久保建英は“もう完成されている” 中村憲剛×常田真太郎 “コパ” 注目は「チリ戦最初の5分」

Training
2019.06.16

東京五輪世代+オーバーエイジというメンバー構成で、コパ・アメリカ2019という未知の戦いに臨む日本代表。日頃からサッカーについて語り合う旧知の仲である中村憲剛とスキマスイッチ・常田真太郎が、日本代表について、久保建英について、DAZNという視聴環境について、そして日本がコパ・アメリカに参加する意義について語り尽くす。

(インタビュー=岩本義弘[『REAL SPORTS』編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=大木雄介)前回記事はこちら

これまでにないまっさらな状態で臨む大会

今回諸々の事情もあって日本代表メンバーは、「東京五輪世代+オーバーエイジ」という見え方ですけど、実際、明らかな格上と対戦するとき、サッカー選手ってどういう感じのモチベーションなんですか? (2013年の)コンフェデ(レーションズカップ)のときなんかはどうでした?中村:思いっきり格上でした。ブラジル、イタリア、メキシコだったので。ただあのときは準公式戦なんで。

ちょっと緩かったですか?中村:緩かったですね。(2010年ワールドカップで)南アフリカ行ったときは腹をくくらないといけない展開になりましたし、腹をくくったときの日本のパワーはあったんで。そこで開き直れるか、当たって砕ける精神なんですけど、砕けちゃったらまずいので、土台を固めて、短時間の準備期間でどこまで持っていけるか。それこそ当時はほぼ同じようなメンバーでずっとやってて、最終的に戦術は変わりましたけど、メンバーは同じだったのであうんの呼吸というのはあった中で戦っていました。今回で言ったら、もちろん東京五輪世代はもうみんな長くやってるからあうんの動きもありますけど、そこにオーバーエイジの選手たちが入るわけで。どうサッカーをするのかというところから入ってくるわけなので。森保(一・日本代表監督)さんのマネジメントがしっかりしないともったいない大会になりかねない。それぞれ個々のモチベーションは当たり前のように高いと思うので、あとはそれをどう束ねて、同じ方向に持っていくかかなと。サッカー以上にそこがすごくポイントになるのかなと。まずは同じ目線に立たせるということがすごく大事。

どんどん監督っぽい感じになってきますね、マインドが(笑)。中村常田:(笑)。

あれ? 監督だったっけな?って(笑)。中村:違いますよ(笑)。例えばA代表の選手たちが行くんだったら別ですけど、(連携面でも)長いですし。今回はこうしてこうっていう以前のメンバー構成なので。まっさらな状態に近いと思います。そんなふうに臨む大会って今までほぼないわけじゃないですか?

常田:2戦目とか3戦目とかで急に呼ばれて「え? オレ?」って選手もいるだろうしね。

中村:(改めてメンバー表を見ながら)若い! 若いのとおじさんがいる。

常田:ここ最近だと当たり前ですけど一番Jリーガーが入っている代表ですもんね?

だから(中村選手が)いつも対戦してる若手選手がいるわけじゃないですか?

常田:そう! そこを聞きたかったんですよ。Jリーグで対峙してる選手が世界の戦いに出るわけじゃないですか。しかも若手がね。そういうところで考えるところがあるのかなと。

中村:どれくらいできるのかなっていうのは純粋に興味がありますけどね。より“個”がクローズアップされる大会になると思うので、誰をスタメンにするかもすごくポイントになるのかなと。

常田:オーバーエイジを使うのか? 使い方っていうのもあるだろうし。あとひとつ気になるのは川崎(フロンターレ所属選手が)がいないっていう。

中村:それはオレに聞かれても何にも言えないです(苦笑)。もちろんJリーグと並行しているところはありますし。

常田:そうだね。そこにきての三好(康児)選手というのは?

三好選手、板倉(滉)選手、あと川島(永嗣)選手も元フロンターレです。中村:永嗣の役割は大事だと思いますよ。永嗣とオカ(岡崎慎司)の。この2人と他の選手の歳がだいぶ離れてますからね。この2人がこの組織で成す意味というのはすごく大きいと思う。彼らがしっかり森保さんの、フォローじゃないですけど、ちゃんと意図を汲んで若い選手たちをどう持っていくか。

だけどオーバーエイジとして呼ばれているけど、まだバリバリできる選手たちですから、精神的支柱以外のプレーの部分でも求められるものも多いですよね?中村:もちろんそうだと思うし、本人たちは試合に出れて当たり前というか、まとめ役で行くつもりはさらさらないと思う。

常田:きっとそうだろうなという人選だと思うし。そこの部分もすごく楽しみ

中村憲剛から見た“久保建英”

常田:あとやっぱり久保(建英)くんに関しては?

