本物に触れ、本物を超える。日本代表守護神を輩出した名GKコーチ澤村公康が描く、GK大国日本への道
シュミット・ダニエルや大迫敬介など日本代表選手を指導し、大津高校やロアッソ熊本、サンフレッチェ広島など名だたるチームでGKコーチを歴任してきたGKコーチ澤村公康氏。現在は自身が立ち上げたプロジェクト「ゴーリースキーム」の活動を通して、未来ある守護神たちや若手指導者の育成と日本でのGK普及に力を入れている。“本物に触れ、本物に超える”をキーワードに、澤村氏が描く「GK大国日本への道」を目指す過程に迫る。
(インタビュー=尾倉侑也[Footballcoach代表]、構成=多久島皓太[Footballcoachメディア編集長]、写真提供:三原充史/Footballcoach)
一番提供したいのは「百聞は一見にしかず」の大切さ
――澤村さんが行うGKスクール、クリニックの一つの特徴として、大学生やJリーガーなど現役のプレーヤーをコーチとして招聘しているというものがあります。
澤村:僕が指導の現場で、子どもたちや選手たちに一番提供したいのが「百聞は一見にしかず」の大切さ。選手たちはグラウンドに話を聞きにくるのではなく、プレーをしにきていると思います。そういった中でも、僕含めコーチとして参加してくれる現役の選手たちが「こういうふうにやるんだよ」というデモンストレーションを見せることで、子どもたちはイメージが湧きやすくなると思っています。
また、GKの立ち振る舞いだったり、コミュニケーションの取り方だったり、ボールに対しての姿勢は言葉だけではなかなか伝わりにくいものです。最高のお手本として高いレベルでプレーするGKたちの迫力や音を間近で感じてもらうことは上達への第一歩だと考えています。そういった思いがあるので、僕のスクール活動やGKキャンプではグッドデモンストレーターとして現役の選手たちにも協力してもらっています。

大津高校・平岡総監督の声かけで生まれた活動の原点
――澤村さんがGKスクールやキャンプを行う「ゴーリースキーム」の活動を立ち上げた背景は?
澤村:GKスクールを自分でさせていただくようになったのは、僕が大津高校でGKコーチさせてもらっていた時になるので、もう約25年ぐらい前ですかね。大津高校・平岡総監督の声かけでスタートさせてもらいました。当時はスクールもクリニックも少なかった時代だったので、多くの子どもたちが面白半分でスクールに来てくれていたのですが、子どもたちの人数が増えていく中で僕一人じゃどうにもできないほどになったんです。
その時、「大津のGKたちをデモンストレーターで使えばいいだろう」という平岡先生の一言により、今は柏レイソルのトップチームでGKコーチをしている井上敬太も当時は学生コーチとして協力してくれていました。大津高校で僕が指導していたことを、敬太をはじめコーチで来てくれる選手たちはちゃんと理解できていましたし、理解しているものを言語化する能力も非常に高いものを持っていました。デモンストレーションも大袈裟にやってくれるので、それを見たスクール生たちも見様見真似でどんどん伸びていきました。
またコーチたちもデンモンストレーターとして、指導者の一人として参加してくれることで、彼らのプレーヤーとしての力の向上にもつながるんです。まさに、ピッチ上の全員が同時に学び、同時に伸びていく環境が「ゴーリースキーム」にはあります。
――その思いが、澤村さんの教え子をはじめ、つながりのある選手たちにも広がり、現役のプロ選手がデンモンストレーターとして参加するような活動にまで至るわけですね。こういった活動をさまざまなカテゴリーでの指導を続けながらも20年以上並行して行う澤村さんが、ゴーリースキームを通して描きたい未来はどのようなものでしょうか?
