「SVリーグは、今度こそ変わる」ハイキューコラボが実現した新リーグ開幕前夜、クリエイティブ制作の裏側
バレーボールの新しい国内リーグ「SVリーグ」。1994年に誕生したVリーグから、この度トップリーグにあたるSVリーグと下部リーグにあたるVリーグに再編された格好だ。このSVリーグのPRを担当するのが、鳥山聡子氏。そしてクリエイティブディレクションを株式会社セイカダイが担当している。鳥山氏が「SVリーグは、今度こそ変わる」と力を込めて語る背景、そしてハイキューの書き下ろしイラストとともに具現化された開幕キービジュアルや会場演出の秘密に迫った。
(インタビュー・構成=五勝出拳一・河合萌花、写真提供=©SV.LEAGUE)
国内バレーボールの歴史を背に、転換点を作る
国内のバレーボールの歴史は、必ずしも順風満帆ではない。1994年に日本リーグを発展させた形でVリーグが誕生するものの、プロ化への機運は実業団側の意向に阻まれ、2016年の「スーパーリーグ」構想もやがて後退と報じられたことは記憶に新しい。それを汲んだ発言なのだろう、本年のSVリーグにおいてPRを担当する鳥山氏も「今度こそ変わるんだという本気度を、私たちからアクションで伝えていかないと」と、力を込めた。
とはいえSVリーグに加盟するチームは男子10チーム、女子14チームと決して少なくない。 「もちろんチームの個性は大事にしたい、けれどもSVリーグ全体のブランドイメージがバラバラになってしまってはもったいない。SVリーグが皆さんとともに目指す北極星はあそこだよ、とリーグが意志を持って示し、コミュニケーションの中で丁寧に伝えながら、各チーム・選手の“共にリーグを盛り上げたい”というアクションを引き出していきたいと考えました」

「世界最高峰をめざす」ためのクリエイティブ
さて、その“北極星”とは何なのか。鳥山氏に尋ねると「世界最高峰のリーグをめざす」とはっきり口にした。
「そのために努力し続ける、挑戦し続ける姿勢を持つ。そして変化を恐れないこと。そのスタンスで頂点を目指すという意味合いを込めて、『ATTACK THE TOP』というSVリーグの体験指針を作りました」

覚悟を持って迎えた新シーズンの開幕戦、SVリーグはどのようなことを考えて準備を凝らしたのだろうか。鳥山氏は「やはり一回きりの“新リーグ開幕”を迎える上では、スペシャル感を演出したいと考えていました。明るい白を基調としながら、迫力を加える意味での黒、特別感を出すゴールドも随所にあしらって。まだまだもっとレベルアップできるという課題感も残りましたが、それでもお客様や選手、関係者の多くが喜んでくださったことはありがたかったです」と振り返る。そしてこの時、鳥山氏とともに新リーグ開幕を象徴するクリエイティブの開発を担当し、“新しい見せ方”を模索したのがスポーツ領域を中心に数多くのクリエイティブワークを担う株式会社セイカダイのディレクター石井百樹氏およびアートディレクター高橋団氏である。

「キービジュアルを固める上で、鳥山さんが当初から仰っていたのが『“いかにもスポーツにありがちなビジュアル”にはならないものを作りたい』ということでした」
スポーツなのに、スポーツではない……? インタビュアーがクエスチョンマークを浮かべていると、すかさず石井氏が補った。
「イメージしていたのは、映画のポスターのようなクリエイティブでした。選手が前面に出てスポーツらしい表現で躍動感を強調するというよりも、SVリーグという媒介を通して選手やクラブ、あるいはスポーツから広がるストーリーが透けて見えるような、“何か新しいものが始まる”という期待感や高揚感を演出したいと考えていました」
これを受けて高橋氏も、様々な映画のポスターの構図を参考にしながら、スポーツのダイナミックさ、開幕のインパクトを醸し出すクリエイティブを模索し始めていた最中、人気漫画『ハイキュー!!』とのコラボレーションが決まったと連絡を受ける。鳥山氏は「今のバレーボールの盛り上がりに、『ハイキュー!!』の存在は欠かせません。そこでマーケティングチームから作者の古舘春一さんにご相談したところ、快くお力添えいただいたんです」と振り返ると、このために描き下ろされた日向翔陽と影山飛雄のイラストをうれしそうに見つめた。

『ハイキュー‼』の援護を受けて辿り着いた開幕
最終的に完成したSVリーグ開幕期のキービジュアルには、『ハイキュー!!』の2人のキャラクターとSVリーグを象徴する男女選手が並び、まばゆい光を背に毅然とする姿が描き出された。高橋氏はこのキービジュアルに至った経緯をこう語る。
「選手がおまけでも、『ハイキュー!!』がおまけでもない。そのバランス感と、キャラクターと選手の両者が同じ世界に存在しているように見えるようにディテールの表現にこだわりました。あとは、どうしても数選手しか掲載できない中で、あくまでも“その選手を通じてチームの存在が感じられるように”というところにも配慮したつもりです」
選手たちの実写の写真と、イラストである『ハイキュー!!』の二人を同じ世界に違和感なく存在させることは、確かに至難の業だろう。構図や写真のレタッチに工夫を重ねながら、最後は「私自身も『ハイキュー!!』は全話見てきたほど、好きな漫画だったのでとても光栄な機会でした」と笑う高橋氏の作品、そしてバレーボールへの愛情が、クリエイティブを完成させる一押しにつながった。
晴れて迎えたキービジュアルの公開に鳥山氏は「SNSにいつもとは一桁違う数の反響が寄せられました」と笑う。高橋氏にとってもそうした反響はもちろん、実際に足を運んだSVリーグ開幕戦での評判にホッと胸を撫で下ろした。
「自分の手掛けたビジュアルがフォトブースのような場所で大きく掲げられて、そこでたくさんの人が写真を撮っている姿を見られたのはとても嬉しかったです」
手ごたえを口にする高橋氏の横で、リーグのPRを束ねる鳥山氏は、既に課題にも気づいていた。
「やはり走り始めてみないとわからないことがたくさんあることを実感しています。新しいリーグだからこそ、盤石な土台を築き上げるまでまだまだ頑張り続けないと」
<了>

