なぜ森保ジャパンの「攻撃的3バック」は「モダン」なのか? W杯アジア最終予選で問われる6年目の進化と結果

Opinion
2024.07.10

森保ジャパンは、無傷の4連勝で2次予選突破を決めた後のミャンマー戦とシリア戦で、2022年のFIFAワールドカップ・カタール大会以来となる3バックを採用。9月に控えるFIFAワールドカップ・アジア最終予選を前に、新たな戦いのオプションを示した。ウイングバックで出場した堂安律が「モダン」と言及した攻撃的な新3バックの狙いと、チームの進化を促すポイントとは? 主力選手たちの言葉から、6年目を迎える森保ジャパンの現在地をひも解く。

(文=藤江直人、写真=西村尚己/アフロスポーツ)

新3バックの鍵はウイングバックの人選「現代サッカーを象徴する形」

森保一監督は意図的に「攻撃的」と表現した。背番号10を託されて1年がたつ堂安律は「モダン」と言及した。いずれも日本代表が6月シリーズで採用した、3バックに対する形容詞となる。

敵地・ヤンゴンで6月6日に行われた、ミャンマー代表とのFIFAワールドカップ・アジア2次予選第5戦。そして、中4日の11日にエディオンピースウイング広島で行われたシリア代表との同最終戦を、いずれも[3-4-2-1]システムでスタートさせた日本はともに5-0のスコアで連勝した。

日本が試合開始から3バックで臨むのは、昨年3月に船出した第2次森保ジャパンで初めてだった。第1次政権を含めれば、4度目の挑戦でまたもやベスト16の壁を乗り越えられなかった、2022年12月のクロアチア代表とのFIFAワールドカップ・カタール大会のラウンド16以来となる。

もっとも、カタール大会のリベンジを期してきたドイツ代表を、4-1の快勝で返り討ちにした昨年9月の国際親善試合を含めて、途中で3バックに移行した試合は少なくない。初めて経験するわけではない日本の3バックを、なぜ堂安は「モダン」という言葉を添えて一線を画したのか。

答えはウイングバックの人選にあった。特にシリア戦では右利きの中村敬斗が左、そして左利きの堂安が右と、攻撃的でなおかつ逆足の選手がウイングバックとして先発している。

「それほどスピードがなく、サイドバックでもない選手たちがウイングバックでプレーして、ポジショニングやコンビネーションなどで両サイドを制圧する。間違いなく現代サッカーを象徴する形は見ている方々も楽しかったと思うし、実際にプレーしている僕たちもすごく楽しかった」

こう語る堂安には成功体験があった。所属するフライブルクで、昨シーズンはシャドーだけでなく右ウイングバックでもプレー。通算3シーズン目となるブンデスリーガ1部で、自己最多となる7ゴールをあげていた堂安は、6月シリーズを前に右ウイングバックでの出場を志願していた。

「フライブルクでは、ウイングバックが点を取る役割も託されていた。もしこのチームでも同じポジションを任されるのであれば、イコール、守備的な要員ではないと思っている」

言葉通りに堂安はシリア戦の19分にはリードを2点に広げる、節目の代表通算10ゴール目を決めている。自陣の左タッチライン際で中村が起点になり、中央でパスを受けたシャドーの久保建英が発動させたカウンターから、右側をフォローしてきた堂安が確実にゴールネットを揺らした。

「攻撃的3バック」が促す各ポジションの進化

北朝鮮代表との連戦だった3月シリーズ。ホーム戦で勝利し、アウェイ戦では北朝鮮側の都合で最終的に日本の不戦勝となった段階で、日本は無傷の4連勝で2次予選突破を決めている。

「アジア最終予選の前に2次予選を戦うメリット、デメリットはありますけど、早く突破を決めたときにさまざまなオプションにトライできるのはメリットですよね。もちろん3バックはファーストチョイスではないと思うし、あくまでもチームのオプションを広げる、という意味ではすごくいい感じになっている。これがファーストチョイスならば、改善点はまだまだありますけど」

