新ブランド「TOBATH.」が示すゴルフの可能性。スポーツマーケ専門家が目指す “ウェルビーイングブランド”とは
昨年11月26日、いい風呂の日にスタートした“ゴルフと温泉”をコンセプトとしたゴルフアパレルブランド「TOBATH.(トバス)」。デザインと機能性に徹底してこだわり、アスリート界隈を中心に愛用者を増やしている。この異色のブランドを立ち上げたのは株式会社スポンドの代表を務める立木正之。アディダスに日本法人立ち上げの翌年から20年間にわたり在籍し、スポーツマーケティングの最前線で戦ってきた立木は、スポーツビジネスとどのように向き合い、なぜ自らゴルフブランドを立ち上げたのか? その理由をひも解くと「ウェルビーイングブランド」という聞き慣れない言葉にたどり着いた。
(インタビュー・構成=中林良輔[REAL SPORTS副編集長]、写真提供=立木正之)
自身も選手として選出された「日本高校サッカー選抜」が仕事に
――立木さんは山城高校時代にGKとして全国高校サッカー選手権で準優勝。高校選抜にも選ばれています。青山学院大学へ進学後もサッカーを続けられていますが、もともとはプロサッカー選手を目指されていたのですか?
立木:高校卒業のタイミングでJリーグが創設されたので、それまではプロになるという選択肢はなかったです。ただ高校3年のときにガンバ大阪に練習生で行かせてもらったんです。当時のガンバの監督が釜本邦茂さんで、山城高校の先輩でもあるので、ガンバのサテライトチームとはよく練習試合をやらせてもらっていて。その流れでガンバのトップチームに高校の主力の4〜5人で1週間ぐらい練習参加したのですが、周囲のレベルと練習量についていけず、これは太刀打ちできないと痛感しました。
――プロの高い壁にぶつかったわけですね。
立木:そうですね。大学3年生のときにも横浜マリノス(現横浜F・マリノス)に練習生で行かせてもらったんですけど……。そのときはGKに川口能活がいたんです。年は僕の1つ年下なんですけど、努力だけでは埋められないレベルの差を感じて、これはもう絶対無理だなと諦めました。
――大学卒業後の最初のお仕事もスポーツ関係だったのですか?
立木:そうです。当時パトリックやトッパーを扱っている会社に新卒で入って、販売促進の仕事をしていました。当時その会社が日本高校サッカー選抜のサプライヤーをやっていたのでその担当もしていました。高校選抜のスタッフとしてヨーロッパ遠征に帯同したり、高校の先生方にもかわいがっていただいていて、高校サッカーにどっぷり浸かっていました。
世界的ブランドで得た経験値。スポーツで実現する“三方良し”の取り組み
――その後、アディダスに入社された経緯についてもお聞かせください。
立木:ちょうどアディダスが日本法人を立ち上げたのが1998年だったんです。その時に、スポーツ業界で働く若手を探しているということでお誘いをいただいて、翌年の春に入社しました。日本法人ができたばかりで、高校サッカーはまったく手をつけられていなかったので、そういった部分の経験と人脈も声をかけてもらった理由の一つだと思います。
――すでにスポーツに携わる充実した社会人生活を送っていたなか、なぜ同業種で日本法人が立ち上がったばかりのアディダスで新たな勝負をしようと決断されたのですか?
立木:世界的な大きなブランドで働いてみたいという思いが強かったですね。サプライヤーとして、サッカーの日本代表の仕事に関われるかもしれないという魅力も大きかったです。サッカーの仕事に携わるのであればFIFAワールドカップというビッグイベントに関わる仕事をしたいという思いもありました。
――その後、アディダスでは20年間お仕事されています。主にどういった業務や役割を担われていたのですか?
立木:ずっとマーケティングの領域ですね。なかでもスポーツマーケティング部門では、サッカーの責任者だったこともあり15年間やっていました。日本代表、Jリーグのチームや選手との契約交渉から、肖像の管理、企画のプランニングから実施まで、ブランディングと販売促進に関わる領域で長く仕事をしてきました。
――アディダスでの最後の3年間半は、新規事業部にも在籍されています。
立木:新規事業部での3年半はすごく大きな経験値となりました。いままではずっとサッカーが中心だったんですけど、バスケットボール、テニス、ダンスなどあらゆるジャンルの競技の仕事をして、視野とネットワークが確実に広がりました。ゼロからビジネスを生み出していく部署であったことも、現在の自分のビジネスにすごく生きていると感じます。
――いまの仕事にもつながる印象深いお仕事の事例はありますか?