バレーボール最速昇格成し遂げた“SVリーグの異端児”。旭川初のプロスポーツチーム・ヴォレアス北海道の挑戦
バレーボール界の変革担う“よそ者”大河正明の挑戦。「『アタックNo.1』と『スラムダンク』の時代の差がそのまま出ている」
エド・クラインHCがヴォレアス北海道に植え付けた最短昇格への道。SVリーグは「世界でもトップ3のリーグになる」
バレー石川祐希、王者への加入決めた覚悟の背景。日本のSVリーグ、欧州王者への思い「身長が低くても世界一になれると証明したい」
なぜ躍進を続けてきた日本男子バレーはパリ五輪で苦しんだのか? 日本代表を10年間支えてきた代表コーチの証言
この記事をシェア
RANKING
ランキング
LATEST
最新の記事
-
あの日、ハイバリーで見た別格。英紙記者が語る、ティエリ・アンリが「プレミアリーグ史上最高」である理由
2025.12.26Career -
アーセナル無敗優勝から21年。アルテタが学ぶべき、最高傑作「インヴィンシブルズ」の精神
2025.12.26Opinion -
雪上の頂点からバンクの挑戦者へ。五輪メダリスト・原大智が直面した「競輪で通じなかったもの」
2025.12.25Career -
なぜ原大智は「合ってない」競輪転向を選んだのか? 五輪メダリストが選んだ“二つの競技人生”
2025.12.24Career -
「木の影から見守る」距離感がちょうどいい。名良橋晃と澤村公康が語る、親のスタンスと“我慢の指導法”
2025.12.24Training -
「伸びる選手」と「伸び悩む選手」の違いとは? 名良橋晃×澤村公康、専門家が語る『代表まで行く選手』の共通点
2025.12.24Training -
「日本は細かい野球」プレミア12王者・台湾の知日派GMが語る、日本野球と台湾球界の現在地
2025.12.23Opinion -
「強くて、憎たらしい鹿島へ」名良橋晃が語る新監督とレジェンド、背番号の系譜――9年ぶり戴冠の真実
2025.12.23Opinion -
次世代ストライカーの最前線へ。松窪真心がNWSLで磨いた決定力と原点からの成長曲線
2025.12.23Career -
「まるで千手観音」レスリング97kg級で世界と渡り合う吉田アラシ、日本最重量級がロス五輪を制する可能性
2025.12.19Career -
NWSL最年少ハットトリックの裏側で芽生えた責任感。松窪真心が語る「勝たせる存在」への変化
2025.12.19Career -
「準備やプレーを背中で見せられる」結果に左右されず、チームを牽引するSR渋谷・田中大貴の矜持
2025.12.19Career
RECOMMENDED
おすすめの記事
-
SVリーグ女子の課題「集客」をどう突破する? エアリービーズが挑む“地域密着”のリアル
2025.12.05Business -
女子バレー強豪が東北に移転した理由。デンソーエアリービーズが福島にもたらす新しい風景
2025.12.03Business -
「守りながら増やす」アスリートの資産防衛。独立系ファイナンシャル・アドバイザー後藤奈津子の信念
2025.09.12Business -
アスリートは“お金の無知”で損をする? 元実業団ランナーIFAが伝える資産形成のリアル
2025.09.10Business -
「学ぶことに年齢は関係ない」実業団ランナーからIFA転身。後藤奈津子が金融の世界で切り拓いた“居場所”
2025.09.08Business -
全国大会経験ゼロ、代理人なしで世界6大陸へ。“非サッカーエリート”の越境キャリアを支えた交渉術
2025.08.08Business -
「月会費100円」のスクールが生む子供達の笑顔。総合型地域スポーツクラブ・サフィルヴァが描く未来
2025.08.04Business -
将来の経済状況「不安」が過半数。Jリーグ、WEリーグ選手の声を可視化し、データが導くFIFPROの変革シナリオ
2025.07.25Business -
久保建英も被害にあった「アジア系差別」。未払い、沈黙を選ぶ選手…FIFPROが描く変革の道筋
2025.07.24Business -
アジア初の女性事務総長が誕生。FIFPRO・辻翔子が語る、サッカー界の制度改革最前線
2025.07.23Business -
“1万人動員”のB3クラブ、TUBCの挑戦。地域とつながる、新時代バスケ経営論
2025.07.22Business -
ガンバ×セレッソ社長対談に見る、大阪ダービーの未来図。「世界に通用するクラブへ」両雄が描く育成、クラブ経営、グローバル戦略
2025.07.04Business
