「ラグビーにヒーローはいない」健闘見せる日本代表支える、体を張り強敵を弾き返す“陰の立役者”二人の存在
3戦を終えて2勝1敗。ラグビーワールドカップ2大会連続のベスト8を懸けて、10月8日にアルゼンチン代表との大一番を迎えるラグビー日本代表。今大会キック成功率93.75%の松田力也、今大会でも2トライを決めている“レジェンド”リーチ マイケルらに注目が集まる中、この先に続く大一番では「相手を跳ね返す選手」の重要度がさらに増してくる。ニュースで目にする1分のハイライトに彼らは登場しないかもしれない。それでも体を張って日本代表を支える二人の選手にスポットを当てる――。
(文=向風見也、写真=松尾/アフロスポーツ)
両軍最多となるタックルを放った、どこまでも謙虚な万能型選手
私は、特別なことはしていない。ただ、周りと同じようにしているだけだ。
ラグビー日本代表にあってそう謙遜するのは、ジャック・コーネルセンだ。最近行われた数試合での一貫性あるパフォーマンスに触れ、こう述べたのだ。
「皆でハードワークしている。私が他の人と比べ、特段に違うことをしているわけではありません」
身長195センチ、体重110キロの28歳。オーストラリア代表のエースだったグレッグさんを父に持ち、来日5年目の2021年に日本代表となった。
フォワード第2、第3列の複数ポジションを補う。9月からフランスで開催中のワールドカップでは、大会登録選手数に限りがある。万能なコーネルセンが貴重な戦力としてメンバーに選ばれたのは、自然な流れだった。
ワールドカップ初出場となったチリ代表との予選プール第1戦では、当初ロックで先発予定もナンバーエイトにスライドした。もともとナンバーエイトだった姫野和樹主将が、左ふくらはぎの違和感で先発を回避したのを受けて代わった。
場所はスタジアム・ド・トゥールーズ。試合のあった9月10日、コーネルセンは、両軍最多となる19本ものタックルを放った。
網を張っては止めての繰り返し。出色の働きを示した
前半13分のことだ。
自陣22メートル線付近に大きく攻め込まれるなか、タックルで相手を倒して素早く起立。別な味方のタックルミスでやや後退しながらも防御ラインを整え、迫る相手の太ももあたりにタックルを突き刺し、動きを止め、近くにいた味方にジャッカルをさせやすくした。その後も網を張っては止めての繰り返しで、ピンチを脱出した。
危機を救ったのは、14点リードで迎えた後半3分も然りだ。
自陣22メートルエリア右で防御網を破られるや、ゴール前まで一気に駆け戻った。ロックのアマト・ファカタヴァとともに、抜け出す相手走者に追いつき落球を誘った。
次戦以降は、ナンバーエイトの一つ前のロックに復職。空中戦のラインアウトで相手にプレッシャーをかけたり、迫りくる大型選手を抱えて球出しを遅らせたりと、出色の働きを示した。 予選プールDを2勝1敗としてアルゼンチン代表との最終戦を迎える日本代表。2大会連続での8強強入りに王手をかけるチームにあって、コーネルセンの存在は不可欠な存在の一人だ。
「ラピース」との愛称を持つラブスカフニの存在
ラグビーは、15対15による計80分のチームスポーツである。
前回の日本大会で5トライをマークの松島幸太朗、正確なゴールキックが注目される松田力也がハイライトを飾る裏には、幾多のぶつかり合い、圧のかけ合いが生まれる。
ここに何度も登場し、相手を跳ね返す選手を増やすほど、日本代表は次の大一番で勝ちやすくなるだろう。コーネルセンもその役目を担う。
さらに幸いなことに、日本代表にはコーネルセンと同種の光を放てる選手が数多くいる。
「笑わない男」として有名人となった稲垣啓太、稲垣と左プロップの位置で協同するクレイグ・ミラー、インサイドセンターとして好パスも繰り出す中村亮土……。そして、今大会特に際立つのは、フランカーのピーター・ラブスカフニの存在だ。
ファーストネームとラストネームを掛け合わせた「ラピース」との愛称を持つラブスカフニは、17日にスタッド・デ・ニースで行われたイングランド代表戦で19本のタックルを記録した。 この夜は12―34と敗れるも、続く28日、トゥールーズでのサモア代表戦では、18本のタックルを28-22での2勝目につなげた。
「自分ができることで貢献したい」印象的だったラブスカフニのプレー
サモア代表戦で特に印象的だったラブスカフニのプレーは、後半38分に追撃のトライを奪われるまでの流れだ。
疲れのたまる時間帯に防戦一方と苦しい状況下、走者を追い込み、地面の球に絡み、別な個所での被ラインブレイクにも焦らず守備ラインを保ち、仲間とのダブルタックルで向こうの突進役を押し返していた。
身長189センチ、体重106キロというサイズは、力自慢がそろう母国の南アフリカにあっては決して大きくはない。世界的に小柄な日本代表においても貴ばれる点は、力というよりも献身的な姿勢だ。
幼少期から信仰するキリスト教の聖書から生きるヒントを探り、進学したフリーステート大で会計学を学び、グラウンドでは、落ち着いて体を張る。国内所属先であるクボタスピアーズ船橋・東京ベイの同僚曰く、「どんなにきつい練習にもポジティブに取り組む」。2019年の日本大会でも日本代表となり、ゲーム主将も任された。
今年は股関節のケガ、強化試合で受けた出場停止処分の影響で、大会出場が危ぶまれたようにも映った。しかし実際には、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチからの信頼は揺るがなかった。
指揮官の見立てが正しかったことは、ラブスカフニ自身がその働きで証明した。それは出国前の宣言通りだった。
「どんなことでも、自分ができることで貢献したいです。何かで違いを見せたい」
迎えたアルゼンチン戦。「ラグビーにヒーローはいない」
2015年のイングランド大会で、南アフリカから大金星を挙げるなど3勝を果たした日本代表では、ゴールキッカーの五郎丸歩さん一人に人気が集中した。
その状況に違和感を覚えていたのは、ほかならぬ本人だった。引退後に応じた取材でも、「大きな偉業を皆で成し遂げたのになんで一人にフォーカスされなくちゃいけないんだろう」と回想。自身が極端に注目される現象は、競技の本質とは異なると言いたげだった。
五郎丸さんは現役時代にも、こんな名言を残している。
「ラグビーにヒーローはいない」
その試合に関わるすべての選手がヒーローとなるのが、ラグビーの真骨頂なのだ。
「五郎丸ブーム」のあった2015年のイングランド大会、スローガンの『ONE TEAM』を流行語にした2019年の日本大会を経たうえで、フランス大会きってのビッグマッチが間近に控えている。
当日は、彩り豊かな「ヒーローたち」があまねく国民の興奮と共感を呼ぶことだろう。
<了>
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