男性にも知ってほしい「女性アスリートと月経」。潮田玲子が目指す“当たり前の環境”とは?
スポーツ界・アスリートのリアルな声を届けるラジオ番組「REAL SPORTS」。元プロ野球選手の五十嵐亮太とスポーツキャスターの秋山真凜がパーソナリティーを務め、ゲストのリアルな声を深堀りしていく。今回はWebメディア「REAL SPORTS」の岩本義弘編集長が今一番気になるアスリートやスポーツ関係者にインタビューする「岩本がキニナル」のゲストに、バトミントン元日本代表で、一般社団法人Woman’s ways代表を務める潮田玲子さんが登場。毎年3月の国際女性デーに関連して女性アスリートと月経との関係について受けた取材がきっかけに生まれたWoman’s waysの活動について詳しくお聞きした。
(構成=池田敏明、写真=REAL SPORTS)
水泳、テニス、バレーボール…元アスリート4人で設立
岩本:今日は元バドミントン日本代表で、一般社団法人Woman’s waysの代表を務める潮田玲子さんにお話をうかがいます。
秋山:小耳に挟んだんですけど、五十嵐さん、バドミントン経験者らしいじゃないですか。
五十嵐:実はそうなんですよ。中学時代はシニアリーグで野球をしていたので、部活は野球ではなくバドミントンでした。野球中心の生活で大会には出られないだろうから、練習だけ参加すればいいと顧問の先生から許可をいただいて。でも、他の中学校と合同練習をする機会があって、その練習相手の顧問の先生から「君、すごくいいね。真剣にバドミントンをやったらどうだ?」と言われて、顧問の先生も熱が入るようになってしまったので、野球を続けるためにそこでやめてしまいました。
潮田:そうだったんですね! それはバドミントン界にとってはかなり大きな損失だったかもしれないです。でも、野球の投げ方とバドミントンのラケットの振り方は腕の使い方が同じといわれているので、絶対にうまかったと思います。
五十嵐:そうですよね。僕の投球フォームはバドミントン仕込みである可能性があります。高い位置からたたきつける動きは投球フォームに取り入れると角度をつけることができますし、野球選手でもバドミントンを練習に取り入れる人はいますよ。
岩本:意外な共通点ですね。では本題にいきたいと思います。潮田さん、ご自身が代表として一般社団法人Woman’s waysを立ち上げたとお聞きしましたが、立ち上げのきっかけを教えてくださいますか?
潮田:きっかけは取材を受けたことですね。毎年3月の国際女性デーに関連して、元飛び込み日本代表の中川真依さんと一緒に女性アスリートと月経との関係についての取材を受け、現役時代に苦労したことや抱えていた問題を話したんですけど、その時に「現役のアスリートにも、コンディショニングの部分でもう少し学んでほしい」という趣旨の発言をしたんですよ。
でも、自分の現役時代はそれを学ぶ場が一切なかったんですね。もちろん自分で婦人科に通って先生に聞くなどして知識を得ることはあったんですけど、結局、何かきっかけがないとそこまでたどり着かないのが現状なんですよ。
どうしても競技のことや日々のコンディショニング、筋力アップなどに意識が向き、月経や生理は二の次。あって当たり前のことだし、不調になっても我慢してやるものという認識だったんですね。より深く知っていれば調整方法は絶対に変わっただろうな、という後悔もあって、知識を提供する場をつくろうと思いました。
岩本:私も娘が3人いて、サッカーとバスケットボールをしているんですが、時期になるとそういう悩みが出てくるじゃないですか。そこでいろいろ調べようと思っても、情報がないんですよね。まとまっているウェブサイトもないですし、どれが正しい情報なのかもわからない。選手からも、大会の時期とずらすためにピルを服用するけど、それがうまくいかず、結果的にコンディション不良に陥ってしまったという話もよく聞きます。
潮田:ある程度キャリアを重ねていって、20代後半ぐらいの選手になると意識も高いですし、婦人科への通院もケアの一環と捉えることができるんですけど、10代の選手の場合は婦人科に通って先生に相談すること自体、ハードルがすごく高いんですよね。それもあって学べる場、情報提供の場をつくるために活動しています。
岩本:設立メンバーはどんな方がいるんですか?
潮田:一緒に取材を受けた中川真依さん、元プロテニスプレーヤーの杉山愛さん、元バレーボール選手の狩野舞子さんに私を含めた4人で立ち上げました。他にも多くの女性アスリートがこの活動に賛同し、応援してくれています。
女性だけでなく男性にも知ってほしい
岩本:具体的にどのような活動をしているんですか?