6月シリーズで導入された3バックを、久保は主戦システム[4-2-3-1]のオプションと位置づけた。そのうえで指揮官が「攻撃的」、堂安が「モダン」と形容した意図を、中東勢のロングボール戦法の前に守備が破綻し、ベスト8で敗退したアジアカップを振り返りながらこう補足した。

「より厚みのある攻撃というか、基本的には守備のときに5バックにはならずに3バックのままで、相手が蹴ってくる場合はディフェンスの選手を信頼して、僕たち中盤から前の選手たちがまずセカンドボールを拾う。ただ、簡単にボールを後ろの選手に返すと、今度は日本がロングボールを蹴らなきゃいけない展開になる。そこで前向きな形で落ち着かせるのが僕たちの役割になる」

キャプテンのボランチ遠藤航も、ウイングバックで起用される選手次第で大きく変わると続いた。

「相手ボールのときに5バック気味になる選手起用になると、もしかすると『もっと前向きにいきたい』と思う選手たちが出てくるかもしれない。今回に関してはウイングバックの選手起用を含めてトライする、という共有がチーム全体でできていたのが非常に大事だったと思っている」

最終ラインの顔ぶれはどうだったのか。シリア戦では真ん中に身長188cm体重80kgの板倉滉、左に190cm84kgの町田浩樹、そして右には187cm84kgの冨安健洋がトリオを組んだ。

高さと強さ、そしてフィード能力を兼ね備えているだけではない。現在進行形の形でセンターバック陣のなかで共有されているポジティブな雰囲気を、町田はこんな言葉で表現している。

「トミ(冨安)がアーセナルで、そしてコウくん(板倉)がブンデスリーガでプレーしている。レベルの高いところでプレーしている選手たちが、高い基準を代表にもってきてくれる」

厚みを増した最終ラインの選手層。「どのポジションにもいい選手たちがいる」

6月シリーズ後には、ミャンマー戦で3バックの左でフル出場した188cm84kgの伊藤洋輝が、シュツットガルトからブンデスリーガの名門バイエルン・ミュンヘンへ移籍した。町田もベルギーからのステップアップを望んでいる状況を、冨安はこんな言葉を介して歓迎する。

「間違いなく厚みが出てきていると思います。これまでの日本代表だと前線の選手たちにけっこうタレントが多いと見られがちでしたけど、いまではチーム全体的に(センターバックを含めた)どのポジションにもいい選手たちがいる。これは間違いなくいい状況ですよね」

個の力に長けているうえに、板倉はボランチでも、左利きの町田と伊藤は左サイドバックでもプレーできるし、さらに冨安はアーセナルで左をメインにサイドバックを主戦場としている。シリア戦の後半途中から、交代した遠藤に代わって左腕にキャプテンマークを巻いた冨安は言う。

「試合のなかで立ち位置が変われば、3バックが4バックのように見えるときもあるし、もちろんその逆もあるし、それは相手を見ながら変えていく必要がある。最終ラインがシンプルに3枚だけになるのであれば、一枚ディフェンスが少なくなる分、一人ひとりが守るスペースが増える、というのはあるかもしれないけど、3バックだからどうこう、というのは特にないですね」

所属クラブでの経験をもとに、3バックにも問題なく対応できる。冨安の言葉は守備陣の総意でもある。多士済々な顔ぶれがそろったからこそ、森保監督は6月シリーズに谷口彰悟と橋岡大樹も加えた6人のセンターバックを招集。対照的にサイドバックを専門とする選手は菅原由勢と長友佑都にとどめた。

招集した選手のポジションを見ても、特に最終予選進出の可能性を残し、全力で臨んでくるシリア戦では最終ラインを板倉と町田、そして冨安に一任。左右のウイングバックにアタッカーを起用する、まさに「攻撃的な3バック」で臨むと決めていた森保監督の意図が伝わってくる。

