負となった早明再戦
勝負は紙一重だった。早稲田大学の計画性、明治大学の生真面目さが光った。
2021年12月26日、東京の秩父宮ラグビー場。大学選手権の準々決勝にあって注目のカードがあった。
昨季準優勝の早大と同4強の明大が激突する。優勝回数はそれぞれ16、13回と歴代1、2位の強豪である。
両軍は同月5日、加盟する関東大学対抗戦グループAの最終節でも対戦。当時は早大が17―7と勝利している。ただし今度は、明大がリベンジした。20―15。練習試合を含めた今季計4度目の対戦で初白星を挙げる。
「ああいうところで(点を)取り切らないと、数点差以内のスコアで1年間やってきた(互角の)チームにはなかなか勝てないですよね。たらればですが、あそこでおそらくスコアしていたらゴール成功で9点差になって、明大さんのメンタル的なプレッシャーも違うものになっていた。明大さんにとってはただただラッキーだったでしょうし、うちとしては本当に痛いですよね」
早大が犯したわずかなミスが勝負の行方を変えた
敗れた大田尾竜彦監督が嘆息したのは後半13分ごろ。15―13と2点リードで迎えた場面だ。
早大はハーフ線付近右で複層的なラインを形成。数的優位をつくり、スタンドオフの伊藤大祐(※)のビッグゲインを促す。(※「祐」の正式な表記は「示に右」)
しかし、サポートについたウイングの小泉怜史からスクラムハーフの宮尾昌典へのパスが乱れる。落球。さらには直後のスクラムで反則を犯す。追加点を奪えなかった。
明大に20―15と逆転されて迎えた同33分ごろには、途中から入ったスタンドオフの吉村紘が大飛球を放つ。
ペナルティーキックからタッチラインの外へ蹴るとき、インゴールエリアを超えると蹴った地点で相手ボールのスクラムを与えてしまう。吉村が犯したミスは、それだった。敵陣ゴール前で好機をつくり損ね、さらに、直後のスクラムでは明大の圧を受ける。
インサイドセンターの長田智希主将は潔い。
「負けたら終わりというプレッシャーがあった中、(吉村に)いい声掛けができなかった。キックはチャレンジした結果。気にはしなかったです」
わずかなエラーに敗因を求められるのは、全体的な内容に大きな問題がなかったからでもある。試合の内容とそこに至る過程は、充実させられた。
今季発足の大田尾体制が蓄積してきた財産
今季から発足の大田尾体制は、対抗戦初黒星を喫した11月3日の帝京大学戦前後からミーティングの手法をマイナーチェンジ。選手同士で映像を見て意見を伝え合う機会を増やし、早大、ヤマハ発動機ジュビロ(現静岡ブルーレヴズ)の司令塔としてゲーム理解の深さに定評があった大田尾監督が、「このプレーはこうなるよ、という、たられば解説」を重ねる。折しも、感染症拡大に伴う大学の施設利用のルールが緩和されていた。
早大が有力な高校生を獲得できる各種推薦の枠数は、明大の約4分の1程度だ。大学のブランド力と相まってその枠は一線級の戦士で埋まりやすいとはいえ、群雄割拠の大学ラグビー界を制するには附属校や系属校との連携、スマートかつタフなコーチングは不可欠となる。
対抗戦期間中、指揮官は言った。
「いろんなことを仕掛けて、どこかでブレイクするのを待っている状態です」
蓄積された財産が実ってか、今度の一戦でも伊藤いわく「スペースの共有と中(接点近く)のえぐりをテーマにやってきた。そこにおいては、何回かいい場面があった」。ミスで終わったあのワンシーンに限らず、球を持てば端的に防御を切り崩していた。
早大の喫緊の課題だったスクラムに打った手
15点目を奪ったのは前半37分。ハーフ線付近左で数的優位をつくる。
後方から駆け上がった長田が、大外にいたプロップの小林賢太副将へパス。一気に前進する。敵陣22mエリアで右へ、左へと展開する。最後はずっと左端に残っていた小林が、相手ウイングの石田吉平を蹴散らしてフィニッシュした。
身長181cm、体重113kgで走力のある小林を、小柄な選手の多いグラウンドの端側へ立たせたシステムを機能させた。
複数ある攻めの選択肢のうちから有効打を選び、選手と共有した大田尾。簡潔に述べた。
「(対抗戦終了後は)リカバリー、レビューをして、そこからいろんなことを足すことなく、頭の中をクリアにして、このゲームで自分たちが出し切れることにフォーカスして進めてきました」
さらに小林は、選手権前に働き場を左プロップから本来の右プロップに移していた。
プロップの右か左かで、スクラムにおける感触が大いに異なる。対抗戦では帝京大、明大にスクラムで苦しんでいた中、大田尾はこう決断していた。
