男女混合ダブルス、張本智和・早田ひなペア 国際大会優勝で見えた、パリ五輪への大きな可能性
日本時間10月22日に行われたWTTコンテンダーアンタルヤ・男女混合ダブルス決勝で、張本智和・早田ひなペアがフランスペアを3―1で下し、今シーズンの初優勝を飾った。この大会で見せた見事な連係プレーの数々は、見る者すべてが「崩せない」と感じるほどに完璧に仕上がっていた。張本と早田はともにパリ五輪日本代表選考ポイント争いでも男女それぞれの首位に立っている。果たして2021年の東京五輪での水谷隼・伊藤美誠ペアに続く2大会連続金メダルという偉業は期待できるのか。その男女混合ダブルスの組み合わせの有力候補でもあるビッグネーム同士のペアが、ここにきて想像を超える「圧巻の強さ」を見せるようになってきているという。
(文=本島修司、写真=新華社/アフロ)
欧州の新星コンビとの対戦。中国勢ではないが決して侮れない相手
フェリックス・ルブランは、2023年のヨーロッパ競技大会を優勝したフランスの17歳だ。今、欧州の中でも絶好調といえる選手の一人。中国トップ選手のような世界の頂点にいる選手ではないが、簡単に負かせる相手ではない。現在の勢いも加味すると、かなりの難敵といえる。パートナーのプリティカ・パパドも19歳の若手。張本智和・早田ひなペアが挑んだ、WTTコンテンダーアンタルヤ・男女混合ダブルス決勝は、欧州の新星コンビとの対戦だった。
1ゲーム目。まずは4人のツッツキやストップの攻防から、早田がドライブで仕掛けていく展開が目立った。1-1となった一本もまさにその展開。早田が先に打ち、ブロックされたボールを、張本が打ちミスをした。序盤は張本の調子が悪いのかと思わせるシーンも何度かあった。4-5から、今度はラリーの中で早田が張本を鼓舞するような「決めにいくドライブ」を放ち、5―5。ルブランの長くなったサーブを、今度はエンジンがかかった張本がレシーブから豪快なドライブで決めて6-5。 もつれ合いながら同点となった、6-6の場面では、張本がナックル気味のサーブで勝負をかける。パパドのツッツキレシーブが大きく浮いてしまい、早田が大きく振りかぶって上からたたき込んだ。そのまま流れを引き寄せて、11―8で先取する。
印象に残った大きなラリー。ハの字の動きを崩す「打開策」
2ゲーム目。このゲームも出だしから台上を含めて一進一退の攻防が続くが、フランスペアの動きがいい。3-5の場面では、早田がパバドのフォアの深い所へツッツキを押し込んで4-5。6-7と劣勢の場面では、今度は張本が冷静にルブランの深いところへツッツキを押し込むような技を使った。食い込まれたルブランは、バックドライブを打とうとするが、体がのけぞりボールは大きく浮いてしまう。
このあたりから、張本も冷静に相手の動きを見ながらプレーをしている感じが出てきた。工夫をこらして、ルブラン・パバドのペアの動き、特にフットワークを乱すような戦い方をしている。終盤の9-9では、激しい打ち合いの攻防があった。早田のサーブをパバドがチキータで、張本のミドルへ。そこから大きな弧を描くドライブの打ち合いだ。バックもフォアも切り返しながら、引き合いに引き合って、ここを取り切り10-9。しかし、ジュースになってから張本にサーブミスが出てしまう。12-14でこのゲームを落とす。
印象に残ったのはこの大きなラリーだが、そこに至るまでの攻防も、とても見応えがあるゲームだった。 お互い、右利きの男子と、左利きの女子を有するダブルス。卓球においてこの形のダブルスは「ハの字」を描くように動くことが多い。右利き・右利きのペアよりも動きやすく、だからこそ「卓球のダブルスは左利きが有利」と言われている。その動きやすさを切り崩すには、どうすればいいか。中盤で見せた深いツッツキ。これが、ハの字の華麗な動きを崩す「打開策」として、とても有効だったように思う。
ミスのないフランスペア。うまく相手をかき乱す日本ペア
3ゲーム目。勢いに乗ったフランスペアは、このゲームでもさらに強さを増した。早田の短い下回転サーブをルブランがフリックで決めて、0-1で開始。2-5では、逆に早田がフォアフリックを流し気味に入れるレシーブで得点。このあたりも、お互いに深いところへ押し込むような技術を使っている。2ゲームでのツッツキもそうだった。相手の深い所へボールを入れると、ダブルスの「ハの字の動き」が少し崩れる。
