
「“背負う”アウヴェスと“王様すぎない”メッシ」に期待 中村憲剛×常田真太郎、“コパ ・アメリカ”対談
南米王者を決める大会コパ・アメリカ2019。DAZNで全試合独占配信となるこの大会の優勝候補について、2005年の出会いを経て、サッカーについて語り合って親交を深めてきた中村憲剛とスキマスイッチ・常田真太郎が、注目選手や注目点も含めて語り合う。
(インタビュー=岩本義弘[『REAL SPORTS』編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、写真=Getty Images、撮影=大木雄介)前回記事はこちら
ブラジル代表が必ず国内組を入れる理由
今回の大会の中で注目している国を挙げてもらえますか?中村:南米の中ではブラジル、アルゼンチンというのはオレの中ではずっとあって。まぁそこに追随するウルグアイ、コロンビア、チリ。というのが大体の構図だと思うんだけど。けど今回開催国がブラジルというのは、ブラジルとしては(2014年)ワールドカップもありましたし、(2016年の)リオ五輪もありましたし、自国の開催というのはしっかり結果を残さないといけない大会という認識でいると思うので。そこはたぶん軸になるんじゃないかなと思っています。まぁネイマールの状態が不安定なところがありますけど(編集部注:このインタビュー後、ネイマールのケガによる大会欠場が発表された)、それでもタレントはいっぱいいますし。そこが柱になって大会は走っていくんじゃないかなと思います。
常田:必ず国内組を入れてきますよね。ブラジル代表は。
中村:そうですね。やっぱり国民の関与の仕方が変わってくるんじゃないかな。国内組の選手を入れるということで。もちろん良い選手であることは間違いないですけど。そういう意味では本当に新しい選手が出てくる大会でもある。誰が出てくるのかなというのもすごく楽しみ。
そろそろブラジルもニュースターが出てきてもおかしくないですよね?
中村:そうですね。もともと選手はたくさんいますから。誰がチャンスを掴むかというところが見どころのひとつかなと。
常田:誰々2世というのはよく聞きますけどね(笑)。
とはいえネイマールもまだまだ若い。憲剛選手から見てネイマールのプレーヤーとしてのすごさってどういうところにありますか?中村:すごさ(笑)。
すごくない?(笑)中村:すごいでしょ(笑)。ただオレが説明するまでもないかなと。
いろいろすごいんだと思いますが、中村憲剛から見ると特にネイマールのどの部分をすごいなぁと感じられているかをお聞きしたいなと。
中村:平気で1人ちぎれるところですかね。どんな相手にでもですよ? どんなサイドバックでも平気で1人抜けるって、チームにとってプラス以外の何物でもないんですよ。あそこで抜けるっていう計算が立てば、相手チームはそれを逆算して守らないといけないし、自チームはそれを頭に入れて戦えるっていうのはすごく大きなこと。必ず1人抜くってなれば、周りの動き出しも変わってきますし。オレはそれだけで価値があるなと。飛んできたボールを綺麗にトラップするとか、そういう面白い、遊びのあるプレーももちろん彼の特長ではありますけど、オレはまずそこかなと。怖いんですよ、選手として。ゴールに向かって平気で1人抜いてくる選手ってめちゃくちゃ怖いですよ。
しかも油断してたらそのままぶっちぎられますよね?中村:もう3人、4人。そこからスピードに乗れますから。それで結局そこに(相手選手を)固めたら、逆サイドにもパスを出せる選手なんで。彼が前に、左サイドにいるだけで相手は集中しないといけない。
常田:相手はちぎられたらやっぱりなという感じ?
中村:そう思って組織を作らないといけない。そうすると、どこかに力を入れると、どこかが薄くなるので。その時点で平等ではないわけじゃないですか。選手の価値ってオレはそういうことだと思うから。
常田:その人がいるだけで相手がそのために変えなきゃいけないっていうね。
戦術は数的優位をどこで作るかのためにやってるわけじゃないですか?
中村:はい。
それをこの部分で必ず数的優位を作れるとなったら、それだけでそれが戦術という感じになりますよね?中村:そうです。だからそれはすごく大きなことだなと思います。
常田さんはブラジルについてはどう感じられてますか?常田:単純に今回に関しては自国開催ということで楽しみです。(自国開催の)力の入れ方がどういうふうに働くのかなぁと。来年のオリンピックが自国開催の日本というところになんとなく重ね合わせてみたり。日本人が盛り上げるオリンピックの中で日本代表がどうかというのと、ブラジル人が盛り上げた中でのブラジル代表がどうかというのと。今大会で注目してみたいなと思うところです。選手に関しても僕の好きなセリエAには相変わらずブラジルがたくさん選手を送り出しているので。けどそれよりも今回は開催国としての部分、あとはダニエウ・アウヴェスの(今大会に)懸けてる感じが。
今回ダニエウ・アウヴェスがキャプテンですよね?常田:そうです。またカッコいいんですよ、彼。様になると言うか。ブラジル代表(を象徴する選手)だなぁと。彼は本当に背負う意味をちゃんと理解しているんだろうなというのが彼のインタビューを見てすごく感じました。
メッシが王様すぎると、逆にメッシの仕事が増えちゃう
あともうひとつ挙げたアルゼンチン。アルゼンチンも代表で結果を出さないといけない。自国開催でなくても、これまで散々惜しいところで負けているので。
中村:(リオネル・)メッシが代表でタイトルが取れないというのがあるので。
バルサ(FCバルセロナ)で(UEFA)チャンピオンズリーグで悔しい終わり方をした直後で、この大会に臨むメッシのテンションは高そうな感じもしますが?中村:彼のモチベーションでかなり左右されるチームになっていると思います。
憲剛選手から見たメッシのすごさというのは?
