
Jクラブ最注目・筑波大を進化させる中西メソッドとは? 言語化、自動化、再現性…日本サッカーを強くするキーワード
筑波大蹴球部は毎年のように多数のJリーガーを輩出し、今季、横浜F・マリノスでデビューした3年生の諏訪間幸成のように、在学中からJリーグのピッチに立つ選手もいるなど、スカウト陣が最注目する大学の一つだ。そんな引く手あまたの選手たちを、技術的に引き上げている存在がテクニカルアドバイザーの中西哲生だ。久保建英をはじめとするトップレベルの選手に加え、現在は権田修一などGK陣ともトレーニングを重ねている。パーソナルコーチとして中西が体系化した「N14中西メソッド」とは、一体どんなものなのか。日本サッカーを進化させる超論理的メソッドとして、中西が筑波大で取り組むトレーニングの真髄に迫る。
(インタビュー・構成=本田好伸、写真=難波拓未)
筑波大に浸透するN14中西のメソッド
──筑波大学蹴球部での指導にあたって、先生たちとの連携もあるのですか?
中西:小井土正亮総監督はもちろんですが、谷川(聡)先生の存在も大きいですね。谷川先生は、(久保)建英や三笘(薫)選手のトレーニングにも影響を与えてきた方です。筑波大の小川(遼也)選手や徳永(涼)選手のことも教えていますし、僕にとっても、お互いのトレーニングを見ることで必要な動きを理解して、どんどん進化していく感覚があります。
僕は谷川先生のトレーニングを見て、「なるほど、こういうことをやっているんだな」「じゃあこっちはこういう動きを練習に取り入れてみよう」といったこともよくありますし、谷川先生とお話させていただく機会もあります。
──筑波大で「N14中西メソッド」がすごく浸透していますね。
中西:2025年で3シーズン目になるので、徐々にですけどね。1年生は少し引っ込み思案なので、僕からも声をかけています(笑)。逆に、2年生はキャラが強烈で自分からグイグイやってくるタイプが多いですね。
──選手とはどんなコミュニケーションを?
中西:練習以外では、基本的にメッセージのやり取りですね。SNS時代のメリットをすごく感じていますけど、映像の送信を含めてすぐに連絡を取れるので重宝しています。いろんな選手と、日頃からもそうですし、試合の前後にも細かくやり取りしています。
──トレーニング中も映像を撮って、その場でも確認していますね。
中西:映像を見れば一発で理解できますから。例えば内野(航太郎)選手と徳永選手が1対1の練習をしているシーンで、「内野選手の動きに応じて1回、2回とズレるところに対応して左足を前に出せている」とか。足が出ている、出ていないが明確になる。成功しても、うまくいかなくても、すぐに自分で確認できることで理解が早く、深くなります。
「なぜできたか」を説明できるから再現性が上がる
──中西さんのトレーニングの一つとして、正体した状態で重心の高さを保ったまま体を左右に動かすメニューがあります。その際、以前は両手にテニスボールを持ちながら行っていたメニューが、サッカーボールを持ってやる内容に変化していました。
中西:サッカーボールを抱え込むように持つと、前鋸筋(ぜんきょきん)と菱形筋(りょうけいきん)に効くことがわかりました。
前鋸筋は、肋骨から肩甲骨までつながっている筋肉の一つで、あばら周りにあり、菱形筋は裏側にあって、肩甲骨を動かすインナーマッスルです。この前鋸筋と菱形筋がちゃんと動いていると重心が落ちないですし、その筋肉の動きを感じながら自分にとって最も重心が落ちない位置をつくることで足を出しやすくなっている、という感じです。
──進化していますね。
中西:もちろんテニスボールでもいいんですけど、サッカーボールを持つほうが指は開きますから、前鋸筋と菱形筋がより反応します。その状態で足を出すと重心が下がりづらいので動きやすくなります。その動きを体で覚えることによって、試合で使える動きになります。練習で実感し、実戦で繰り返し、使える技術になる。選手も徐々にわかってきたと思います。
──端から見ると、かなりマニアックなメニューです。
中西:見ているだけだと、何をしているのか、何の意味があるかはわかりづらいかもしれません。ただ、やっている選手は、体の反応が変わるので実感も大きいはずです。それに、いろんなメニューがつながっていき、その一つひとつに理由があることを感じるからこそ、熱心に取り組んでくれるようになる。マニアックなことが好きってのもありますけど(笑)。
──選手同士の1対1の勝負後のリアクションもレベルが高いです(笑)。
中西:そうなんですよ。それこそ、内野選手は2つのフェイントを使って抜けると思って仕掛けていて、そこに2回目の足が出てこないだろうと予測していたなかで、徳永選手の足が出てきてやられたシーンは、内野選手が頭を抱えています。徳永選手からしたら利き足ではない左で行けることがわかっていたから、一つ高いレベルのやり合いになっていますね。
──それと、筑波大の選手の言語化の質がすごく上がっていることを感じます。
中西:みんな思考の解像度が上がっているので、自分の動きを全部説明できるようになっていますね。なぜできたか、できなかったかを説明できるから再現性が上がっています。
──例えば中西さんは現在、権田修一選手ともトレーニングされていますが、その際に「重心を落とさないで体を落とす」という伝え方をしたと伺いました。そんな、まるで禅問答のような中西さんの言葉に対しても、筑波大の選手たちはきちんと説明できたりします。
中西:それなんかは、権田選手がやっているGKの動きですね。重心位置は高いまま股関節を抜く、かかとを抜くという動作です。頭の位置、耳の位置を変えずに、そこを真下に落とすという動きです。回転すると重心が落ちるものなので、キャッチする際に重心が落ちないように、腸腰筋と大腰筋の力みをスポンと落とすみたいなイメージで取り組んでいます。
筑波大の進化が、日本サッカーの進化につながる
──選手にとって、トレーニングが自分の「技術」になる瞬間がありますよね。
中西:毎回のように、何かを“つかむ”瞬間があると思います。一つの動きを理解するとか、一つひとつの動きがつながる瞬間ですね。つながると、再現性が出てきます。建英の動きを見るとよくわかるんですけど、相手と対峙していて仕掛ける際に、キャンセルして、外して、またキャンセルして、ファーを見せてニアを狙う、とか。そうした一連の動きは一つずつ取り組んできたことをそのまま体現しているので、何度でも実行できる武器ですよ。
──筑波大の選手がやっていることは、久保選手がやっていることと同じ……?