澤村:僕が見てきた選手、育ててきた選手は本物だと思っています。格好ばかりや技術だけではなく、スクールにコーチとして参加してもらう現役の選手、大学生も含めてやっぱり人間性もすごく素晴らしい選手たちです。そういったプレー、取り組む姿勢、人間性においても本物である彼らにさまざまな活動に一緒に参加してもらえないかと声をかけさせてもらっています。
子どもたちを伸ばすエネルギーの一つは、ショック(刺激)だと思っています。目から入ってくるショック、耳から入ってくるショック。これから頑張っていきたいという心を持った子たちが、「本物のGKはこんなに迫力を持って声を出しているんだ!」と感じることで自分の今の取り組みを見つめるきっかけにもなります。子どもたちもこういった本物を見て自分も頑張ろうと奮起し、デモンストレーターの現役選手たちも子どもたちの本気に触れ、さらにパワーアップを続けていく。こういった良い作用がピッチ上にいるすべてのGK、スタッフがより高みを目指すという熱気を生み出しているんです。
これからも常に僕の活動には若いコーチングスタッフが絶対に必要になってくるので、現役を退いた選手がセカンドキャリアでこういった活動に尽力し、しっかりと生活をしていけるようなサイクルが生まれることも理想の一つですね。選手としてのスキルアップを目指す子どもたちはもちろん、若い指導者をどんどん育てていく活動になればと思っています。

選手としても一人の人間としても“本物”になっていくために
――澤村さんが描く「GK大国日本への道」における大きな一歩として、青山学院大学で活動している定期開催の単発クリニック活動は“本物に触れ、本物を超える”をテーマに掲げられています。
澤村:青山学院大学さんとご一緒しているクリニックでは、小学3年生〜大学生までの幅広い年代に指導させてもらっています。どの年代の選手も同じGKなので、年代別に分けての指導というよりも全員同じピッチでトレーニングするほうが相乗効果が生まれやすい環境になります。
ジュニア(小学生)年代の子たちは早く本物を見たほうがいいと思いますし、逆に高校生や大学生などある程度のキャリアを積んでいるGKたちはジュニアの子たちにしっかりと言葉でコーチングをしてもらったり、デモンストレーションを見せることで自らのプレーの振り返りや新たな発見につながります。さらに高校生や大学生がジュニアの子たちの面倒を見てあげる経験が、彼らに社会性を育む場になっていると感じています。 サッカーというスポーツを通して、スキルアップはもちろん、社会性を身につけて、選手としても一人の人間としても“本物”になっていく。そういった場にできればという思いです。
――このクリニックには先日52歳の方からの問い合わせもありました。澤村さんは以前からシニア年代への指導もやっていきたいとおっしゃっていましたよね。
澤村:とてもうれしいですね。僕はスクールやクリニックの参加に、うまい・下手や年齢は関係ないと思っています。競技スポーツの前に、サッカーを生涯スポーツにしたいと思っているので、52歳の方であってももちろんウェルカムです。このような問い合わせがきたことがすごくうれしいですし、みんなでエンジョイしてもらいたいなと思います。

スポーツを通じてみんながワクワクできるような環境づくりを
――ゴーリースキームの活動ではさまざまな年代の大勢の選手が混ざり合っています。その中で工夫されていることはあるのでしょうか?
澤村:僕はGKコーチのキャリアを大津高校からスタートさせてもらいました。当時の大津高校は3学年でGKが15人の大所帯。1学年5人のうち、県選抜や九州代表、年代別代表クラスの選手もいれば高校からGKを始めたいという選手までいたんです。今ロアッソ熊本のアカデミーGKコーチを務める谷井健二は中学校まではボランチをやっていたんですよ。右も左もわからない状態で大津高校に入ってきてGKを志した選手です。そんな選手が、大津高校で他のGKたちとの日々のトレーニングを積み重ねるうちに、今は立派にJリーグクラブのアカデミーでGKコーチを務めています。
今僕が指導しているスクールやクリニックで大人数の選手たちと向き合っているのは、プロを目指すGKを育てるだけではなく、サッカー選手を育てていきながら、GKというスペシャリティのあるポジションそのものの文化をしっかり育てていくという両輪を常に意識しながら行っています。
自チームではGKがすごく少ない中でトレーニングしている選手たちも、このクリニックではできるトレーニングの幅も広がったものがあります。そういった、自チームではなかなか難しいようなトレーニングを行うことができるのもこの活動の強みではないかなと思っています。
――最後に、澤村さんの活動「ゴーリースキーム」の今後の展望をお聞かせください。
澤村:サッカーはスポーツだし、スポーツはエンジョイしてストレスを発散するものだと思っています。GKが大好きな選手や日本のGKの方たちがエンジョイして、ストレス発散できるようなこういう取り組みを続けていきたいですね。先ほどもお話しましたが“本物に触れ、本物を超える”ことを大きなテーマとしてこの活動をこれからも行っていきますし、クリニックやスクールも日本全国に拡げていきたいです。
「失点したらどうしよう」とか、「自分が指導している選手がいいパフォーマンスが出せなかったらどうしよう」という心配ではなく、「どういったプレーをして、どういうふうにゴールキーピングしようかな」とか「どういった指導をして、どういうふうにアプローチをして選手を伸ばしていこうかな」というような、みんながワクワクできるような環境づくりを僕はしていきたいです。GKを通じて社会でいろんな分野で貢献できるような、そういった人間性も育んでいけたらなと思っています。