そこはちょっと尺多めでお願いします(笑)。中村常田:(笑)。

常田:久保くんも元フロンターレ出身。

中村:そう。

会ったことはあります? 久保くんがアカデミーにいた頃に。中村:リカバリー(トレーニング)してるときに、隣の人工芝でボール蹴ってました。「あれが久保くんだよ」って聞いて、「あー。あれが久保くんね」っていう。小学生くらいのときかな。

中村憲剛から見た久保建英はどんな感じなんですか?

中村:前回のU-20(2017年U-20ワールドカップ)を観たときに、当時15歳? もうポジショニングに入ってボールが入ってからの判断、選択とか、もう完成されてるなと。自分が何が得意で、何が不得手で、という自分をよく知ってるなと。それはもう立ち位置を見て賢いなというのは感じましたね。プレー中、相手が来てれば簡単にやるし、来てなければ自分で運べるし。今Jリーグでもそれを見せてますけどね。そこの判断がいちいち正解だなというのは。そこはだから当時のU-20を観たときからずば抜けてたんで。技術もすごくあるし、技術があるからこそ判断もできるし。彼自体が大きくはないですし、身体がまだそこまでがっしりしてるわけでもないし、それでもこの歳でこのレベルでやれてるというのは、今の子どもたちのすごく良い目標になるかなと。まぁそれだけのタレント力はありますし。

去年まではFC東京でも、横浜F・マリノスでもそんなに試合に出れていたわけではないのが、一気に今年出て、決定的な仕事ができるようになったのは、憲剛選手から見てどういうところがポイントだったと思われますか?中村:慣れじゃないですか。彼いろんなカテゴリーでやってたので。東京のU-23で出たり、代表もU-17だったり、U-20だったり。彼自身が自分の中で整えようとしてるんだけど、それ以上に周りの環境が変わっていくんで。その中でJリーグでも試合に出たり、出なかったり、なかなか掴めないまま去年、一昨年なんかは、バァーと過ぎてってしまった。でも今年はしっかりキャンプからやれて、チームでも(スタメンに)入れてというところで、やっぱりプロの水に慣れるというのは意外と簡単じゃないんで。流れもありますし。代表に入ってなければ、もうちょっと早くアジャストできると思うんですけど、彼の場合さっきも言ったようにいろんなところに行ってるので。アジャストに次ぐアジャストだからもう何が何だか分からなくなったんだと思います。やっと今年落ち着いて始めれたんで。そういうのは精神的な部分と頭のところであるのかなと。コンディショニングのところは僕は分からないですけど。

すごい説得力があります。常田:ありますね。さすが。分かりやすいなぁ。

中村:いやいや、やりにくいやりにくい(笑)

Jリーガーたちが“物差し”を持って観られる大会

常田:でも本当にここ何年かずっと(中村選手と)サッカーの話をしてると彼は「アジャスト」というのは本当によく言ってる。自身もそうなんでしょうけど、例えば代表とクラブの違いであったり。すごく興味深かったのが「例えばボール、例えば芝の違いの部分も、(試合が)始まって何分かでどれだけ早くアジャストするかっていうところも特に代表の場合は試される」と言っていて、なるほどなぁと思って。「この選手こんなに上手いのに今日はあんまりだったな」というときはだいたいそのアジャストがという話を聞いていて。

実際芝とか、普段やり慣れてないところでやったら、それに慣れるだけで時間が過ぎてしまって……。

中村:そうですね。テレビ越しに観るんでみんなは。だいたい一緒に感じるじゃないですか。けど気温も違うし、湿度も違うし、コパなんかは特にガラッと(環境が)変わるので。

常田:芝も南米(特有)のね。

中村:(芝が)長かったり、長いのに水まいてたりとか。高地のところもあるんで、酸素の量とかも変わってくるし。あと広いですからねブラジルは。もちろん会場自体はそんなに多くはないと思いますけど、移動もそうだし、もう食事から何から違うんで。シェフが帯同しているとはいえ、普段食べ慣れたものではなかったりするので。ただ今の日本の20代以下の選手たちはかなり海外遠征も積み重ねて訓練されている世代なので。

常田:やっぱりそこでアジャストを覚えていく。

中村:そう。そこからそれができる選手とできない選手でどんどん選別されていく。実力ももちろんそうですけど、そういったタフさというのも代表というのは求められるところがあるんで。

