なでしこ籾木結花のもう一つの顔 現役ながら“集客プロデュース”する理由とは?

Career
2019.06.06

“常勝クラブ”日テレ・ベレーザのなでしこリーグ4連覇に中心選手として貢献し、開幕を直前に控えたFIFA女子ワールドカップ2019での活躍が期待されるなど、女子サッカーを牽引する存在の一人である籾木結花。その活躍はプレー面だけにとどまらず、クラブの観客動員プロジェクトの集客プロデューサーを担うなど多岐にわたる。

ワールドカップを挟み、今シーズン目指している史上初の5連覇さえも「通過点」と話す彼女の目線の先には、日本女子サッカーの厳しい現状、そして女子サッカーの持つ大きな可能性が見据えられていた。

(インタビュー=中林良輔[REAL SPORTS編集部]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=松岡健三郎)

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史上初の5連覇は成し遂げたいものの一つの通過点

日テレ・ベレーザで史上初の5連覇に挑戦されている今シーズン。現在首位を走る今季のなでしこリーグにかける想いをお聞かせください籾木:なでしこリーグの歴史の中でまだどのチームも5連覇は成し遂げていません。一番優勝しているベレーザでも、4連覇が過去最高という歴史の中で、5年連続自分たちの力で優勝をもぎ取れる位置にいる状況は、なかなかない経験です。
成し遂げたいという強い想いがあります。でも、ベレーザとしては、5連覇には目標を置いていなくて、あくまで通過点として考えています。選手個人個人が1試合1試合成長していくことを大事にしています。
それが結果的に、昨年だったら3冠(リーグ、リーグカップ、皇后杯)にもつながりましたし。今年も、自分もそうですし、チームとしても、毎日どれだけ成長できるかが重要だと思います。
それが最終的に5連覇にもつながって、今回のワールドカップにもつながっていくと考えています。

昨年の4連覇を達成した試合のあとと、その次の試合で選手の喜び方が変わらなかったと以前お話されていましたが、それは史上初の5連覇になっても変わらないということですか?籾木:そうですね。たとえ5連覇したとしても、その試合で例えば自分たちが狙いとして1週間やってきたことができなかったら、試合終了の笛が鳴った時に喜ぶ選手はいないと思います。昨年3冠を達成した試合のあとでも、シーズンはオフに入りましたけど、自分自身も含めて、試合を観返して、「ここはダメだった」「ここは良かった」と振り返りをしていた選手がほとんどだと思います。そのあたりは、良い組織にいられてよかったなと思います。

個人的に、たくさんタイトルを獲られてきた中で、どれが一番印象に残っていますか?籾木:自分は(2017年の)リーグ3連覇目の時がすごくうれしくて印象に残っています。ベレーザに村松智子選手という(小学生時代の)バディFCからの先輩がいて、自分はその先輩を追って(下部組織の)日テレ・メニーナを受けました。
その(3連覇目の)年一緒に試合に出ていたりしたんですけど、村松選手が膝の怪我をしてしまって。
本人としてもすごく苦しい時期だったと思います。膝の怪我から戻ってくるのはとても体力も気力も使う中で、あまりサッカーに関わりたくない時期もあったと思いますし、そういう姿も見ていました。
それでも決勝の日、優勝が決まる日だけはみんなにサプライズで試合を観に来てくれて、その時は優勝とかよりも、「村松選手に喜んでもらいたい」「このチームにいて良かった、またサッカーやりたいと思ってもらえるような試合をしたい」と自分を含めチーム全員が思っていて、それが実現した優勝がすごくうれしかったですし、今でも記憶に残っています。

プロジェクトリーダーとして“選手”が行動を起こす意味

籾木選手といえば、2018年第16節のINAC神戸戦で観客動員プロジェクトのプロデューサーを“もみP”と称して行ったことも話題となりましたが、改めて当時の反響、その後につながった部分があれば教えてください。籾木:あのプロジェクトは、外への打ち出し方としては「5000人を集める」というものでした。ただ、自分の中で一番やりたかったのは「女子サッカーに関わる人たちの意識を変えたい」というところでした。
女子サッカー界が今衰退している中で、リーグもそうですし、各クラブもそうですし、選手もこのままではいけないと思っているのに、誰もなかなか行動できずにいる。
そういった状況で、普通は考えられない立ち位置である“選手”が行動を起こすことで、自分たちも行動できるんじゃないかと意識を変えるきっかけにしたいと思っていました。正直5000人という目標はそこまで重要ではなくて、むしろ達成しないほうが「なんで達成しなかったんだろう」と考えるきっかけにもなりますし。
2011年のワールドカップ優勝でいろんなサッカー関係者の人たちが満足してしまったことを考えると、むしろ5000人は到達しなくてよかったなと思っています(編集部注:公式入場者数は4663人)。
今年の各チームの動きを見てみると、昨年までとは違って、積極的に動き出しているクラブが多いんじゃないかなと思います。
それは今年がワールドカップイヤーっていうのがもちろんあるんですけど、クラブの企画に関わる選手も少しずつ出てきていますし、自分も今年またチーム全員をプロジェクトに参加させようと思っていて、割と積極的に参加してくれる人が増えたと感じます。