「後ろに置いた3枚だけでしっかりと守れるだけの自信があるという判断だと思うし、そこは他の選手たちも同じ考えだと思う。ただ、それは対アジアにとどまらず、これからもっと、もっと強いチームに勝っていくうえでも、そういう選択肢というものはもっておくべきだと思う。少しずつチャレンジしていけばいいと思うし、それができるだけの個々の能力はそろっているので」

2年後のFIFAワールドカップ・北中米大会を見据え、戦い方の幅を広げるオプションを導入する最大のチャンスが6月シリーズだと位置づけた遠藤に、久保も思考回路をシンクロさせている。

「アジア最終予選ではロングボールを蹴ってくるチームがあるかもしれないけど、僕たちが見ているのはその先の戦いなので。僕たちよりも強いチームがロングボールを蹴ってくる場面はほとんどないはずだし、その意味でも僕たちのほうこそロングボールを多用せずに、そのうえでしっかりとつなぐ戦い方を、どんな相手に対してもできるようにしなきゃいけない」

6年目の森保政権に加わった“刺激”。結果と進化の二兎を追う最終予選へ

アジア最終予選進出を決めた後のいわゆる消化試合として6月シリーズを迎え、ここにきてセンターバックの顔ぶれが特に充実してきた。4バックに戻したシリア戦の後半を除いて、森保監督がここにきて3バックを2試合、計135分にわたって試した理由はもう一つあると見ていい。

イラン代表に逆転負けを喫したアジアカップの準々決勝後は、相手の執拗なロングボール戦法に対して、3バックにスイッチして対抗すべきだったと批判を浴びた。4バックでスタートしたこの試合では、ベンチに谷口や町田を残したまま、交代枠を一つ残して終戦を迎えている。

攻撃的な3バックはFIFAワールドカップ・カタール大会のドイツ戦、そしてスペイン戦の後半から導入し、ともに逆転勝ちを収める原動力になった。しかし、事前に練習をほとんど積んでいない、いわゆるぶっつけ本番のスクランブル布陣だったと指揮官自身が明かしている。

何よりも第1次森保政権の船出から、まもなく6年を迎える状況がある。FIFAワールドカップで指揮を執った後も続投した、初めての代表監督となった指揮官の手腕を認めつつ、第1次政権でキャプテンを担い、第2次政権では代表から遠ざかっているDF吉田麻也はこう語っていた。

「もちろんメリット、デメリットはあると思う。長く指揮を執るなかで選手たちの力を把握しているし、ある程度作られた部分からチームをスタートできる点や、目指していくサッカーを選手たちが理解できていて、さらに何が求められているかを理解している点はメリットですが、長くやるほどマンネリ化や選手の固定化が懸念されるところはデメリットになりかねない。それらをいかに払拭して、チームのなかでポジティブな部分を出していけるかがカギを握ると思う」

王座奪回を達成できなかったアジアカップを境に、今年1月まで歴代最長の国際Aマッチ10連勝をマークした森保ジャパンがやや失速した感は否めない。だからこそ、左右のウイングバックにアタッカーを配置する、攻撃的な3バックで臨んだ6月シリーズのシリア戦は大きな刺激になる。

たとえば、シリア戦の3バックを「モダン」と呼んでいた堂安は、右ウイングバックに対して「さらに代表でキャリアを積み重ねていくうえで、ここがベストポジションになるかもしれない」とモチベーションを高めている。一方で冨安はマンネリ化などの心配は無用と強調している。

「新しいシステムへのトライはポジティブに感じるけど、僕を含めたすべての選手が日本代表に選ばれて、実際に代表チームへ合流するだけで、いつも特別な思いを抱いている」

9月からはアジア最終予選が開幕し、日本はオーストラリア、サウジアラビア、バーレーン、中国、インドネシア各代表とともにグループCに入っている。初戦は9月5日。相手は中国。場所は埼玉スタジアム。上位2位までが自動的にワールドカップの切符を獲得する、来年6月まで計10試合が組まれている戦いで、森保ジャパンは結果と進化の二兎を貪欲なまでに追い求めていく。

<了>

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