潮田:最初はサッカーWEリーグ、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースの選手へのセミナーを行いました。昨年12月には日本経済大学の講義の一環としてセミナーをやらせてもらいました。必ずしもトップアスリートを対象にしているわけではなく、スポーツを頑張っている女の子たちに届いてほしいと考えているので、いろいろな場所でセミナーをしていきたいと考えています。
岩本:反響はいかがですか?
潮田:セミナーでは必ずアンケートやフィードバックをもらうようにしているんですけど、多くの女性アスリートが悩みを抱えながら競技をしていたようで。因果関係を知ることができた、月経周期をちゃんと把握しようと思った、自分の体と向き合うきっかけになった、という声をたくさん聞くことができて、本当に立ち上げてよかったな、と思っています。
岩本:中学生、高校生も含め、知識が少なく、悩みを抱え始めたばかりの人たちにもアプローチしたいですね。
潮田:それは思いますね。アスリートだけの問題ではないですからね。そもそも月経はどんな女性にもあることですし、多くの女性に届いてほしいなと思います。
岩本:スポーツの世界では男性が女性を指導することがまだまだ多いんですけど、特に男性にとってはわからないことが多いですよね。
五十嵐:そうですよね。僕には妻と娘がいるんですけど、そういった時期は疲れやすいというのは伝えてくれるんですよ。それでなんとなく理解するようになったんですけど、そもそも僕自身は男兄弟なので、男性が踏み込んではいけないところなのかな、という感覚がありました。理解しようとしていなかったのではなく、知ってはいけない部分なのかな、と。でも実際は理解が必要だし、学校の授業でやってもいいと思うんですよね。
潮田:本当にその通りです。今の日本の教育だと、男性がそこに踏み入ってはいけないような雰囲気がありますよね。でも、お互いに理解し合わなければいけないことだと思うので、壁はなかなか厚いですけど、男性にも理解してほしいですよね。
五十嵐:指導者も男性のほうが多い中で、理解がないと練習に支障がありますし、体調管理の面でも不備が出るなど、つらい思いをしている人も多いでしょうね。
潮田:そうですね。本当に、1日変わるだけで体の状態が変わってしまうんですよ。前の日にできたことが今日はできない。男性指導者に理解がないと「やる気がないんだったら帰れ」といった状況になり、さらに気持ちが落ちてしまうんですよね。多少なりとも理解してくれていて、信頼関係があれば、コンディションが悪い中でできることをやれるようになるでしょうし、指導者側がかける言葉も変わってくると思います。
秋山:女性も学校での教育だけでは正直、足りていなくて、社会に出てある程度の年齢になってから自分で学ぶことってすごく多いんですよ。
五十嵐:この活動を通じて広めていってもらえたら、男性にとってもありがたいですね。
自分たちの経験や専門家の見地を伝える
岩本:メンバーの皆さんは元トップアスリートで、競技日程に合わせるための調整もしてきたと思うんですが、そういった話もされているんですか?
潮田:自分たちの経験を伝えることも重視しています。月経は人それぞれ重さも違うし、感じ方にも個人差があるので、私の場合はこういうことがあった、現役の時にもう少しこうしておけばよかった、という体験談を話すようにしています。
岩本:メンバーには医学的な知識を持つ方たちもいるのでしょうか?
潮田:女性アスリートのサポートを専門にされている順天堂大学の女性スポーツ研究センターの先生方や、女性アスリートと月経についての研究をされている日本体育大学の須永美歌子先生からアドバイスをいただいたり、セミナーをしていただいたりしています。私たちもまだまだ学ばなければいけないこともあるので、学びながら現役のアスリートに発信している状態ですね。
岩本:男性のメンバーや協力者はいるんですか?
潮田:スタッフにはいるんですが、まだ男性メンバーはいません。でも、セミナーの時には選手だけではなく、指導者や男性スタッフにも受講をお願いしています。アスリートの意識が変わったところで、監督やスタッフ、親御さんなどの意識が変わらないと、なかなか環境や状況が変わっていかないので、そこも含めて情報発信するよう心掛けています。
秋山:対応策は個人ごとに異なりますし、自分にはこの方法が合っているというのを監督やコーチにも把握してもらわないとどうにもならないですよね。
五十嵐:個人競技だと一人ひとりに対応できるかもしれないけど、団体競技になると練習内容も変わってくるだろうしね。実際に先生方と話していて、自分が現役時代に知っておけばよかったな、という知識はありましたか?