立木:Jリーグの冠スポンサーも務めている明治安田生命さんとの、保険の加入者の顧客満足度を上げるために行った取り組みは印象深いですね。「フットサル大会を開催して課題解決しませんか?」とご提案して大会を開きました。加入者の方にチームを作って大会に参加していただき、参加者にはアディダスのオリジナルユニフォームをプレゼントしました。われわれは仕事としてこの事業に関われて、参加者にも喜んでいただけて、明治安田生命さんとしては加入者以外の方にもアプローチすることができる。スポーツを通して“三方良し”の取り組みを実現できました。このイベントを通して、改めてスポーツの持つ可能性を実感できましたし、スポーツとは関係のない企業や職種の方々にもっとスポーツを活用してもらいたいと強く感じました。
スポーツ界だけでお金を回そうとしても衰退していくだけ
――2019年にアディダスを離れて、株式会社スポンドを立ち上げられました。自身で起業を考えられた理由は?
立木:もともと実家が自営業をしていて、自分もいつか独立してやるものだと自然と昔から考えていたこと、そして日本で東京五輪が行われることも大きかったですね。あとは、ちょうどアディダスの組織内でドイツ本社と日本法人の間にアジアを統括する組織ができたりと組織改変があったタイミングでもあり、いいタイミングだと捉えてアディダスを退社し、起業にチャレンジしました。
――起業後は、どういうビジネスから始められたんですか?
立木:スタート時は、スポーツを通じて人と人、企業と企業をつなぐビジネス、まさに社名の通り「スポーツをボンドさせる」ビジネスを考えていました。アスリートやスポーツ関係者と一般企業をつなげるネットワークをつくりたかったんです。ただマネタイズ面でなかなか右往左往することも多く、そのなかである企業さんからブランドマーケティングを手伝ってくれというお話をいただいて。そのときに思ったのが、人と人をつなぐビジネスという点にこだわりすぎず、コンサルティング業務をビジネスの軸にしながら、そこに人と人とをつなぐ活動を混ぜちゃえばいいんだと考えました。
――起業後にコロナ禍もあったなかで試行錯誤を繰り返され、現在はスポーツを通じたコンサルティング事業をベースにされているわけですね。
立木:はい。スポーツを活用した事業設計やマーケティング設計だったり、販路を広げるお手伝いを、さまざまな企業と一緒に取り組ませていただいています。例えば、寝具メーカーさんの寝具を「コンディショニングギア」と捉えて、睡眠もコンディショニングの一つという考え方で展開し、スポーツ店に販路を広げたりという取り組みをしていました。
現状日本でお金を持っている企業ってスポーツ界にはまだまだ少ない。でもお金を持っていてさらなる将来への投資を考えている企業はたくさんあって、そういった企業とスポーツをつなげていきたい。そうしてスポーツ界にお金と仕事を循環することで、日本のスポーツ自体のレベルを上げ、環境を整える仕組みをつくっていきたい。スポーツ界だけでお金を回そうとしても、シュリンクしていくだけだと思うので。
ゴルフ×温泉!? 新ブランド「TOBATH.」の持つ可能性
――昨年11月、ゴルフと温泉をコンセプトとした新ゴルフアパレルブランド「TOBATH.(トバス)」を立ち上げられた理由と経緯をお聞かせください。
立木:ずっとサッカー業界にいて、サッカー中心のネットワークで過ごしてきたなかで、2018年ごろから趣味としてゴルフをやり始めたところ、ネットワークの幅が格段に広がったんです。サッカー選手も、野球選手も、バスケ選手もみんなオフにはゴルフをやるんですよ。ゴルフこそまさに自分がやりたい「スポーツを通じて人と人をつなげる」事業を体現するスポーツだなと考えたのがきっかけです。
一緒にゴルフをして、温泉に入って、食事をすれば、「はじめまして」から「仲間」になれますよね。人と人をつなげて、人を笑顔にできる方法として「ゴルフと温泉をコンセプトにしたなにかができないか?」と考えました。
あとは、ずっとコンサルティング事業をやってきたなかで、どうしても契約期間がある仕事なので、それが切れてしまうと寂しく感じてしまって。自分で育てていくブランドがほしいなと。そういったなかでアディダスで培った経験を生かして、ゴルフの持つ可能性も生かしたブランドをやろうと決意しました。
――未曾有のコロナ禍の最中での立ち上げとなりました。
立木:コロナ禍で世界中が先の見えない混乱に陥り、誰もが不安な日々を過ごすなかで、改めて「幸せってなんだろう?」と考えたんです。自宅待機中のオンラインミーティングなどデジタル面がどんどん便利になったけれど、やっぱり便利さと幸せは別ではないかなと。そこでやっぱりリアルが大事だなと思ったんです。リアルで仲間と一緒の時間を共有して、笑顔で一緒に過ごすことが幸せなのだと改めて気づかされました。そのことを表現する象徴的なブランドを立ち上げたいと考えたこともあり、コロナ禍でのスタートとなりました。
――現在の主力のラインナップのなかで、特に人気の商品はありますか?