しかし、それを読み切られては打たれてしまう。
お互いのペアが、それを読み切られないようなフォームで、読み切られないように忘れた頃に使う戦術を使っている。そしてその頻度は、張本・早田ペアのほうが多く、うまく相手をかき乱している。そこから中盤までは、フランスペアのミスのないプレーが目立った。4-7で劣勢に立たされたが、最後はジュースとなり、早田のチキータで決めて14-12で逆転。隣の張本はこのタイミングで絶叫。気合十分。
若手よりフレッシュさを感じる「前陣速攻」
4ゲーム目。張本のバックミートのミスで開始。2本目はルブランがバックミートのミス。早田のサーブに変わり、ナックルサーブでレシーブミスを誘う。パバドも前のゲームでやられた深いツッツキで相手を動かすような展開を狙っていたのだろう。この無回転のナックルを思い切りツッツいてしまい、オーバーミスとなる。早田の次のサーブは、下回転。これをパバドにチキータをさせて、張本がそのチキータを狙い撃つ作戦が見事にハマり、3-1。
張本は、ここでもまた絶叫する。一本、一本、点数を取るごとに叫び、ボルテージが増していく。中盤。5-3。ルブランのサーブを、早田が深いツッツキ。これをパバドがミス。この「深いツッツキ」が、試合を決めるキーポイントになっている。
6-3。ここで面白い技術が飛び出す。
ルブランのサーブを、早田がラケットを立てて、カーブをかけたようなツッツキを、パバドのフォアの深い所へ。パバドの飛び込みの動きが、大きく崩れる。なんとか返球されたが、浮いたチャンスボールとなり、張本がこれをしっかりフォアの強打で決めて得点する。最終的にこのゲームを11-8で押し切った張本・早田ペアが、この試合を制した。
目立ったのは、どんな場面でも、新しい一手を繰り出そうとする姿勢。長く知る二人ながら、マンネリのようなものがない、フレッシュさだ。その様子は、ハードな五輪選考会続きの日々を思えば、本当に素晴らしいもの。ハ―ドな日々を楽しんでいるかのようにも感じる。この試合の中でも二人は、深いところを突いて、自分たちと同じ「右利き・左利きペア」を攻略していった。
卓球の世界は次から次へと、若手が台頭してくる。ルブランもまた、その一人だろう。しかし、張本・早田のほうがむしろフレッシュに見えるほどに、二人モチベーションは高く保たれているようだ。
ハの字に動ける、左利きとのダブルス
一般的に卓球では、「左利きはダブルスに向いている」と言われる。
左利きとのダブルスで有名な所では、混合ダブルスだと水谷隼・伊藤誠美の“金メダルペア”が真っ先に思い浮かぶ。卓球の世界では、「左利き・左利き」でペアを組むケースは、あまりない。物理的に動きにくいからだ。以前、左・左ペアの水谷隼と丹羽孝希が男子ダブルスを組んで話題になったことがあるが、やはり中国などのトップ選手に勝つところまではいけなかった。
右利きと左切りのペアは、ハの字型に動ける。この有利さは常にある。
この試合は、深いツッツキと、深いツッツキにさらにバリエーションをつけたような多彩な台上プレーが見られた。そこでいかに、左利きを有する相手のダブルスの動きを崩せるか。その崩し合いこそ、この試合の本質だったのかもしれない。
右の張本、左の早田。今の日本で考えうる「最強ペアの形」
張本・早田のペアの安定感は、他のダブルスにはない圧倒的なものを感じる。
左利きで、動きにキレとスピードがある森薗政崇、中国ではサススポーのペンホルダー・許昕などがダブルスの名手として名高いが、左利きが一人入るとこれほどまでに安定感を出せるかというほど、左利きの早田の「ラリーへの入り方」は完璧な動きといえる。
国際大会でも、大きな結果が出始めた張本・早田ペア。現在の日本卓球界の至宝ともいえるこの二人の歯車がガッチリと噛み合うことで、日本の卓球は勢いを増していく。
終盤戦に入ったパリ五輪出場選手枠の、男女のシングルス枠争いでも最有力候補にいる二人。2021年の東京五輪では水谷隼・伊藤美誠のペアが日本に金メダルをもたらしたが、パリ五輪でも混合ダブルスに「世界の頂点に手がかかるチャンス」が潜んでいるのかもしれない。
シングルスも含めたこの二人の「動き」が、パリ五輪、打倒中国への“切り札”となることは、間違いなさそうだ。
<了>
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