「小林を3番(右)に戻すことはずっと選択肢にありました。(今季はもともと)われわれが次のステップに行くにあたり、(4年生の)小林に頼りきりではしんどいことがあるので、亀山(昇太郎=1年生の有望株)に(3番で)挑戦させたのですが、選手権前に小林と話をして『一回、3番に戻ろう』と。そこが一番、自分たちのウイークポイントで劇的に変えられるところだと思ったので」
打つべき手は打った。喫緊の課題だったスクラムでは、両軍ともレフェリーに幾度も組み直しを促された。要は、圧倒的に苦しめられたときと比べて「自分たちのスクラムが組めた」と小林。それでも4強入りを逃した裏には、ライバルの実直な歩みがあった。
「凡事徹底」をうたう新指揮官の下で明大が積み上げたものは
明大では、田中澄憲前監督が今年5月に退任していた。
在任中の田中は、母校に緊張感を植え付けた。スタッフの安易なカラーコピー使用にも目を光らせ、「B・I・G(バック・イン・ザ・ゲーム)」という標語を用いて地面に倒れる時間を最小化。就任1年目の2018年度に22季ぶりの日本一に輝き、その後も4強以内を死守した。
出向元の東京サントリーサンゴリアスでゼネラルマネージャー(明大退任時は役職不明)に就くに際し、自身の1学年上で、自身より大らかかもしれぬ神鳥裕之に後任を任せた。リコーブラックラムズ(現リコーブラックラムズ東京)の監督兼ゼネラルマネージャーを経て母校に戻った神鳥は、「凡事徹底」とうたった。前任者時代のコーチと共に、勤勉であらんとした。
5日の早大戦を僅差で落とした際は、決定力不足に泣いた。選手権に向けては、点を取りやすい仕組みを再構築するよりも、今ある仕組みを維持してプレーと判断の「精度」を高めようとした。ちなみに10月からは「選手に責任を持たせることも大事」と、試合の分析を4年生部員に委ねていた。
春からランニングメニューが多かったとあり、終盤戦で相手に走り勝つイメージを共有。その意を「メイジタイム!」という標語で表していた。あとは、その具現化を待つばかりだった。今回の決戦の前日、指揮官は笑った。
「抽象的な表現ですが、だんだんよくなってきている。練習で早大の動きをしてくれたノンメンバー(控え組)が、メンバーを追い詰めるシーンがあった。そこに対して『メンバーはもっと奮起しなければ』といった発言を4年生がしていました」
明大のピンチを救った飯沼主将の覚悟
明大が5点リードで迎えた後半36分ごろ、早大の吉村のミスで得たスクラムからペナルティーキックを得ると、敵陣10m線エリアでラインアウトを得る。
じっくりと逃げ切るか、テンポを上げて追加点を狙うか。
その方向性が、定まらなかった。
早大が攻守逆転。それまでのほとんどの時間でそうしていたように、シャープかつ複層的な攻撃で陣地を挽回する。
ここで明大のピンチを防いだのが、スクラムハーフの飯沼蓮主将だった。前監督の田中を尊敬して現監督の神鳥と協調する船頭が、必死に駆け戻る。タックルで早大のミスを誘い、まさに紙一重で白星をかすめ取った。
飯沼は言った。
「足をつっていたんですけど、全て懸けるつもりでやりました」
両軍の会見が終わったころには、対抗戦を制した帝京大が関西の古豪、同志社大学を圧倒していた。主力をけがで欠きながらも76―24と快勝。9連覇した2017年度以来10度目の日本一に向け、順当に駒を進めた。
4強進出の明大が見据える先は?
今回4強入りの明大の視野にも、帝京大の存在はちらつくだろう。ただ陣営はまず、1月2日の準決勝を見据えると説く。
セミファイナルは決勝と同じ東京の国立競技場であり、明大の相手は関東大学リーグ戦1位の東海大。帝京大と同じく、フィジカリティーの鍛錬と逃げずに向き合ってきた新興クラブである。
選手権前にはあえて「(早大、帝京大と順にぶつかりそうなトーナメント表は)われわれのための組み合わせ」と話した神鳥だが、準々決勝を終えればこう述べる。
「きょうのゲームを見直し、反省点を次に生かす。その繰り返しだと思います」
神鳥が「凡事徹底」と地道さを強調するのは、それだけこのクラブが一貫性の維持に苦労してきたことの表れとも取れる。2021年度は飯沼主将をはじめ順法精神の高い最上級生が多いが、シーズン序盤には神鳥が「対抗戦に臨む緊張感が薄かったというのが本当のところです」と認める時期もあった。
明大が今から決勝の議論をしないことは、明大が決勝で勝つための最低条件とも取れる。
いずれにせよ、試合という現象の裏には、そこに挑む集団の意思決定と、献身と、雰囲気がにじむ。その普遍を再認識させたのが、今度の早明シリーズだった。
<了>
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