常田:そこで遠藤(保仁)選手とか、憲剛もそうだけど、Jリーグにずっといながら代表でもずっとやれたというのは、すごくアジャスト能力が高いのかなと思っていて。今回はJの選手も多いのでそこはすごく見どころなのかなぁと。

中村:そうですね。

常田:きっと大会中にガンガン伸びていく選手もいるだろうし。

中村:あとは単純にJリーガーもすごく興味が持てるはず。物差しがいっぱいあるので。

自分と近い存在として観られるということですか?中村:「この選手対戦した」とか、「オレ抜いたのになぁ」という選手がいたりとか。その選手たちが南米のガチンコの中に入ってどれだけやるのか。それを自分に照らし合わせる選手たちはかなり多くいると思うので。

コパ・アメリカはDAZNで中継するため、Jリーグの選手は(JリーグもDAZNで中継しているため)当然DAZN観れるわけじゃないですか。今までで一番Jリーガーが観るコパになるのは間違いないですね。

中村:そうですね。なかなか時間的にも難しいところはありましたけど、DAZNだと(生中継じゃなくても)いつでも観れるので。もちろん結果を知って観るのと知らないで観るのとまた違うんですけど、けど研究材料として観るのに(コパは)うってつけだと思うので。いろんな選手によって、サッカーファンの人もそうですし、サッカー知らない人も観ると思うので、見方はそれぞれだと思います。

常田:安部(裕葵)くんが(アルトゥーロ・)ビダル(チリ代表)をチンチンにしたぞとかね。そうなったらとんでもないことになるし、それが身近に感じられるという。

中村:ピッチに入ったら何が起こるか分からないですからね。スタメン表を見たら(相手チームの豪華な布陣に)うわーってなるかもしれないですけど、いざフタを開けてみたら「日本結構やれるじゃん、じゃあオレも」ってなればJリーグにとってもプラスになる。結果次第では東京五輪に向けても弾みがつくでしょうし。

常田:あと上田(綺世)くん、大学生がA代表に入っているという。

中村:それこそ大学サッカーにも影響がありますよね。

常田:そんなに騒がれてないかもしれないけど。

中村:彼、点取りますからね。

どんな形からでも取るっていうタイプで結構面白い選手ですよね?

中村:久々に無骨なストライカーというか。結構アンダーの試合も観てるので。出る試合点取るんですよ。ゲームメイクに参加してどうとかではなく、とにかくいるんですよ。けどこれってすごい才能だと思うので。余計なことせず点取るという。チームの持ってきたボールをゴールに入れるのがオレの仕事だってこの年齢で、しかも大学生が言うって結構すごいことだと思ってて。

常田:そうだと思う。特に(中村選手も)大学サッカー出身だからね。

中村:僕が大学生のときなんて日本代表なんてとてもじゃないけど入れるとなんて思ってなかったので。それだけ大学の育成力というか、それも評価されてきている。もちろん東京五輪世代だっていうのもあるとは思いますけど、それを抜きにしてもかなり点を取ってるので。彼がどれだけやるかで大学生も「上田ができるなら」と。

常田:「オレあいつ1回止めたぞ!」みたいな。

チリ戦の最初の5分を集中して観るべき

そう見たら今回の日本代表のFW、泥臭い選手ばかりですね。森保監督の戦い方へのメッセージが出てる気がします。

中村:確かにそうですね。みんな頑張れる選手ですね。

常田:最後の一歩が出せるというところでは、本当にそうですね。

相手がチリ、ウルグアイ、エクアドル。いきなり1試合目に(大会連覇中の)チリです。

中村:ぶっちゃけどうなるか分からないですよね。かなり厳しい戦いになるとは思うんですけど。

常田:1戦目がチリで良かったのかと思うところも。ここで何かが起これば、それこそこの間の(2018年)ワールドカップのコロンビア戦じゃないですけど。そういうことも往々にしてありえるのでね。

中村:初戦で勝つっていうのはだいぶ違うので。初戦を落とすとかなりガクッときちゃう。

常田:さらに相手がチリだから。「チリに勝ったぞ、おい!」となる。

中村 :日本の力を示すには本当にビッグチャンスなんですよ。

確かにこっちは失うものがない状態で、チリは負けたらとんでもなく叩かれるわけですよね?

