
籾木結花が語る使命感とは?「心から応援したい人が少ない」ことへの危機感
6月7日に開幕するFIFA女子ワールドカップ2019。この大会に臨むサッカー女子日本代表「なでしこジャパン」でエースとして期待されるのが、最多10選手が選出された日テレ・ベレーザの10番を背負う籾木結花だ。(※5月31日、植木理子がケガのために離脱)
目前に控えたワールドカップを前に、「世界一」と「楽しむ」を共存させたいと語るなでしこジャパンへの想い、そして「“なでしこジャパン”は女子サッカーをやっているみんなのこと」と表現する彼女ならではの視点から日本女子サッカーの未来図について話を聞いた。
(インタビュー=中林良輔[REAL SPORTS編集部]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=松岡健三郎)
準優勝ではインパクトを残せない
まずは目前に控えた女子ワールドカップについて、籾木選手はこれまでにも「女子サッカーを盛り上げるために世界一が必要」という話をしていますが、改めてこの大会にかける率直な今の想いをお聞かせください。
籾木:「女子サッカーを盛り上げるために」というのは、2011年にワールドカップで日本が優勝してから、なでしこジャパンという名が日本全体で広がって、なでしこリーグに試合を観に来る人もすごく増えました。でもそれは、その年と翌年のロンドンオリンピックで銀メダルを獲った年だけが数字がバーンと上がって、その後は減っていました。減っていく中でも大きな大会があると少しは増えるんですけど、でも2015年に(ワールドカップで)準優勝しても、全然2011年ほどのインパクトは残せなかった。なでしこジャパンは一度世界一を獲ってしまったことで、世界一を獲り続けないと見てもらえなかったり、応援してもらえない存在になったのかなっていうのはすごく、自分がこう、なでしこリーグでプレーしながら観客数が減っていくのを肌で感じていて思ったところです。リオオリンピック出場権を逃して、リオオリンピックで観てもらう機会を失くし、かつ世代交代で、いわゆる“なでしこジャパン”といわれていたメンバーが抜けて、やっぱり日本の皆さんは今のなでしこジャパンの新しいメンバーを全然知らないと思います。そういった意味では、ここで世界一を獲らないと、今後の女子サッカーを観てもらう機会も減るなと思いましたし、結果がすごく重要だなと感じています。
籾木選手はよく「楽しみたい」とも話していますが、今回のワールドカップについて、純粋に大会が待ち遠しいという部分と、「結果を出さないといけない」と女子サッカーを背負う部分と、両方存在するんでしょうか?
籾木:「世界一を獲らなければいけない」というところと、「自分がサッカーを楽しむ」というところは、けっこうつながる部分があるなっていうのはすごく感じています。(例えば)身体能力では相手のほうが優位に立っていても、技術であったり、チームの戦術で相手を圧倒して勝つというのがすごく楽しいですし、その楽しさを落ち着いてすることが、世界一につながるんじゃないかなとも思っているので。そのあたりは自分としては、良い意味で責任を負いすぎずに、一番は、楽しめればいいなって思っています。
ぶち当たった壁よりも喜びが優っていた
籾木選手のプレースタイルで、特にワールドカップにおいて注目してほしい点を教えてください。
籾木:日本(の選手)は(海外の選手と比べて)身体能力が劣っているといわれますが、その中でも自分は身体が小さいですし、スピードも運動量も特に目を見張るものがない中で、常に駆け引きで相手の裏を取り続けてきたことが、自分が生き残ってこられたところなのかなと思っているので。その一つひとつのポジショニングであったりとか、オフザボールでの動きからボールへ関わるところは、自分のプレースタイルの特徴でもあるので、そこを見ていただければなと思います。
そうした駆け引きは、普段のトレーニングの中でもなにか意識をして、研ぎ澄まされているんですか?
籾木:小学生のころは割と自分の思うようにできたという感じで、ヘディングもできましたし、スピードもあるほうで、自分がドリブルで抜いていってゴールっていうのもできていました。ですけど、このクラブの下部組織の(日テレ・)メニーナに入ってからは、中1の時点で、高校3年生が同じチームメートで、戦う相手が大人だったり大学生だったりという中で、今までできていたことがまったくできなくなっていました。今思い返した時に、壁にぶち当たっていたんだなと、すごく感じます。
周りのフィジカルの強さが顕著になってきたと。籾木:でも、当時はレベルの高いサッカーの中に入れたっていう喜びのほうが強くて、毎日練習の前からボールを蹴ってましたし、練習後もずっと残ってボール蹴ったりとか。当時は壁にぶち当たったつらさみたいなのはまったく感じていなかったんですけど、たぶんその時から、どうやったら自分がこういう相手に勝てるんだろうというのは模索していて、それが今のプレースタイルにつながっていると思います。今その、相手との駆け引きですごく大事にしているのが、自分と目の前の相手だけの関係性ではなくて、自分がただ立っているだけでも相手選手を動かすことができますし、それで仲間にスペースを空けられたりもできます。サッカーはチームスポーツなので、自分の中でいろんなユニットを作るというか、そこで相手とうまく駆け引きしながらっていうところをすごく大事にしています。
そこは、指導者から教えられたというよりは、自身の考えの中でだんだん固まってきたのですか?