立木:現在の商品のラインナップは、ポロシャツ、モック、ジャケット、フードつきスウェット、ハーフパンツ、ジョガーパンツ、スカート、Tシャツ、サウナハット、キャップです。そのなかでいま一番売れているのはポロシャツですね。
――現状の商品は主に白と黒の2色展開です。色のパターンをかなり絞られているところにも強いこだわりを感じます。
立木:ブランドのコンセプトに「最高の1日をデザインする」というビジョンがあって、1日24時間の昼と夜をイメージした白と黒です。もちろんゴルフのファッションはカラフルなものを身につけるのも一つの楽しみではあるので、今後は色のバリエーションも増やしていきたいですが、基本は白と黒をベースにストーリー性を大事にして展開していきたいです。
――今後、追加を予定している商品はあるのですか?
立木:先ほどもお話しした「幸福感を感じられるような環境」を生み出すことを目的にしているので、ゴルフウェアだけにこだわっているわけではなく、商品ではペットのウェアだったり、サービスではゴルフのコンシェルジュ的なものであったり、ゴルフと温泉を絡めたパッケージツアーであったり、そこから社会貢献活動にもつなげていきたいと考えています。
目指す先はウェルビーイングブランド。ジョーダンブランドは…
――ゴルフをやっている方をメインターゲットとしながらも、そこからどんどん広がっていくような展開を考えているのですね。
立木:そうです。なのでゴルフアパレルブランドではなく、ウェルビーイングブランドになりたいんです。
――その点、詳しくお聞かせいただけますか?
立木:たまたまスタートとして選択したのがゴルフアパレルだったというだけで、トバスというブランドのコンセプトは幸福度の形成なので、ゴルフアパレルとして完結していくわけではありません。ウェルビーイング=身体的、精神的、社会的に満たされていて本質的に価値のある状態。それを実現できる、さまざまな幸せの形の需要に応えるブランドでありたいですね。
――ウェアに搭載したテクノロジー「RELIVE Tech(リライブテック)」もブランドの特長の一つだと思います。ウェアの内側に鉱石をプリント加工していて、柔軟性向上、体幹の安定、パワー向上、疲労回復に効果があるとのこと。この点もゴルフに限らずあらゆるスポーツにおいて汎用性がありそうですね。
立木:まさにその通りです。そういった点もウェルビーイングブランドを目指しているからこそのこだわりですね。あと、例えばジョーダンブランドってあるじゃないですか。ナイキの展開するなかの1ブランドでありなら世界中にファンがいて、マイケル・ジョーダンはバスケの象徴であるにもかかわらず、サッカーのユニフォームも出しているんですよ。それってすごくいいなと思うわけです。バスケファンだからといってバスケのブランドだけ好きである必要はないんです。
――トバスの商品の価格は決して安い設定ではないと思います。このあたりは、品質に徹底してこだわり、高くてもいいものを求める人に向けて、という考え方があるのですか?
立木:そうですね。もちろん商品のクオリティーにはこだわっていますし、マーケット的にも大量に作って大量消費というのはSDGs的にもよくないので。今後は環境に配慮した素材にもこだわっていきたいと考えています。
――改めて最後にトバスというブランドを通じて実現したいビジョンについてお聞かせください。
立木:もう本当にシンプルに、みんなが笑顔で過ごせる環境をつくっていきたいんですよね。そのなかで、人はやっぱり一人だけで過ごしていると寂しいですし、スポーツを通じて仲間をつくって、仲間といい時間を過ごしてほしい。トバスというブランドがなにかの形でそのお手伝いができるとうれしいですね。
<了>
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[PROFILE]
立木正之(たちき・まさゆき)
1974年4月3日生まれ、京都府出身。株式会社スポンド代表。山城高校時代に全国高校サッカー選手権で準優勝を経験、高校選抜にも選出。⻘山学院大学を卒業後、商社勤務を経て、1999年にアディダスジャパン株式会社に入社。スポーツマーケティング部門で15年、リテールマーケティング部門で 1年半、新規事業部門で 3年半、長くサッカー部門の責任者を務めるなどスポーツマーケティング領域のビジネスに20年間携わる。2019年に株式会社スポンドを設立し、スポーツマーケティング分野における新しい価値創造を開始。2022年11月にゴルフと温泉をコンセプトとした新ゴルフアパレルブランド「TOBATH.(トバス)」を立ち上げる。
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