リバプールが直面する「サラー問題」。その居場所は先発かベンチか? スロット監督が導く“特別な存在”
「君はトレーニングで模範となる存在だ」──リバプールの指揮官アルネ・スロットがそう語るモハメド・サラーのリーダーシップは、若手を鼓舞し、クラブ文化を支える柱となっている。しかし、昨シーズン自身4度目のプレミアリーグ得点王を獲得した誰もが認める“特別な存在”も33歳を迎えた。今季の出場機会や起用法をめぐって、クラブは「エジプト代表FWの扱い方」という難題を抱える。英紙「サンデー・タイムズ」のエース記者ジョナサン・ノースクロフト氏は、リバプールが今季勝利を重ね続けるためには、スロット監督のサラーに対するマネジメント力が鍵を握ると指摘する。
(文=ジョナサン・ノースクロフト[サンデー・タイムズ]、翻訳・構成=田嶋コウスケ、写真=AP/アフロ)
勝利を追い求める2人の男、サラーとソボスライの絆
モハメド・サラーは、リバプールにおいて誰もが認める“特別な存在”である。
そんなエジプト代表FWの親友が、ハンガリー代表MFドミニク・ソボスライだ。サラーの自宅に家族で招かれることもあれば、ソボスライの自宅に招待することもある。2人はボードゲームの「バックギャモン」の大ファンでもあり、時を忘れて熱中することも少なくない。
彼ら2人を強く結びつけているのは、「勝利への情熱」である。どうすれば王者であり続けられるのか。ソボスライは、サラーから常に高いモチベーションを保つことの大切さや、精神面での教えを受けたことを明かしている。
サラーのプロ意識の高さは、ピッチ上だけにとどまらない。「精神的な強さ」を追求し、さらに維持するために、彼は日々のイメージトレーニングや瞑想を欠かさない。また、チェスを通して脳を鍛え、同じくチェス愛好家のソボスライに対し「試合の考え方や、試合中の思考方法」について影響を与えているという。
しかし、である。今季はサラーの調子がなかなか上向かない。現在プレミアリーグ10試合に出場して4得点2アシスト。少なくとも、リーグ38試合出場29得点18アシストで、得点王とアシスト王の両方に輝いた昨シーズンほどのキレやパワーは見られない。
ここに、アルネ・スロット監督が抱える難題がある。もしサラーを先発から外すのなら、クラブ史に名を刻む“屈指のスコアラー”をベンチに置くことになるだけでなく、チームの雰囲気に影響を及ぼすリスクも生じるからだ。
神童も憧憬「サラーは、私のロールモデルです」
サラーはチーム内で非常に人気が高い。発言力のあるベテラン――フィルジル・ファン・ダイクやアンドリュー・ロバートソンとも親しい。ウェイン・ルーニーがメディアを通して「前線を引っ張っていない」とサラーを批判した際、ファン・ダイクが「お粗末な批判だ」と反論したのはその一例である。
さらに若手選手からも「憧れの存在」として見られている。プレミアリーグデビューとなった第2節ニューカッスル戦でサラーの折り返しから劇的な決勝弾を決めた17歳のFWリオ・ングモハはこう語る。
「サラーは、私のロールモデル(模範的存在)です。彼から学べることは、本当に大きな意味があります」
サラーは、クラブのトレーニング・グラウンドで尊敬と愛情を集める存在として、確固たる地位を築いているのだ。
指揮官が抱えるジレンマ。サラーをどう起用すべきか?
2017年にクラブへ加入した当初、サラーが最初に親しくなったのはジョルジニオ・ワイナルドゥムとサディオ・マネだった。彼らは治療室で一緒にマッサージを受けるうちに親しくなったという。その後、デヤン・ロブレン、ジェルダン・シャキリ、コスタス・ツィミカスと親交を深め、ディオゴ・ジョタとも非常に親しくなった。無論、親友ジョタの死がサラーに与えた影響は計り知れない。
このように、サラーと親しい選手たちが、異なる国や文化、宗教を背景に持っているのは、エジプト代表FWが誰とでも自然に打ち解ける人物であることを物語っている。彼は決しておしゃべりではないが、性格は非常にオープンだ。
振り返れば、前任者のユルゲン・クロップとの関係も相互の敬意に満ちていた。ただ、特定の選手たちほど親密な間柄ではなかった。そしてクロップのラストイヤーとなったシーズン終盤のウェストハム戦で、両者の関係が悪化する出来事が起きた。
この試合でサラーはベンチスタート。交代要員としてテクニカルエリアで出番を待っていたが、ベンチスタートの采配に不満を抱えていたうえ、交代準備の遅れをクロップに叱責されたことが引き金となった。サラーはさらに怒りを募らせ、両者が言い合う姿がTVカメラに捉えられた。そして試合後、ミックスゾーンで報道陣の前を通り過ぎる際、サラーはこう言い残している。
「今日は話さない。もし僕が話せば、火の手が上がるだろう」
一方で、アルネ・スロットとは就任当初から温かく信頼に満ちた関係を築いてきた。
スロットはサラーのリーダーシップを称え、「君はトレーニングで選手たちの模範となる存在だ」と本人に直接伝えた。特に若手選手たちはサラーを手本にしており、その姿勢がサラーにさらなるモチベーションを与えた。サラーは以前にも増してトレーニングに励むようになったという。
しかし今季、スロットがサラーを先発から外したことで、両者の関係に微妙な変化が生じている。スロットとしては、サラーとの関係を適切、かつ敬意をもって保ち続ける必要がある。それほど、サラーはリバプールにおいて特別な存在なのだ。
求められるスロット監督のマネジメント力
これまでのところ、スロットは見事にそのバランスを取っているように見える。例えばこんなエピソードがある。
サラーが10月23日に行われたUEFAチャンピオンズリーグのフランクフルト戦でメンバー外となった際、その采配に不満を示したと報じられた。この件について記者から問われたスロットは、極めて冷静で賢明な返答をした。オランダ人監督はこう語った。
「それを聞いてうれしい。なぜなら、その“怒りの炎”を次の試合でより良いパフォーマンスに変えてくれるからだ。私にはそれがわかっている」
その言葉通り、サラーは先発復帰後の第9節ブレントフォード戦と第10節アストン・ビラ戦でエネルギッシュなプレーを披露し、連続ゴールを挙げた。そんな“エジプト王”に対し、チームメートとサポーターたちも温かい声援で愛情を示した。
繰り返すが、サラーはリバプールにおいて慎重かつ丁寧に扱うべき特別な存在である。スロット監督は今後も、繊細で的確なマネジメント力を発揮し続けなければならない。
【連載後編】リバプール、問われるクラブ改革と代償のバランス。“大量補強”踏み切ったスロット体制の真意
<了>
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