今年もどこかの試合でイベントをされようと企画中なんですか?籾木:そうですね。はい。

それは大変楽しみですね。籾木選手、日テレ・ベレーザさんの今後の発信に注目したいと思います。

女子サッカーを通じてもっとアジアの交流を深めたい

籾木選手が下部組織のメニーナに入った時、サッカーだけでなく勉強もやらないといけない環境であったとお聞きしましたが、文武両道を籾木選手が実践してこられたのは、日本の女子サッカーの今の状況もあったからこそなのですか?籾木:うーん、そうですね。メニーナに入ってから監督の寺谷(真弓)さんにはよく「女子サッカーは、サッカーだけでは生きていけないから、サッカーをやるだけではなくて、しっかり勉強もやらないといけない」と言われていました。そういう厳しい未来があったからこそ今の自分があるのかなとは思います。
でもその厳しい未来に対して頑張る選手は、本当にサッカーが好きだからこそ、そういう未来にも突き進んでいけるんですけど。例えば小学生とか、これからサッカーを始めようと思った子どもたちとかだと、割と親の意見とかも関わってくる中で、そういうサッカーだけでは生きていけない世界が一番上にあるのに、自分の娘をそこに行かせたいと思うかと想像すると、良い方向に考えられないというか。
もちろん、サッカーと学業であったり仕事を両立できる選手にはなれるかもしれないけど、そこでいろいろ狭めてほしくないなとは思います。親御さんの気持ちも考えたうえで、「女子サッカーの価値ってなんだろう?」と、何回も考えているテーマではあるんですけど。

その辺が、今後のなでしこリーグのプロ化に向けた動きの中で、良い意味での相乗効果で両方持ち合わせた環境に今後なっていくのが理想ということでしょうか。籾木:そうですね。

すごく先の話にはなるんですけど、選手を引退したあとにやりたいこと、こういうかたちで女子サッカーに貢献したいという想いはありますか?

籾木:選手をやりながら、各選手に自分自身の価値に気づいてもらう活動は続けていきたいと思います。それが結果的にその人を応援してくれる人が増えるのが理想なので、それを続けていきたいのが一つ。
あと、大学卒業後に就職した会社(Criacao[クリアソン])で携わっている仕事の中で、大学生であったり、高校生にも関われるかもしれない部分でアドバイスしていきたいこともあります。
今の日本の女子サッカーは、なでしこリーグの1部と3部ではプレーのレベルに少し優劣があるかもしれないですけど、環境の面ではほとんどありません。例えば同じレベルなら、男子サッカーだったらプロになれない選手でも、自分がサッカーを続けたいと思えば3部に行ってサッカーをしながら仕事ができる環境があるんです。

なるほど。籾木:男子でいう、「プロか?就活か?」っていう究極の選択になるタイミングもないですし、自分自身も就活でいう自己分析みたいなものをする機会が、たぶん今の仕事に出会わなかったらなかったかもしれない。
そういった面では、自分自身とあまり向き合わずに目の前にあるレールにただ乗っているだけの選手が増えるんじゃないかなって思います。
これからの日本の女子サッカーを考えた時に、若い世代から、いろんな選択肢を持ったうえでサッカーを選ぶなり、違うところに行くなり選択肢を持ってほしいと思います。
それは選手を続けると同時にアドバイスしていきたいことでもありますし、引退後もそれを続けて女子サッカーに携わっていきたいなって思います。

現役時代から引退後まで継続的に行っていきたい活動ということですね。籾木:最終的には「女子サッカーを通じてもっとアジアの交流を深めたい」という想いがあるんですけど。今それを逆算した時、一番最初に必要なのが、選手自身の価値の向上なので。それが次のフェーズに移った時になにが必要なのかを選手時代から考えながら、次のフェーズに行った時に、たぶん引退後になると思うんですけど、そこを変えていきたいなって思います。

将来についてのプランニングは自分の中でされてるのですか?

籾木:漠然とは持ってるんですけど、カチカチには決めてないです。

<了>

第1回 籾木結花が語る使命感とは?「心から応援したい人が少ない」ことへの危機感

PROFILE
籾木結花(もみき・ゆうか)

1996年生まれ、アメリカ・ニューヨーク出身。日テレ・ベレーザ所属。ポジションはフォワード、ミッドフィルダー。2012年に日テレ・ベレーザに入団。2015年からの4連覇に大きく貢献。
2016年より背番号10を背負う。世代別の代表では2012年FIFA U-17女子ワールドカップ・ベスト8、2016年FIFA U-20女子ワールドカップ・3位入賞に貢献。2017年よりなでしこジャパンにも名を連ねる。

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