
J1昇格への道は“DAO”から。ザスパクサツ群馬が掲げる「Road to J1プロジェクト」とは?
ザスパクサツ群馬が新たなプラットフォームとしてスタートさせた「ザスパ共創DAO」は、4つの柱から構成される。移籍金ビジネスを軸にした「Road to J1プロジェクト」をはじめとしたそれぞれの施策と、「クラブの価値を高める」ビジョンについて、REAL SPORTS編集長で南葛SC(関東リーグ1部)代表取締役専務兼GMを務める岩本義弘が、ザスパクサツ群馬の赤堀洋社長と営業部長の藤田耕一氏に話を聞いた。
(インタビュー=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、写真=アフロ)
社長自らが参加することで「本気度」を伝えられる
――「ザスパ共創DAO」でこれから活動がスタートしていく中で、赤堀社長はクラブのトップとしてどのような関わり方をされていく予定ですか?
赤堀:私がクラブの代表として積極的に関わってこの新しいプラットフォームを使って価値を見出していくということを、私自身が推進していくことが必要だと思っています。
――新しい事業はステークホルダーにも気を遣うので、なかなか踏み切れないケースもあると思います。その点は、トップの赤堀さんが関わることで実現への強いメッセージにもなりそうですね。
赤堀:僕らは今J2にいて、事業規模はそれほど大きくないので、ある意味失うものもないと思いますし、可能性もある。J1のアビスパ福岡さんがやられているのでJ1のクラブの人にも見てほしいですし、J2やJ3、JFLのいろいろなクラブにも「こういうことをやっているんだよ」ということを共有したいと思っています。共有するとさまざまな意見が出てくると思うんですよ。これって何なのか?から始まって、こういうことをしたらいいんじゃない?みたいな意見が出てくることをすごく期待しています。
――クラブのトップが積極的に参加してくれることは、営業部長の藤田さんの立場からするとどのようなメリットがあると思われますか?
藤田:一番のメリットは、やはりクラブの本気度を伝えられるところだと思います。トークンは2021年から販売していますが、運用できていなかったので、トークンホルダーの方々からすると信頼関係が一度崩れてしまっていると思います。社長が自ら率先して推進していくプロジェクトにしたところは、向き合い方の本気度を示す意味で一番伝えたかったところでもあるんです。
移籍金の収益増をクラブ強化につなげる循環モデル
――今回の「ザスパ共創DAO」の柱となっている4つのプロジェクトの中で、1つ目が「Road to J1プロジェクト」です。「J1昇格」と明確に打ち出すのは勇気がいると思うんですが、最初に打ち出しているのは、クラブの覚悟と受け取っていいんでしょうか。
赤堀:そうですね。J1に行けるかどうかは誰にもわからない話ですけど、行けると思わなければ行けないですし、「行くぞ」と言わなければ行けない話ですから、これはもう「行くぞ」という強いメッセージですね。
――すごい覚悟だと思います。具体的には、DAOの取り組みの中でどのように落とし込んでいく予定ですか?
赤堀:チームが強くなるために、選手の獲得とか移籍の話もありますし、監督や強化、練習環境やスタジアムなど、お金の話も含めていろいろな要素があると思うので、そこをまず「見える化」したいというのがあります。当然、J1に行くのは簡単なことじゃないです。でも、「こういうことをちゃんとステップ・バイ・ステップでやれば行けるんだよ」という道筋を共有できると思います。
――トークンを循環させることで、どのように移籍金ビジネスにつながるのですか?
藤田:うちが今やろうとしているのは、選手の移籍が発生した時に、移籍金で得た利益の一部を使って、バイバック(トークン購入)して、トークンの価値を上げていくことです。どちらかというと、トークンホルダーに対してメリットを返すようなスキームになると思います。その中で、強化費とか育成費につながる費用も獲得していきたいなと思っているんです。
例えば「2000万でこういう選手が獲得できる」という話があった時に、まずみんなで2000万をトークンで集めてその2000万の選手を獲得して、チームが強くなる。その選手が4000万で移籍して移籍金が入れば、2000万の一部を使ってバイバックすることでトークンホルダーにメリットをお返しできます。そうしたら次の選手を獲得するために「またみんなでお金集めよう」という流れが生まれる。まだ具体的な絵が見えているわけではないのですが、そういう循環のスキームが組めるといいのかなと考えています。
――その循環を明確に示して、実際に実現できたときにはトークンホルダーやファン・サポーターの方々のテンションも上がりそうですね。ただ、「この選手をとるからファンディングしましょう!」と具体名を出すのは、情報の部分も含めて難しい面がありますよね。例えば、名前は出さずに「ブラジル人選手」ぐらいなら良さそうですよね。
ホームタウン活動を活性化! 「オール群馬プロジェクト」
――そのほかの「オール群馬プロジェクト」、「ザスパンダ育成委員会」「ザスパマーケティング部」のこの3つのプロジェクトについても説明していただけますか?
藤田:「オール群馬プロジェクト」は、今まさに各自治体と話をしているところです。このプロジェクトを立ち上げようと思ったきっかけが、ホームタウン活動の課題について考えたことです。各チームが一生懸命取り組んでいると思うんですけど、実際に各地域のためにクラブがやらなきゃいけないことをやれているかというと、意外にそうでもないのではないかと思っていて。というのも、自治体の担当者とクラブの担当者が2人、3人で話していても、そもそもの自治体の課題を吸い上げられていないケースはあると思いますし、クラブ担当者もいろいろアイデアは出していると思うんですが、それがすべてかというと、そうではないのかなと。
例えば、われわれは群馬県前橋市でホームタウン活動をやっているのですが、前橋市の市民の方々からも広く地域の課題を募集して、それに対してクラブのリソースをどう活用すればその課題に解決策を導き出せるかということを考えるんです。DAOの中で一般の方々も巻き込んでいくことで、ホームタウン活動がより広がると思ったんです。このオール群馬プロジェクトではそんなことをやっていきたいと思っています。
――これは、行政の中の人も参加するような動きはあったりするんですか?