中村:(笑)。メッシのすごさですか? いやぁ、ネイマールと一緒ですけどねぇ。意味合いは。けど彼の場合はもうちょっとゴールに向かうので。ほぼ毎試合確実に点を取れる選手って監督だったら使いますよね。ただ単に点を取ってるだけじゃなくて、周りを使いながら、コンビネーションもうまく使いながら。ちょっと今シーズンのメッシは本当に凄まじかったなというのは正直あって。だからこそチャンピオンズリーグで負けたのは本当に残念でしたけど。(準決勝のリヴァプール戦)セカンドレグでも決めるチャンスいっぱいありましたし。
ファーストレグの最後のプレーもですよね。あれを決めてれば……。中村:全然違う結果になっていたとは思います。それくらいずば抜けたパフォーマンスを見せてくれていた。逆にチャンピオンズリーグ取れなくて、コパ・デル・レイ(国内カップ戦)取れなくて、っていうところのモチベーションがすごく気になります。そのままトーンダウンしてコパに入るのか、コパ・アメリカ絶対取るぞってなるのかで、はっきり言って国(アルゼンチン代表)のレベルが変わると思うんです。
前回(2016年の)コパの決勝で負けて、メッシが代表引退を明言して大騒ぎになって、結局戻るという形になりましたけど、そういう意味ではメッシにとってはこの大会はすごい重要ですよね?
中村:本人としても気持ちの入る大会になるのかどうかっていうのは、実際にフタを開けてみないとわからないわけじゃないですか。周りの選手も前よりもいろんな(タイプの)選手を呼んでいるので。
メッシが王様すぎて周りが気を使いすぎると、メッシが逆に仕事が増えちゃうので。バルサみたいに最後のところの仕上げに持っていければいいですけど。
結構ここ数年のアルゼンチンを観てると中盤まで下りて、ゲームメイクして、チャンスメイクして、点も取らなきゃいけないっていう。ものすごい負荷がかかってる状態なので。
それをどう監督がコントロールして、周りのチームメイトがサポートするかっていうのは、僕の中では勝手なここ数年のアルゼンチンの見どころなんですけど。
結局、メッシがうまくやれないとチームが瓦解する。こないだのワールドカップ(2018年大会)もそうですし。彼がマークされちゃうと難しくなっちゃう。だから新しい選手が出てきてもいいかなと。
ただメッシが偉大すぎるので、そこがどう動くか。1人でやるのは限界があると思うので。試合も勝ち進めば全部で6試合ありますし。どこまでいけるかというところですね。
常田さんはアルゼンチンにどういうイメージを持たれてますか?常田:やっぱりテクニックというところのイメージがある。ブラジルよりも感じてるところがあるのかもしれないです。あとたまに出てくるスピード系。あと(セルヒオ・)アグエロもそうですけど、(ドリブルで)ぶっちぎりながらシュートもめちゃくちゃうまいという。けどそういうところもありつつ、ワールドクラスの大会になるとここしばらく優勝がないという。上手いな、速いなと感じるのはよりアルゼンチンのほうがイメージはあります。もちろんメッシの存在がとても大きいですけどね。あとマラドーナ来るのかなというところと(笑)。
やっぱり世代的にはマラドーナですか?常田:ですね、やっぱり。「あ、今回も来てる!」っていう(笑)。なんかそこの勝手な注目度があります。必ずカメラも抜きますからね。
マンチェスター・ユナイテッドの監督をやりたいという報道が出てましたね。常田:(笑)。メキシコから行くんですかね。(今、)メキシコ2部ですよね? それもすごいと思いましたけど。そこから行くのかな(笑)。
中村:いや、どうすかね(笑)。けど話題に事欠かないですからね。すごいっすよね。
常田:最終的にはもう一度アルゼンチン代表監督をやりたいのかな。今度はタイトルを取るためにやり直すという。だからずっと監督を続けてるのかなと。
<了>
第1回 中村憲剛×常田真太郎が語る“コパの見どころ” 観たいのは「ワンプレーで人生が変わるという覚悟」
第3回 久保建英は“もう完成されている” 中村憲剛×常田真太郎 “コパ” 注目は「チリ戦最初の5分」
PROFILE
中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年生まれ、東京都出身。川崎フロンターレ所属。ポジションはミッドフィルダー。久留米高校、中央大学を経て、2003年に川崎フロンターレに入団。2006年から5年連続でJリーグベストイレブン受賞。2006年に日本代表にも選出され、2010年ワールドカップに出場。2016年にJ1史上最年長のMVPを獲得。2017年、2018年のJリーグ2連覇に中心選手として貢献。
PROFILE
常田真太郎(ときた・しんたろう)
1978年生まれ、愛知県出身。1999年に大橋卓弥とスキマスイッチを結成。スキマスイッチのピアノやオルガンなどの演奏の他、アレンジやプロデュースなどを担当している。並行して自身のレーベル“doppietta”での活動や他のアーティストの楽曲アレンジ、プロデュースなども行なっている。
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