中西:それは同じですね。特別なことはやっていないと思います。世界で活躍する選手がやっている技術を紐解いていって、それをどのように再現していくかを、一つずつ取り組んでいく。何かを身につければ一つ上のレベルに上がっていきますし、選手が高みを目指す限り、僕が伝えるメソッドもそうですし、選手自身がどんどん上がっていけると思います。
──重要な要素をあえて一つ挙げるなら、選手に求められるのは「言語化」ですか?
中西:言語化はめちゃくちゃ大事ですし、筑波大の選手はみんなその能力に長けていると思います。あとは、僕がいない時に自分たちで体に刷り込む作業に取り組んで「自動化」させています。僕がトレーニングで新しいことを伝えると、みんな「自動化させときます」と言って、次に来る時までに、体に馴染ませるような練習を続けていますからね。
──「自動化させときます」はおもしろいですね(笑)。
中西:それがすごく筑波大らしいですよね。結局、僕がいくら伝えたとしても、取り組むのは選手ですし、僕が毎日いるわけではありません。たぶん、僕がいない間にもめちゃくちゃ練習しているはずです。次の練習の時に必ず前の課題がクリアされているから、また次のステップに進めます。彼らが自分のことを磨き続けていて、その努力を怠らないからこそ、僕はまた新しい課題やメニューをもっていける。だから、僕が進化し続けているのは、彼らが努力し続けているから。僕は筑波大の選手たちに進化させてもらっていると思います。
──筑波大の環境が、N14中西メソッドを進化させている。
中西:それは本当にそう思います。筑波大の選手たちは「純度の高いひたむきさ」があります。そんな中で一緒にトレーニングできるからこそ、僕自身、勝手にどんどん進化できているわけです。自分のメソッドを進化させて、その確認作業をすごいサイクルでできるという、ある意味、日本で一番いい場所にいると思います。
──それが引いては、日本サッカーの進化につながっていく。
中西:僕はそう信じています。純粋に選手が進化することで、日本のサッカーが進化していることは間違いないと思います。
【連載前編】久保建英に“ドライブ”を授けた中西哲生のメソッド。FWからGKまで「全選手がうまくなれる」究極の論理の正体
<了>
[PROFILE]
中西哲生(なかにし・てつお)
1969年9月8日生まれ、愛知県出身。同志社大学経済学部卒業。現役時代は名古屋グランパス、川崎フロンターレでプレー。 名古屋では1996年天皇杯優勝、川崎では1999年キャプテンとしてJ2優勝、J1昇格に貢献し、2000年に引退。現在は川崎フロンターレクラブ特命大使、出雲観光大使、いしのまき観光大使などを務める。著書には『魂の叫び』、『ベンゲル・ノート』(幻冬舎)、『日本代表がW杯で優勝する日』(朝日新書)、『サッカー世界標準のキックスキル』(マイナビ出版)などがある。 TBS『サンデーモーニング』、 テレビ朝日『Get Sports』でコメンテーターを務める。また、TOKYO FMで毎週金曜日15:00〜17:00に流れるラジオ番組『TOKYO TEPPAN FRIDAY』のメインパーソナリティを担当。パーソナルコーチとしては久保建英など、多くの現役プロサッカー選手を指導。 現在は筑波大学蹴球部テクニカルアドバイザーも務め、大学生の指導にもあたっている。技術の再現性を追求する「N14中西メソッド」は、久保建英や中井卓大、長友佑都、永里優季といったトップ選手たちに授けてきた唯一無二の技術理論。 「身体から離れないドリブル」「ぴたりと止まるトラップ」「決まるシュートの論理」など、日本をW杯優勝へと導く鍵となる究極の思考と技術を体系化したものである。
小学生(U-12以下)を対象に「N14スプリングキャンプ」が開催!
2025年3月29日、30日の2日間にわたってN14中西メソッドのスプリングキャンプが開催される。セレクション(映像審査)によって選ばれた12人のみが参加できるエリートキャンプとして、中西哲生が少数精鋭でトレーニングを実施。実際に久保建英選手が取り組んだメニューや、筑波大学蹴球部で取り組むメニューを中心に構築する。トレーニングに加えて座学もあり、MVPに選ばれた選手は中西哲生がパーソナルトレーニングを実施する。
詳しくは下記公式サイトにて
https://whiteboard-sports.com/n14camp
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