潮田:月経のコンディションを、私自身は完全に無視していたんですね。例えば世界選手権やオリンピックの時にピークをつくりたいとするじゃないですか。そこに向けて、いつからこういう練習をしよう、いつからゲーム形式の練習を増やそうといった調整はしていましたが、月経のコンディションは考えなかったんですよね。お腹が痛かったら鎮痛剤を服用して我慢しようとか、スケジュールに自分の体調を合わせるほうを優先していました。月経の仕組みを少しでもわかっていれば、それに合わせた調整がもっとできたんじゃないかな、と思います。
五十嵐:妻にもその情報を伝えたいですね。アスリートに限らず、家族や夫婦でお互いに理解しておくことも大事だと思います。
潮田:女性は体の不調だけではなく、心の不調というか、イライラすることもあるんですよ。そうなった時に「もうすぐ生理が始まるから、PMS(月経前症候群)の時期なんだ」とわかっているだけでも気持ちが楽になるんですよね。それだけでも自分との向き合い方が変わってきますし、それを旦那さんが知れば、なおさら理解してもらえますよね。
五十嵐:実際にご主人(元サッカー選手の増嶋竜也さん)とそういう話もされるんですか?
潮田:しますね。最初にジェフ千葉レディースでセミナーをした時に、夫が元々ジェフ千葉の選手だった関係性もあって、一緒に講義を聞いてもらったんですね。その後は意識が大きく変わりましたし、夫も「これは絶対に男性も聞いたほうがいい」と言ってくれました。
秋山:月経の時期だけ神経過敏になりやすいと思われがちなんですけど、ホルモンバランスは毎週、変わるので、変化が起きるのは月経の時期だけというわけではなく、人によっては2週間前から変わることもあるんですよ。男性の方にもそういったことを把握してもらえたらありがたいですよね。
五十嵐:こういう話を聞いて理解を深めたら、男性ももっと女性のことを理解できるし、お互いのストレスも減ると思います。本当に小学校で学ぶべきだよね。
秋山:そうですよね。月経が始まる前から男女一緒に勉強したほうがいいと思います。
男女問わずに学べる世界に
五十嵐:真凜ちゃんはアスリートとして活動していた時期はどうだったの? 個人競技だから自分で調整しやすいとは思うけど。
秋山:どうすればいいんだろう、というのが一番大きかったですね。当たり前のことだと思っていたので、今はこんな状態だからこうしておこう、という対応しかできなかった。今思えば、もう少し他の方法があったんじゃないかな、とは思います。
五十嵐:そこで悩んだり、体調を崩したりする女性アスリートの方も大勢いらっしゃると思うので、理解が深まればパフォーマンスの向上にもつながるでしょうね。
潮田:それはすごく感じますね。後悔してほしくない、というのがあります。アスリートとして活動できる時間は限られているじゃないですか。そこでベストパフォーマンスを出すことはその後の人生にも影響してくると思うので、たかが生理と思わず、ちゃんと向き合ってほしいなと思います。
岩本:Woman’s waysの活動はまだスタートしたばかりですけど、女性アスリートが世界で活躍していくために貢献できる部分もあるんじゃないですか?
潮田:女性アスリートが自分のコンディションを知るきっかけになればいいと思っていますし、パフォーマンスや日々の状況、チーム内の意識が変わるなど、少しでも競技を続けやすい環境になっていけばいいなと思っています。
岩本:最後に、Woman’s waysが目指すこの先の未来、ビジョンを聞かせてください。
潮田:明確なゴールがあるわけではなく、こうなればいいよね、というのを具体的に言いにくい部分はあるんですけど、こういうセミナーを受けて理解を深めるということがスタンダードになればいいなと思っています。例えばサッカーの指導者養成講習会などで、スタンダードな講義としてみんなが学ぶような状況になれば、それがゴールなのかなと思っています。
岩本:学校教育も含め、男女問わず当たり前のように学んでいくことになるといいですよね。
五十嵐:そこまでいきましょう!
秋山:いきましょう!
潮田:はい! それを目指して活動していきます。
<了>
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InterFM897ラジオ番組「REAL SPORTS」(毎週土曜 AM9:00~10:00)
パーソナリティー:五十嵐亮太、秋山真凜
2019年にスタートしたWebメディア「REAL SPORTS」がInterFMとタッグを組み、ラジオ番組をスタート。
Webメディアと同様にスポーツ界やアスリートのリアルを発信することをコンセプトとし、ラジオならではのより生身の温度を感じられる“声”によってさらなるリアルをリスナーへ届ける。
放送から1週間は、radikoにアーカイブされるため、タイムフリー機能を使ってスマホやPCからも聴取可能だ。
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