籾木:そうですね、やっぱり自分自身で模索してきたことでもありますし、(ベレーザの)チームメートで長谷川唯という選手がいるんですけど、彼女ももともと身体能力がそこまでなかった選手なので、同じような壁にぶち当たってここまで来た経験をしていると、イメージの共有がすごくしやすくて。そういう環境にいられたことも、自分だけの駆け引きではなくて、チームメートとの(ユニットでの)駆け引きというところにつながったのかなと思います。
男子の映像を観たりすることもあるのですか? 籾木:そうですね、昨年ベレーザの監督が永田(雅人)監督に代わってからは、特に、組織としての映像はバルセロナであったり、マンチェスター・シティを観ることが多くて、個人戦術は、けっこうブラジルリーグの映像を観ることが多いです。
それまでは、自分でテレビで観たりということはあまりしなかったのですか?籾木:いや、バルセロナは自分が好きなチームなので、バルサは自分でもけっこう観たりしていました。
“なでしこジャパン”とは女子サッカーをやっているみんなのこと
籾木選手はnote(編集注:文章、写真、映像などの作品を投稿できるWebサービス)でも積極的に自身の考えを発信していて、「私しか(今の女子サッカー界を)変えられる人はいない!」というような使命感を持っていると感じます。これからのなでしこは私が引っ張っていくんだという意識はあるんですか?
籾木:少し質問とのニュアンスが変わってしまうかもしれないんですけど、確かに使命感は勝手に感じています。なんでここまで女子サッカーに対して自分がこう動けるのかって考えた時に、日本の女子サッカー選手が仕事とサッカーを両立しているのに世界一を獲れたということが美化をされていて、自分自身もプロではない環境で頑張っている選手が多いからこそ、なでしこリーグもたくさんの人が来てほしいなって思うんですけど、本当にその価値が女子サッカー界にあるのかって考えると、少し疑問に思うところもあって。選手一人ひとりのストーリーとか価値に、選手自身も気づけていないなと感じたので、そこを気づいてもらうことで、自分自身で発信して応援してもらうっていうサイクルをいろんな選手で回していきたいなと感じていますし、自分は“なでしこジャパン”というのは女子サッカーをやっているみんなのことをいうと思っています。例えば、女子サッカーをやっていた子が、大学を卒業した就職先で、「女子サッカーをやっていた〇〇さんがこうだから、女子サッカーってこうなのかな」というイメージをたぶん持たれるんじゃないのかなと思うので、そうなった時に、その子が「女子サッカーをやっていて良かったな」って思ってもらえるような環境をもっと作っていきたいですし、女子サッカーを通じて得たものを持って社会に出てほしいなって思います。そういった意味では、自分も女子サッカーをやっていて得たものもありますし、それを通じてうれしかったこともつらかったこともあるんですけど、それをいろんな選手にも気づいてほしいですし、「女子サッカーを通じたからこそ今の自分がある」って言ってもらえるような選手がもっと増えるようにやっていきたいという想いがすごく強いです。
自分で環境を作っていきたい、リーダーとしてそれを進めていきたいっていうイメージということでしょうか?籾木:そうですね、自分が大学卒業後にCriacao(クリアソン)という会社に就職して仕事をしているのも、その仕事を通じてスポーツをやっている大学生に関わることができますし、あとアスリート事業で女子サッカー選手だけでなく多くのスポーツ選手と関わっていくことで、自分のやりたいことができるんじゃないかなと思っています。
そういったところとも複雑に絡み合ってくると思うんですけど、今なでしこリーグのプロ化が真剣に議論されていますが、籾木選手はどう考えていますか?籾木:そうですね、自分はなでしこリーグがプロ化していなかったからこそ今の自分があると思っているので、プロ化に反対するわけではないんですけど、今のこの観客が多くないという状況でプロ化したとしても、ちゃんと収益が得られるのかというところがすごく疑問に思います。観客が多くないというのは、結局選手を応援したいという人がそこまで多くないということだと思うので。女子選手だとけっこう、アイドル的な見られ方というか、割と外見だけでその選手を好きになるというところはあると思います。でも自分が思う応援をしたいと思ってもらえる選手というのは、例えば歌手でも、その人のストーリーを知っていて、そういうストーリーがあるその人が書く歌詞だから感じられるものもあると思います。そういったところは、先ほどともかぶるんですけど、選手の背景であったりストーリー性という部分をもっと出していって、本当に心から応援してくれる人を増やしていかないと、プロ化しても結局あまり変わらずに、ただお金の部分だけが変わるというようになってしまうのかなとはすごく感じています。
今日本のサッカーを変えたいという強い気持ちのある中で、海外でプレーしてみたいとか、外の世界から日本サッカーを見てみたいという考えはありますか?籾木:ありますね。選手としてももちろん海外に挑戦したいっていう想いもありますし、海外のリーグを自分の目で見て、日本とどう違うのかっていうのも感じてみたいなとも思います。
<了>
第2回 なでしこ籾木結花のもう一つの顔 現役ながら“集客プロデュース”する理由とは?
PROFILE
籾木結花(もみき・ゆうか)
1996年生まれ、アメリカ・ニューヨーク出身。日テレ・ベレーザ所属。ポジションはフォワード、ミッドフィルダー。2012年に日テレ・ベレーザに入団。2015年からの4連覇に大きく貢献。2016年より背番号10を背負う。世代別の代表では2012年FIFA U-17女子ワールドカップ・ベスト8、2016年FIFA U-20女子ワールドカップ・3位入賞に貢献。2017年よりなでしこジャパンにも名を連ねる。
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