藤田:今、まさにその仕掛けをしているところです。まずは群馬県がこのプロジェクトにどう関わっていけるかを調整しているところで、いくつかの自治体さんから「県が入れば、うちも同じスキームで入りたいです」という話はいただいています。
――続いて、この「ザスパンダ育成委員会」はどうですか?
藤田:今年1月に発表した来シーズンからのリブランディングの中で、ザスパンダという新しいマスコットが生まれたので、「このマスコットをみんなで育てていきましょう」というのがこのプロジェクトになります。既存のマスコット「湯友(ゆうと)」についても、グッズも含めて「もっとこうしてほしい」といったご意見がサポーターさんから出てきているので、この新しいキャラクターも育てていければと思い、プロジェクトを立ち上げました。こちらはすでに委員会のメンバーとして1社がほぼ決まっていて、話を進めています。
学生世代からのアピールで新規客層にアピール
――それは展開が早いですね! 最後の「ザスパマーケティング部」はどういう感じですか?
藤田:ここは、もともとモンテディオ山形さんが「U-23マーケティング部」という活動をされているのを参考にさせていただきました。DAOに入ってくださった方々の中でビジネスの勉強会をやったり、その勉強会を経て出たアイデアを施策に落とし込んだりとか、そういった活動をこのプロジェクトの中でやっていければと思っています。
――ザスパを応援している高崎経済大学の「ザスパ部」の方が、FiNANCiEの運営も手伝われていると聞いたんですが、そういった若い関係者層からもヒントを得たりしているんですか?
藤田:そうです。高経ザスパ部も、この「ザスパマーケティング部」の一環で立ち上げてもらった形です。地元の大学生が携わってくれるのはありがたいですね。
――どんどん人を雇うのは難しいじゃないですか。その一方で、そういう若い人たちの感性が、新規の顧客へのアピールにもなりそうですよね。
藤田:そうなんですよ。昨日も幸いなことに、「はたちのつどい」という、新成人の会のメンバーからお声がけいただいて、そういう高経ザスパ部みたいな活動を新成人メンバーでもやりたいんです、というお話をいただいて。やっぱり若い方たち、特にコロナ禍で青春時代を過ごした方たちは今、リアルなイベントに参加して充実感を得たいという気持ちがすごく強いみたいで。積極的にクラブと関わって、「こんなことをやっていきたいんです」という声はやっぱり増えていますね。
――ちなみに、ファンクラブは継続していくんですよね。
赤堀:はい。ただ、旧来のファンクラブのあり方というのも、この機会に見直していく必要があるかなということも痛切に感じています。
新しい価値創造のプラットフォームに
――最後に、改めてこの共創DAOによってクラブをどう変えていきたいかというビジョンをお聞かせください。
赤堀:やっぱりサッカークラブは地域のみんなでつくっていくものだと思います。その原点に立ち返って考えたときに、誰もが参加できるプラットフォームがすごく重要で。今まではファンクラブだったり、いろいろなサポーター組織などの受け皿があったんですけど、コロナ禍の3年間でその力が相対的に弱まってしまったのではないかと感じています。
その中で、こういう目新しい参加型のプラットフォームができたというのは、サポーターの皆さんにとっても地域の皆さんにとっても新鮮に映ると思いますし、ぜひ「参加してみたい」と興味を持ってもらいたいです。入口はハードルが高く映るかもしれませんが、その高いハードルを乗り越えて入った分、新しい価値をつくっていきたいという参加意識も高くなるのかなと思います。その中で、皆さんと一緒に新しい価値をつくっていけると思いますし、フィードバックも含めて、しっかり参加していることの意義を感じてもらえるようにしたいと思っています。
――藤田さんからも、ファン・サポーターの方々に向けてメッセージをお願いします。
藤田:ザスパはこれから大きくなろうとしているクラブなので、来シーズンにかけてリブランディングもしますし、新しいザスパをみんなで一緒につくり上げていければと思っています。群馬から発信して、全国のクラブの参考になるような先進的な事例をつくっていきたいですね。
<了>
【連載前編はこちら】ザスパクサツ群馬がJ2初の「共創DAO」に挑戦。「アイデアを共有し、サポーターの思いを実現するプラットフォームに」
[PROFILE]
赤堀洋(あかぼり・ひろし)
1969年6月2日生まれ、群馬県出身。ザスパクサツ群馬代表取締役社長。1992 年明治大学を卒業後、サッポロビール、ジュピターショップチャンネル勤務を経て、2004 年ソフトバンクBB(現ソフトバンク)へ。パートナー営業本部長、法人事業開発本部長、関連会社SBアド社長、Aeris Japan COOなどを歴任。2019年9月より株式会社カインズの新規事業開発部長。2020年3月株式会社ザスパ取締役を兼務し、11月に代表取締役社長に就任。2022年1月に退任後、2023年2月より再任。
[PROFILE]
藤田耕一(ふじた・こういち)
1983年4月19日生まれ、群馬県出身。ザスパクサツ群馬営業部長。國學院大学を卒業後、リクルート、JAPANサッカーカレッジ、Bリーグの新潟アルビレックスBB、タニタヘルスリンクを経て、2022年から現職。並行して、ヘルスケア法人の代表、アスリートフードマイスター社長室も務めている。
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