<了>
7シーズン公式戦出場なし。それでもフロンターレGK・安藤駿介が手にした成長。「どっしりとゴール前に立てた」
シュミット・ダニエルを高みに引き上げた“気づき”。恩師が語る「ゲームチェンジャー」に成長した要因
代表輩出GKコーチが語る、指導者・保護者が知るべき“GK育成7つの流儀”「サッカーって何ゲーム?」
なぜJリーグのGKは外国人が多い?「日本人GKの課題」を指摘する名指導者の危機感
日本で「世界一のGK」は育成できない? 10代でJデビューして欧州移籍。世代を超えて築く“目標設定”
[PROFILE]
澤村公康(さわむら・きみやす)
1971年12月19日生まれ、東京都出身。GKアカデミー「ゴーリースキーム」代表。三菱養和SCユース、仙台大学でプレー。1995年に鳥栖フューチャーズの育成GKコーチに就任。以降、ブレイズ熊本アカデミー、大津高校、日本高校選抜、JFAナショナルトレセンコーチ、浦和レッズアカデミー、女子日本代表、川崎フロンターレアカデミー、青山学院大学、浜松開誠館中学校・高校などさまざまなカテゴリーでGKコーチを歴任。2015年からロアッソ熊本、2019年はサンフレッチェ広島でトップチームのGKコーチを務めた。これまでシュミット・ダニエルや大迫敬介など日本代表GK、JクラブのGK、GKコーチなどを数多く輩出している。
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
新潟レディースが広げた“女子サッカーの裾野”。年100回の地域活動、川澄奈穂美が呼び込んだ「応援の機運」
2026.02.12Business -
「自分がいると次が育たない」ラグビー日本代表戦士たちの引退の哲学。次世代のために退くという決断
2026.02.12Career -
女子サッカー日本人選手20人がプレーするWSL。林穂之香が語る進化と求められる役割
2026.02.10Career -
なぜ新潟は「女子部門の分社化」でWEリーグ参入に踏み切ったのか? レディースとプロリーグに感じた可能性
2026.02.10Business -
技術は教えるものではない。エコロジカル・アプローチが示す「試合で使えるスキル」の育て方
2026.02.09Training -
ユナイテッド、チェルシー、アーセナルを“刺した”一撃。林穂之香が宿す「劣勢で決め切る」メンタリティ
2026.02.09Career -
「W杯のことは考えていない」欧州で戦う日本代表選手が語る“本音”が示す成熟
2026.02.06Opinion -
中国勢撃破に挑む、日本の若き王者2人。松島輝空と張本美和が切り開く卓球新時代
2026.02.06Career -
守護神ブッフォンが明かす、2006年W杯決勝の真実。驚きの“一撃”とPK戦の知られざる舞台裏
2026.02.06Career -
広島で「街が赤と紫に染まる日常」。NTTデータ中国・鈴森社長が語る、スポーツと地域の幸福な関係
2026.02.06Business -
森保ジャパンが描くワールドカップ優勝への設計図。4×100mリレーと女子チームパシュートに重ねる組織の戦略
2026.02.02Opinion -
モレーノ主審はイタリア代表に恩恵を与えた? ブッフォンが回顧する、セリエA初優勝と日韓W杯
2026.01.30Career
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
技術は教えるものではない。エコロジカル・アプローチが示す「試合で使えるスキル」の育て方
2026.02.09Training -
スタメン落ちから3カ月。鈴木唯人が強豪フライブルクで生き残る理由。ブンデスで証明した成長の正体
2026.01.05Training -
「木の影から見守る」距離感がちょうどいい。名良橋晃と澤村公康が語る、親のスタンスと“我慢の指導法”
2025.12.24Training -
「伸びる選手」と「伸び悩む選手」の違いとは? 名良橋晃×澤村公康、専門家が語る『代表まで行く選手』の共通点
2025.12.24Training -
サッカー選手が19〜21歳で身につけるべき能力とは? “人材の宝庫”英国で活躍する日本人アナリストの考察
2025.12.10Training -
なぜプレミアリーグは優秀な若手選手が育つ? エバートン分析官が語る、個別育成プラン「IDP」の本質
2025.12.10Training -
107年ぶり甲子園優勝を支えた「3本指」と「笑顔」。慶應義塾高校野球部、2つの成功の哲学
2025.11.17Training -
「やりたいサッカー」だけでは勝てない。ペップ、ビエルサ、コルベラン…欧州4カ国で学んだ白石尚久の指導哲学
2025.10.17Training -
何事も「やらせすぎ」は才能を潰す。ドイツ地域クラブが実践する“子供が主役”のサッカー育成
2025.10.16Training -
“伝える”から“引き出す”へ。女子バスケ界の牽引者・宮澤夕貴が実践する「コーチング型リーダーシップ」
2025.09.05Training -
若手台頭著しい埼玉西武ライオンズ。“考える選手”が飛躍する「獅考トレ×三軍実戦」の環境づくり
2025.08.22Training -
「誰もが同じ成長曲線を描けるわけじゃない」U-21欧州選手権が示す“仕上げの育成”期の真実とは?
2025.07.14Training
