
「今すぐ海外へ飛び出せ!」世界最高峰チャンピオンズリーグで働く男の目線
サッカー世界最高峰の舞台、UEFA チャンピオンズリーグに関わる初のアジア人、岡部恭英氏は言う。「若者よ、今すぐ海外に飛び出せ!」と。
国内経済が縮小していくことが予想される未来において、日本が取るべき道とは? より多くの日本人が国際舞台で活躍するために必要なこととは? 世界のスポーツビジネスの最前線で戦い続けてきた男には、これからの日本を担う若者たちに伝えたいメッセージがある――。
(文=岡部恭英、撮影=野口学)
個人の成長を促す不可欠な手法は、「移る」
少子高齢化&人口減少の影響により、国内市場縮小の可能性もある日本経済。国内市場が小さくなるのであれば、取るべき道は、2つしかありません。
①国内市場でのイノベーション
②海外市場開拓
これは、日本の全てのビジネスに当てはまることで、当然スポーツ界にも当てはまります。「国内市場でのイノベーション」に関しては、その道の大家に任せ、ここでは、「海外市場開拓」に焦点を当てます。
スポーツは、その性質上、国内だけで完結するものではありません。もともとインターナショナルな性質を持つものですので、現在スポーツ業界に携っている人、あるいは将来携わりたいと考えている人であれば、「海外」での活躍を視野に入れるべきです。しかも、「海外で働く」ということはそれ自体が、日本経済だけではなく、個人にとっても、劇的な成長をもたらし得るので、やらない手はありません。
マネージメント大家であるピーター・ドラッカーも言っているように、個人の成長を促すには3つの手法が挙げられます。
①教える
②現場に出る
③移る
「海外で働く」ことは、まさにこの「移る」に当てはまります。
それでは、日本人が「海外」に移って活躍するためには、何が必要か? いろいろありますが、“島国・日本”の純粋培養である多くの日本人にとって、特に肝要な3つの要素を、以下に記述します。
「英語」は、海外挑戦する日本人に立ちはだかる最初の壁となる
第一に、多くの日本人が苦手とする「外国語」、特にビジネス界で世界共通語になったともいえる「英語」を欠かすことはできません。
日本の“出島”ともいえる日本政府の在外公館や日系企業の海外支社で働くのであれば別ですが、そうでない場合、海外で働くというのは、「外国人助っ人」として働くことを意味します。しかし、日本人の場合、受けてきた教育や慣れ親しんだ日本的慣習のせいもあり、一芸に秀でて独力で勝負できる天才型は少なく、献身的な働きぶりなどで貢献するチームプレーヤーが多いといえます。その場合、重要になるのは、チーム(海外所属組織)内で、しっかりとしたコミュニケーションが取れるかが肝になります。その大事な「コミュニケーション」を取る際に、「英語」が欠かせないのです。
例えば、欧米の名門MBA(経営学修士号)には多くの日本人生徒が集まってきます。日本でのバックグラウンド(日系大企業・官庁での経歴など)が高く評価される日本語環境においては「優秀」な人であっても、「英語」による「個人と個人の勝負の場」においては、ほとんどの人が「優秀」と評価されるような活躍をできていません。ましてや、クラスや学校でリーダーシップを取れる日本人はまれです。さまざまな要因が考えられますが、海外初挑戦する日本人に立ちはだかる最初の壁が「英語」となります。
日本人以外にも、非英語圏からの留学生は数多くいますが、欧州の場合は、英語と同じインド・ヨーロッパ語族から派生した言語が広く使用されていることもあり、その類似性から英語は決して難しい言語ではありません。西洋諸国の植民地であった南米やアフリカでも、やはり英語、スペイン後、ポルトガル語、フランス語などが母語となっていますので、日本人と比べると英語はそれほど難しくなく、日本人ほど、「英語」そのものがハンデにならないのです。
「能力」はあるのに、たかが「英語」で、国際舞台で、高い能力が発揮できないのはもったいない。だまされたと思って、今すぐ「英語」をやりましょう!