中村:そうですね。その通りだと思います。最初の5分はものすごく大事。まぁ、僕、最初の5分はどの試合でも大事だと思っているんですが。

常田:いつも言ってるもんね。

中村:どう準備してきたかっていうのがすごく見える時間が5分、10分なんで。そこに視聴者の皆さんには注目してもらいたいです。日本代表のシステムもそうですし、人選もそうですし、森保さんがどう臨むのかっていうところがこの大会の先を占うところがあると思うので。

最初のチリ戦の5分を集中して観るべきということですね?中村:そうですね。そういう視点で観るといろんなことが見えてくるかなと。

常田:それはたぶん日本戦以外でもそうなんだろうね、きっと。

中村:そうですね。僕自身はサッカー観るときはだいたいそうなので。スタメンが変わってたりすると狙いが分かるじゃないですか。(選手の)調子の良し悪しもありますけど、相手のストロングポイント、ウィークポイントというところをどう捉えて、自分のチームに有利なように進めるのかという監督の狙いが透けて見えてくるので。

全ての人に見せるものに共通する“ある瞬間”

常田さんはいつもサッカーを観てるとき、どういうところに注目しながら観てますか?常田:流れが変わるところがすごい好きなんですよ。たまらなくて。例えば「負けてるチームが逆転するときのきっかけってここだったのか」という。だから結果を知らずに観る楽しみ方と、結果を知った上での楽しみ方って両方ある。DAZNってそこが(両方)いつでも楽しめるので。仕事があってリアルタイムで観れないときは「あー見ちゃった、結果」ってなったりするときも昔はあったんですけど。シークバー(今の再生箇所を表示する機能)でぴゅっと戻して観れたりもするじゃないですか? そこの部分でそういう時間の流れとかが好きな方はDAZNは格好のメディアだなと思います。僕は本当にそこが好きで、「あ~このパスで(流れが)変わったんだ」とか。それでそれをたまに(中村選手に)言って、そうすると「確かにそう」って言うときもあれば、「それは全然違うかも」って言うときもあって。その辺のやりとりもすごく面白かったりします。

その番組やりたいぐらい(笑)。中村常田:(笑)。

常田:やっぱりダイジェストになるとそこは削らないといけない部分だと思うんですけど。例えば中盤の選手が大きく外したシュートで、実は相手が「やべぇ、あいつ打つんだ」ってなって、いろいろと戦術が変わってきて、で、そこでできた穴を突いたとか。サッカーのそこがすごく好きなので。あと11人全員の思惑が99,9%同じ方向を向くことって難しいと思うんですけど、たまにあるじゃないですか? それが揃っているときが。そこの瞬間を見ることが好きですね。

中村:ミュージシャンとは思えないね、発言内容が。

常田:(笑)。音楽もそういうときがあるから。「この日のライブなんであんなに、奇跡的にめちゃくちゃ良かったのかな」ということが。受け手とやり手でも全然(捉え方が)違うので。それはサッカーもそうだと思うし。人に見せるものは全てそうだと思う。でもそれがまた全部、ぴったり三位一体というんですかね? 演奏する側、スタッフとして支える側、そして盛り上げるお客さん側で、作り上げていくものだと思うので。それをまたサッカーに置き換えてみるとそれがすごく面白い。消えてたなっていう選手が急に1点取って、その1点で1対0で勝つとかって全然あるじゃないですか。FWは一発決めればいいという仕事でもあり、DFは(90分を通して)しっかり仕事しなければいけないという部分があるという。11人が全員違う役割、もっというと相手も関係しているので22人がっていうのが僕はサッカーの魅力だと感じている。あとは僕は(中村選手とは)全然分野の違う仕事をしていて、年齢も違っても、同じもので話せる。憲剛が後輩とかを連れてきても、僕からすると年齢は20歳くらい違うんですけど話せるとか。そこの部分がサッカーの魅力ですね。

<了>

第1回 中村憲剛×常田真太郎が語る“コパの見どころ” 観たいのは「ワンプレーで人生が変わるという覚悟」
第2回 「“背負う”アウヴェスと“王様すぎない”メッシ」に期待 中村憲剛×常田真太郎、“コパ ・アメリカ”対談

PROFILE
中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年生まれ、東京都出身。川崎フロンターレ所属。ポジションはミッドフィルダー。久留米高校、中央大学を経て、2003年に川崎フロンターレに入団。2006年から5年連続でJリーグベストイレブン受賞。2006年に日本代表にも選出され、2010年ワールドカップに出場。2016年にJ1史上最年長のMVPを獲得。2017年、2018年のJリーグ2連覇に中心選手として貢献。

PROFILE
常田真太郎(ときた・しんたろう)
1978年生まれ、愛知県出身。1999年に大橋卓弥とスキマスイッチを結成。スキマスイッチのピアノやオルガンなどの演奏の他、アレンジやプロデュースなどを担当している。並行して自身のレーベル“doppietta”での活動や他のアーティストの楽曲アレンジ、プロデュースなども行なっている。

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