サッカーと同じ!「慣れ」の差が日本と世界の差となっている
第二に、「慣れ」です。わかりやすいかもしれないので、スポーツを例に取り、説明します。
2014年ブラジル・ワールドカップ、日本代表とコードジボワール代表の試合で、ディディエ・ドログバが途中交代で入ってきたことにより、彼の強靭なフィジカルに日本の守りが対応できず、試合を完全にひっくり返されてしまったことがありました。試合後の守備の選手のコメントが全てを表していました。「Jリーグであんな選手は見たことない……」。4年に1度の世界一を決める大事な大会で、日本を代表するディフェンダーが、「未知との遭遇」をしているようでは勝てないのは自明です。当然のごとく、サッカー強豪国ではほとんどの選手が欧州クラブに所属しており、試合だけでなく日々の練習から世界的名手と切磋琢磨しているので、4年に1度のワールドカップで「未知と遭遇」するなんてことはまずありません。このような「慣れ」の差が、サッカー新興国・日本とサッカー強豪国の間に立ちはだかっており、日本代表が世界の舞台で容易に勝てない理由の一つとなっています。
上記は、「身体的」なものですが、「精神的」なものも同様です。上記のワールドカップの例でいえば、初めて経験するレベルの「身体的」プレッシャーへの対応が難しいのに加えて、「精神的」なプレッシャーやストレスへの対応も必要となります。心理学的に見ても、人間は「未知との遭遇」(=変化)に刺激を受けるとともに、「ストレス」を感じるとされています。ドログバのような、いまだ経験したことない「身体的」プレッシャーを肌で感じた上に、「精神的」なストレスを抱えるというダブルパンチで、日本の守備が崩壊してしまったのは容易に想像がつきます。これは、先ほどの欧米名門MBAにおける日本人のケースにも当てはまりますが、「慣れ」ていない「英語」での苦戦が、「精神的」プレッシャーやストレスにつながり、日本にいる時と同様には力を発揮できない要因となっているのです。
しかし、難しいことではありません。島国・日本の常識が通じない海外で、独力で闘っていれば、時間、経験とともに「慣れ」て、自然と「海外仕様」になります。
別次元のストレスに打ち勝つ「メンタルタフネス」が必須
第三に、「メンタルタフネス」です。平和で画一的な島国での生活しか知らずに育った日本人は、海外に出た途端に、多様な言語・人種・文化・宗教・習慣・食べ物・価値観・行動様式などにさらされます。「慣れ」ていない日本人は、「精神的」ストレスを抱えてしまい、それもあって日本にいる時のように100%の実力を発揮できないのです。
それゆえに、今までとは別次元のストレスに打ち勝つためには、「メンルタフネス」が必要となります。私はもう22年以上海外に住んでいますが、長期にわたり継続して海外で成功している日本人で、「メンタル」が弱い人に会ったことがありません。
われわれは、世界の辺境(英語で言う「Far East」、まさに極東です)にある日本から来た「外国人助っ人」ですので、日本で経験しないような「未知との遭遇」に数多く直面します。日本で最近言われるような「心が折れる」と言っているようでは、競争の激しい国際舞台で、個人の力で戦っていくことはできないのです!
早いうちから海外経験を積んでいこう!
上記3点を見ると明らかですが、「早いうちから海外経験を積む」ことが、大事だと思います。「英語」も「慣れ」も、時間の問題です。若い頃から「海外留学」、「国際イベント&カンファレンス出席」、「海外旅行」、「ホームステイ」、「国際恋愛(笑)」に、積極的に参加するべきだと思います。
欧州、北中南米、アフリカなどと違い、他国と地続きでの頻繁な行き来ができない島国育ちの日本人は、そのように海外における「経験値」を、時間をかけて上げていくしかないのです。そうした経験を地道に積み上げていけば、海外においてもあまり「ストレス」を感じなくなり、「日本にいる時と同じように、自分の実力を100%発揮できる」ようになっていくと思います。
日本人がとらわれがちな「英米人のような流暢な英語を話す」ことは、本質ではありません。「日本だろうと、世界のどこであろうと、常に自分の実力を100%発揮できる」ことこそが、「真の国際人」として活躍するための命題なのです。
“It is not the strongest of the species that survives but the most adaptable!” (生き残る種とは、最も強い種ではなく、変化に最も適応できる種である)
チャールズ・ロバート・ダーウィン
海外に飛び出して、国際経験豊富な「和僑(=造語:インターナショナル・ジャパニーズ)」になり、日本とスポーツを盛り上げていきましょう!
<了>
PROFILE
岡部恭英(おかべ・やすひで)
1972年生まれ。サッカー世界最高峰のUEFA チャンピオンズリーグに関わる初のアジア人。UEFA(欧州サッカー連盟)専属マーケティング代理店「TEAM マーケティング」のテレビ放映権/ スポンサーシップ営業 アジア・パシフィック地域統括責任者。慶應義塾体育会ソッカー部出身。ケンブリッジ大学MBA 取得。スイス在住。夢は「日本でワールドカップを再開催して、日本代表が優勝!」。
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